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2023/10 Vol.126

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技術ロードマップから見る2030年の社会

第10回 生産システム

小野里 雅彦(北海道大学)

生産システム分野

ものづくりの歴史的転換期

19世紀末から20世紀前半にかけて活躍したフランスの哲学者アンリ・ベルクソンは、人間の知性を「人工物、とりわけ道具を作るための道具を製作した。そして、その製作を無際限に変化させる能力である」(1)と規定し、種としての人類に対して一般に使われているホモ・サピエンス(知恵のある人)に対して、新たにホモ・ファベル(工作する人)と呼んだ。

その工作人として先史時代から続く人類の歴史が、大きな転換期を迎えている。ものづくりはこれまでも、産業革命での動力の機械化やコンピュータによる計算の自動化など大きな変革を経験してきた。しかし、人間が素材や工具、道具、機械などの「もの」と直接に対峙し、五感を駆使して行ってきた。人間が思考する概念世界と「ものづくり」を遂行される物理世界とは常に隣り合わせにあり、人間と「もの」との関係性の基本は変わることがなかった(図1 a・b)

この「概念=物理」世界スキーマを根本から変えるのが、仮想世界(virtual world)である。図1 cのように仮想世界は概念世界と物理世界の間に介在し、「概念=仮想=物理」の三層スキーマを形成する。人は「概念=仮想」世界の界面で設計・計画の業務の多くを行い、物理世界の製造設備は仮想世界からの指令にしたがって動作をし、生産状況をリアルタイムに仮想世界に反映させる。この新たなスキーマでは概念世界と物理世界は時空間的に分離をして、仮想世界を介しての間接的な関係性へと移行する。これにより「概念=仮想」と「仮想=物理」がそれぞれ異なる情報処理と時定数を持った意思決定サイクルで遂行されるものづくりへと変化をしていく。

図1 ものづくりのスキーマの変化

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