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2023/11 Vol.126

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特集 機械状態監視資格認証事業20周年

座談会 資格認証事業の準備と運営開始

2004年に第1回の認証試験を開始してから、今年(2023年現在)で20年を迎える機械状態監視資格認証事業の運営開始の背景について、2023年9月14日に日本機械学会会議室およびオンライン会議にて、初代委員長 岩壺氏と2代目委員長 松田氏を迎えて、現委員長の藤原が当時の話を伺った。

事業開始準備

藤原:本日はお忙しいところお集まりいただきありがとうございます。日本機械学会で機械状態監視資格認証事業を開始して20年になりますが、認証事業、国際交流など認証事業にまつわるお話を伺いたいと思います。早速ですが、この事業を始めたきっかけについて教えていただけますでしょうか。

岩壷:当初のきっかけは、ISO 18436規格の策定が進み、日本も世界に後れを取らないためにも、その規格に基づいた認証事業を始める必要があると考えたことでした。当時、日本機械学会では組織変更により、「研究開発推進センター(設立準備室)」が発足し、いわゆる学会活動とは違った活動を始めやすい環境ができました。その当時のセンター長、松崎様には大変ご尽力いただきました。

2001年には検討委員会が立ちあがり当時5名(岩壷、松田、豊田、小村、中島)の少人数で検討が始まりました。豊田さんは新日鉄で機械のメンテナスを専門とし、後に九州工業大学に移られた方です。この時すでに、メンテナンスの教科書を執筆しており、メンバーとして適任ではないかと考え、委員に入っていただきました。豊田さんの紹介で、小村さん、中島さんがメンバーに加わりました。2002年9月には準備委員会を組織し、合宿形式で運営の方針や運営規則の作成を行いました。このタイミングから5名(齊藤 松下 藤川 加藤 榊田)が追加で合流します。

ISO18436規格では認証事業の品質はISO9000に準拠することが求められていましたので、数多くの規則を必要としました。ここまで大量の規則を作成できたのは、数多くの検討会議が開催できたこともありますが、検討会議の合宿で、松田さんが周りの意見を聞きながらノートパソコンを使って規則を直接入力してくれたことが大きかったと思います。また、たくさんの会議が実施できたのは機械学会が準備委員会のために最初に旅費などの運転資金を組んでもらえたことが大きかったと思います。

松田:準備委員会では事業を始めるにあたって、2002年の時点で機械学会理事会への上程書を作成し、提出しました。「機械の状態監視と診断に関する資格認定制度の構築提案」の題目で、次のような項目について記載しました。

1. 機械学会が取組む意義、位置付け

2. 資格認証の範囲

3. 認定制度実施のための組織と機能

4. 認定制度の運営基本方針

5. 平成14年の検討委員会の作業と予算

現在の組織図もこのとき既にできていました。

正式な委員会は2003年4月に発足し、2003年6月には機械状態監視資格認証事業部会 第1回運営部会が開催されました。この時のメンバーは19名〔岩壷 斎藤 松田 中島 榊田 小村 藤川 豊田 加藤 小島 市川 松下 渡辺 似内 岩井 松崎 津山 安田(欠席) 稲葉(欠席)〕まで増えていました。

岩壷:事業を開始する時にはすでに規則も組織もでき上がっていましたので、次の年(2004年)から試験を実施する準備にすぐにとりかかれました。

海外機関との交流について

藤原:本事業は国際規格に基づく認証事業ですので、海外での認証状況の把握も重要となってきます。認証事業開始当時から海外との情報交換を積極的に行ってきたと聞いておりますが、どのようにして海外機関との交流ができたのか教えていただけますでしょう。

岩壷:きっかけは、認証試験に出題する問題のレベル確認と準備している組織がISO基準に合致しているか確認する必要があったことでした。ここで、ISO 18436の策定者でもあり、以前から交流のあった米国VI(Vibration Institute)の研究所長Eshleman氏に確認してもらうのがよいのではと考えました。Eshleman氏とは1975年、アメリカの振動学会で初めてお会いし、当時、日本の計測器の開発状況に興味を持っていた彼から話しかけられました。

私はEshleman氏が発行していたVibration Instituteの雑誌の編集委員だった経緯もあり、2003年にミーティングの機会が設けられました。1月に米国のVIを松田さんとともに訪問しました。できたばかりの日本語の教科書を持参し、彼から難易度のコメントをもらうことができました。訪問した時、VIのあるシカゴは-10℃にもなる非常に寒い日で、移動にも非常に苦労したのを覚えています。次の年からは会議は秋に実施するようにしました。

VIとの交流によって、世界中で展開されている認証事業に関する貴重な情報が入手できました。この交流の結果、VIとの間で相互認証の取り決めが行われ、日本機械学会が発行した認証カードが米国のVIで認証を受けたものと同等に扱われるようになりました。最初はVIとの相互認証のみでしたが、Eshleman氏からの勧めもあり、カナダとも相互認証の協定が結ばれました。

その後、ISO17024認定の問題が浮上しました。ISO17024は資格認証事業が信頼性のあるプログラムで適切に実施されているかを認定するものであり、機械状態監視資格認証制度においては、認証事業がISO18436の規格に基づいて実施されているかが審査されます。ISO17024の認定を受けることで、自動的に他国の認証機関と相互認証が行われているのと同様の効果が生まれます。後に2010年、VIがISO17024の認定を受けたために残念ながら機械学会とVIとの相互認証は解消された状態となっています。機械学会の方はというと、ISO17024の認定を取得するには非常に高額な取得費用および維持費用がかかるため、認定取得を躊躇している状況です。今後、取得の検討も必要になってくるかもしれません。

韓国振動騒音学会との提携

藤原:韓国の振動騒音学会の認証事業の提携はどのような経緯で始めたのでしょうか。

岩壷:大学の教え子に韓国からの留学生で、後に釜山大学の教授になられた梁(やん)先生がおりました。彼は韓国の振動騒音学会に所属していましたが、帰国したタイミングで、認証事業の構築に取り組みました。振動音響学会では大変なリーダーシップをとっておりました。韓国が認証事業を始めるタイミングでアジアの方でモビウスという会社が認証事業を拡大しようとしていたこともあり自国で認証事業を展開したいと考えたようです。韓国の振動騒音学会での認証事業の骨格そのものは機械学会で構築した認証事業を参考にして作られました。当時、米国やフィリピンの海軍艦艇で状態監視が取り入れられているのが知られており、韓国の防衛産業でも状態監視が注目されていると話していました。

松田:韓国の振動騒音学会が認証事業を始めるにあたって、日本機械学会からは日本語の規則を提供してそれを韓国側が翻訳することにしました。そして、日本側からの提供の対価として、訓練・認証者数に応じてロイヤリティを支払ってもらう契約としました。最初の1回だけ各カテゴリーのサンプル問題も提供しています。また、この時、同時に機械学会と別組織である振動技術研究会(v_Tech)が作成した教科書も提供しています。提携の契約式が明治記念会館で日本機械学会長も出席して行われました。

岩壷:韓国ではないですが、その後、マレーシアではマレーシア工科大学から認証事業を展開したいとの要望がありました。東南アジアでは前出のモビウスが認証事業を展開しており、これに触発されてマレーシアでも独自に認証事業を展開したいという意欲があったようです。機械学会と新川センサテクノロジーの協力のもとマレーシア工科大学を本拠地として認証事業を始めることとなりました。しかし、残念ながら受験者が少なく5年の試験的な運用期間の後、認証事業は終了することとなりました。

トライポロジー分野の認証事業

藤原:トライボロジー分野の認証事業はどのように始めたのでしょうか。

松田:基本的には最初からトライボロジーの認証事業もやるつもりで組織を作り始めました。ですから、似内先生をはじめとしたトライボロジー関連の委員も含めて組織が作られていました(図1)。一方で、トライボロジー学会でも認証事業を始めるか検討していました。日本機械学会ではすでにISOに基づいた各種規則や組織ができ上がっていたことや当時、認証事業は一国一組織との暗黙のルールがあったこともあり、日本機械学会とトライボロジー学会が共同で事業を始めるに至りました。(現在は日本機械学会の単独事業)

図1 認証事業開始当時の組織図

認証事業のこれから

藤原:認証者と更新者を考慮した資格保持者の全体数はコロナ前までは順調に増えていましたが、コロナ後には徐々に減少する傾向となっており、事業の継続性を考えると、今後何か手を打っていかなければならないと考えています。どのような事項が重要になってくるでしょうか。

松田:認証事業を継続するためには採算も考える必要があります。認証事業における年の予算を考えて、受験者数、合格者、更新者から250人くらいで黒字になるように考えました。事業開始当初の考え方では赤字になったことはありません。

岩壷:事業開始当初は認証者数をある程度確保する点から、実力のある受験者が試験に通るかどうか不安だったこともあり、訓練で勉強しやすくするために演習問題集も準備して、レベルに達している人が、試験に合格できる手助けをしました。おかげで合格者の割合は一定のレベルを保っています。また、カテゴリーⅡを受験した優秀な人はカテゴリーⅢも受験する傾向にあります。

試験問題は5択で出題することになっており、5択で出題しやすい問題の割合がどうしても多くなる傾向にありました。5択として作りにくい問題もありますので、今後はISO 18436に準拠した上でさまざま問題形式で出題してもよいかと思います。

松田:訓練機関との交流会も行っています。交流会では出題問題のなかで特に正答率の悪い問題の解説を行い、認証事業運営への要望などを聞いています。これらの意見を基に、出題問題の精査や認証事業の改善に役立てています。

また、認証取得者の技術力維持・向上やお互いの情報交換、認証事業へのフィードバックの意味から、認証取得者を対象としたミーティングも定期的に行っています。米国VIも同様に年次ミーティングを開催しており、参加費はかなり高額ですが、100~200名程度は集まっているようです。日本では認証カードを使う機会がまだ少ないですが、米国では認証者が評価されている証拠でもあると思います。

岩壷:この認証事業は技術者の技術レベルを証明する機会を提供していると言えます。これにより、技術者の認知度が向上し、彼らのスキルが広く認識されることが期待できるはずです。また、振動技術者の育成にも大いに役立っており、奨励している企業も存在しています。

米国では、資格を持たないと仕事ができない場合があるため、この認証制度は重要です。日本では、原子力関連分野の規格であるJEAG4221において、ISO状態監視診断技術者が必要な力量要件(回転機械の振動診断)として明示されており、資格が重要な役割を果たしています。

新たな分野でも、例えば風力発電の軸受、羽の振動監視などにも状態監視の技術者が必要です。離島の発電所でも状態監視が注目されていますが、この分野においても資格制度の認知度を上げることが必要です。

高度な機械技術者が減少していると感じられる状況で、大企業だけでなく、中小企業においても振動を考慮した設計技術が求められていると感じます。この認証事業を通じて、これらの課題に対処するためにも資格制度の強化と普及が必要です。

松田:このような、資格は技術者のスキルアップにつながる面がある一方で、機械診断を行う会社では必要とされる資格が多数にわたるため、技術者の負担になっている面もあります。このため、これ以上資格を増やしたくないという思いから、会社によっては一般の資格に頼らない自主規格も存在します。近年、スマート保全の分野でも状態監視の技術が不可欠とされており、この認証事業はますます重要性を増しています。認証事業の認知度向上のために、さまざまな分野の会社へのアピール、他の学会との協力も検討してもいいのではないでしょうか。

機械状態監視技術のこれから

藤原:機械状態監視技術のこれからの展望についてお考えがあればお願いします。

岩壷:状態監視の知識を効果的に活用するために、データベースの充実が不可欠です。このデータベースを整備することで、仕事の効率化が実現し、知識の有効活用が可能になります。これまでの研究に加えて、既知の情報を最大限に生かす方法にも焦点を当てる必要があると思います。

松田:振動関連の研究自体は少なくなっていますが、工学として振動の知識は依然として重要です。そのため、データベースを充実させ、これらの分野における知識を補完し、活用できる環境を整えるのがよいと思います。また、以前は暗黙知として扱われていた知識も、AIの活用によって形式知として整理できる可能性があると思います。

岩壷:さらに、科学技術の進歩により、流体関連振動や羽の振動など、自然が関与する複雑な現象に対するアプローチも進化しています。こうした分野でAIを活用することで、状態監視技術の知識収集だけでなく、実践的な活用が可能になるのではないでしょうか。

藤原:本日は状態監視技術者認証事業の開始当時のお話から、状態監視技術の展望まで、貴重なお話ありがとうございました。

(構成 藤原 浩幸)


<名誉員>

岩壷 卓三

◎神戸大学名誉教授、長浜製作所 特別顧問

◎専門:機械力学、回転機械の振動

 

<正員>

松田 博行

◎新川電機(株) 理事

◎専門:機械工学、機械装置、流体関連振動、管内脈動

 

<フェロー>

藤原 浩幸

◎防衛大学校 機械工学科 教授

◎専門:機械力学、回転機械の振動

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