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2023/11 Vol.126

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特集 機械状態監視資格認証事業20周年

認証者による活用例 周波数変調解析法によるすべり軸受ラビング早期検出技術

迫 孝司(設備診断研究所合同会社)

はじめに

すべり軸受は、蒸気タービンやスクリューコンプレッサーなどの高速回転機器やディーゼルエンジンやレシプロコンプレッサーなどの高負荷機器に用いられている重要な機械要素である。通常の回転軸は油膜によりすべり軸受とは非接触で回転しているが、施工不良によるミスアライメントや熱変形による軸曲がり、あるいは異常振動などが原因で油膜が破断しラビング(接触)が発生することがある。この状態が継続されると焼き付き損傷に至り、設備停止となってしまうことがある。特に、高速回転機械の場合はリードタイムが短いために、異常の早期検出が望まれている。

従来の振動法は異常の発生による振幅の変化を基に診断する方法であるが、軽微な段階のラビング現象においては、振幅の変化はごく僅かであり、検出困難である。今回開発した技術は、軽微なラビング現象においてスペクトル上に回転周波数毎の側帯波が明確に発生することに着目した診断法である。

ラビング試験による振動特性把握(1)

押しボルトで供試軸受ケーシングを移動させることで、回転軸(回転数1800rpm)と供試軸受を人為的に接触させる機構の試験装置とした(図1)。軸受ケーシングの両端に取り付けたダイヤルゲージにより主軸と供試軸受の距離Bを計測することで軸受との接触状態を確認した。なお、ギャップA+B=0.3mmである。

図1 ラビング試験装置

軽微なラビング状態での加速度スペクトルレベルは最大0.005G程度とごく僅かであり、この差異を検出するには非常に困難である。一方、回転周波数間隔の複数の側帯波が明確に発生しており(図2・3)、ケプストラム解析を行うと軽微なラビング状態でも回転周期の位置に明確にピークが発生している(図4・5)

図2 正常時の加速度スペクトル

図3 軽微なラビング時のスペクトル

図4 正常時のケプストラム

図5 軽微なラビング時のケプストラム

通常、生産設備の回転軸は多少の偏心を持っているため、ラビングによる1回転に1回の接触応力の変動によって加速度波形が周波数変調を受けるためにスペクトル上に回転周波数毎に複数の側帯波が発生する。このスペクトルの規則性がケプストラムで発生するものと考えられる。

逆に、偏心がない回転軸の場合は側帯波の発生がみられないと考えられるため、旋盤を用いた確認試験を実施した(図6)

図6 旋盤を用いた試験装置

上記ラビング試験で用いた軸受を1/4周に切断したもの(軸受径100mm、幅80mm)を供試軸受として用いた。旋盤で削り出した状態の回転軸(回転数1250rpm、ダイヤルゲージによる軸振れ値が1/100mm以下)に軸受を接触させた場合のスペクトル(図7)では側帯波が発生していないことがわかる。

図7 軸振れ1/100mm以下時のスペクトル

次に、回転軸端の心押し台の軸センタを緩めて軸振れ値を5/100mmに大きくした状態のスペクトル(図8)では、回転周波数間隔の側帯波が発生していることがわかる。また、その時のケプストラムでは、回転周期のケフレンシーの発生が確認された(図9)

図8 軸振れ5/100mm時のスペクトル

図9 軸振れ5/100mm時のケプストラム

また、有限要素法による解析の結果(図10)から、ラビング時に発生している周波数は軸受部材の固有振動数であると考えられる。

以上より、ラビングが発生すると周波数変調により軸受の固有振動数周りに回転周波数の側帯波が発生すると言える。

図10 有限要素解析結果

すべり軸受焼付き試験による評価(2)

転がり軸受で両支持された回転軸の中央部にすべり軸受(供試軸受)を設置し、その供試軸受のケーシングにはリニアガイド4個を配置し、軸と軸受のギャップにて垂直に上下するようにした(図11)。また、軸受ケーシングを上部から吊すことで一定荷重を掛ける状態として潤滑油供給量を段階的に絞っていく方法と逆に潤滑油供給量を一定とし、荷重を「てこ」の要領で軸受下部から押し上げて段階的に増加させる方法の2種類の方法で焼き付きに至らせる試験を合計18回実施した(回転数1400rpm)。また、運転中に主軸には電流を流し、両転がり軸受部を絶縁して、供試軸受の油膜が破断すると電気抵抗が下がる(接触信号)ようにした。試験は軸受内部に装着した温度計が100℃を超えた時点で損傷発生と判断し、試験終了とした。

図11 焼付き試験装置

潤滑供給量を50ml/minから0.5ml/minに段階的に低下させることで損傷に至らせる試験において発生したケプストラムレベルと接触信号(油膜形成状態)の推移を図12に示す。ケプストラムレベルは損傷に至るまでの過程において、徐々に上昇傾向を示していることがわかる。また、潤滑量変更時にも接触信号が低下している瞬間的な油膜破断時にケプストラムレベルが遅延なく上昇を示し、再度油膜が形成されると瞬時に低下を示していることからケプストラムレベルと接触信号には相関が見られ、リアルタイムで潤滑状態がモニタリングできることがわかる。

図12 焼き付き試験におけるケプストラムレベルと接触信号

合計18回の試験にて得られたケプストラム最大値と損傷面積の関係を図13に示す。油量低下試験と荷重増加試験は同様の傾向を示しており、ケプストラム最大値と損傷面積は相関を示している。これより、すべり軸受のラビング発生から損傷に至るまでをケプストラムレベルによりモニタリング可能と言える。また、この試験で上昇した加速度O/A値は停止直前に僅か0.012Gの上昇を示しただけであった。これより、実機で振幅変化により異常を検出するには困難であると考える。

図13 ケプストラム最大値と損傷面積

船舶ディーゼルエンジンへの活用(3)

約10カ月の航海期間における実船のディーゼルエンジン(回転数最大700rpm)の主軸受を周波数変調解析法によるモニタリングを実施した結果を紹介する。

センサを各軸受ケーシング部に7個設置(図14)して得られたケプストラムのトレンドを図15に示す。ケプストラムレベルは各点とも低かったものの、この試験期間にて最もケプストラムレベルが高かった軸受がPos.⑥であった。試験後の開放検査結果にて全軸受の状態を確認したところ、Pos.⑥の軸受には他の軸受には見られなかった軽い摺動痕が確認された(図16)。これは運転上、まったく問題ない損傷レベルであったが、この程度の軽微なラビングでも検出可能であると言える。

図14 センサ設置状況

図15 ケプストラムトレンド

図16 軸受開放検査結果(POS.⑥)

おわりに

大型船舶のモニタリングでは、振動データを日本まで衛星通信を通して収集するIoT化を推進している(2)。また、すべり軸受だけでなくスクリューコンプレッサーのロータとケーシングの接触モニタリングやレシプロコンプレッサーのピストンの接触、ポンプのメカニカルシールの面荒れや片当たりの検出による漏れ予知など適用範囲が広がっており、今後はフィールドデータの蓄積による判定基準の確立などを行っていく必要がある。


参考文献

(1) 迫孝司,徳茂廣太郎,吉江修,周波数変調解析によるすべり軸受ラビング異常早期検出技術,電気学会論文誌C(2012年)

(2) 迫孝司,予知保全のIoT化について,第59回 設備管理全国大会,日本プラントメンテナンス協会(2019年)

(3)金子修一,迫孝司,周波数変調解析法によるディーゼルエンジン主メタルモニタリング技術,第90回学術講演,マリンエンジニアリング学会(2020年)


<正員>

迫 孝司

◎設備診断研究所合同会社 代表社員

◎機械工学、設備診断技術

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