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2023/11 Vol.126

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特集 機械状態監視資格認証事業20周年

機械状態監視診断技術者(振動)認証事業の現状

山口 和幸〔(株)日立製作所〕

はじめに

機械状態監視診断技術者に関する認証制度の骨格がISO 18436-1(機械の状態監視及び診断-技術者の訓練及び認証に関する要求事項-第1部:認証機関及び認証過程に関する要求事項)として2003年に発行され、その一分野として振動による機械状態監視診断技術者(以降、振動診断技術者と呼ぶ)の認証に関する規定がISO 18436-2(機械の状態監視及び診断 − 技術者の訓練及び認証に関する要求事項-第2部:振動による状態監視及び診断)として発行された。機械学会ではこのISO規格に基づいて、携帯または常設のセンサおよび機器を用いた機械振動の測定・解析を行う技術者の能力の確認と資格の認証を2004年に開始しており(1)、2023年8月現在、5,559名が資格認証を受けている。

本資格は振動診断技術者を体系的に訓練・認証するこれまでに類のない資格であり、設計技術者、保全技術者から高度専門家まで、また、重工業・回転機械製造産業、エンジニアリング・メンテナンス産業、石油・化学・鉄鋼・電力・ガスなどの素材・エネルギー産業をはじめとするさまざまな産業界で注目を浴び、振動診断技術スペシャリストの業務品質を保証する資格として大きな役割を担っている。また、技術者生涯教育の一環としても注目されている。技術者の流動化に関連して、技術者が適切な評価を得るために資格は大きな要素の一つであり、本資格はこのような社会的なニーズに応えるものである。本稿では振動による機械状態監視・診断手法の概要、訓練と資格認証試験の実施方法、および資格認証事業の現状について紹介する。

振動による機械状態監視・診断手法の概要

動的な状態監視パラメータである振動による状態監視と診断

機械の状態監視において、出力、圧力、流量、温度、振動などさまざまなパラメータが計測されるが、その中で振動は動的に計測される数少ないパラメータの一つであり、機械のさまざまな異常に起因する振動現象が現れる。このため、振動による機械状態監視・診断は機械の異常の早期発見、異常原因推定に有効である。

機械の振動計測・分析方法はISO13373-1(機械の状態監視と診断-振動状態監視—パート1:一般的な手順)に規定されている(2)。機械の状態監視・診断に用いられる振動センサは、機械の静止部に取り付けて絶対振動を計測する接触型の振動センサと、振動センサを取り付けられない回転部の振動を静止部との相対振動として計測する非接触型の振動センサとに大別される。振動センサの例(2)(3)図1に示す。接触型振動センサとしては、30kHz程度の高い周波数まで計測可能な圧電式加速度計や、感度が高く増幅器を必要としない動電式速度計が広く用いられている。また、非接触型振動センサとしては、DCから10kHz程度までの幅広い周波数範囲の計測が可能な渦電流式変位計が広く用いられている。

(a)圧電式加速度計

(b)動電式速度計

(c)渦電流式変位計

図1 振動センサの例(2)(3)

振動センサで取得された振動信号には信号処理が施され、種々の特徴量が抽出される(3)。信号処理は、時間波形から特徴量を抽出する時間波形分析と、周波数領域における特徴成分を評価する周波数分析に大別される。時間波形分析には振動リサージュ評価、波高率や尖り度などの振動波形パラメータ評価、振幅判定などがあり、機械の状態監視における損傷度の劣化傾向管理に用いられる。機械の状態監視における振動許容値の設定方法はISO20816(機械振動-機械振動の測定と評価)シリーズに規定されている。

周波数分析には高速フーリエ変換(FFT)やウェーブレット変換、トラッキング分析などがあり、機械の診断における異常原因究明に用いられる。特に振動診断においてはFFTの使いこなしが重要であり、評価する現象に対応して窓関数やサンプリング周波数、収集時間、フィルタを適切に選ぶとともに、平均、トリガ、エンベロープなどの処理を適切に行うことが重要である。FFTによる周波数スペクトルの例(2)図2に示す。図の横軸は周波数、縦軸は軸振動振幅であり、正常時に発生する回転1次周波数成分のほかに回転1/2次周波数成分が現れている。

図2 周波数スペクトルの例(軸受台のゆるみ)(2)

機械に異常が発生すると、その異常に対応した周波数成分が振動に現れるため、特徴周波数成分の傾向を評価することにより機械の異常原因を推定できる。機械の異常と振動の特徴周波数の関係を示す因果マトリクス(4)の例を図3に示す。図2の例では回転1/2次周波数成分が顕著であることからゆるみやガタが発生していることが推測される。

図3 因果マトリクス(4)

訓練と資格認証試験

技術者レベル(カテゴリⅠ~Ⅳ)に応じた訓練と認証試験

振動診断技術者の技術レベルは難易度に応じてカテゴリI~Ⅳの四つに分かれており、カテゴリⅠ、Ⅱは毎年2回、カテゴリⅢおよび最上位のカテゴリⅣは年1回の資格認証試験を実施している。カテゴリⅠ~Ⅳの概要は次のようになっている(5)

・カテゴリⅠ:ISO17359(機械の状態監視と診断 – 一般的なガイドライン)およびISO13373-1に従い、1チャンネルの振動計で振動計測が正しくできる技術者。使用するセンサ、解析方法の選択は行わず、計測結果の評価も行わない。

・カテゴリⅡ:1チャンネルの振動計で振動の計測とその基礎的な振動解析を実施できる技術者。計測結果を適用規格、法規に基づいて評価し、簡単な対策処置を提案できる。

・カテゴリⅢ:機械の状態監視と診断の実施計画を構築できる技術者。さまざまな振動解析技術を駆使して診断が実施でき、また、振動監視の計画を構築でき、対策処置を提案できる。遂行業務の目的、予算、費用の評価、人材育成についてマネジメントのための報告書を作成することができる。

・カテゴリⅣ:先端的な振動解析技術を活用できる、是正処置の提案に加えて設計変更に対しても提案できる、振動に関して指導・教育ができる、ISO規格を評価できるなど、すべての機械の振動計測と解析に対して精通している技術者。

各カテゴリと関連資格との技術レベルの比較を表1に示す(1)。カテゴリⅠおよびⅡは機械保全技能士と同等、カテゴリⅢおよびⅣは博士号あるいは技術士と同等の技術レベルとされている。

表1 関連資格との技術レベル比較(1)

受験資格については、「振動による機械の状態監視・診断技術に適用する原理と手順を理解していることを保証する教育、訓練および実務経験を有していなければならない」とされており、認証試験を受験するためには、振動診断技術者レベル(カテゴリ)に応じて、一定期間以上の実務経験と訓練課程修了が必要となる。訓練課程は日本機械学会が認定している訓練機関にて受講する必要があり、認定訓練機関は2023年9月現在4社〔新川センサテクノロジ(株)、旭化成エンジニアリング(株)、 IMV(株)、JFEアドバンテック(株)〕ある。それぞれの訓練機関によって実施している訓練の地域やカテゴリが異なるため、希望者が自身の都合に合わせて選択することになる。一部を除き、日本機械学会の認証試験は訓練修了後、各訓練機関で受験できるようになっている。

受験に必要な累積的な実務最小経験期間と最小訓練時間が表2のように規定されている(1)。また、訓練機関で受験する訓練科目についても表3のとおり規定されており(2)、訓練機関ではこの科目に基づく訓練を行っている。訓練時間の中には自習時間を含めることができ、訓練機関によっては訓練の一部を教材による自習に置き換えている場合もある。

表2 最小実務経験期間と訓練時間(1)

表3 訓練科目と訓練時間(2)

初めて受験できるのは、カテゴリⅠまたはⅡであり、カテゴリⅢ以上の志願者はその一つ下のカテゴリの資格を有していることが必要である。受験では択一式の試験方式をとり、カテゴリⅣのみ加えて記述式と面接の試験を課している。それぞれ70%以上の得点で合格となる(1)(表4)

なお、資格認証の有効期間は5年間であり、更新手続きによりさらに5年間の認証が受けられる。

表4 試験の方式と合格点(1)

資格認証の現状

機械設備のバリューチェーン全体で認証者が増加中

2004年に第1回の認証試験を実施して以来30回以上にわたって、振動診断技術者の認証を行ってきた。受験者数の推移を図4に、受験申請者数と合格者数の推移を表5に示す。2011年の東日本大震災以降に受験者が大きく落ち込み、その後に受験者数が回復傾向にあったが、2020年初めの新型コロナウイルス感染症の影響により受験者数が再度減少した。現在はコロナ禍前の水準に徐々に戻りつつある状況である。

図4 受験者数の推移(カテゴリⅠ~Ⅳ合計)

表5 受験申請者数と合格者数(カッコ内)の推移

図5は受験申請者数、認証者数、合格率の累計値である。カテゴリⅠおよびカテゴリⅡの合格率はそれぞれ86%および81%であり、機械の運用・保守に必要な資格として、基本的な知識と評価技術が身につけば合格できるレベルである。カテゴリⅢの合格率は59%であり、より高度な知識の修得が求められている。カテゴリⅣの合格率は30%であり、難易度の高い資格となっている。20年間で112名の挑戦があったが、認証者数は僅か34名であり、認証者の技術レベルの高さを証明する価値ある資格となっている。カテゴリⅢの資格保有者には是非とも積極的な挑戦を期待したい。

図5 受験申請者数、認証者数、合格率(累計)

図6は受験申請者の所属産業分野(5)である。エンジニアリング、メンテナンスサービス関連業界の受験者が最も多い。これは、機械設備の運転・設備管理において、顧客への状態監視技術提供の必要性が高いためとみられる。また、機械設備を所有・運用する電力・ガスや、機械を製造する重工・機械の受験者が次に多くなっており、機械設備に係るバリューチェーン全体において重要な資格となっていることが伺える。

図6 受験申請者の所属産業分野(2004年度第1回~2023年度第1回)

おわりに

設備の長期稼働を支えるグローバル診断技術者の力量保証

本稿では機械状態監視診断技術者(振動)の資格認証事業の現状について解説した。カーボンニュートラルの早期達成やサーキュラエコノミーへの移行が叫ばれるなか、適切な保全による、設備の性能を維持したうえでの運用年数の延長が求められている。さらに、国内の製造現場では、熟練技能者の引退や設備の老朽化などによる重大な産業事故の発生など問題が山積しており、設備メンテナンスの重要性がますます高まっている。また、機械、特に回転機の工場試験、受入試験では、適切で、正確な振動計測が不可欠であり、異常の兆候などが見逃されてしまうと、プラントの運転全体にも支障をきたす恐れがある。

設備管理の中で機械の状態監視を目的とした振動計測は、最近、アウトソーシングされる傾向にあるため、計測を請け負う技術者の技術力の保証が重要となっており、資格を取得した技術者による試験、検査のニーズが年々高まっている。例えば原子力企画委員会のJEAC4221-2015(原子力発電所の設備診断に関する技術指針-回転機械振動診断技術)の力量要件の一つとしてISO機械状態監視診断技術者(振動)が明記されている。

また、海外においても、設備の状態監視、点検、診断、保守のグローバル化に伴い、技術者が海外で適切な評価を得るために資格が大きな要素の一つとなっている。海外認証機関と相互認証された本資格の取得により、技術者としての社会的信頼を得ることができ、専門技術者として認知されることで、国内外を問わず活躍の場が広がることが期待される。


参考文献

(1) 機械状態監視資格認証事業 ホームページ,日本機械学会
https://www.jsme.or.jp/jotaiweb/(参照日2023年8月13日)

(2) 振動技術研究会,ISO基準に基づく機械設備の状態監視と診断(振動 カテゴリⅡ)第4版(2015).

(3) 振動技術研究会,ISO基準に基づく機械設備の状態監視と診断(振動 カテゴリⅢ)第3版(2018).

(4) 木村彰, 山内久雄,振動兆候マトリックス,ターボ機械,Vol. 10,No. 10(1982),pp. 50-56.

(5) 日本機械学会,特集Ⅱ 機械状態監視診断技術者(振動・トライボロジー)資格制度,潤滑経済No. 659(2020),pp. 42-57.


<フェロー>

山口 和幸

◎(株)日立製作所 研究開発グループ 生産・モノづくりイノベーションセンタ  信頼性科学研究部 主管研究員

◎専門:機械力学、振動工学、ロータダイナミクス

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