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2023/10 Vol.126

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Myメカライフ

実験設備という「子供」との成長記録

渡辺 瞬〔(一財)電力中央研究所〕

 

この度、「発電プラントの流体漏洩時における高速気中水噴流挙動の評価技術の開発」というテーマで日本機械学会奨励賞(技術)を受賞したことに際し、Myメカライフの執筆の機会をいただきました。これまでの研究業務を振り返りながら、このテーマへの想いや今後の展望について紹介させていただきます。

私が電力中央研究所に入所したのは、東日本大震災が発生した翌年の2012年でした。故郷である福島県の震災被害や原発事故の状況を目の当たりにし、自然災害と産業事故が私たちの生活に与える影響を痛感しました。だからこそ、科学のさらなる発展でその脅威に対抗しようと、産業研究を生業とする世界に飛び込みました。

発電プラントでは、水や蒸気といった流体を運ぶための配管が無数に存在します。配管内部の流れの速さや水質、配管の材質など、環境条件も様々なので発電所の運転期間が長くなるほど、条件に応じて配管も劣化していきます。これに対し、劣化により配管が壊れることを未然に防ぐため、電気事業者は多くの事業リソース(ヒト・モノ・カネ)を割いて日常的に配管の状態を検査しています。しかし、リソースは無限に存在する訳ではないので、発電プラント内の全配管を完全・完璧に保全することには困難が伴います。万が一、配管が壊れて内部の流体が漏洩しても、周囲への影響(他機器の故障や人員の熱傷など)が小さければ、その配管が壊れることのリスクは限られると判断できます。一方、壊れた配管から多量かつ高温の流体が広範囲に噴き出せば、配管損傷のリスクは大きいと判断され、本来、損傷を防ぐための保全のリソースはそのような箇所に多くを割かれる必要があります。

このような背景を受けて、受賞したテーマでは、発電プラントにおける配管からの水の漏洩に着目して、環境条件によって水がどのように拡がっていくか、どの距離まで飛んでいくかなどを定量化するために、流動を可視化する技術を用いて噴射実験を行いました。高温かつ高速の水を多量に噴射させる実験のため、安全上の観点から設備を堅牢にする必要があり、設計段階で「実験したいこと」と「使えるお金(予算)」の折り合いがつかず、施工業者とのやり取りで非常に頭を悩ませたのを覚えています。そのため、発電プラントで実際に起こり得る流動の条件(圧力や温度)を入念に調査し、実験条件をプラントの実圧・実温度に限定することで、性能を損なうことなく、限られた予算の範囲で設備を構築するに至りました。研究構想に着手してから3年ほどかけて、全高8m、容積125m3の実験空間にカメラやレーザーの可動装置を設置した大型設備が完成しました。感無量です。

実験設備は「生き物」だと思う瞬間があります。大型で複雑な設備を、初めから手なずけることなどできるはずもなく、思うように実験条件を実現できなかったり、上手く設備が動作したと思ったらカメラやレーザーの設定が甘く撮影画像が真っ暗だったり…。子供を相手にするような感覚で日々の実験を重ねていくと、どこをどのように操作すれば、「言うことを聞いてくれるか」が次第に分かってくるものです。実験業務のマニュアル作成を進めつつも、画一化しきれないノウハウがどこかに残るもどかしさは、かえって設備が「生き物」であるかのように感じさせ、ともに成長できる喜びすら抱きます。

苦労を重ねた甲斐もあり、この実験設備による研究成果は、既に発電プラントの溢水評価(流体漏洩時のリスク評価)に活用されており、発電所の信頼性・安全性向上に貢献しています。「産業研究は智徳の練磨であり、もって社会に貢献すべきである。」これは当所の創立者である松永安左エ門が掲げた理念です。まだまだ一端の研究者への道のりは長いですが、研究への英知と人徳を磨き、何といっても巡り合った実験設備を可愛がりながら、電気事業という大きな産業に貢献し続けられるよう積み上げていく所存です。

 カメラの可動装置を微調整する著者


<正員>

渡辺 瞬

◎一般財団法人 電力中央研究所 エネルギートランスフォーメーション研究本部 プラントシステム研究部門 主任研究員

◎専門:噴流工学、計測工学

 

 

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