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2023/6 Vol.126

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転ばぬ先の失敗学

第6回 火消しよりも火の用心 事故時の英雄になるよりも、事前予防対策にエネルギを使おう

中尾 政之(東京大学大学院)

過去の失敗知識は簡単に活用できる

学生はオープンAIのChatGPT(2022年11月公開)を上手く使っている。筆者は就職担当教員なので、3月からの就職活動を覗いてみた。すると、彼らは「志望動機を300字以内で書いてください」とChatGPTにエントリーシート用の作文を頼んでいた。「壁打ち」をするように対話しながら、自分自身のエピソードや人生目標を入力し、独自の前向きな合格レベルの文章を出力させる。過去の知識は再利用できる。

筆者もこれの英語版を使って「福島第一原発事故の原因は何?」と聞いてみた。まず「故意ではない」「天災である」と出てきた。日本では「大事故を想定できなかった能天気な技術者が悪い」と情緒的に信じている人も多いけれど。さらに、技術的原因として「冷却システムのFlaws(弱点)やバックアップシステムのFailuresが生じた」と答えてきた。レポートとしては優だが、具体的な記述がないので80点。

筆者は大学院修士課程の講義「技術の管理」で、学生にその原因を問うている。例えば、2022年4月16日、110名に小テストした。結果は、39名(36%)が白紙で0点、44名(40%)は「地震で崩れた」「津波で流された」「連鎖反応で爆発した」などと言い訳して10点。結局、「(崩壊熱を)冷却できなかった」「(炉心溶融のあと)水素爆発した」と80点以上で正答したのはたった27名(25%)だった。エリート技術者の卵のくせに情けない。この後で、元東電の吉澤厚文先生に“語り部”として講義していただく。彼は5・6号機のユニット長として事故現場に居合わせた。この講義は効果大。

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