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2023/6 Vol.126

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特集 複雑な流れ現象 -機械工学の視点から-

間(あわい)の分子流体力学

小林 一道(北海道大学)

「間(あわい)」の分子流体力学とは

気液界面の熱・物質輸送

現在、流体力学はさまざまな「流れ」を記述することに成功し、近年では、感染症の飛沫予測や地球規模の気候変動予測など、多くの応用課題を解決するための一役を担っている。ここで、流体力学はその流体を構成する分子運動については考えておらず、「局所平衡」という概念を前提として記述される。多くの場合においてこの前提は正しいが、例えば気体と液体から成る混相流を考えると、流体力学のみの枠組みでは解析することが困難であることがわかっている。

分子運動を用いて取り扱うべき問題の代表例として、気液界面における熱・物質輸送が挙げられる。これは気液界面における熱・物質輸送の本質が、液体から気体へ移動する分子群の振る舞いと、気体から液体へ移動する分子群の振る舞いの差に起因する「非平衡現象」に端を発している。それゆえ、気液界面での非平衡性が主要因となる「液体の蒸発」や「蒸気の凝縮」といった燃焼学や気象学で重要となる素過程や、キャビテーションにおける「液相から気相が生成される気泡核の初生」などについても、流体力学の枠組みのみで解析することができない。現在のところ、このような現象を含む流れを解析する際には、気相・液相の各保存則に対して境界条件として経験則から得られた輸送モデルを使用することや、気液界面での平衡熱力学関係を界面の境界条件として使うことで、近似的に流体解析が行われている。

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