特集 JSMEメンバーが考える2050年の社会像実現に向けた技術ロードマップ
社会像1.人間と自然、都市と地方、個人とコミュニティが長く共存される社会
はじめに
日本機械学会メンバーが2050年実現させたい社会像の説明
日本機械学会は、2021年から2050年にかけて、メンバーが描く三つの理想的な社会像に関する議論を深化してきた。具体的には、『人間と自然、都市と地方、個人とコミュニティが長く共存される社会』、『多様性と包摂性が確保された次世代コミュニティによる総合地域社会』、『リアルとバーチャルの調和に基づく個人価値尊重と社会サステナビリティの融合社会』をテーマとしている。本特集では、これらの理念を詳細に解析し、実現に向けた課題と技術的方向性を提案することを目的としている。
特に社会像1『人間と自然、都市と地方、個人とコミュニティが長く共存される社会』に関しては、日本機械学会の22部門の中から、このテーマに密接に関連する7つの部門代表が選ばれ、チームを組成し、意見交換や議論を行ってきた。関与した7つの部門として、熱工学部門、環境工学部門、エンジンシステム部門、動力エネルギーシステム部門、産業・化学機械と安全部門、材料力学部門そしてマイクロ・ナノ工学部門が挙げられる。これらの部門代表によるチームでは、目指す社会像のテーマを基盤とし、各専門分野の知識を融合させることで、新しい技術分野の創生を目指して議論を深化させてきた。
社会像1『人間と自然、都市と地方、個人とコミュニティが長く共存される社会』のテーマは以下の三つの観点から考察されている。
観点①:環境問題、エネルギー問題、資源リサイクル問題を解決し人間と自然の調和を実現している。
観点②:地方と都市の格差を縮小し、通信、運送、コミュニケーションの問題を解決している。
観点③:生産効率向上、物流最適化、半導体製造技術の発展など、ものづくりの改革やイノベーションが進んでいる。イノベーションも継続的に推進されているが、その技術の社会的および倫理的影響、持続可能な生産手法の確立は引き続き考慮が必要である。
以上の観点から、人間と自然、都市と地方、個人とコミュニティが長く共存される社会構造は、私たちの生活や社会に多大な影響を与える可能性がある。これらの共存社会を実現するためには、それぞれの社会要素が相互に依存関係にあるという複合的な課題に取り組む必要がある。例として、生産効率の改善が資源のリサイクルへも寄与することが挙げられる。また、各専門領域の進歩が全体の均衡を保つためには、精緻な調整と統合的アプローチが不可欠である。さらに、技術革新の進展がもたらす社会的および倫理的影響についても、詳細かつ慎重な検討が求められる。これらの側面から、持続可能性と効率性を両立させるバランスのとれたアプローチが、今後の研究および社会実装において重要であると考えられる。
2050年社会像実現のための課題の抽出
2050年社会像と社会像実現の課題との関係性構築
観点①では、社会像を具現化するための課題が関連キーワードとワークショップの結果に基づいて抽出された。初めに明らかになった課題は規模と範囲が多様であったが、アンケート調査により「エネルギー効率と持続可能なエネルギー源の開発」が主要な課題として特定された。この課題を中心に図1に示す関連課題が整理され、統合された。その結果、包括的な課題として「持続可能なエネルギーシステムの構築と環境負荷の最小化」が明らかになった。この包括的な課題を解決する技術を特定する過程で、課題は再分解され、表1に示すように、4つに分解された課題と、それぞれの課題の詳細な定義が示された。Top of Form
観点②の観点でも、社会像を実現する課題がキーワードとワークショップ結果に基づき抽出された。観点①と同様に、課題規模の統一のためアンケートが実施され、図2に示す主課題と関連課題が区別された。これにより、「スマートシティとスマートエネルギーの統合」という包括的な課題が明らかになった。この課題を解決するため、再分解が必要であり、その詳細は表2に示されている。さらに、この包括的な課題を具体的に解決するための技術や手法を明示するには、社会像1.の場合と同じく課題を一定の大きさに再分解する必要がある。この課題を解決するため、再分解が必要であり、その詳細は表2に示されている。
観点③においても、社会像を実現するための課題はキーワードとワークショップに基づいて特定された。課題の規模統一のためアンケート調査が施され、図3に示す主課題と関連課題が区別された。これにより、「持続可能なワークライフバランスとパフォーマンス最適化の実現」という包括的な課題が明確となった。この課題を具体的に解決する技術や手法を明らかにするため、課題の再分解が行われ、その詳細は表3に記載されている。
以上のように、本稿では、「人間と自然、都市と地方、個人とコミュニティが長く共存される社会」を日本機械学会メンバーが実現させたい2050年の社会像と掲げて、この観点からの社会像を三つに区分した。この三つの社会像から、課題1.「持続可能なエネルギーシステムの構築と環境負荷の最小化」、課題2.「スマートシティとスマートエネルギーの統合」、課題3.「持続可能なエネルギー生産と効率的な利用のための材料開発と熱工学的最適化」の包括的な課題が抽出された。次章では、これらの包括的な課題とその分解課題を解決するために、日本機械学会としてどのような技術的アプローチを取り得るかについて検討した内容を述べる。また、この取り組みの中で、関連する各部門の専門分野を統合することを試み、新たな技術分野の形成に向けた議論が進められた。その成果としての方向性や具体的な提案技術も踏まえて、2050年技術ロードマップの中で紹介する。なお、本稿は当該分野に関するすべての技術を網羅的に示すことを目的としているのではなく、日本機械学会が2050年に目指す社会像の在り方およびそこまでに到達するためのロードマップを提示することが主目的となっていることを冒頭に申し添える。
図1 主課題と関連課題
表1 課題「持続可能なエネルギーシステムの構築と環境負荷の最小化」の分解
図2 主課題と関連課題
表2 課題「スマートシティとスマートエネルギーの統合」の分解
図3 主課題と関連課題
表3 課題「持続可能なエネルギー生産と効率的な利用のための材料開発と熱工学的最適化」の分解
課題1.持続可能なエネルギーシステムの構築と環境負荷の最小化(図4)
図4 課題1「持続可能なエネルギーシステムの構築と環境負荷の最小化」のための技術ロードマップ
(図中のアイコンはOpen AIのイメージ生成ソフト DALL・E3により生成)
新しいエネルギー源の開発と導入
持続可能なエネルギーシステムの構築のためには、太陽光や風力、水力などの再生可能エネルギー源の利用技術をさらに進化させ、効率的なシステムを構築することが必要である。
また、上記以外の新たな再生可能エネルギー源の開発にも取り組むことで、エネルギー供給の多様化促進を促すことも重要であると考えられる。日本機械学会が取り組むべき技術課題としては、「エネルギー変換効率向上と持続可能なエネルギー源の開発」が挙げられる。この技術に特化し、その概要、なぜ必要か、どのように実施するか、何を目指すか、さらには年代別の進捗や到達点についても考察する。
エネルギー変換効率向上と持続可能なエネルギー源の開発
「エネルギー変換効率向上と持続可能なエネルギー源の開発」の観点においては、本会を中心に既存の再生可能エネルギー源(太陽光、風力、水力)の効率を高めるための研究が進行中である(1)。さらに、新たな持続可能なエネルギー源、例えば海洋エネルギーや地熱エネルギーも開発の対象とされている。このように、エネルギー供給の多様化と、全体のエネルギー効率の向上を目指すことが必要であると考えられる。
2050年までに持続可能なエネルギーシステムの確立と環境負荷の低減が必須であると強く謳われている(2)。これは、既存のエネルギー供給システムが持続性に乏しく(3)、また世界的に気候変動が加速化していることに起因する(4)。特に我が国においては、他の先進国に比して化石燃料への依存度が高く(5)、このような化石燃料由来のエネルギー源の使用により、我が国が温室効果ガスの排出量増加に少なからず加担してしまっている事実は否めない。この結果、地球温暖化に代表される“気候変動”が急速に進行し、海面上昇や気温の上昇、さらにはゲリラ豪雨などにみられる極端な局地気象など、多くの環境的なリスクが増大している。さらに、化石燃料は有限であり将来的に枯渇することは紛れもない事実である。これにより将来のエネルギー供給に不安が高まるとともに、社会経済的なリスクも増大することが考えられる。したがって、多様で効率的な持続可能なエネルギーシステムを構築することは、エネルギー問題を緩和するとともに、これらの不安を払拭してくれる要素となり得る。新たな持続可能エネルギーの開発により、自然環境との調和を実現するとともに、持続可能な社会経済システムの実現にも寄与することが期待される。
持続可能なエネルギーシステムの開発には、複数のステップが必要であると考えられる。まず、第1段階は「研究と開発のフェーズ」であり、既存の再生可能エネルギー技術の効率向上を目指し、同時に新たな持続可能なエネルギー源に関する研究を進める。これには、産学連携を強化し、専門家、研究機関、企業が協働して具体的な技術開発に必要なデータの収集を行う。次の第2段階は「パイロットプロジェクトのフェーズ」であり、新たに開発された技術や改良された技術を現地でフィールド試験する。この段階でのフィードバックは大変重要であり、技術の適用可能性と効果を評価し、必要な調整を行わなければならない。第2段階のパイロットプロジェクトが成功すれば、次の第3段階である「スケーリングフェーズ」で、効果が確認された技術をより大規模なプロジェクトに適用する。これにより、技術の商業的な実用性と持続可能性を高めることができる。最後に、社会実装をするにあたって制度的なサポートが必要不可欠であると考えられる。政府や関連機関は、研究開発に対する資金提供をはじめ、税制優遇や補助金・助成金といった形で、持続可能なエネルギー技術の開発と導入の後押しが必要である。これらの手段を通じて、持続可能なエネルギーシステムの構築が現実的なものになると期待される。
持続可能エネルギー技術の高効率化は、まずは既存の太陽光、風力、水力発電などの技術に対して検討されなければならない。これには、新材料の探求や、エネルギー変換効率を向上させるためのシステム設計が含まれる。例えば、より変換効率の高い太陽電池の設計や、風力タービンの最適翼形状の検討が考えられる。一方で、新しい持続可能なエネルギー源に関しては、いまだ十分に活用されていない海洋エネルギーや地熱エネルギーといった新たな可能性を追求することが必要と考えられる。これは、特に地域や環境によって有利なエネルギー源が異なるため、必要なエネルギーを多様なエネルギー源から選択できるようにすることが重要となる。エネルギー供給の多様化については、異なる種類のエネルギー源を効率よく組み合わせることで、供給の安定性を確保しながら、全体のエネルギー効率を向上させる。これには、スマートグリッド技術の概念を活用して、需要と供給を最適にマッチさせるようなシステム設計が求められる。このように、持続可能なエネルギーシステムの実現に向けて、具体的な技術目標としてこれらを推進する。
2023年は持続可能なエネルギー戦略の初期段階として重要な年である。技術的な側面では、特に太陽光エネルギーの変換効率40%超を目指している研究が進行中である(6)。また、小型の風力発電機の開発も進められている(7)。この小型発電機は、都市部や地理的に制限のある狭小箇所での設置が容易であり、エネルギー供給の多様化に貢献すると考えられる。これらの技術により、既存の再生可能エネルギー設備の利用効率を全体的に向上させることが可能となり、既存のインフラを最大限に活用しながら持続可能なエネルギーへの移行を促進することが期待できる。さらには、海洋エネルギーと地熱エネルギーのパイロットプロジェクトが計画されている(8)。これらは新しいエネルギー源として期待されており、具体的な数値目標の下、研究が進められている。技術的な実現可能性、費用対効果、環境への影響などを総合的に評価し、社会実装に向けた検討がなされている。
2025年頃には、技術と目標、およびマイルストーンがさらに高度化していることが期待される。技術面では、蓄電技術(バッテリー)の進展が特に重要であると考えられる(9)。バッテリーの容量を大幅に増加させつつ、製造コストを低減する技術が開発されることが重要である。これにより、再生可能エネルギーを電気エネルギーとして蓄積する能力が飛躍的に向上し、電気エネルギーの時空間シフトが可能となり、供給の安定性が高まることが期待できる。また、地熱エネルギーの商業化も進行中である(10)。これによって、地熱エネルギーが持続可能エネルギーの一つに組み込まれ、地熱環境に恵まれた本国においてより多くの地域でのエネルギー供給が可能となる。
2030年頃における持続可能なエネルギー供給のロードマップは、高度な技術とエネルギー変換の高効率化が重点的に求められる計画となっている。技術面では、電力使用グリッドのスマート化が中心的な取り組みとして位置づけられている。このスマートグリッド化により、エネルギー供給と需要のバランスを時空間的に最適化し、自動的に調整することが可能となり、より効率的なエネルギー使用が期待される。さらに、大規模なエネルギー貯蔵施設の開発も進行中であり、ピーク需要時および有事における安定したエネルギー供給が可能となる。2030年頃までの目標としては、既存のエネルギー源だけでなく、新規に開発されるエネルギー源の効率もさらに向上させることが掲げられている。この効率向上は、エネルギーの生成から輸送、さらには最終的な消費に至る全プロセスに適用されていることが注目されるべき点であると考えられる。また、スマートグリッド技術の活用により、再生可能エネルギーを既存の電力グリッドにスムーズに統合する計画も進められている。マイルストーンでは、2030年までに再生可能エネルギーの割合を全エネルギー供給において約36%から38%に増やす目標が設定されている。これは、気候変動対策と持続可能性の観点から極めて重要な指標である。加えて、スマートグリッドの導入と最適化により、電力供給のダウンタイムも大幅に削減される予定である。
2050年までの展望では、持続可能なエネルギー供給に関して画期的な進展が計画されている。技術的には、100%再生可能エネルギーによる供給が目標とされている。これにより、石油、石炭、ガスなどの化石燃料に依存したエネルギー生成および供給は完全に排除され、太陽光、風力、水力、地熱などの再生可能エネルギー源のみでエネルギー供給が行われるようになる。また、人工知能(Artificial Intelligence: AI)とモノのインターネット(Internet of Things: IoT)を駆使したエネルギー管理システムも導入され、エネルギーの供給と消費がより効率的に行われるようになる。目標としては、すべてのエネルギー供給を再生可能エネルギーに置き換えることが掲げられている。この全面的な転換は、エネルギー生産から輸送、そして消費に至るまでの過程に亘って行われる。さらに、最先端のエネルギー管理技術の採用によって、電力グリッドの効率を大幅に引き上げることも目標とされている。マイルストーンには、2050年までに環境負荷の最小化が目指されている。このためには、エネルギー供給だけでなく、製造業や交通、建築など、多くの社会セクターでの持続可能性が求められる。継続的な技術革新と効率向上も重要な要素であり、AI、IoT、その他の先進技術を活用しながら、エネルギー供給の効率化と環境負荷の低減が進められる。
持続可能なエネルギー供給におけるストレージ技術の革新
持続可能なエネルギー源の一部(太陽や風)は、天候や時間帯さらには地域によって出力が変動するため、これらのエネルギー源利用にはエネルギー貯蔵と供給の安定化が重要となる。そのためには、電池や蓄熱など効率的で持続可能なエネルギー貯蔵技術の開発が求められる。並行してエネルギーキャリアの研究も推進していかなければならない重要課題である。持続可能なエネルギー供給源を開発し、それらを社会に実装していくための橋渡しとしてエネルギーキャリア技術の開発とキャリア選択は重要であり、2023年現在では、水素やアンモニアといった新たな合成燃料が集中的に研究されている。また、国策としても大型プロジェクト研究が複数進められている。エネルギーキャリアに関してはこれまでに多くのロードマップなどが提案されていることから(11)、本稿では特に、「持続可能なエネルギー供給源の貯蔵技術革新」を取り上げる。なぜ必要か、どのように実施するか、何を目指すか、さらには年代別の進捗や到達点(図4)についても提示する。
持続可能なエネルギー供給源の貯蔵技術
持続可能なエネルギー供給源における貯蔵技術の革新は、電力グリッドに供給されるエネルギーの時空間的安定性を高めるために必要である。ここでは、高密度で効率的なエネルギー貯蔵システム、AIを活用したエネルギー管理、およびスマートグリッド技術をさらに精緻化した高度なマイクログリッド技術などが必要とされる(12)。
持続可能なエネルギー供給源の出力変動性は、エネルギー供給の安定性の観点から大きな障壁となっている。特に、風力や太陽光発電は、気象条件や時間帯および地域に依存するため、一定量のエネルギーを継続的に供給することは難しい。このような変動性が存在すると、電力スマートグリッドシステムでは非効率的な運用を余儀なくされ、結果としてエネルギーの浪費や供給不足、さらには価格の変動まで引き起こす懸念がある。また、変動性の高いエネルギー供給源に依存すると、急な供給過多または有事などの供給不足が発生した場合に電力供給に対する信頼性が低下し、産業活動や日常生活において大きな問題を引き起こす原因となることが容易に想像できる。例えば、医療機関や重要なインフラにおいては、電力供給が途切れることによるリスクは計り知れない。このような背景から、効率的で持続可能なエネルギー貯蔵技術の必要性が高まっている。エネルギー貯蔵技術は、変動性のあるエネルギー源から発生するエネルギーを一時的に蓄え、需要が高い時や供給が不足している時に放出することで、エネルギー供給の安定性を確保するいわゆるエネルギーの時間シフトの役割を果たす。高度なエネルギー貯蔵技術を開発・導入することは、エネルギーの安定的供給の観点からも必要不可欠である。
リチウムイオン二次電池、全固体電池、またはレドックスフロー電池などの開発と導入は、現在、研究開発から製造、そして市場への投入までの一連のプロセスを通じて進められている。はじめに、基礎研究において新たな素材や設計原理を探求し、次いでプロトタイプの開発と評価を行う。評価基準をクリアしたプロトタイプについては、量産化のための設計最適化と製造プロセスの確立を進める。その後、パイロットテストを通じて製品の安全性と信頼性を評価し、最終的には市場へ導入される。また、スマートグリッド化に伴うAIとIoTを活用したエネルギー管理システムの開発は、データ収集から解析、実装までの一連の流れを考慮していく必要がある。諸種センサ技術を用いてエネルギー使用状況や貯蔵容量をリアルタイムでモニタリングし、スマートグリッド化によるエネルギーの最適利用のためのビッグデータを構築する。収集されたデータは、AIアルゴリズムで解析され、エネルギーの供給と需要に応じて最適な貯蔵・利用プログラムを自動的に生成する。地域や用途に応じた最適なマイクログリッドシステムの設計と導入は、まずニーズ調査と地域特性の分析から始まる。これに基づき、マイクログリッドの設計図を作成し、必要なエネルギー貯蔵容量や制御システムを定義する。次に、地域コミュニティや関連機関と連携を取りながら、実際の設置作業に着手する。設置後は、継続的な運用とメンテナンスが行われ、運用データをもとにシステムの最適化が進められる。
以上のように、多角的かつ段階的なアプローチによって、持続可能なエネルギー供給における貯蔵技術革新を推進する。この過程は、エネルギー供給の安定化だけでなく、持続可能な社会システム全体の実現にも寄与することが期待される。
エネルギー密度と出力密度が高く、かつ長寿命で低コストの蓄電池は、次世代のエネルギー貯蔵ソリューションとして大きな期待がかけられている。新たな電極材料、電極構造、さらには制御技術の組み合わせによって、高エネルギー密度と長寿命化を同時に実現する。同時に設計段階において低コスト化の実現を図る。AIを用いた自動化されたエネルギー供給と需給バランスの最適化は、スマートグリッド概念の中核技術である。AIアルゴリズムは、ビッグデータからエネルギーの需給パターンを学習し、それを基に最適なエネルギー供給計画を自動生成する。これによって、太陽光や風力といった変動するエネルギー源と、エネルギー貯蔵を連成させエネルギー使用の高効率化を図る。地域社会や産業施設での自律的なエネルギー供給システムは、マイクログリッドの展開とともに具現化されると考えられる。各地域や施設の特性に合わせてカスタマイズされたエネルギー供給プログラムが設計され、太陽光パネル、風力発電、エネルギー貯蔵などが一体化して動作する。地域社会自体が一つのエネルギー生産・消費ユニットとして機能し、自らのエネルギーを効率よく管理・供給することで、持続可能なエネルギーシステムが確立される。これらの技術は、2050年を見据えた持続可能なエネルギーシステムの構築に不可欠であり、それぞれが相互に補完し合う形で展開されることが期待される。
2023年現在には、エネルギー密度を高めたリチウムイオン二次電池が市場に登場する予定であり、以降も従来技術を基盤とした着実な性能向上が見込まれる。同時に、AIによるエネルギー管理システムも出現する計画である。このシステムは、エネルギーの使用状況をリアルタイムで監視し、消費パターンに応じて最適なエネルギー供給を行う。具体的には、AIアルゴリズムを用いて、エネルギーの需給バランスをより正確に把握し、過不足が生じにくいように制御することが目標とされる。また、この年には特に、一定規模以上の商業施設において、上述のエネルギー管理システムの導入実績を積むことがマイルストーンとされている。これにより、初期の技術適用と結果の評価を行い、次のステップへとつなげる基盤を築く。この段階での成功が、さらに先進的な技術開発へと繋がる要素となると期待される。
2025年の展望では、全固体電池の本格実用化が開始される(13)。全固体電池は、より安全でエネルギー密度が高いとされ、製造技術を確立することにより、高出力かつ長時間のエネルギー供給が可能となり、エネルギー貯蔵としての効率と利便性が飛躍的に向上する。この段階には、AIとIoTの連携が進んでより高度なエネルギー管理が可能となる。これにより、エネルギーの需給予測を高精度化することが目標となっている。具体的には、AIが集めたデータを基に、IoTデバイスを通じてエネルギー供給の最適化が行われる。消費側の需要を事前に予測し、供給側のエネルギー生成と貯蔵を効率的に管理することが可能となる。マイルストーンとしては、主要都市でのマイクログリッドの試験導入が始まることが挙げられる。このマイクログリッドにより、地域ごとに最適化されたエネルギー供給が可能となり、大規模なエネルギーグリッドの負荷を軽減する効果も期待される。さらに、AIによるエネルギー管理システムが国内施設に導入されることにより、その効果と拡張性を広範に証明する機会となると期待される。
2030年の展望では、レドックスフロー電池が大規模なエネルギー貯蔵に広く適用される段階に入ると予想される。レドックスフロー電池は長期間の耐久性と高いリユース性が特徴であり、特に大規模なエネルギー貯蔵にその能力を最大限発揮すると期待される。目標としては、貯蔵コストを現状からさらに削減することである。このコスト削減は、再生可能エネルギーの導入をより進め、エネルギー供給の安定性も高める。リチウムイオン二次電池や全固体電池の開発同様、AIによる完全自動化されたエネルギー供給システムが出現すると期待される。これにより、人手を介さずとも効率的なエネルギー管理が可能となる。マイルストーンとしては、国内主要都市におけるマイクログリッドの普及率を大幅に向上させること、および再生可能エネルギーの割合が全体の50%を超えることが挙げられる。マイクログリッドの普及は地域ごとのエネルギー自給自足を促進し、大規模なエネルギーグリッドへの依存を減らす。再生可能エネルギーの割合の増加は、持続可能なエネルギー供給への転換を加速させ、環境への負荷を大幅に削減する。
2050年の展望では、高安全性、資源制約フリー、軽量化など、社会から求められる性能を備えたエネルギー貯蔵が実現される(14)。この技術革新により、再生可能エネルギーによる持続可能な社会の構築が期待される。同時に、AIによるエネルギー管理が最適化され、人の介入がほとんど不要になる。この高度なAIシステムは、需給の最適化を全自動で行い、エネルギーの使用と蓄積を絶えず調整する。このような全自動のエネルギー管理システムが全世界で普及することが、この時代のマイルストーンになると予想される。加えて、国内全域でマイクログリッドが導入され、エネルギー供給が完全に持続可能となることが期待される。各地域が自らのエネルギーを生産し、必要に応じて他の地域と共有することで、大規模なエネルギーグリッドの負荷やリスクの軽減が期待される。
このロードマップ(図4)は、技術進捗と社会ニーズが予想される方向に応じて調整されていくべきである。特に2030年以降は、技術の急速な進展や環境変動による影響を十分に考慮する必要がある。エネルギーの持続可能性と効率性の向上は、今後数十年にわたり進化し続けるものと見込まれる。そのため、ロードマップは多角的な観点において柔軟で適応性の高いものでなければならない。
環境負荷の軽減と新材料の開発
大量生産・大量消費型の経済社会活動は、大量廃棄型の社会を形成し、健全な物質循環を阻害するほか、気候変動問題、天然資源の枯渇、大規模な資源採取による生物多様性の破壊などさまざまな環境問題にも密接に関係している。資源・エネルギーや食糧需要の増大や廃棄物発生量の増加が世界全体で深刻化しており、一方通行型の経済社会活動から、持続可能な形で資源を利用するサーキュラーエコノミーへの移行が必要とされている(15)。解決策としての技術の中から、機械学会が取り組むべき分野として、「サーキュラーエコノミーを見据えた製品設計、製造」に関する技術が挙げられる。サーキュラーエコノミーについて、その概要、なぜ必要か、どのように実施するか、何を目指すか、さらには年代別の進捗や到達点(図4)についても考察する。
サーキュラーエコノミーを見据えた製品設計、製造
サーキュラーエコノミーを見据えた製品設計、製造とは、製品のライフサイクル全体における環境負荷を考慮した上で、製品の長寿命化、資源の循環利用、廃棄物の最小化に配慮した設計を行うもので、これにより資源の効率的な利用と環境負荷の低減が可能である。
2050年に向けて、資源枯渇への対応は重要課題である。地球上の資源は有限であり、現在の消費パターンが続くと、希少金属をはじめとする重要な資源が枯渇してしまう可能性がある。これにより、社会基盤や産業活動、さらには日常生活にも深刻な影響が出ることが予想される。また、廃棄物の発生抑制も重要な課題である。近年、適正処理やエネルギー回収などが進み、廃棄物処理に伴う環境負荷は抑えられてきているが、最終処分場の枯渇問題や、CO2排出量削減の観点から廃棄物発生量を削減することが必要とされている。そのため、サーキュラーエコノミーは持続可能な社会を実現するために不可欠な要素であり、エネルギー効率と資源の持続可能な管理においても大いに寄与すると言える。
製品・サービスを市場に出す際には、3R(リデュース・リユース・リサイクル)の観点、廃棄物処理、省エネルギー、特定化学物質の使用制限などを考慮して、ライフサイクル全体を通じて、適切にデザインされるべきであり「環境配慮設計」や「エコデザイン」と呼ばれて既に取り組みが始まっている。この取り組みの指針として2022年12月に策定されたJIS Q 62430は、組織による環境配慮設計の実践における指針として機能している。
本指針に基づき、計画段階では、まず組織が設計および開発を通じて影響を及ぼすことが可能な活動範囲、すなわち環境配慮設計の適用範囲の決定を行う。次に、エネルギー使用量の削減や3Rのような、法的な要求および消費者や顧客からの環境に関するニーズと要求を特定し、分析する。さらに、製品やサービスのライフサイクル全体でのインプットとアウトプットを考慮し、それらが環境に与える影響を特定する。これには、使用されるエネルギーや材料などのインプットと、CO2排出や廃棄物などのアウトプットが含まれる。その上で、これらの環境側面がどれほどの環境影響を持ち、影響低減の可能性があるかを評価する。実行段階では、計画に基づき具体的な設計および開発に取り組む。これは、環境配慮設計が製品の設計および開発プロセスに統合されることを意味する。最後に、評価および改善段階では、実施された設計および開発の結果をレビューし、継続的な改善を促進する。このプロセスを通じて、環境配慮設計の効果を定期的に評価し、必要に応じて改善策を策定・実施することが要求される。これらの段階を経ることによって、環境負荷の低減を図りながら、製品やサービスのライフサイクル全体の環境性能の向上が期待される。
また、サーキュラーエコノミーの観点では、製品の長寿命化が重要であり、メンテナンスやアップグレードに対応した設計が必要になる。そのためには、製品は互換性が高い少数の部品(モジュール)によって構成されることが望ましい。機能ごとにモジュールを設計し、それが互いに容易に組み合わせられるようにすることで、特定の部品が壊れた場合や技術が進化した場合にも、容易に部品の交換やアップグレードが行える。
製品の長寿命化に焦点を当てた製品開発では、各部品が他の製品やアプリケーションで容易に交換・アップグレードできるような設計原則を適用する。これには、標準化されたコネクター、互換性のあるフォーマット、およびモジュラー設計が採用される。このアプローチにより、ひとつの製品としては使用限界に達した場合にも、その製品を構成する個々のモジュールや部品は新しい製品での利用が可能となる。
廃棄物発生抑制に向けては、製品の耐久性と修理可能性が求められる。これは、部品が高品質で、製品自体が破損しにくい構造を持つことを意味する。また、消耗品やバッテリーが簡単に交換できるようにすることで、製品全体を廃棄する必要がなくなる。このような環境への負荷最小化については、ライフサイクル分析を基に、全工程での環境影響を考慮した設計が行われる。これには、再生可能エネルギーの使用、有毒な化学物質の排除、排出されるガスや廃水の処理技術の改善が含まれる。特に、製品の生産から廃棄に至るまでの各段階でのCO2排出量を計測し、最も環境負荷の高い工程を特定して改善策を実施する。
以上の各目標は、製品が持続可能なライフサイクルを持ち、資源の効率的な利用と環境保護を両立するためのものである。それぞれの目標は互いに補完し合う形で設計され、一つの製品が複数の環境目標を達成できるように努力する必要があると考えられる。
2023年現在においては、サーキュラーエコノミーに焦点を当てた製品設計と製造の初期段階となる。この年では、環境配慮設計とモジュラー設計に関する研究開発が特に活発に行われる。具体的には、環境負荷の低減と資源の効率的な使用を最もコスト効率よく達成するための手法と材料を探求する。このフェーズの主な目標は、既存の製品ラインに環境配慮設計とモジュラー設計の基本原則を導入し、その効果を科学的に評価することである。これによって、環境に与える影響とコスト効率のバランスをより良く取れる製品設計を模索する。マイルストーンとしては、既存の製品ラインのうち、少なくとも20%に環境配慮設計の原則を適用することを目指すと考えられる。その後、導入した製品の環境負荷を基準値と比較し、どれだけ効果的であったかを評価する。この評価結果は次の段階の設計と製造方針に反映されることができると予想される。
2025年の展望では、サーキュラーエコノミーを目指した製品設計と製造が成長段階に入る。この時期には、環境配慮設計とモジュラー設計を組み合わせた製品が市場でより広く受け入れられ、その重要性が一般的に認知されるようになる。また、再利用やリサイクル性の評価方法も業界標準として広く採用されるようになる。この年の目標・マイルストーンは、新しく市場に投入する製品の80%以上 に環境配慮設計を適用が期待され、その結果として環境負荷の削減を具体的に実現することである。これは、企業が社会的な責任を果たすだけでなく、資源の効率的な利用によるコスト削減も視野に入れた目標設定であると考えられる。また、製品の大半がモジュラー設計に基づいて製造されることが予想される。モジュラー設計によって製品全体の寿命が延長され、その結果、資源投入と廃棄物の量が減少するとともに、長期的なコスト効率も向上することが期待される。このように、2025年頃の段階では製品ライフサイクル全体にわたる持続可能性の実現に向けた重要な一歩となると予想される。
2030年の展望では、サーキュラーエコノミーに基づいた製品設計と製造が成熟段階に達する。この年代では、廃棄物の最小化と材料の再利用が社会標準として広く採用されるようになると予想される。技術的には、AIとデータ解析を活用して製品ライフサイクル全体の環境負荷をリアルタイムで評価する手法が開発される。これにより、企業はよりタイムリーかつ精密に環境への影響を把握し、その情報を製品開発や製造プロセスに即座に反映することが可能となると考えられる。目標・マイルストーンとしては、企業の全製品ラインでサーキュラーエコノミーの採用が期待され、資源の高度な再利用の実現が期待される。製品設計の初期段階からサーキュラーエコノミーを前提とした設計が行われるため、資源の無駄が極めて少なくなる。また、製品生成による廃棄物量が半減することが目指され、CO2排出量も顕著に低減すると期待される。これはエネルギー効率の高い製造プロセスと、リサイクルや再利用が容易な製品設計によって達成される。結果として、企業は環境保護だけでなく、持続可能なビジネスモデルを築くことにも貢献する。2030年は、循環経済の理念が具体的な製品とプロセスに反映され、その効果が明確に測定される重要な年になると予想される。
2050年頃までの展望では、持続可能な未来を実現するための技術と戦略が高度に発展し、持続可能なエネルギーシステムと完全なサーキュラーエコノミーの統合が予想される。これにより、新しいビジネスモデルが形成され、企業は、環境と社会に対して積極的に貢献する中で利益を得ていく形となると期待される。この新しいビジネスモデルは、製品の設計から製造、使用、再利用、そしてリサイクルに至るまで、すべてのプロセスで環境への負荷を最小限に抑えることが前提である。目標・マイルストーンとしては、環境負荷の最小化と資源の完全な循環を実現し、持続可能な社会の完成が期待される。製品は長寿命であり、使い終わった後もその部品や材料が他の製品や用途で再利用されるが考えられる。消費者もこのような製品やサービスを選ぶことで、自分自身が持続可能な社会づくりに参加しているという認識が高まると期待される。資源の枯渇と廃棄物の生成が極端に低減し、社会全体のエネルギー効率が向上すると予想される。この年には、ほとんどの製品が再利用やリサイクルを前提とした設計になっており、廃棄物は極小化されることが考えられる 。エネルギーも持続可能な方法で供給され、その使用効率も高いレベルに達することで、持続可能な社会の実現に向けた究極の目標が達成されていることが期待される。
循環経済とリサイクル技術の推進
前項で述べたように、サーキュラーエコノミーの実現のためには、環境配慮設計により製品製造のための資源投入量を極小化していく必要がある。これに向けて機械学会が取り組むべき分野として、「材料リサイクル技術」が挙げられる。この技術に特化し、その概要、なぜ必要か、どのように実施するか、何を目指すか、さらには年代別の進捗や到達点(図4)についても考察する。
材料リサイクル技術
材料リサイクル技術は、使用済みの製品を利用しやすいように処理して、新しい製品の材料もしくは原料として利用する技術である。この技術は、新たな資源の投入を抑制し持続可能な製品サイクルを構築するための核となる技術である。特に注目すべきは、リサイクルを前提とした製品設計、高度なセパレーション技術、環境負荷の少ない再生プロセス、そして循環型経済に適した新しい材料の開発である。
リサイクルの種類として、サーマルリサイクル、ケミカルリサイクル、マテリアルリサイクルがある。材料リサイクルは一般的にマテリアルリサイクルを指すことが多いが、広義にはケミカルリサイクルも含まれる。サーマルリサイクルは焼却処理に伴い発生する熱エネルギーを回収して利用する技術であり、現時点でも日本国内ではかなり普及が進んでいる。しかしながら資源循環の観点からはワンウェイでの使用となってしまうため、優先順位としては3つのリサイクルのうち最後に選択すべき手段とされている。ケミカルリサイクルは製品を化学的に分解させるなどして原材料レベルの物質として再利用を行う技術である。これによって製造される製品は新品と遜色のないものとなるが、一般的には化学的分解に大きなエネルギーが必要となる。マテリアルリサイクルは製品を分解・破壊・セパレーションなどを通じて得られた素材を製品原料として再利用する技術である。資源循環の観点、エネルギー消費の両面から優れた手法であるが、一方で不純物の混入や劣化などの問題を解決していかなければならない。
令和5年版環境・循環型社会・生物多様性白書によれば、「循環型社会の形成に取り組んできた我が国の実情を踏まえれば、循環経済への取組みは、3R(優先順位は[1]発生抑制(リデュース)、[2]再使用(リユース)、[3]再生利用(リサイクル)の取組みを経済的視点から捉えて、いわゆる本業を含め経済活動全体を転換させていくことが重要 (16) 、としている。この優先順位は、商品に近い形で循環利用することが一般的に資源およびエネルギーの投入量が少なくなることに拠るものである。一方でこの循環利用を成立させるためには商品およびその部品が長期にわたり利用され、かつ材料リサイクルに耐えられるだけの寿命が求められる。これに対応するためには環境負荷を抑えつつ長寿命である新材料の開発が期待される。
セパレーション技術の進化には、ナノテクノロジーや高度なフィルタリング技術を用いることで、複雑な材料構造や成分を効率的に分離する技術を開発することが重要である。具体的には、先端の物質分析手法を活用して材料の成分を精緻に識別し、その情報をもとに分離プロセスを最適化する。こうした努力により、分離の精度と効率を格段に向上させることが期待される。新材料の開発では、リサイクルされた材料を基にして、持続可能な生産サイクルに適した、環境負荷の低い新材料を研究することが考えられる。これには、材料科学だけでなく、生態学や環境工学といった多角的な観点からのアプローチが不可欠である。最後に、サーキュラーエコノミーへの移行に関しては、製品の設計段階からライフサイクル全体にわたるリサイクル性を考慮することが必要である。具体的には、製品デザインにおいて、容易に分解・分離できる構造を持たせたり、リサイクルや再利用が容易な材料を選択することで、製品が循環型経済に適応する。
また、セパレーション技術は、高度なセンサ技術とアルゴリズムを組み合わせることで、特定の材料を非常に高い精度で分離することを目指している。この技術は、例えば電子廃棄物から希少金属を効率良く回収する場合などへの適用が期待される。新材料の開発では、長寿命でありつつ資源・エネルギー投入量が少ないという特性が求められる。特にプラスチック類については、リサイクル性の向上と長寿命の両立が期待される。サーキュラーエコノミーに貢献する目標に関しては、製品の全ライフサイクルにわたる材料の再利用を促進する方針である。具体的には、製品設計段階で分解・再利用が容易な設計を取り入れ、使用後には効率よく材料を回収し、再利用またはリサイクルするプロセスを確立する。
以上のように、高効率な材料セパレーション技術、環境負荷の低い新材料の開発を通じてリサイクル率を向上させ、サーキュラーエコノミーへの移行を実現したい。
2023年現在における主要な目標は二つである。一つ目は、セパレーション技術の基本フレームワークを確立することである。この基本フレームワークを通じて、多様な廃材に対応する技術の拡張と洗練が可能となる。二つ目の目標は、小型の再生プロセスのプロトタイプを開発することである。このプロトタイプは、分離と再生の一連のプロセスを模擬実験する基盤となる。マイルストーンとしては、セパレーション技術における初期の特許を取得することで、技術の独自性と競争力を高めることが期待される。この特許が、技術の商用化に向けた基盤を築く。 次に、小型の再生プロセスプロトタイプ において、成功率を80%以上になると期待される。この数値は、プロトタイプが実用レベルに近い性能を持つことを示し、次のステージへ進むための重要な指標となる。以上のように、2023年は基本フレームワークとプロトタイプの確立に注力する年になると予想される。
2025年の展望では、より進んだ段階の目標が設定されている。最初に、セパレーション技術の普及を目指すことが考えられる。これにより、技術が産業界で一般化し、多くの廃材や資源のリサイクルが可能になると期待される。次に、クリーンな再生プロセスをスケールアップする。具体的には、小型プロトタイプでの成功を基に、工場規模での運用が可能なシステムを確立すると考えられる。最後に、新たに環境負荷の低い新材料を開発すると予想される。これにより、持続可能な製品開発に新たな選択肢が加わる。マイルストーンもそれに応じて高度化すると期待される。セパレーション技術においては、処理できる材料種類を拡大すると考えられる 。これが多様な産業ニーズに対応可能な技術であることを証明する。再生プロセスでは、CO2排出量を前年比で20%削減することが期待される。この削減率は、環境への影響を軽減しつつ、効率も向上させる目安となる。新材料については、実用フェーズに入ることが期待される。すなわち、試作段階を経て、市場に投入する準備が整うが期待される。
2030年の展望については、より高度かつ多角的な目標を目指すことが考えられる。初めに、高度なセパレーション技術を用いて、希少金属も回収可能なレベルに技術を進化させる。希少金属の回収・再利用は資源採取時の環境負荷を大幅に低減できることに加え、資源安全保障面でも極めて重要な技術となる。次に、クローズドループの再生プロセス を実装する。これにより、リサイクルから生産、使用、マテリアルリサイクル、ケミカルリサイクルに至るまでの全工程での資源循環が可能となる。最後に、複数の環境負荷の低い新材料を広く普及させると考えられる。マイルストーンもそれぞれの目標に応じて設定される。セパレーション技術では、成功率が95%以上となるように進化させることが期待される。この高い成功率が、リサイクル効率と資源の有効利用に大きく寄与する。全工程でのクローズドループ再生が可能となることで、廃棄物がほぼゼロに近づく理想的なシステム が完成することが期待される。新材料の普及に関しては、生産量が年間10万トンを超えるレベルに到達すると期待される。これは、新材料が産業界で広く受け入れられ、環境へのポジティブな影響が拡大する指標である。
2050年の展望においては、技術と社会が高度に統合されるビジョンが掲げられる。最初の目標は、AIと連携した自動セパレーション・再生システムの完全実装である。このシステムは、資源の効率的な分類と再生を自動で行い、人力を大幅に削減しながらも高精度なリサイクルを実現することが期待される。次に、ほぼゼロエミッションの再生プロセスを確立する。この目標は、気候変動対策に直結するものであり、CO2排出量を極限まで抑制すると考えられる。これらを通じて最終的に、サーキュラーエコノミーが全産業で標準となり、新しい経済成長の基盤となる。マイルストーンもそれぞれの目標に沿った高度なものとなる。AIによる自動セパレーションと再生において、資源とエネルギーの投入量は極小化されることが期待される。これは、システムが極めて効率的に動作し、資源を無駄なく再生する証である。次に、再生プロセスのCO2排出量のNETゼロを達成すると期待される。最後に、全製品ライフサイクルでの材料再利用率が95%以上に達すると期待される。これは、ほぼすべての材料がマテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされ、廃棄物が最小限に抑えられる状態を意味する。
課題2.スマートシティとスマートエネルギーの統合(図5)
図5 課題2「スマートシティとスマートエネルギーの統合」のための技術ロードマップ
(図中のアイコンはOpen AIのイメージ生成ソフト DALL・E3により生成)
スマートシティ技術の導入
都市と地方の共存には、都市と地方のインフラをスマート化し、効率的な運営と管理の実現が必要である。また、スマートグリッド技術の導入により、電力の供給と需要のバランスを最適化し、エネルギー効率を向上することが必要である。解決策としての技術の中から、機械学会が取り組むべき分野として、「スマートシティとエネルギーの相互連携技術」が挙げられる。この技術に特化し、その概要、なぜ必要か、どのように実施するか、何を目指すか、さらには年代別の進捗や到達点(図5)についても考察する。
スマートシティとエネルギーの相互連携技術
この技術は、スマートシティのインフラとスマートエネルギーシステムを統合し、シームレスに相互作用させる目的で開発される。都市の交通、建築、エネルギー供給、廃棄物処理などの多様なシステムが相互にデータを共有し、効率的に運営される。これにより、エネルギーバランスが最適化され、環境負荷の低減が期待される。
2050年に向けての展望を考慮すると、特に都市環境において多くの挑戦が存在している。都市人口の増加は、交通渋滞、エネルギー消費、廃棄物の増加など多くのインフラに対するプレッシャーを増加させると考えられる。このような状況下では、従来の都市インフラとエネルギー管理手法では、効率性や持続可能性が十分に確保できない可能性が高い。気候変動による極端な気象現象や海面上昇が都市にもたらす影響も重要な課題である。これに加えて、資源の枯渇問題は、エネルギー供給はもちろん、気候変動も相まって食料や水供給にも影響を与えると考えられる。このような複合的な問題に対処するためには、都市そのものの設計から考慮する必要がある。スマートな都市設計とエネルギー管理が重要なのは、このような課題に対する効果的な解決策を提供する可能性があるからである。具体的には、スマートテクノロジーを活用することで、エネルギーはもちろん、交通や廃棄物管理などでも効率的な運用が可能となる。これは、持続可能な社会の基盤を形成する大きなステップとなり、資源の有効利用や環境負荷の軽減につながる。さらに、スマートな都市設計とエネルギー管理は、持続可能な社会を形成する上でのマルチプライヤー効果をもたらすと考えられる。例えば、エネルギーバランスが効率化されると、温室ガスの排出量が削減され、気候変動の進行が抑制される。これは、未来の世代にも持続可能な生活環境を提供するために不可欠な要素である。
以上のような理由から、スマートな都市設計とエネルギー管理は、2050年の持続可能な社会構築において非常に重要な役割を果たすと期待される。
スマートシティとエネルギー管理の技術開発においては、いくつかの重要な要素が考慮される必要がある。まず、データ収集と分析に関しては、センサ技術やIoT(インターネット・オブ・シングズ)を広範に導入することが期待される。これにより、都市やエネルギーインフラからリアルタイムでのデータ収集が可能となる。続いて、AIやビッグデータ分析を活用し、そのデータを深く解釈する。これは、交通フローやエネルギー使用状況、さらには環境影響まで多角的に把握する基盤を築くと期待される。次に、オープンプラットフォームの構築が重要である。具体的には、システム間のデータ連携を容易にするためのオープンなAPI(アプリケーションプログラミングインターフェース)やプロトコルを採用する。これがあれば、さまざまな業者や自治体が参加する多様なシステムが効率良く協働できる。リアルタイム管理においては、収集されたデータをリアルタイムで解析する技術が必要である。これによって、エネルギー供給や交通フローの調整が即座に可能となる。この即時性が、環境への負荷を減らすだけでなく、エネルギーの効率的な利用を促す。デマンドレスポンスの実施も同様に重要である。これは、エネルギーの需要と供給をリアルタイムで調整し、ピーク時における電力供給の負荷を軽減するテクニックである。デマンドレスポンスを有効に活用することで、全体としてのエネルギー効率が向上する。最後に、持続可能なエネルギーの統合に関しては、太陽光や風力、蓄電池などの環境に優しいエネルギーソースを効率よくシステムに組み込む。これにより、持続可能なエネルギー供給が確保され、CO2排出量の削減や資源の有効利用が実現すると予想される。
以上のような手法を組み合わせることで、スマートシティとエネルギー管理の技術開発の進展が期待される。これらの技術は、2050年の持続可能な社会構築に向けて、極めて有用なソリューションを提供する可能性が高い。
開発していく技術の具体的な目標には、いくつかの要点があると考えられる。まず、持続可能なエネルギーの最大活用を目指す。これにはスマートグリッドの活用が不可欠であり、再生可能エネルギー源から生成された電力を効率的に配分し、消費するプロセスが構築される。これにより、エネルギーの無駄を極力排除し、持続可能なエネルギー供給を確保する。次に、効率的な資源管理も目標とする。スマートシティ内で生成される廃棄物や汚水は、先進的な処理技術やリサイクルシステムを用いて効率よく処理またはリサイクルされる。これは資源の再利用を促進し、その結果として持続可能な資源管理が実現する。また、低炭素社会の実現も目指す。具体的には、エネルギー効率の高い運営が行われることで、CO2排出量を大幅に削減する。これはクリーンなエネルギー技術を活用し、環境への影響を最小限に抑えるためである。最後に、高度なライフスタイルの実現が目標である。住民自体がエネルギーをより効率的に使用することにより、より快適で持続可能なライフスタイルが可能となる。これには、エネルギー使用の自動化や効率化を促進するテクノロジーが導入されると期待される。
以上のように、複数の具体的な目標を達成するための技術が開発されていく。これらの目標は相互に関連しており、一つ一つが成功すれば、2050年に向けての持続可能な社会構築が加速すると予想される。
2023年現在におけるスマートシティとエネルギーの相互連携技術の展開は、いくつかの重要なステップで構成される。最初のステップとして、初期段階のセンサ技術やIoTデバイスが市場に導入されている。これらのテクノロジーは、都市環境の各所でデータを収集する基盤を提供する。続いて、基本的なオープンプラットフォームが形成される。このプラットフォームは、さまざまなデバイスやシステムが互いにデータを共有できるようにする仕組みである。目標としては、これらの初期技術を用いて都市の一部区域でデータ収集と分析が開始されることであり、一部のモデル地域では取り組みが始まっている (17)(18)。具体的には、交通量、エネルギー消費、廃棄物生成量などの各種指標をリアルタイムでモニタリングし、それを基にエネルギーの微調整ができるレベルを目指す。この微調整により、エネルギー消費が最適化され、都市の効率が向上する。技術進捗やマイルストーンに関しては、いくつかの具体的な目標が設定され、プロトタイプの開発と実証実験が行われ、その結果を基に初期のパートナーシップが形成されつつある。この段階でのパートナーシップは、通常、地方自治体、エネルギー供給会社、技術開発企業などが含まれる(19)。これらの主体が協力して、スマートシティとエネルギーの相互連携技術の有用性と実用性を検証する。このプロセスを通じて、次の段階へと進むための重要なフィードバックとデータが集められると予想される。
2025年の展望では、AIとビッグデータ分析が都市インフラの管理に適用され始め、これによってリアルタイムのエネルギー管理が可能になる(20)。AIの進展は、大量のデータを迅速に処理し、エネルギー供給と消費に関する洞察を提供する。ビッグデータ分析もまた、消費パターン、天候変動、交通状況など多様な変数を網羅することで、より高度なエネルギー最適化を実現する。同時に、オープンAPIが広く採用されることで、異なるシステムとデータベースがシームレスに相互作用を始めると期待される。目標としては、中規模の都市でスマートエネルギー管理が一般的に行われるようになる。具体的には、これらの都市ではスマートグリッドを用いて、再生可能エネルギーの効率的な配分と消費が行われると考えられる。さらに、CO2排出量の削減と効率的な資源管理が進展する。これにより、都市は低炭素社会へと一歩前進すると期待される。技術進捗やマイルストーンでは、マススケールでの実用化が進む。ここで言う「マススケール」とは、多数の家庭やビル、地域コミュニティでの採用を指す。また、関連する規制や補助金が整備される。政府は、スマートエネルギー技術の導入を促進するための法的枠組みを提供し、企業や地方自治体はこの基盤の上で、独自のスマートシティプロジェクトを展開する(21)。このように、スマートシティとエネルギーの相互連携技術は、更なる発展と普及を遂げると期待される。
2030年の展望においては、デマンドレスポンス技術がさらに高度化する。この技術の進化により、エネルギー供給と需要の最適化が高度に行われるようになる。デマンドレスポンスの仕組みは、家庭やビジネスのエネルギー使用パターンをリアルタイムで分析し、ピーク時のエネルギー使用量を抑制することで、エネルギーグリッドの安定を保つ。さらに、持続可能なエネルギー源、例えば太陽光や風力、そして蓄電池が、効率的にシステムに統合されると予想される。これにより、再生可能エネルギーの比率が増大し、全体としての環境負荷が低減する。目標としては、大都市圏での全面的なスマートエネルギー管理が確立されると期待される。つまり、大都市においては、エネルギー供給から消費、そして廃棄物や汚水の処理に至るまで、すべてのプロセスがデータドリブンとなる。資源の効率的な循環も確立され、スマートシティ内で生成される廃棄物や汚水は、再利用やリサイクルが効率的に行われる。技術進捗やマイルストーンとしては、複数の大都市での成功事例の報告が期待される。これらの事例は、大規模なデータの分析と、先進的なエネルギーマネジメント技術に基づくものである。その結果として、他の都市もこのようなスマートエネルギー管理の採用を進めるようになると期待される。また、成功事例を通じて得られた知見が共有され、それが次世代のスマートシティ設計にフィードバックされる。このように、2030年にはスマートシティとエネルギーの相互連携技術が新たな段階に達すると予想される。
2050年の展望では、高度なAI技術が都市管理の各面に広く導入され、エネルギー供給も完全に自動化される段階に到達していると予想される。AIは交通フローの最適化から廃棄物管理、緊急対応まで、都市の運営を全体的に支え、さらには自律的に調整・最適化を行う。エネルギー供給もAIによってリアルタイムで調整され、エネルギーのロスが極めて少ない状態が維持されていると予想される。目標としては、持続可能な社会の確立が前面に出ている。これはただの環境負荷の削減を超えて、全人口にわたる高度なライフスタイルの提供を含んでいる。健康、教育、交通、エネルギーといった多くの生活面で、効率と快適性が向上していると考えられる。例えば、スマートヘルスケアシステムによって、都市住民の健康状態がリアルタイムでモニタリングされ、疾病の早期発見や予防が行えるようになっていると期待される。技術進捗やマイルストーンとしては、グローバルスケールでのスマートシティの実現が期待される。数十年の積み重ねにより、多くの都市がスマートシティのモデルケースとなり、その成功が世界中で共有されていると期待される。このような広がりを通じて、エネルギー効率の高いシステムが標準となり、環境負荷の大幅な削減の実現が期待される。具体的には、カーボンニュートラルな社会が実現され、持続可能な社会構造が確立されていると期待される。生可能エネルギーの利用割合が高まることで、持続可能な社会構造が確立されていると期待される。
再生可能エネルギーの地方利用
都市と地方の共存には、地方の自然資源を活用した再生可能エネルギーの開発と地方への展開の推進が必要である。また、風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギー源を地域に密着して導入し、エネルギーの分散供給の促進が必要である。解決策としての技術の中から、日本機械学会が取り組むべき分野として、「太陽光発電など再生可能エネルギー、環境発電」が挙げられる。この技術に特化し、その概要、なぜ必要か、どのように実施するか、何を目指すか、さらには年代別の進捗や到達点(図5)についても考察する。
太陽電池など再生可能エネルギー、環境発電
2050年に向けてのビジョンとして、「スマートシティとスマートエネルギーの統合」が非常に重要な課題であり、その中で「再生可能エネルギーの地方利用」が特に重視されている。この「再生可能エネルギーの地方利用」とは、地方の自然資源を活用して再生可能エネルギーを開発し、そのエネルギーを地方自体で利用するという概念である。この方針は、風力発電、太陽光発電などの再生可能エネルギーを地域社会に密着させて導入し、エネルギー供給の分散を促進することにつながる。
必要な技術として「太陽光発電などの再生可能エネルギー、環境発電」が考慮されている。太陽電池は、光を電気エネルギーに変換する装置であり、地方での利用が特に有用である。また、環境発電技術とは、風力、水力、地熱など、その地域が持つ独自の自然エネルギーを利用した発電手段を指す。
このような再生可能エネルギー技術が必要な理由は多面的である。最も顕著なのは、エネルギー供給の安定性を確保することである。地方地域で自給自足型のエネルギー供給が行われるようになると、中央集権的なエネルギー供給体系からの独立性が高まると予想される。これにより、エネルギー供給がより安定し、大規模な停電やエネルギー供給の途絶などのリスクが低減する。次に、環境負荷の低減も大きな要因である。地方で生産された再生可能エネルギーは、その地域で消費される場合、エネルギーを長距離輸送する必要がなくなる。その結果、輸送によるエネルギーロスやCO2排出が大幅に削減されることが期待される。これは気候変動の進行を抑制する上で非常に重要な要素である。そもそも、再生可能エネルギーの導入は、化石燃料への依存を減らすことが可能である。これは、エネルギー価格の変動リスクや政治的なリスクを軽減するとともに、持続可能なエネルギー供給の確立に貢献する。
以上の要因から、地方での再生可能エネルギー利用とその技術開発は、エネルギー供給の安定性、環境保護、そして持続可能な社会を構築する上で不可欠であると言える。
再生可能エネルギーの地方利用における開発方法は、精密な地域分析から始まる。具体的には、各地域の気候、地形、自然資源を詳細に調査し、そのデータに基づいて最も適した再生可能エネルギー源を選定する。例えば、風力が豊富な地域では風力発電、日照時間が長い地域では太陽光発電が有用である。次に、地方自治体、産業界、研究機関と連携し、集めたデータに基づいて具体的な設備設計を行う。この際、地域社会のニーズや持続可能性も考慮に入れる。さらに、設備の設計と並行して、運用フェーズでのエネルギー供給と需要を調整するためのスマートグリッド技術の導入が進められる。この技術によって、エネルギーの供給と需要をリアルタイムで最適にマッチングさせることが可能である。また、開発の進捗を定期的に評価し、必要な調整を行う。これには、設備の効率や運用コスト、さらには地域社会への影響などを網羅的に考慮する必要がある。評価と調整によって、持続的な運用が確保され、長期的に地域社会に貢献する形での再生可能エネルギー供給が実現される。
このように、地域の自然資源を調査し、多様なステークホルダーと連携しながら、スマートグリッド技術を活用することで、地方での再生可能エネルギー利用は効率的かつ持続可能なものとなる。
何を目指しているのかというと、地方各地で安定したエネルギー供給を実現することが目標である。具体的には、地域ごとに適した再生可能エネルギー源を用いて、持続可能なエネルギー供給を確立する。これにより、地方の独自性を活かしたエネルギー政策が可能になり、その結果、地方経済も活性化する。これに加えて、エネルギーの分散供給を通じて、大規模な災害時にも柔軟に対応できるようなレジリエントな社会基盤を構築する。地方各地で独立したエネルギー供給が可能になれば、一箇所でのエネルギー供給障害が全体に影響を及ぼすリスクを低減できる。また、地域社会が自前でエネルギーを生産できるようになれば、外部からのエネルギー供給が途絶えた場合でも、一定レベルの生活水準を維持できる。 以上のように、地方各地での安定したエネルギー供給と、災害リスクに強いレジリエントな社会基盤の構築が主な目標である。これを達成することで、持続可能で安全な地方社会を形成し、全体としても国のエネルギー戦略に貢献する形となると考えられる。
2023年現在における取組みは、技術面と目標設定に特化している。技術面では、太陽電池、風力発電をはじめとする再生可能エネルギーのエネルギー変換システムの高性能化が研究の中心テーマである。この研究においては、太陽電池のエネルギー変換をより高性能に実施する方策や、風力、水力などの発電機の設計改良が行われている。さらに、発電機などの小型化とコスト削減も並行して進められる。これにより、地方自治体や中小企業でも容易に導入できる小型、低コストの再生可能エネルギーソリューションが実現される見通しとなる。目標としては、地方毎の自然資源を綿密に調査し、その結果を基に再生可能エネルギーの導入計画を明確にして議論する。具体的には、風速や日照時間、地熱温度といった地域特有の環境要因をデータベース化し、それを元に最適なエネルギー源を選定する。この調査は地方政府、産業界、研究機関と連携して行われ、その成果は地域社会にフィードバックされる。これにより、各地域での再生可能エネルギー導入の方針がはっきりとし、具体的なプロジェクトが始動するための道筋がつけられる。
2025年の展望では、再生可能エネルギーとスマートグリッドの統合がより進展する(22)。技術的には、スマートグリッドの基礎技術が一部地域に導入され、エネルギーの供給と需要のバランスを取る高度な制御が可能になると期待される。この制御には、先進のAIアルゴリズムや通信技術が活用される(22)。また、エネルギーの蓄積技術も進化を遂げると予想される。特にバッテリー技術においては、容量の増大と寿命の延長、さらには高速充電が可能な新型バッテリーが開発される見込みがある。目標としては、初めての地方で再生可能エネルギーに基づいた自己完結型のエネルギー供給システムを構築する。このシステムには、太陽電池や風力発電、さらには地熱や水力といった地域特有の再生可能エネルギー源が統合されると期待される。それによって地方各地で独立したエネルギー供給が可能となり、大規模な災害が発生した際でも、柔軟に対応できるようになる。マイルストーンとしては、二つの重要なイベントが予定されている。一つはスマートグリッドの地方導入であり、これによって地域社会のエネルギー効率が大幅に向上する(23)。もう一つは、初の自己完結型エネルギー供給地域の誕生である。これは、再生可能エネルギーとスマートグリッド、エネルギー蓄積技術が一体となったモデル地域を形成し、その成功を以て、他の地域への展開が容易になる指標となると期待される。
以上が2025年における技術、目標、そしてマイルストーンの詳細である。これらの進展によって、日本全体のエネルギーシステムが次のステージへと進むための重要な基盤が形成されると予想される。
2030年の展望では、多種多様な再生可能エネルギー源と人工知能(AI)が統合された先進的なエネルギーシステムが登場すると予想される。技術面では、風力、太陽光、地熱など複数の再生可能エネルギーを単一のシステムで効率的に組み合わせることが可能となると考えられる。このような複合的なエネルギーシステムは、各エネルギー源の天候依存性や季節依存性を補完し、より安定したエネルギー供給を実現すると予想される。さらに、AIを用いてエネルギー供給と需要をリアルタイムで調整する技術も成熟する。具体的には、AIアルゴリズムが電力供給のピークとバレーを予測し、バッテリー蓄電技術と連携してエネルギーの有効活用を図ると期待される。目標としては、これらの技術を活用した自己完結型のエネルギー供給が全国の複数地方で一般化することであると期待される。地方各地での成功事例は、地域社会、産業界、研究機関の協力によって生まれ、各地域の独自性を最大限に活かした持続可能なエネルギー戦略が展開されると予想される。マイルストーンとして注目されるのは、AIによるエネルギー管理システムの具体的な実装と、複数のエネルギー源を有効に組み合わせた発電システムの成功事例であると考えられる。これらは技術進展だけでなく、持続可能な社会基盤を築く上での重要な指標ともなるAIによるエネルギー管理は、膨大なデータを高速で処理し最適なエネルギー配分を実現すると予想される。複数のエネルギー源による発電システムの成功例は、その効果を証明し、他地域でも導入が進む契機となる可能性が高いと期待される。
2050年の展望では、エネルギー供給が完全に分散化されるとともに、全国各地で持続可能なエネルギー供給の確立が予想される。具体的には、地域ごとの自然資源や需要に応じて、太陽光、風力、地熱、海流など多様なエネルギー源が最適に組み合わせられる。さらに、高度なAIとIoTテクノロジーが統合された制御システムによって、エネルギー供給と需要のマッチングがより精緻に行われる。この頃には、すべてのエネルギー供給がCO2ニュートラルまたはネガティブエミッションの達成が期待される。これは、再生可能エネルギーの積極的な導入と、二酸化炭素吸収技術の進展によって可能となると期待される。例えば、バイオエネルギーによる発電とCO2キャプチャ技術が組み合わされることで、エネルギー供給の過程でCO2が吸収される。目標としては、「スマートシティとスマートエネルギーの統合」が全面的に実現することである。高度なデータ分析とネットワーク技術が駆使され、交通、健康、治安、エネルギーなど多くの市民サービスが連携して動く。特に、大規模な災害時にも柔軟に対応できるレジリエントな社会基盤が構築されると期待される。マイルストーンには、全国規模でのスマートシティとスマートエネルギーの統合、そしてCO2ニュートラルまたはネガティブエミッションによるエネルギー供給の実現が挙げられる。スマートシティとスマートエネルギーの統合によって、エネルギー使用の効率化がさらに進み、余剰エネルギーの有効活用ができるようになると期待される。また、CO2ニュートラルまたはネガティブエミッションによるエネルギー供給が全国で実現されれば、これは地球環境にも極めてポジティブな影響を与える成果となると予想される。
デジタルコミュニケーションの普及
都市と地方の共存には、地方のデジタルインフラの整備と普及による地方の通信問題の解決が重要である。また、高速かつ安定したネットワーク接続の確保により、地方でも情報の双方向伝達が可能となり、都市と地方のコミュニケーションの強化が必要である。解決策としての技術の中から、日本機械学会が取り組むべき分野として、「通信インフラの強化技術」が挙げられる。この技術に特化し、その概要、なぜ必要か、どのように実施するか、何を目指すか、さらには年代別の進捗や到達点(図5)についても考察する。
通信インフラの強化技術 (24)(25)
2050年には、「通信インフラの強化技術」が極めて重要な役割を果たす。具体的には、次世代の高速通信技術(例:7G以上)、エッジコンピューティング、セキュアなネットワークプロトコル、低遅延通信の確立などが含まれる。これらは、大容量のデータを高速で安全に送受信でき、かつ広範な地域にわたって信頼性の高い通信網を確立するために不可欠である。
デジタルコミュニケーションの普及が必要な理由は多面的である。まず、地方においても高速かつ安定したネットワーク接続が確保されることで、都市と地方間の情報格差が縮小される。この情報格差の縮小は、経済的な機会の公平な分布や教育資源の均等なアクセスといった社会的側面でも非常に重要である。次に、スマートエネルギー管理においても、高度なデジタルコミュニケーションが必要とされる。例えば、リアルタイムでエネルギーの需要と供給を調整するシステムは、地方においても効率的なエネルギー使用が可能になり、それが環境に与える負荷を減らすことにつながる。さらに、災害時においてもデジタルコミュニケーションの重要性は高まっている。安定した通信インフラがあれば、災害発生時の緊急情報の伝達や救援活動の調整がスムーズに行われ、命を救う可能性が高まる。このように、デジタルコミュニケーションの普及とそれによる通信インフラの確立は、社会のさまざまな側面で効率と公平性を高めるために不可欠である。それは単に技術的な進歩以上の価値を持ち、持続可能で公正な社会を形成する上で基盤となる要素であると考えられる。
高速通信インフラの展開においては、次世代の通信技術である7Gの研究開発を早期に進める必要がある(26)。具体的には、大学や研究機関との共同研究を行い、初期のプロトタイプを作成する。その後、実地テストを経て商用化に向けてのステップを踏む。エッジコンピューティングについては、データ処理の遅延を減らすために通信網のエッジに処理能力を持つデバイスやサーバーを配置する。これは、特にIoTデバイスやセンサネットワークが広く導入される場面で有用である。エッジコンピューティングのアーキテクチャを設計し、現地でのパイロットテストを実施することが重要である。セキュリティ面では、セキュアなプロトコルとエンドツーエンドの暗号化を用いてデータの安全性を高める。これには、最新の暗号学的手法を用いて、データ流出や改ざんのリスクを最小限に抑える技術を開発する。低遅延技術に関しては、リアルタイムでのデータ処理と反応が求められる領域である自動運転車や遠隔医療において重要である。これに対応するため、低遅延を実現する通信プロトコルやアルゴリズムの開発を進める。
以上のような取組みにより、高速かつ安全、低遅延の通信インフラを構築することが可能となる。これらの技術開発は段階的に行われるべきであり、各段階での成功メトリクスを設定し、進捗を定期的に評価する必要がある。
目指している技術について、最初に普遍的な接続性を確立することが重要である。これは、全国各地、とりわけ地方においても高速で安定したインターネット接続が得られるような通信インフラを構築することを意味する。具体的には、地方でも都市並みのネットワーク品質を確保するために、光ファイバーや次世代通信技術を活用した広域ネットワークを構築する。次に、情報の即時性と安全性を確保するための技術開発も進める。これには、低遅延の通信プロトコルと高度なセキュリティ技術が必要である。具体的には、データセンターとエンドユーザ間のデータ転送を高速化する方法や、エンドツーエンドの暗号化を施してデータの漏洩や改ざんを防ぐ手法を開発する。最後に、コミュニケーションの強化についても重要である。都市と地方が緊密に連携し、情報・リソースを効率よく共有できる社会の構築を目指す。具体的には、分散された情報資源を一元的に管理・共有できるプラットフォームを開発する。このプラットフォームは、スマートエネルギー管理や災害対策など、多様な社会課題解決に活用できるよう設計する。これらの技術開発を通じて、高速で安全、そして普遍的なデジタルコミュニケーション環境を整えることで、社会全体のレジリエンスと効率性を高めることができると考えられる。
2023年現在においては、二つの主要な目標が設定されている。第一に、5G通信の全面普及を実現するために全国の主要都市において5Gのカバレッジが確保されると期待される。この活動は、高速で安定した通信環境の提供という基本的な要求を満たすステップとなる。第二に、6G通信に向けた初期研究が開始されると期待される。この初期研究には、新たな周波数帯の探索や大容量データの高速送受信に関するテクノロジー開発が含まれると予想される。6Gに関する基礎研究の開始は、次世代の通信インフラに対する前向きなステップであり、長期的な展望を持つ重要なマイルストーンとなると考えられる。また、エッジコンピューティングにおいても重要な進展が予想される。具体的には、実証実験が開始され、エッジコンピューティングの有用性と実用性が評価されると考えられる。この実証実験に基づいて、エッジコンピューティングの初期プロトタイプの開発が期待される。このプロトタイプには、データ処理の遅延を減少させるための新しいアルゴリズムやプロトコルの導入が予想される。
以上のように、2023年は5Gの普及と6Gに向けた研究、そしてエッジコンピューティングの進展といった多角的なテクノロジー開発が進行する年になると考えられる。これらの技術進捗は、それぞれが将来の通信インフラ強化において重要なピースであり、その成功が後続のテクノロジーと社会全体の進展に寄与すると期待される。
2025年の展望においては、いくつかの重要な技術的目標とマイルストーンが達成されると予想される。最も注目されるのは6Gの商用展開の開始である。この商用展開に伴い、初の6G商用ネットワークが稼働し始めると期待される。この新しいネットワークは、非常に高いデータ転送速度と低遅延を実現し、これまで以上に多くのデバイスやアプリケーションが高度な通信機能を利用できるようになると予想される。また、5Gの普及についても、都市部に留まらず地方にも拡大されると期待される。この拡大により、地方でも高速なインターネット接続と先進的なデジタルサービスが享受できるようになる。このような普及は、都市と地方のデジタル格差を縮小する一方で、地方の経済発展にも寄与すると期待される。さらに、エッジコンピューティングにおいても大きな進展が期待される。具体的には、エッジコンピューティングの基本的なフレームワークが完成すると予想される。このフレームワークに基づき、エッジコンピューティングの標準プロトコルが確立される。これにより、エッジコンピューティングがさまざまな産業で一般的に採用され、データ処理の効率と速度が向上すると予想される。2025年は6Gの商用展開と5Gの地方への拡大、そしてエッジコンピューティングのフレームワーク完成といった複数の重要な技術的進展が同時に実現される年であると予想され、これらが通信インフラ全体の強化と社会のデジタルトランスフォーメーションに大いに寄与すると期待される。
2030年の展望では、通信技術とエッジコンピューティングの領域でさらなる大きな進歩が期待される。一つ目の大きな目標は、7Gの研究と開発の開始である。6Gが全国各地で一般化すると予想される中、7Gの研究プロジェクトが始動すると期待される。この7Gは、現行の6G技術をさらに進化させ、通信速度、セキュリティ、信頼性において新たな基準を確立すると予想される。エッジコンピューティングも大きな変化を迎えると期待される。具体的には、エッジコンピューティングが一般的に用いられるようになると考えられる。これまでの研究と開発が実を結び、エッジコンピューティングの基本技術が商用環境で適用され始めると期待される。この適用によって、リアルタイムでの大量データ処理が効率的に行えるようになり、それが産業全体の生産性向上に貢献すると予想される。全体として、2030年は通信技術が一段と進化し、人々の生活やビジネス、さらには社会インフラに至るまでのデジタルトランスフォーメーションが加速すると期待される。このような進展は、より効率的で持続可能な社会を構築するために不可欠であると同時に、新たなビジネスチャンスや社会的価値の創出にも繋がると期待される。
2050年の展望では、さらなる先進的な通信インフラとデータ処理技術の融合が期待される。具体的には、7G以上の高度な通信インフラが全国各地で普及すると予想される。この通信インフラによって、高速で安全な通信網が都市から地方まで確立されると期待される。地方においても、都市と同などのデータ通信速度と安全性が確保され、社会全体の情報アクセシビリティが飛躍的に向上すると予想される。また、エッジコンピューティングと低遅延技術が完全に統合されると期待される。これにより、エッジコンピューティング技術が高度化し、リアルタイムのデータ処理と反応が可能になると予想される。遠隔医療、自動運転車、スマートシティなど、リアルタイムの高度なデータ処理が求められる多くの分野で、効率と安全性が大幅に向上すると期待される。
2050年までには、通信とデータ処理の高度な統合によって、人々の生活はもちろん、産業と社会構造自体が劇的に変化すると期待される。これらの技術進展は、環境に優しく、持続可能な社会を形成する上での重要な要素となり、さまざまな新たなビジネスモデルや社会課題の解決に寄与すると期待される。
スマートモビリティの推進
都市と地方の共存には、スマートモビリティ技術の開発による運送の問題の解決が重要である。また、自動運転技術や交通インフラの効率化により、都市と地方の移動の利便性を向上させると同時に、交通渋滞や排出ガスの削減が必要である。解決策としての技術の中から、日本機械学会が取り組むべき分野として、「インテリジェントトラフィックシステム」が挙げられる。この技術に特化し、その概要、なぜ必要か、どのように実施するか、何を目指すか、さらには年代別の進捗や到達点についても考察する。
インテリジェントトラフィックシステム(27)(28)
2050年における「スマートシティとスマートエネルギーの統合」の実現は、スマートモビリティの推進が不可欠である。この枠組みの中で中心的な役割を果たす技術は「インテリジェントトラフィックシステム(ITS)」である(29)。インテリジェントトラフィックシステムは、高度なセンサ技術、AIアルゴリズム、通信インフラを統合することで、リアルタイムでの交通流監視と制御が可能である。
都市と地方間での経済格差と人口密度の不均衡は、多くの交通問題を引き起こしている。都市では交通渋滞が慢性化しており、大気汚染や不必要な燃料消費が増大している。一方、地方では十分な交通インフラが欠如しており、地域経済に対する負担が大きい。このような課題に対し、インテリジェントトラフィックシステム(ITS)は有効な解決手段である。ITSはリアルタイムでの交通状況の把握と、そのデータに基づく信号調整やルート提案が可能であり、都市部の交通渋滞の緩和と地方での効率的な移動が期待される。加えて、ITSの効果的な運用によっては、燃料消費と排出ガスの削減が可能となり、環境への負荷も軽減する。したがって、ITSは交通の効率化と環境負荷の軽減、これら二つの重要な目標を同時に達成する可能性が高い手段である。このように、ITSは都市と地方の持続可能な発展に寄与するとともに、気候変動対策にも一役買う重要な技術である。
ITS(インテリジェントトラフィックシステム)の開発において、最初にセンサネットワークを全国の主要道路に導入する。これらのセンサは車両の流れや速度、道路の状態などをリアルタイムで監視する。次に、AI技術を活用して、収集されたデータを高速に分析する。このAIはトラフィックパターンを認識し、予測モデルを生成する能力が必要である。通信インフラについては、7G以上の高度な通信技術を使用することが予想される。これにより、車両と交通インフラストラクチャ(例:信号機、道路標識)との間で、高速かつ確実な即時通信が可能となる。この高度な通信インフラが確立されれば、リアルタイムでの情報交換と迅速な意志決定が行える。さらに、エッジコンピューティングを導入することで、データ処理の速度と効率が大幅に向上する。エッジコンピューティングは、データを中央のサーバーに送るのではなく、現場近くで即座に処理する技術である。これにより、高いレイテンシ(通信の遅延時間)が発生することなく、リアルタイムのデータ分析と応答が可能となる。
以上のような手法によって、ITSは交通渋滞の削減、燃料効率の向上、交通事故の予防など、多方面での効果が期待される。特に、リアルタイムでの高度なデータ分析と通信が可能になることで、より柔軟かつ効率的な交通システムが構築できると考えられる。
ITS(インテリジェントトラフィックシステム)の開発において目指している技術は、主に効率的な交通フローの確立、環境負荷の軽減、そして安全性の向上である。効率的な交通フローについては、AIと高度な通信インフラを組み合わせて、道路上の車両がスムーズに流れるようにする。具体的には、リアルタイムでの交通流分析を通じて、信号配分や道路使用の最適化を図る。結果として、交通渋滞が削減され、それによって個々の移動時間も短縮される。環境負荷の軽減は、効率的な交通フローを実現することで直接的に達成される。車両がスムーズに動くことで、不必要なアイドリング時間が減少し、その結果、燃料消費と排出ガスが削減される。安全性の向上においては、センサネットワークとAI分析を用いて、異常な運転パターンや交通障害を早期に検出する。また、エッジコンピューティングを活用してリアルタイムでの反応と対処が可能となる。これにより、交通事故のリスクが大幅に低減される。
以上の技術目標は、都市だけでなく地方においてもその効果を発揮することが期待される。特に、都市と地方の経済格差や人口密度の不均衡に起因する交通の問題も、これらの技術によって解消される可能性が高いと考えられる。
2023年現在は、5G通信インフラの普及と連携した初期段階のITSの展開が予想される。この初期段階では、主要都市での交通渋滞削減と環境負荷の初期軽減が目的とされる。技術進捗として、低遅延のセンサネットワークと初期AIアルゴリズムが実装されることが予想され、主要道路での試験運用が行われる可能性が高い。また、初めてのスマート信号機や情報提供システムが運用を開始すると期待される。これらの進展は、ITSの全体像がより明確になる重要なマイルストーンとなると考えられる。
2025年の展望では、6G通信の開始とより高度なAIアルゴリズムの導入が予想される。この進展により、ITSの導入が都市だけでなく地方にも拡大することが期待される。技術的なマイルストーンとしては、リアルタイムでの大規模データ処理が可能になることが予想される。これは交通フローの最適化がさらに進む可能性が高いということを意味する。また、自動運転車とITSが連携することで、道路上の安全性がいっそう向上すると期待される。このような技術的発展は、ITSが都市だけでなく地方にも本格的に展開される強力な推進力となると予想される。
2030年の展望においては、7Gの研究と開発が開始されると予想される。この時点で、既に6Gは全国各地で一般化すると期待される。さらに、エッジコンピューティングが一般的に用いられるようになると予想される。このような進展が見られる中で、技術進捗とマイルストーンも相応に高まると考えられる。具体的には、7Gの研究プロジェクトが各地で始動することが期待される。また、エッジコンピューティングの基本技術が商用環境で適用され始めると予想される。このようにして、ITSの性能と範囲は継続的に拡大し、より高度な交通制御が可能になると期待される。
2050年の展望では、7G以上の高度な通信インフラが全国各地で普及すると予想される。この高度な通信環境において、エッジコンピューティングと低遅延技術が完全に統合されると期待される。技術進捗とマイルストーンに関しても、顕著な進展が見られると予想される。具体的には、高速で安全な通信網が都市から地方まで確立されることが期待される。さらに、エッジコンピューティング技術が高度化し、リアルタイムのデータ処理と反応が可能になると予想される。このような技術的基盤の確立によって、ITSは全面的に最適化され、交通問題の根本的な解決に大きく貢献すると期待される。
課題3.持続可能なエネルギー生産と効率的な利用のための材料開発と熱工学的最適化(図6)
図6 課題3「持続可能なエネルギー生産と効率的な利用のための材料開発と熱工学的最適化」のための技術ロードマップ
(図中のアイコンはOpen AIのイメージ生成ソフト DALL・E3により生成)
新しいエネルギー変換材料の開発
効率的で持続可能なエネルギー源への転換を促進するためには、太陽光、風力、バイオマスなどの再生可能エネルギーの変換材料の研究開発が必要である。この課題を解決するために必要な技術の中で、日本機械学会が取り組める技術として、「高効率の熱電変換材料の研究」が挙げられる。この技術に特化し、その概要、なぜ必要か、どのように実施するか、何を目指すか、さらには年代別の進捗や到達点(図6)についても考察する。
高効率の熱電変換材料の研究
2050年に向けて、持続可能なエネルギー生産と効率的な利用のための材料開発と熱工学的最適化の課題解決には、特に「新しいエネルギー変換材料の開発」が中心的な役割を果たすと考えられる。この分野で特に注目されるのは「高効率の熱電変換材料の研究」である。高効率の熱電変換材料は、熱エネルギーを直接電気エネルギーに変換する、もしくはその逆のプロセスを高効率で行う材料である。このような材料には、新しいナノテクノロジー、量子技術、および高度な材料科学が活用される。
また、持続可能なエネルギーの需要が高まる背景には、気候変動の進行、自然資源の枯渇、および環境汚染などがある。これに対応するため、エネルギーの効率的な変換と利用が必須である。熱電変換材料はこの問題に対する一つの解答であり、特に未利用の熱エネルギー—例えば工場で発生する余熱や家庭の熱エネルギー—を有用な電気エネルギーに変換する可能性を持っている。この変換プロセスにより、エネルギーの再利用が可能になるため、エネルギーの無駄が削減される。さらに、熱電変換材料を用いることで、再生可能エネルギーとの組み合わせにより、全体のエネルギーシステムの効率が向上する可能性もある。これは、環境への負荷を減らすだけでなく、エネルギー費用も削減する効果が期待できる。具体的には、熱電変換材料の進化によって、産業界でのエネルギー消費が低減し、家庭でも効率的なエネルギー管理が可能になる。最終的に、熱電変換材料の高度な研究と開発は、エネルギーをより持続可能かつ効率的に利用する新しい道を開く可能性がある。このような進歩は、2050年の持続可能なエネルギーの目標達成に不可欠であるとともに、クリーンなエネルギーの実用化と普及を促進する重要なステップである。
高効率の熱電変換材料の研究開発においては、最初のステップは実験室レベルでの材料解析とプロトタイピングである。この段階では、新しい合成方法やナノ構造技術を用いて、熱伝導率が低く、電気伝導率が高い材料を開発する。機器やソフトウェアを使用して、これらのプロトタイプ材料の熱電特性を詳細に解析し、どの程度効率的にエネルギー変換ができるのかを評価する。次に、この実験データを基に、既存の材料の改良や新たな材料の設計が行われる。具体的には、合成過程でのパラメータ調整、表面改質、または特定の成分の添加などを試みることで、性能を向上させる。この段階では、研究者と産業界との連携が強化され、より実用的な観点からのフィードバックが得られる。その後、実験室レベルで確認された材料特性を基に、スケールアップのプロセスが開始される。この段階で重要なのは、小規模で確認された効果が大規模な生産でも維持されるかを確認することである。この確認作業は、パイロットプラントでのテストや実際の環境下での性能評価を通じて行われる。最終的に、これらの検証作業が成功した場合、商用化に向けての動きが加速される。産業界と連携し、大量生産技術の開発や市場適用性の評価が行われる。これにより、高効率の熱電変換材料が実際のエネルギーシステムに導入され、持続可能なエネルギー生産と効率的な利用が促進されることとなると考えられる。
目標としているのは、熱電変換効率を大幅に向上させることにより、持続可能なエネルギー生産と利用に寄与する新材料の開発である。これにより、産業施設や家庭で発生する熱エネルギー、特に未利用の熱エネルギーを有用な電気エネルギーに効率的に変換する。具体的には、廃熱のような低品位熱源から、高いエネルギー変換効率で電力を生成する材料を作り出すことが狙いである。この目標達成のためには、材料の内部構造を微細に制御して熱電特性を最適化する技術、安定した高性能を持続するための耐久性向上技術、そして環境負荷を低減するためのリサイクルや廃棄処理に関する技術など、多角的な研究と開発が必要である。最終的には、これらの高効率熱電変換材料を用いたエネルギーシステムが普及することで、エネルギー供給の多様性が高まり、持続可能なエネルギー利用がいっそう促進されることが期待される。このような高効率の熱電変換材料は、再生可能エネルギー源だけでなく、化石燃料を使用する既存のエネルギーシステムにおいても、効率と持続可能性を向上させる手段として非常に有用であると考えられる。
2023年現在においては、初のプロトタイプの開発とテストが行われることで、基礎研究から応用段階への移行が始まる予定である。この年には、ナノ構造と材料合成に関する基礎研究が完了し、その成果を活用して最初のプロトタイプが製造されると考えられる。このプロトタイプは、熱電変換の効率と安定性を検証するための実験的な試験に供される。また、研究成果を商用化につなげるため、業界との初期のパートナーシップが形成される。具体的には、エネルギー産業や廃熱を多く生じる製造業などと協力し、商用応用のためのフィージビリティスタディが行われると予想される。この段階でのパートナーシップは、研究の方向性を確立し、次のステップへと進むための重要なマイルストーンとなる。
2025年の展望では、プロトタイプの効率向上が一つの大きな目標であり、これによって小規模の商用応用が可能となると期待される。熱電変換効率が一定レベル、例えば事前に定義されたエネルギー変換率や安定性などに達すると、次に小規模な産業応用での実証試験が始まる。ここでは、特定の産業シーン、例えば廃熱を大量に発生する工場やエネルギー生産施設での熱電変換材料の有用性と効率性の検証が行われると考えられる。さらに、研究成果を長期的に保護し、事業展開をスムーズに進めるために、最初の特許が取得されると考えられる。この特許には、熱電変換効率の高い新材料、その製造方法、あるいはそれを応用した具体的なシステム構成などが含まれる可能性が高い。このように、知的財産が確保されることで、技術のライセンスビジネスや大規模な商用展開に向けての基盤が整うと予想される。
2030年の展望では、商用化に向けたスケールアップと産業での適用範囲の拡大が主な目標となることが考えられる。熱電変換の効率は、研究と実用化の連携によってさらに向上し、これに伴いコスト効率も改善する見込みである。具体的には、材料コストと製造プロセスの効率化を通じて、単位エネルギー当たりの変換コストが下がると予想される。また、中規模の産業プロジェクトにおいて成功例が出始めるとが期待される。これは、熱電変換材料がエネルギー供給の多様性を実現し、持続可能性にも貢献している証となる。成功例が出始めると、その影響力は他の産業や市場にも広がり、更なる商用化の道が開かれる可能性が高い。さらに、2030年頃には環境影響評価とリサイクル戦略が確立されると考えられる。持続可能なエネルギー利用が主眼の一つであるこの技術が、そのライフサイクル全体で持続可能であることを証明するためには、環境アセスメントとリサイクルに関する明確な方針が不可欠である。これにより、技術が社会や環境に与える影響が最小限に抑えられ、より広範な産業での適用が進むと期待される。
2050年の展望では、熱電変換の効率が極めて高い持続可能な材料の全面的な商用化が達成されると考えられる。一般家庭においても、この高効率の熱電変換技術が普及し、日常生活におけるエネルギー利用の効率化が進む見込みである。具体的には、家庭で発生する未利用の熱エネルギー、例えば調理や暖房から生じる余熱などを電気エネルギーに変換するデバイスが一般的になると考えられる。さらに、エネルギー供給の多様性が大幅に向上し、持続可能なエネルギー利用が促進されることが考えられる。従来のエネルギー供給に依存することなく、熱電変換技術を利用して、地域や家庭レベルでのエネルギー自給が可能となる。これにより、再生可能エネルギーの採用が加速し、エネルギーの持続可能な利用がより広範に実現する。未利用の熱エネルギーの回収と利用が一般的な実践となると期待される。産業界でも、生産プロセスから発生する余熱を有効に利用することで、エネルギー効率が向上する。このように、2050年頃には熱電変換技術が、エネルギーの持続可能な利用と環境負荷の軽減に大いに貢献すると見込まれる。
熱工学的最適化とエネルギー効率
エネルギーの効率化のためには、エネルギー生産・消費プロセスの最適化により、余剰エネルギーのロスを最小限に抑えるための研究が必要である。この課題を解決するために必要な技術の中で、日本機械学会が取り組める技術として、「高効率の熱交換器」が挙げられる。この技術に特化し、その概要、なぜ必要か、どのように実施するか、何を目指すか、さらには年代別の進捗や到達点(図6)についても考察する。
高効率の熱交換器
高効率の熱交換器は、流体間での熱エネルギーの効率的な移動を促進するために設計された装置である。この技術は先進の材料科学、流体力学、そして熱力学的設計手法を用いて、最小のエネルギーロスと最大の熱転送効率を追求する。
高効率の熱交換器が必要な理由は、まず気候変動と持続可能な資源利用に密接に関わるエネルギーの効率的な使用と生産にある。全世界的に増加するエネルギー需要と有限な資源、そして温室ガス排出の削減が急募される中で、エネルギーの有効な利用は避けて通れない課題である。特に産業プロセスやエネルギー生産においては、多量の熱が生成され、その多くが無駄にされている。ここで高効率の熱交換器が登場する。この装置は、例えば製造プロセスで発生する高温の廃熱を低温の流体に効率よく移動させ、エネルギーの再利用を促進する。さらに、高効率の熱交換器は、エネルギー生産・消費の全体的なサイクルにおいても有用である。再生可能エネルギー源からのエネルギー採取や、既存のエネルギー供給網との統合も容易に行える。これにより、エネルギー供給の安定性が向上し、持続可能なエネルギー利用が促進される。このように、高効率の熱交換器は、エネルギーの効率化と持続可能な利用に資する多面的な技術である。エネルギーの効率的な消費は、資源の持続可能な管理、温室ガスの削減、そして最終的には気候変動の緩和に繋がる。このような背景から、高効率の熱交換器は現代社会において不可欠な技術と言える。
高効率の熱交換器の開発にはいくつかの重要なステップが存在する。第一に、材料の選定である。最先端の研究に基づき、高熱伝導率と耐熱性を兼ね備えた新材料を開発または選定する必要がある。これによって、装置全体の性能を向上させ、長期的な耐久性も確保する。次に、設計の最適化が必要である。具体的には、CFD(Computational Fluid Dynamics)や熱シミュレーションツールを用いて、流体の流れと熱輸送を最適化する。このステップで、熱交換器の全体設計が効率的に行え、必要な熱伝達率を確保できる。エネルギー回収も重要なポイントである。冷却や加熱プロセスから発生する余剰熱を効率よく回収し、再利用できるようにするためには、専用の回収システムを組み込む必要がある。これにより、全体的なエネルギー効率が向上し、環境負荷の低減が期待できる。最後に、可搬性とスケーラビリティの確保が求められる。装置の小型化とモジュール化を行い、多様な規模や用途に適応できるようにする。このようにして、一つの熱交換器がさまざまな場面で応用可能になると考えられる。
以上のように、高効率の熱交換器の開発は、材料選定から設計、エネルギー回収、そして可搬性とスケーラビリティまで、多角的なアプローチが必要である。これらを統合することで、持続可能なエネルギー利用に貢献する高効率の熱交換器を実現することが可能であると考えられる。
2050年までに目指す技術的な成果は、高効率の熱交換器が広範な産業と個々の生活に普及し、持続可能なエネルギー生産と効率的なエネルギー利用の土台を形成することである。具体的には、この高効率の熱交換器によって産業界全体でのエネルギー効率が顕著に向上することが期待される。これにより、温室ガス排出量が削減されるとともに、リサイクル可能なエネルギーシステムの実現に繋がると考えられ。熱交換器の性能向上は、工場やエネルギー生産施設、さらには一般家庭でのエネルギー利用の効率を高めるための基盤技術となる。これは、余剰熱を有効に回収し再利用することで、エネルギーの全体的な使用効率を高める手段となる。その結果、非効率なエネルギー使用とそれに伴う環境負荷を大幅に削減する。この技術が成功すれば、熱工学的最適化とエネルギー効率の向上に大いに貢献する。短期間での効果はもちろん、長期的には持続可能なエネルギー生産と効率的なエネルギー利用が一体となり、持続可能な未来の構築に繋がる重要な一歩である。
2023年現在においては、研究チームは基礎研究に専念し、特に新しい材料の詳細な分析と評価を中心に活動を展開すると考えられる。熱伝導率と耐熱性のバランスが良い新材料を発見または開発することが、このフェーズでの重要な目標である。さらに、コンピュータによる流体力学(CFD)と熱シミュレーションの初期モデルも同時に開発される。このモデルは、流体の流れや熱の移動に関する仮定を試し、理論と実際の性能が一致するか確認するためのものである。このような初期モデルの開発は、技術の妥当性を証明し、最初の実用例へと繋げるために不可欠なステップである。この段階での成功は、次のフェーズにおける開発方針や資金調達に影響を与える重要なマイルストーンである。
2025年の展望では、初期プロトタイプの開発から得られたデータとフィードバックを基に、設計手法がさらに洗練され、エネルギー回収機能も本格的に実装されると予想される。この時点で特に注目されるのは、小規模な産業プロセスでの実証試験である。これらの試験によって、高効率の熱交換器が実際に熱効率を向上させ、余剰熱を有効に活用できるかが厳密に評価される。成功を収めることができれば、その結果は産業界全体での 信頼性向上につながり、さらに大規模な展開や資金調達に必要な信頼性を確立する鍵となると考えられる。この段階での達成事項は、次のフェーズでの開発やパートナーシップの形成にも影響を与える重要なマイルストーンと見なされる。
2030年の展望では、熱交換器の設計が一段と進化し、装置の小型化とモジュール化が達成されると予想される。この技術的進展によって、産業界全体で多様な規模や用途に対応できる高効率の熱交換器が市場に登場することが期待される。さらに、環境評価基準や各種の認証プロセスを通過することで、その採用範囲は拡大し、特にエネルギー集約型の産業での需要が高まると見られる。この時点での主要な目標は、装置の導入によって温室ガス排出量を少なくとも10%削減することが期待される。この目標の達成は、気候変動に対する具体的な対策として、また持続可能な社会を形成する上での重要な一歩となると考えられる。
2050年の展望では、高効率の熱交換器が多種多様な産業領域や環境に広く普及することが予想される。その結果、持続可能なエネルギー生産と効率的なエネルギー利用において新たな基準が確立されることが期待される。この時期には、リサイクル可能なエネルギーシステムの構築が進み、熱交換器の役割が持続可能な未来に向けての重要な貢献として明確に認識されると考えられる。具体的な目標としては、温室ガス排出量を50%以上削減することが掲げられる。これは、高効率の熱交換器がエネルギー変換と転送プロセスで極めて高い効率を発揮し、その結果、エネルギーの無駄を削減し、再生可能エネルギーの効率的な利用を最大限に高める手段となると期待される。
リアルタイムエネルギーモニタリングと制御
エネルギー生産と消費の過程をリアルタイムで監視し、それに基づいて適切な制御と管理を実現するためには、制御および情報処理技術の研究開発が必要である。この課題を解決するために必要な技術の中で、日本機械学会が取り組める技術として、「センサネットワーク技術」が挙げられる。この技術に特化し、その概要、なぜ必要か、どのように実施するか、何を目指すか、さらには年代別の進捗や到達点(図6)についても考察する。
センサネットワーク技術
「センサネットワーク技術」は、多数のセンサノードを物理的に分散させて配置し、これらのノードが無線または有線の通信手段で連携を取りながら、環境データをリアルタイムで収集、伝送、処理できるシステムである。具体的には、温度、湿度、流速、圧力といった環境パラメータをモニタリングし、それらのデータを中央データセンターやエッジコンピューティングノードに送信する。送信されたデータは高度なアルゴリズムで解析され、エネルギーの生産と消費の最適化につながるアクションが自動的または半自動的に行われる。この技術の最大の特長は、エネルギーの生産から消費、そしてリサイクルに至る全プロセスにおいて、リアルタイムでの情報収集と制御が可能な点である。これにより、エネルギーの無駄遣いを大幅に削減し、システム全体の効率を高めることが可能である(30)(31)。特に、分散エネルギー資源やマイクログリッドが普及する未来では、この技術の重要性が高まると期待される。
この技術が必要な理由は、エネルギーの生産と利用が急速に複雑化している現代社会で、より効率的かつ持続可能なエネルギー管理が求められているからである。特に、2050年に持続可能なエネルギー生産と効率的なエネルギー利用を目指すには、エネルギーのフローと使用状況をリアルタイムで精密に監視する必要がある。これにより、エネルギーの生産過剰や消費の無駄を即座に検出し、適切な調整や制御を行うことが可能となる。リアルタイムエネルギーモニタリングと制御は、瞬間的なエネルギー需給の変動に対応するため、かつ、エネルギー効率を最大限に高めることを目的としている。例えば、不必要なエネルギー消費を防ぐため、空調や照明の調整、産業用機械の最適運転など、多様な用途で即時にデータを収集し、分析する。この過程でセンサネットワーク技術が不可欠であり、多くのセンサから得られるデータを瞬時に処理し、適切なアクションを自動的に判断する能力がこの技術には備わっている。その結果、エネルギーの無駄遣いを大幅に削減し、持続可能なエネルギー利用が実現できるとともに、全体のシステム効率が向上するである。
センサネットワーク技術の開発においては、まずエネルギー生産設備や消費箇所に多数のセンサを配置する。これらのセンサは無線または有線のネットワークで連携し、データを一元的に収集するシステムを構築する。センサの種類や配置位置は、目的や必要性に応じて選定され、最も効率的なデータ収集が可能な環境を整える。次に、収集されたデータはクラウドやエッジコンピューティングリソースで即座に解析される。この解析プロセスでは、エネルギーの流れや使用状況を評価し、無駄なエネルギー消費や供給過多を検出する。この段階で高度な機械学習アルゴリズムや統計的手法が用いられ、より精緻な制御が可能となる。解析結果に基づき、エネルギー供給または消費の調整を行うアルゴリズムが実装される。このアルゴリズムは、さまざまなエネルギー需要に対応できるように設計され、自動で供給量を増減するか、消費箇所での使用量を調整する。ここで重要なのは、アルゴリズムがリアルタイムで運用されることである。最後に、人間とのインタラクションも考慮される。エネルギー使用状況や解析結果は、専用のダッシュボードやアプリケーションを通じて操作者に通知される。これにより、必要に応じて手動で調整が可能となり、システムの柔軟性と適応能力が向上すると考えられる。このように、センサネットワーク技術は持続可能なエネルギー管理に不可欠なツールとなり、効率的なエネルギー利用を促進する。
センサネットワーク技術が目指しているのは、エネルギーの生産から消費に至るまでのプロセスにおいて、最高レベルの効率性と持続可能性を確保することである。この目標の達成は、緻密なデータ収集と解析、そして適切な制御手法の組合わせによって可能となる。特に重視されるのは、エネルギー消費の透明性を向上させることである。透明性が確保されると、エネルギーの使われ方や供給量が明確になり、それによって迅速かつ精確な意思決定が可能となる。さらに、この技術の進展によって、温室ガス排出量の削減も大幅に進展する見込みである。具体的には、リアルタイムでのデータ解析と制御によって、不必要なエネルギー消費や供給を即座に修正することができる。この機能の実現により、エネルギー供給と消費が極めて効率的に行われることが可能となり、持続可能なエネルギーシステム構築への貢献が期待される。
2023年現在においては、センサネットワーク技術が具体的な形を取り始めると予想される。この年には、エネルギー生産設備や消費箇所に配置するためのセンサの初期バージョンが開発され、ネットワークと連携するプロトタイプが完成されると考えられる。また、エッジコンピューティングのリソースも同時に開発され、初期のテストが行われると予想される。この年の目標は、小規模なエネルギー生産施設と消費箇所での実証実験を成功させることであり、そのためのプロトタイプのテストが行われる。実証実験が成功すれば、センサネットワーク技術の実用性と効果が証明されることが期待される。マイルストーンとしては、初のエネルギー生産・消費モニタリングシステムが稼働を開始すると考えられる。これにより、エネルギーの生産から消費までのプロセスがリアルタイムで監視され、そのデータが集められるようになると予想される。さらに、エネルギー消費の透明性が高まるため、初めてのケーススタディが発表される可能性が高い。このケーススタディは、センサネットワークがどれだけ効果的にエネルギー管理を改善できるかを詳細に分析するものと期待される。
2025年の展望では、センサネットワーク技術がさらに成熟し、その機能が高度化すると考えられる。具体的には、データ解析アルゴリズムが高度化されるとともに、自動制御手法が実装される。これにより、エネルギーの供給と消費がより効率的に調整される。また、人間とのインタラクション機能も向上し、オペレータがシステムの状況をより容易に把握し、必要に応じて手動で調整できるようになると考えられる。この段階では、中規模なエネルギー生産・消費環境での有効性を実証することである。小規模な設備での成功を基に、より大きな環境でのテストが行われ、その有効性とスケーラビリティが評価される。マイルストーンとしては、エネルギー消費効率が前年比で10%以上向上することが期待される。この成果は、センサネットワーク技術の持つポテンシャルを具体的に示すものとなり、さらなる投資と研究への道を開くと期待される。さらに、初の大規模導入プロジェクトが始まると予想される。このプロジェクトは、センサネットワーク技術が持続可能なエネルギー管理においてどれだけ重要な役割を果たすかを証明するものになると期待される。
2030年の展望では、クラウドとエッジコンピューティングが統合された解析プラットフォームが完成すると予想される。このプラットフォームは、データの収集から解析、制御までを一元的に管理することが可能となり、それによりエネルギーの生産と消費がさらに効率的に行われると考えられる。さらに、高度な自動制御アルゴリズムとAIが導入されることで、エネルギー管理が精緻かつ自動化されると期待される。この年の目標は、業界全体での広範な導入と標準化である。既に小規模から中規模の環境での有効性が実証されているセンサネットワーク技術が、さらに多くの業界やエネルギーインフラに普及すると予想される。この広範な導入により、エネルギーの効率化が業界全体で進展すると期待される。マイルストーンとしては、温室ガス排出量が20%以上に削減されると期待される。この削減は気候変動対策における重要な進展を意味しており、センサネットワーク技術が持続可能なエネルギーシステムにおける不可欠な要素であることを示す。さらに、センサネットワーク技術が業界標準となると期待される。これは、この技術が持つ高度な制御と効率化能力が広く認知され、多くの新しいプロジェクトや研究で採用されるようになると予想される。
2050年の展望では、完全自動化されたエネルギー管理と最適化システムが構築されると予想される。このシステムは、人間の介在が極めて少ない、あるいは不要なレベルに進化すると期待される。高度な人工知能と自動制御アルゴリズムが極限まで洗練され、エネルギーの生産から消費に至るまでの全プロセスがリアルタイムで監視され、瞬時に調整が行われるであろう。目標としては、世界規模での持続可能なエネルギー管理の実現が掲げられる。この時点で、センサネットワーク技術が多数の国と業界で採用され、エネルギーの効率的な管理と利用が全球的に展開されると期待される。マイルストーンとしては、グローバルでの温室ガス排出量が50%削減されると予想される。この大幅な削減は、気候変動の軽減に大きく寄与し、持続可能な未来への実現に向けた重要な一歩と考えられます。さらに、エネルギーの生産と消費が最も効率的で持続可能な方法で行われるようになると期待される。これにより、エネルギーの無駄が極力排除され、持続可能なエネルギーシステムの世界的な確立が見込まれます。
技術革新と持続可能なエネルギーシステム構築
新たな技術の導入と産業革新を推進し、持続可能なエネルギーシステムの構築に寄与するためには、積極的な研究活動が不可欠である。この課題を解決するために必要な技術の中で、日本機械学会が取り組める技術として、「低炭素技術の開発」が挙げられる。この技術に特化し、その概要、なぜ必要か、どのように実施するか、何を目指すか、さらには年代別の進捗や到達点(図6)についても考察する。
低炭素技術の開発
「低炭素技術の開発」は、燃料セルを用いた電力生成、太陽光を直接電力に変換するフォトボルタイックセル、風エネルギーを機械的動力に変換する風力タービン、空気や水の温度を効率よく制御する熱ポンプ、および産業プロセスや暖房・冷房で失われる熱エネルギーを回収・再利用する熱回収システム、燃料電池の利用を中心とした水素エネルギーの革新的利用技術(30)~(32)などを含む多様な技術群を対象としている。この活動は、高性能な電解質や触媒の開発を中心とする材料科学、エネルギー転送メカニズムの最適化に寄与する熱工学、電力の効率的な制御と分配を可能にする電子工学、および水素の安全な貯蔵と効率的な利用に不可欠な構造安全性評価技術と信頼性工学といった、複数の専門分野が連携し、相互に影響を及ぼしながら進行する必要がある。この総合的なアプローチは、炭素排出を最小限に抑えることを基本とし、長期的には炭素中立なエネルギーシステムの全面的な構築を目指すものである。
この技術が必要な理由は、2050年を目指す持続可能なエネルギーシステムにおいて、低炭素技術は気候変動対策と資源効率の向上の両方を実現するための鍵であると考えられる。具体的に言えば、石油や石炭などの化石燃料に大きく依存している現行のエネルギーシステムは、大量の二酸化炭素排出を通じて地球温暖化を加速させている。このような気候変動は、極端な気象、海面上昇、生態系の崩壊など、多くの深刻な問題を引き起こし、人類の生存基盤自体を脅かす可能性がある。低炭素技術の導入と普及は、これらの環境および社会的問題の緩和を目指す重要な手段である。また、資源が有限である中で、エネルギー需求が世界中で増加している現状において、エネルギーの効率的な利用は極めて重要である。低炭素技術は、エネルギーを生成、蓄積、輸送、使用する各段階で効率を高め、エネルギーの浪費を削減するための有効な手段であり、持続可能なエネルギーシステムの実現には欠かせない要素である。以上のような背景から、低炭素技術は2050年に向けた持続可能なエネルギー戦略の中心的な要素であり、その開発と実装は緊急性を持って推進されるべきである。
低炭素技術の実現には複数の手段が必要で、それぞれが相互に関連している。まず、新材料の研究開発によって、高効率・低炭素のエネルギー変換と蓄積が可能な基盤を築く。この研究は、次世代の燃料セルや高効率太陽電池の開発に直結しており、基礎研究から応用に至るまでの一貫したプロセスが求められる。燃焼しても大気中のCO2を増やさないカーボンリサイクル燃料の開発(33)は、既存インフラを活用できる強みがあり、発電や船舶用途としてのアンモニア燃料を利用した脱炭素化技術(34)の開発も必要である。次に、熱工学的最適化によって、エネルギー変換プロセスそのものの効率を向上させる。これには、現在のエネルギー変換技術のボトルネックを特定し、数値シミュレーションや実験によってその解決策を探る活動が含まれる。例えば、熱ポンプや熱回収システムを使って廃熱を有効に再利用するなど、熱のムダを削減する。エネルギー変換過程中の状態をモニタし、適切な制御で変換効率を高める工夫も必要となる。さらに、システムインテグレーションによって、複数の低炭素技術を一つの統合されたシステムとして動作させる。これにより、各技術が単独で達成できる以上の効率と信頼性を確保することができる。具体的には、太陽光発電と風力発電を一つのエネルギーマネジメントシステムでコントロールすることで、エネルギー供給の安定性を高めるような取組みが考えられる。最後に、データ解析と人工知能を活用することで、エネルギー使用のパターンを詳細に解析し、システムの最適な制御と維持を行う。これは、大量のセンサデータやユーザ行動データを基に、エネルギー供給と需要のバランスをリアルタイムで最適化するものであり、結果として全体のエネルギー効率を大幅に向上させる可能性がある。また、自動車や航空機を中心とした従来の化石燃料の使用をベースとする輸送機器のエネルギー環境に対し、燃料電池を活用した水素エネルギーの導入を促進することによって輸送機器運用時の二酸化炭素排出量を大幅に削減することが可能となる。
以上のような手段を組み合わせることで、低炭素技術は多角的に進化し、その普及と実用化が加速されると考えられる。
最終的に目指しているのは、持続可能なエネルギー生産と効率的なエネルギー使用が統合された、全面的なシステム構築を達成することである。具体的には、2050年までには全世界で温室ガス排出量を半減させるとともに、再生可能エネルギーの使用率を極めて高い水準にまで引き上げることが期待される。これには、太陽光発電、風力発電、およびその他の再生可能エネルギー源による電力生成、高効率のエネルギー変換技術、そしてスマートグリッドを含むエネルギー配分技術が一体となって動作する必要がある。さらに、このシステムは単にエネルギー供給と消費を効率化するだけではなく、地域社会や産業の持続可能性への寄与も意図して設計されるべきである。具体的には、分散型エネルギーシステムの採用により、エネルギーの地産地消が促進されることで、地域社会のエネルギーセキュリティが向上すると予想される。また、エネルギーの高効率化と低炭素化は、製造業などの産業においてもオペレーションコストを削減する可能性があり、経済発展をさらに促進する可能性がある。
このような持続可能なエネルギーシステムの構築により、気候変動の緩和だけでなく、エネルギーセキュリティの向上と社会経済の持続可能な発展に寄与する、複合的な目標達成が期待される。
2023年においては、燃料セルと太陽光発電の分野で注目すべき進展が見込まれる。燃料セル技術では、新たに開発されている触媒により、エネルギー変換効率が現在の水準よりも10%向上する可能性がある。この新触媒は、実験室レベルでのテストを成功させることが期待されている。一方、太陽光発電では、特に小規模システムの実用化が進展すると見られており、新しい設計と材料により設置コストを20%削減する研究が進んでいる。これにより太陽光発電システムのさらなる普及が促されることが期待される。試験運用が始まる小規模な太陽光発電システムでは、初期データに基づき期待される効果の確認が見込まれている。したがって、2023年は燃料セルと太陽光発電において特定のマイルストーンに到達し、次のステップへ進むための基盤が整うと期待される。
2025年頃の展望では、風力発電と熱ポンプに焦点を当てた技術開発が進行中であり、それぞれで新しい目標に挑戦すると期待される。風力発電では、高効率タービンの開発が進むことで、エネルギー出力が現状に比べて15%向上すると予想される。この目標達成には、高効率風力タービンのプロトタイプが開発されることが不可欠である。このプロトタイプによって、既存の風力タービンよりも効率的なエネルギー生成が可能になり、その結果として風力発電がさらにコスト効果的な選択肢となると期待される。一方、熱ポンプにおいても同様にエネルギー効率の大幅な向上が目標とされている。具体的には、エネルギー効率を25%向上させる新しい設計が市場に導入されると期待される。この設計改善により、熱ポンプはさまざまな環境と応用において、より効率的な温度調節が可能となる。新しい熱ポンプの設計が市場に導入されることにより、エネルギーコストの削減だけでなく、その運用から生じる炭素排出量も減少すると期待される。2025年は風力発電と熱ポンプのエネルギー効率を大幅に向上させる新技術が登場する年となり、これにより持続可能なエネルギーの拡大と環境への負荷削減が一段と進むと期待される。さらには2025年度までに国内に水素ステーションが320箇所程度設置される予定であり、水素燃料電池自動車(FECV)の普及台数を20万台に伸ばすことが目標である。
2030年頃の展望では、システムインテグレーション技術とデータ解析、AIを用いたエネルギー管理が中心的なテーマとなると期待される。具体的には、複数のエネルギー源を効率的に統合するシステムインテグレーション技術が進展すると予想される。この進展により、太陽光発電、風力発電、燃料セルなどの低炭素技術が協調して動作するエネルギーシステムが現実のものとなる。複数の低炭素技術が統合された実証プロジェクトが開始されることが、この目標達成への重要なマイルストーンとなると考えられる。同時に、データ解析とAIを活用したエネルギー管理も目立つ進歩を遂げると期待される。AIによるエネルギー使用の最適化が可能になることで、エネルギー消費をより効率的に制御する新しい方法が開発されると予想される。具体的には、AIを活用したエネルギー管理システムが商用化され、これにより家庭や産業でのエネルギー利用が大幅に効率化されると期待される。同時に2030年には水素ステーション事業の自立化を目指し、900基程度の水素ステーション網の充実とそれに対応した水素供給能力の拡充を図り、FECVを80万台にまで普及させる計画である。
以上のように、2030年はシステムインテグレーションとAIによるエネルギー管理が著しく進展する年となり、それによって持続可能なエネルギーシステムの実現が大きく前進すると予想される。これらの技術が成功裏に導入されれば、エネルギーの供給と消費が効率的に行われ、結果として温室ガス排出量の大幅な削減が可能になると期待される。
2050年頃までの展望においては、炭素捕捉・利用・貯蔵(CCUS)技術の商用化と次世代の再生可能エネルギー技術が特に注目されると期待される。CCUS技術の商用化は、気候変動対策において革新的な突破口となると予想される。具体的な目標としては、世界の温室ガス排出量を50%削減することが挙げられる。この目標に対する重要なマイルストーンは、CCUS技術が広範に導入され、大規模な炭素削減が実現すると期待される。また、次世代の再生可能エネルギー技術も大きな進展を見せると予想される。水素エネルギー利用技術に関しては、CCS(CCUS)や国内外の再生エネルギー利用技術のとの組合わせによってCO2フリーの水素製造・輸送・貯蔵技術が実現される見込みである。こちらの目標は、再生可能エネルギーの使用率を80%以上にすることで、これにより化石燃料の使用が大幅に減少すると期待される。次世代の再生可能エネルギー技術が商用化され、大規模な導入が始まるというマイルストーンが達成されることで、この目標も現実的なものとなると予想される。
2050年は持続可能なエネルギー生産と効率的なエネルギー使用のバランスが取れる重要な年となると期待される。CCUS技術と次世代の再生可能エネルギー技術が成功裏に導入と普及を果たすことで、温室ガス排出量の大幅な削減と再生可能エネルギーの普及率向上が可能になると予想される。これらが現実となれば、気候変動の軽減だけでなく、エネルギーセキュリティと経済発展も大いに支えられると期待される。
おわりに
『人間と自然、都市と地方、個人とコミュニティが長く共存される社会』
本稿では「人間と自然、都市と地方、個人とコミュニティの持続可能な共存を目指す社会の構築をテーマに掲げ、その実現に向けた議論を展開した。このテーマに資する多様な部門の専門家による綿密な協議がワークショップ形式で行われ、2050年に向けて実現すべき理想的な社会像および必要な技術ロードマップが策定された。実現に向けての具体的方策を探るために、異なる分野の知見が統合され、新たな技術領域の創出が図られた。社会像に照らし合わせた望ましい将来を三つの主要カテゴリーに分類し、それに伴う包括的な課題をさらに深堀りして詳細化した。その上で、本会メンバーによる主導的な技術開発の方向性を特定し、12の技術領域にわたる具体的な議論を進行した。これらの技術項目に対し、2023年を起点として、2025年の短期目標から、2030年および2050年の中長期展望に至るまでの技術進化に関する見通しを描き、達成への目標とマイルストーンを具体化した。本取組みが、持続可能な社会を目指す一助となることを願っている。
参考文献
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(27) 経済産業省,令和3年度「無人自動運転等の先進 MaaS 実装加速化推進事業(自動運転レベル4等先進モビリティサービス研究開発・社会実証プロジェクト(テーマ4))」報告書,委託先,東京大学,東海国立大学機構,産業技術総合研究所,(株)三菱総合研究所,令和4年3月,
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(30) 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO),「 水素・燃料電池成果報告会2022 (燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業)」発表資料,2022年7月27日,https://www.nedo.go.jp/content/100950349.pdf(参照日 2023年10月15日).
(31) 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)スマートコミュニティ・エネルギーシステム部,燃料電池・水素室, 「燃料電池等利用の飛躍的拡大に剥けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業」(中間評価)公開資料,2022年10月,https://www.nedo.go.jp/content/100952646.pdf(参照日 2023年10月15日).
(32) 経済産業省「水素・燃料電池戦略ロードマップ 改訂のポイント)」,平成28年4月15日,https://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy/nenryodenchi_fukyu/pdf/002_01_00.pdf.(参照日 2023年10月15日).
(33) グリーンイノベーション基金事業概要等プロジェクト情報>CO2等を用いた燃料製造技術開発, NEDO,
https://green-innovation.nedo.go.jp/project/development-fuel-manufacturing-technology-co2/(参照日2023年10月29日).
(34)リーンイノベーション基金事業概要等プロジェクト情報「燃料アンモニアサプライチェーンの構築」, NEDO,
https://green-nnovation.nedo.go.jp/project/building-fuel-ammonia-supply-chain/(参照日2023年10月29日).
熱工学部門
<フェロー>
小原 拓
◎東北大学 教授
◎専門:機械工学、熱工学、伝熱工学、熱物性学
<正員>
川南 剛
◎明治大学 教授
◎専門:熱工学、伝熱工学、冷凍空調工学
<正員>
藏田 耕作
◎九州大学 教授
◎専門:生体熱工学、生体工学
<正員>
小宮 敦樹
◎東北大学 教授
◎専門:熱工学、伝熱工学、熱物性学
<正員>
津島 将司
◎大阪大学 教授
◎専門:熱流体工学、電気化学エネルギー変換
環境工学部門
<正員>
小野 義広
◎日鉄エンジニアリング(株) 環境・エネルギーセクター企画部 部長
◎専門:衛生工学(廃棄物部門)
エンジンシステム部門
<正員>
今村 宰
◎日本大学 生産工学部 教授
◎専門:燃焼工学
動力エネルギーシステム部門
<正員>
木戸口 和浩
◎(一財)電力中央研究所 エネルギートランスフォーメーション研究本部 上席研究員
◎専門:機械工学、燃焼工学、ガス化、プラントシステム
産業・化学機械と安全部門
<フェロー>
谷口 満彦
◎東レエンジニアリング(株)メカトロファインテック事業本部 品質保証室長
◎専門:機械工学、機械装置、機械安全
材料力学部門
<フェロー>
荒井 政大
◎名古屋大学 工学研究科 航空宇宙工学専攻
◎専門:材料力学、計算固体力学、複合材料
マイクロ・ナノ工学部門
<フェロー>
中別府 修
◎明治大学 理工学部 教授
◎専門:熱工学、マイクロ・ナノ工学、MEMS
技術ロードマップ委員会 委員長
<フェロー>
山崎 美稀
◎(株) 日立ハイテク モノづくり・技術統括本部 主管技師
◎専門:環境配慮材料設計・システム設計、製品企画論、技術開発戦略策定
表紙:本誌連載企画「絶滅危惧科目- 基盤技術維持のための再考-」のコンセプトに合わせてイラストレーター坂内拓氏とデザイン。本号は「蒸気エンジン」がモチーフ。