特集 JSMEメンバーが考える2050年の社会像実現に向けた技術ロードマップ
JSME 技術ロードマップ持続可能で多様かつ包摂的、テクノロジーと自然が調和する2050 年の社会
日本機械学会における技術ロードマップの策定と公開の活動は、2007年の創立110周年を機に開始された。当初は学術的に未検証の領域に踏み込むことが少なかった。しかしこの時代、世界の金融市場は不安定で、温暖化による環境問題が切迫していた。これらの社会的な課題に対応する必要性が高まり、JSME技術ロードマップ委員会が設立された。この委員会は、産学連携と分野融合のコミュニケーションを強化し、期待される将来の社会像とそれを実現する技術についての情報を継続的に公開してきた。
2016年には、「技術ロードマップから見る2030年の社会」をテーマに特集号を公開した。当時から、部門を超えたテーマによる分野の統合が必要だとされていたが、そのテーマは自動運転に限られていた。その後、分野融合を促進するためのワークショップや年次大会での特別ワークショップを通じて、多角的な議論を展開してきた。これにより、2017年には2050年のものづくりに向けた二つの将来ビジョンを発表し、バックキャスティングの考え方を用いたロードマップの作成も進めた。
2022年からは、「JSMEメンバーが考える2050年の社会像実現に向けた技術ロードマップ」の策定と公開が本格的に始まった。この活動は、単なる未来予測ではなく、希望する2050年の社会を創発し、その実現のために必要な新技術や横断分野の方策を検討して来た。バックキャスティングの手法を用いて創発した社会像(図1)を実現するためには、将来の社会課題を明確にし、それに対する技術的な解決策を模索することが重要である。
2023年から1年間にわたって、2016年に公開した「技術ロードマップから見る2030年の社会」のレビューを各部門で実施した。その見直し内容を本会の会誌に連載しながら、将来の各分野の展望についての議論を進めてきた。同時に、各部門から選ばれた代表者で構成される分野横断のチームを結成し、ワークショップを通じて、「持続可能で多様かつ包摂的な社会、そしてテクノロジーと自然が調和する社会」のテーマについて探求してきた。その結果、JSMEメンバーが考える三つの社会像を設計した。第一に、『人間と自然、都市と地方、個人とコミュニティが長く共存される社会』。第二に、『多様性と包摂性が確保された次世代コミュニティによる総合地域社会』。そして第三に、『リアルとバーチャルの調和に基づく個人価値尊重と社会サステナビリティの融合社会』である。それぞれの社会像に関する課題と解決策を明確にした後、モノづくりを中心とする社会実装技術を選定した。これらの考察を基に、新たな技術ロードマップを策定し、本特集で紹介する。
この一連の取り組みは、未来社会が直面する課題に対し、科学技術がどのような形で貢献可能かを具体化している。これは日本機械学会が長年にわたり行ってきた価値ある試みである。その進展と方向性に今後も注目していただきたい。
図1 ©JSMEメンバーが考える2050年の社会像
技術ロードマップ委員会 委員長
<フェロー>
山崎 美稀
◎(株)日立ハイテク ものづくり・技術統括本部 主管技師
◎専門:環境配慮材料設計・システム設計、製品企画論、技術開発戦略策定
表紙:本誌連載企画「絶滅危惧科目- 基盤技術維持のための再考-」のコンセプトに合わせてイラストレーター坂内拓氏とデザイン。本号は「蒸気エンジン」がモチーフ。