特集 機械状態監視資格認証事業20周年
状態監視振動診断技術者コミュニティ
趣旨
状態監視振動診断技術者コミュニティは、2010 年7月、認証者の診断技術力のフォローアップと情報交換の場の確保を目指して日本機械学会の中に結成された。関連委員会および関連部門、関連学協会の団体との連携をとりながら、コミュニティの輪を広げており、2023年で13年目となる。本資格は振動診断技術に特化したものであり、これまでに類のない資格として、設計技術者、保全技術者から高度専門家まで、また、重工業・回転機械製造産業、エンジニアリング・メンテナンス産業、石油・化学・鉄鋼・電力・ガスなど多岐にわたる産業分野の技術者が資格を取得している。それぞれ振動診断技術という共通の技術に携わる技術者ではあるが、異なる業種/立場にある技術者同士の技術交流、情報交換は、新たなヒントを得る貴重な場であり、技術力の向上に役立つものであると考え結成された。図1にねらいを示すように、このコミュニティでは診断に必要なISOの動向/変更情報や、診断に関連する研究会情報/開催情報をHPに記載し、年1回の定例ミーティングを開催している。診断技術に関する特別講演、最上位のカテゴリⅣの診断事例報告、振動相談回答に関する全員参加討論を行い、その内容をHPに記載して、診断認証技術者の診断技術力のフォローアップを支援している。
図1 状態監視振動診断技術者コミュニティのねらい(部分)
コミュニティの構成
コミュニティは、ホームベージの活用と年1回の定例ミーティングの開催で構成されている。コミュニティの委員は、主査と幹事2名で運営している。図2に示すように、診断担当者をバックアップや診断技術力のフォローアップ、他の診断担当者とのコミュニケーションを図れるよう支援するイメージである。
図2 コミュニティの構成イメージ
コミュニティHPのコンテンツ
2011年1月にHPを開設した。振動診断技術者のための情報発信・情報交換の場として、より充実させていくために、皆様のご意見を基にグレードアップしていくので、ご意見・ご要望をお寄せ頂きたい。現在のHPのコンテンツは下記のとおりである(図3)。
図3 コミュニティHP(2023年8月31日時点)
http://www.jsme.or.jp/conference/joutai/index.html
◆トップページ
更新履歴および委員からのメッセージを掲載
◆趣旨 コミュニティの運営組織とねらいを掲載
◆委員 主査・幹事の紹介を掲載
◆ニュース
JSMEの動きに合わせたお知らせと皆様からのコメント募集のお知らせを掲載
◆ミーティング情報
いつでも、学習できるよう、第1回から2023年開催された第13回ミーティングの情報すべてを掲載。今後、振動相談の事例を増強予定。
診断技術の勉強のための講演
振動に関するISOの状況紹介を含めて、講演24件の題目/講演者をミーティングの第1回から11回まで記載した。状態監視技術に役立つトライボロジー診断技術を第7/8/10回と赤外線サーモグラフィ診断技術を第11回に記載している。
①「機械の振動診断について-自励振動の診断-」神戸大学名誉教授/岩壷卓三氏
②「誘導電動機の電流徴候解析」3DIM技研/小村英智氏
③「機械工学データベース研究会とv_BASEデータ」(株)酉島製作所/兼森祐治氏
④「流体連成振動のトラブル事例とその診断/対策の紹介」(財)電力中央研究所/稲田文夫氏
⑤「状態監視診断技術規格化の動向」元(株)東芝/榊田均氏
⑥「TC108/SC2の動向」故(株)IHI/本井久之氏
⑦「状態監視認証資格(振動とトライボロジー)の国際状況」新川電機(株)/松田博行氏
⑧「ロータのトラブル事例と振動解析」防衛大学校名誉教授/松下修己氏
⑨「摩耗による劣化診断事例と要因分析による対策」元(株)東芝/渡部幸夫
⑩「機器に発生するトラブルの事前予測および余寿命診断 への物理モデルの適用」元大阪公立大学/川合忠雄氏
⑪「事例に基づいた状態監視信号処理技術のノウハウ」3DIM技研/小村英智氏
⑫「振動・診断技術に関するISO規格改定について」故(株)IHI/本井久之氏
⑬「不具合対応における教訓」(株)神戸製鋼所 機械研究所/岡田徹氏
⑭「ターボ機械の振動事例」(株)日立製作所 日立研究所/山口和幸氏
⑮「運用中の機械状態監視診断技術の最前線」元(株)東芝/渡部幸夫
⑯「非接触変位センサの原理と特徴」新川電機(株)/瀧本孝治氏
⑰「振動診断とデータベース」 元(株)IHI/小林正生氏
⑱「トライボロジー診断による設備状態監視とメンテナンス」日鉄物流㈱/四阿佳昭氏(掲載資料なし)
⑲「振動診断の方法-振動事例と心得ておくべきこと-」元岡山大学/古池治孝氏
⑳「ISO TC108の変遷と動向」故(株)IHI/本井久之氏
㉑「回転機械の振動技術50年の歩みと展望」カンキローターダイナミックラボ/神吉 博氏
㉒「生産設計と設備開発による性能と生産性の両立事例」三菱電機(株)/秋田裕之氏
㉓「振動に関するISOの状況紹介」故(株)IHI/本井久之氏
㉔「赤外線サーモグラフィ診断技術について」(株)サーモグラファー/山越孝太郎氏
カテゴリⅣ合格者による診断事例紹介
カテⅣ面接試験での発表を主として30件の診断対策事例を機器個別に掲載した。( )にミーティング開催回の数字を記入した。トライボロジー診断技術者の最上位のカテゴリⅢの合格者にも講演願った。
①基礎劣化に起因する異常振動(1)
②サイクロ減速機の診断(1)
③斜流ポンプの共振(1)
④高周波振動による電動機異常の判定(1)
⑤資格の必要性/メリットとスクリュウ圧縮機吐出配管の異常振動(2)
⑥蒸気タービンのラビング振動(2)
⑦レシプロエンジンのねじり振動(2)
⑧立軸形渦巻ポンプ並列運転によるうなり事象(3)
⑨事例に基づいた状態監視信号処理技術のノウハウ(4)
⑩ボイラ給水ポンプとモーターに発生した振動(4)
⑪縦型海水ポンプにおける軸受荷重過大事象(4)
⑫大型蒸気タービン発電機における電磁ピックアップによる位相基準信号のトラブル(5)
⑬空気圧縮機自励振動の解析と対策(5)
⑭自家発用ガスタービン発電機センサトラブル(6)
⑮圧縮機駆動用ガスタービンの回転同期振動(6)
⑯攪拌機ギア損傷事例(7)
⑰立形復水ポンプの共振事例(7)
⑱現場のメンテナンスにトライボロジーを活用する(7)
⑲印刷機械でのベアリング損傷事例(8)
⑳1段ターボ圧縮機の試運転時の非同期成分の振動値NG(8)
㉑排水機場ポンプ設備への状態監視保全技術の導入(最上位のトライボロジーⅢの面接試験発表紹介)(8)
㉒ラジアル荷重を受ける横型ポンプ転がり軸受の振動診断(9)
㉓ボイラ給水ポンプ軸クラックの発生とねじり振動(9)
㉔遠心ポンプにて発生した転がり軸受の損傷事例(9)
㉕プロセス用遠心圧縮機で経験した振動事例(10)
㉖空気昇圧機のシール励振力による振動(10)
㉗潤滑診断による状態監視とプロアクティブ保全(10)
㉘蒸気タービン・発電機軸系のねじり振動(11)
㉙トポロジカルデータ分析による振動データ評価手法(12)
㉚硫酸ブロワー駆動用モーターリプレイス後の振動対策(12)
事前メール受付による振動相談とその回答
35件収録されている。参考のため近年の振動相談の内容を記載する。
①定期振動計測(毎月など)で、データを採取して傾向管 理する場合、インバータ制御にて回転数が毎回異なる場 合、定常回転ではないので計測データを並べても、善 し悪しの比較はできないと思いますが、このような場合、 他の方はどうされているのでしょうか?
②キャビテーションが常態化しているようなポンプで、ベアリ ング異常を早期に見分けるコツは?
③転動体と保持器接触による異音では?原因は?
④本体側プーリの軸受外輪に重大な損傷が発生した場合、 振動加速度は増加するが、振動速度の増加は発生?
◆振動診断Q&A
認証者のからの振動診断に関する質問を受付け、その回答を掲載。現在、8件の質問と回答が掲載されている。いつでも、無料にて相談を受け付けている。
◆関連学協会情報
振動診断技術者に関連のある研究会情報掲載
◆訓練機関情報 訓練機関およびセミナー開催予定を掲載
◆国際情報 JSMEの相互認証機関や国際会議情報を掲載
◆関連規格
ISO規格販売情報や知っておくべきISO規格および規格の改訂情報を掲載
◆関連書籍
セミナーテキスト情報を掲載。掲載内容を増やす予定
◆学習サイト 自習用にWEB LEARNING へのリンクを掲載
◆診断ハード・ソフト紹介
振動診断に役立つハード・ソフト紹介を掲載
現在5件の診断装置構成、診断事例を掲載。募集中。
◆資格取得
資格が役に立った事例、名刺への資格表記について掲載。資格のお蔭で海外での測定作業がスムーズにいった事例や、資格のお蔭で公共事業を受注した事例3件を掲載。
◆問い合わせ先
コミュニティに関する問い合わせ先を掲載
定例ミーティングの開催
参加者の要望を受けて、通常は年1回10月第1週の金曜日に関東、関西で交互に開催している。プログラムは、例年下記の構成にて実施している。例年、約70名が参加し活発な議論、交流を深めている。
工場見学
現場での監視診断状況や最新の診断技術の見学を行って体験学習を行う。近年コロナのため中断していたが、過去には、図4に示すように日本製鉄(株)名古屋製鉄所、JFEスチール(株)東日本製鉄所、(株)酉島製作所、三菱電機(株)名古屋製作所の見学を行った。
図4 日本製鉄(株)名古屋製鉄所の工場見学
診断技術の勉強のための講演(ISOの変更の報告含む)
毎回1件から2件の講演を実施し、研修を行っている(図5)。題目については、前頁に記載している。
図5 講演後の質問討論状況
機器展示
2014年ミーティングから実施している(図6)。数件の計測診断メーカに、機器を展示してもらい実際に振動計測分析診断を行って説明を受け、体験している。
図6 機器展示での説明体験状況
カテゴリⅣ合格者による診断事例紹介
最上位のカテゴリⅣ合格者から、診断技術レベルを知ってもらうことを目的に、また2011年から導入された面談試験時に発表した事例を報告してもらい、試験に備えられるようにしている。毎回2件の事例報告している。
事前メール受付による振動相談回答に関する全員参加の討論
メールでの質問をコミュティ主査が受けて無料にて回答し、その中から役立つ事例を主査/幹事から毎回3件程度報告し、全員参加で回答に関する討論を行っている。詳細は、HPのミーティング情報の開催報告をご覧いただきたい。
参加者相互の技術討論会
講師や資格取得者による日頃聞くことのできない現場での悩みや相談などの意見交換や技術討論を、あまり付き合いのない種々のメーカ間で、毎回2時間討論を繰り広げている(図7)。この場での技術交流が最も役立っている。
図7 技術討論の状況
おわりに
近年は、図8に示すように、保全業務を運転情報や品質情報などを活用して設計まで連携し、生産性向上をしなければ生き残れない時代である。「花の建設、涙の保全」から脱却しなければ、故障はすぐ忘れ去られ繰り返し起きる。保全故障情報が設計に取り入れられない。機械の故障診断だけでなく、機械のお医者さんとなり「機械設備の健康診断」により設備の生産性向上が必要となっている。
最近の設備は、多くのメーカが分担して作り上げているため、特に社外の診断技術者とのコミュニケーションが重要になってきている。また、診断装置の技術進展も目覚ましいため、スキルアップが重要である。是非、この状態監視振動診断技術者コミュニティにおいて広い診断技術を学び、交流を広げる場として利用していただければ幸いである(図9)。
図8 保全業務範囲を運転/設計業務まで拡大
図9 コミュニティの運用
資格のメリット
①技術の品質が保障される
②技術レベルの目安となり技術継承の物差しとなる
③発注先の選定条件として使用できる
④国内外の仕事の受注につながる
⑤国内外での議論の場で優位に立てる
<正員>
渡部 幸夫
◎状態監視振動診断技術者コミュニティ 主査
キーワード:特集 機械状態監視資格認証事業20周年