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2023/11 Vol.126

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特集 機械状態監視資格認証事業20周年

機械状態監視資格認証事業

藤原 浩幸(防衛大学校)

機械状態監視技術者認証制度

国際規格の制定

ISOでは古くから多くの工業製品が国際標準化されて、材料、部品などの国際的な流通に役立ってきた。近年では、ISO14000、 9000シリーズに環境や品質管理が規定されて久しい。現在では、工場内で働く技術者の品質を規定するに至り、専門技術者の活躍の場が国際的に広がっている。ISO18436では機械に関する状態監視と診断を担う技術者の認証を規定している。認証制度の骨格がISO18436-1として発行され、以降、各技術分野に分かれて発行されている。

ISO18436-1: 認証制度に対する要求事項

ISO18436-2: 振動診断技術者

ISO18436-3: 訓練機関に対する要求事項

ISO18436-4: 油分析診断技術者(現場)

ISO18436-5: 油分析診断技術者(研究室)

ISO18436-6: AE診断技術者

ISO18436-7: サーモグラフィー診断技術者

ISO18436-8: 超音波診断技術者

日本機械学会における認証事業

日本機械学会ではISO18436シリーズの中で、ISO18436-2(振動) とISO18436-4(トライボロジー)に対応する診断技術者認証を行っている。診断技術者の育成を目標に掲げ、準備期間を経て、まず振動から2004年に第1回の資格試験を行い、今年で20年を迎えた。トライボロジーは2009年から、日本トライボロジー学会と協力して運営を開始した(共同認証は2017年に終了し、現在は本会の単独事業)。運営委員会は図1のような組織を構成しており、運営状況を精査、ISO改正などに照らし合わせて、運営の品質および資格レベルを保持している。

図1 機械状態監視技術者認証運営委員会組織図

訓練と認証資格試験

ISO18436で定められているとおり、認証試験を受験するためには、診断技術者レベル(カテゴリー)に応じて、一定期間以上の実務経験と訓練課程修了が必要となる。訓練課程は日本機械学会が認定している訓練機関にて受講する必要があり、認定訓練機関は「振動」4社、「トライボロジー」2社である。それぞれの訓練機関によって実施しているカテゴリーの種類や地域が異なるため、希望者が自身の都合に合わせて選択することになる。これまで振動6148人、トライボロジー1472人の技術者を認証してきた。資格取得者は5年に1回の更新があるため、継続的に状態監視に携わって技術レベルを保持する必要がある。未更新者と上位カテゴリの資格取得者を除く現在の資格保持者は表1のとおりである。

表1 日本機械学会における認証資格保持者数(2023.08)

海外認証機関との交流

国内での委員会発足当初から積極的に海外訓練機関との事業協力および定期的な情報交流を通して、世界に通用する資格レベルの保持につとめている。

米国のVI(Vibration Institute)(1)では世界に先駆けて振動診断技術者の認証事業を展開し、ISO18436規格の発足にも大きく貢献した。現在では、米国内のみならず、中南米、中東、東南アジアなど、世界各国で認証事業を展開している。カテゴリーⅠ~Ⅳまで認証しており、表2にVIにおける振動診断技術者の認証資格保持者数を示す。JSME(本会)では制度発足当初からVIと事業協力および定期的な情報交流を通して(図2)、認証事業を運営してきた。

表2 米国VIにおける認証資格保持者数 (2023.08)(1)

図2 米国VIとの交流会(2018年10月5日・米国VI)
左から 松田 (新川センサテクノロジ)、藤原 (防衛大)、本井(IHI)、Ronald L. Eshleman (Vibration Institute)、Michael Long (Vibration Institute) かっこ内所属は当時

韓国のKSNVE (Korean Society for Noise and Vibration Engineering)とJSMEの認証事業は関係が深く、韓国において振動およびトライボロジーの認証制度が発足する際は事業協力を行った。認証事業はKSNVEの下部組織であるKCI-MD(Korea Certification Institute for Machine Diagnostics)(2)にて運営されており、事業発足後も相互に訪問して情報交換を行い(図3)、相互認証契約も締結されている。2007年に振動の認証を開始し、2010年にはトライボロジー、サーモグラフィー(18436-7準拠)の認証事業を立ち上げ、現在はこれら三つの認証事業を展開している。振動はカテゴリーⅠ~Ⅲ、トライボロジーとサーモグラフィーはカテゴリーⅠ~Ⅱの診断技術者認証をしている。表3にKSNVEにおける認証資格保持者数を示す。

図3 韓国KSNVEとの交流会(2019年8月20日・日本機械学会会議室)
左から黒川 (潤滑通信社)、平野 (東芝)、松田(新川センサテクノロジ)、Oh Sung Jun(KCI-MD)、Seok J. Moon (KCI-MD)、藤原 (防衛大)、本井 (IHI) かっこ内所属は当時

表3 韓国KSNVEにおける認証資格保持者数 (2023.08)(2)

認証事業の広報活動と認証技術者の交流

トライボロジー技術委員会の広報小委員会が中心になって東京で開催されているメンテナンスレジリエンス(日本能率協会が毎年主催する展示会)のブースにて認証事業の紹介を行っている。ブースではパンフレットを配布し、資格制度・認証試験について説明している。また、認証技術者同士の交流の場として振動認証技術者コミュニティーミーティングを年1回開催している。

おわりに

国内では熟練技能者の引退や設備の老朽化による重大な産業事故の発生など問題が山積しており、設備メンテナンスの重要性がますます高まっている。回転機械の工場試験や受入試験では適切な振動計測が不可欠であり、稼働中の異常の兆候を見逃すとプラントの運転全体にも支障をきたす。設備機械のトラブルは摩耗や焼付きなどトライボロジー現象と関わりが深く、潤滑管理を活用するトライボロジー技術者の役割も大きい。

さらに、機械設備の状態監視は、近年アウトソーシングされる傾向にあり、資格を取得した診断技術者による試験や検査のニーズが高まり、その技術力の保証が重要となっている。また、海外においても機械設備の状態監視や保守のグローバル化に伴い、技術者が海外で適切な評価を得るために資格が大きな要素となっている。本資格取得により、診断技術者としての社会的信頼を得ることができ、専門技術者として認知されることで、国内外問わず活躍の場が広がることが期待される。

図4 認証事業の紹介ブース
(2023年7月26~28日・東京ビッグサイト)


参考文献

(1) Vibration Institute:ホームページ
https://www.vi-institute.org/(参照日2023年8月31日)

(2) Korea Certification Institute for Machine Diagnostics:ホームページ
http://eng. kci-md.or.kr/(参照日2023年8月31日)


<フェロー>

藤原浩幸

◎防衛大学校 機械工学科 教授

◎専門:機械力学、回転機械の振動

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