新会長インタビュー
ー2023年度運営方針の中で『ブランド価値』向上を謳われています。本会のコンセプトに関して、どのような取組みが必要でしょうか?
現代のブランド論では、コンセプトやコンテンツだけではなく、むしろ参加、体験、共有、共創を伴うコンテクストが重要とされています。本会の委員会やワーキンググループでは、社会の要請や会員の関心事に応えるべく議論が進められていますが、抽出された論点を会員や外部ステークホルダーと共有して議論するオープンな「場」を構築する姿勢が望まれます。東日本大震災の際、事故を「想定外」と捉えたことへの批判を教訓としなければなりません。幸いにして本会には、新しい領域を受容し自由に議論できる良き伝統やリソースがあります。社会的課題への対応や人材育成においても、プラットフォーム化の促進をはじめとした「不易流行」の精神に基づく数々の施策によって、現在そして未来の社会に貢献するダイナミックな姿を示すことで、会員をはじめとした機械工学関係者の地位向上に繋がるブランド価値を具体化できるものと考えています。
ー2023年度から部門・支部の講習会を、対象レベル別、分野別に整理した講習会リストを公開しました。技術者として本会の講習会にどのようなことを期待されますか?
いわゆる四力学の初歩的な知識については、本会の出版物であるテキストシリーズや、やさしいテキストシリーズの活用も視野に入れた講習会が準備されていると便利だと思います。
基礎編リストにある講習会はリカレント教育のみならず、最近は非機械工学系の技術者が機械製品のプロジェクトの推進者になるケースも増えていますので、リスキリング教育の需要を満たすものと思います。応用編リストにある講習会は、本会で網羅することが難しい分野もありますので、他学協会との連携も視野に入れながらコンテンツの充実を図りたいところです。
また、支部開催の講習会もリストに掲載し、開催情報をアップデートすることで利便性を向上し、企画者が切磋琢磨しながら質を向上させること、相互補完的に運用することがポイントかと思います。
受講者の大半が企業所属会員であることから、会計年度開始に先立つ予算編成時に大まかな企画内容の開示がなければ、受講者の増加が望めないことを主催者側にあえてお伝えしたいと思います。また予算執行に当たっては、遅くとも四半期前に開催案内を確定しておく必要があります。受講者本人だけではなく、上長の賛同を得やすい、受講することの意義の分かりやすい表現にも留意して欲しいものです。
ー就任ご挨拶で触れられている「重点投資すべき事業」について、どのようにお考えでしょうか?
他学協会との比較で最も改善しなければならないのが、端的に表現すると年次大会への有料参加者の割合です。開催校を中心とする実行委員会の負担を軽減する意味からも、理事会が会員の期待や関心を反映した企画を実施し、必要な場合には開催期間中の大規模会場におけるハイブリッド環境の提供を支援する検討を進めたいと考えています。
また新部門制の本実施に伴い、部門運営の自立性が求められていますが、部門間交流の促進に有効な外部活用を含めた資金投入が重要かと思います。
支部においては、卒業研究発表講演会の優秀な発表者や、特徴のある地元企業、製品・技術に対する一般表彰を実施して頂くようお願いします。
ー2020年度から学会横断テーマを設定して、少子高齢化、カーボンニュートラル、機械・インフラの保守・保全、人材育成について議論を進めてきました。学会横断テーマの成果についてどのように捉えられていますか?
企業所属か否かに関わらず、多くの会員はまさにコンペティティブな領域での活動を主務としており、なかなか学会横断テーマで取り上げられているような話題について、時間を掛けて考えている状況にはありません。機械工学関係者の視座から、このような議論が進められていることに対し、関係者へ敬意を表するとともに、答申に沿った施策を速やかに実行できるよう努めます。
ー2017年に設定した「10年ビジョンに向けた活動方針とアクションプラン」は設定期間の半分が過ぎました。現状の評価や成果についてどのように捉えられていますか?
昨年度の第1回代表会員会に先立って、アクションプランの進捗についてアンケートを実施しました。新型コロナ感染拡大という環境変化もありながら、一定の評価は頂いたものと認識しています。今年度は、数回にわたってアンケートを反復するデルファイ法に類似した手法を用いて、さらに峻別していきたいと考えています。既に達成された課題もしくは解決に至る具体的施策が開始された課題を一旦リストから外し、残課題に注力すべき時期だと捉えています。同時に、次の「(仮称)10年ビジョンII」策定に向けて検討を進めたく、登録人数も増えてきている「若手の会」に積極的な参加を呼び掛けたいと思います。
ーご所属のダイキン工業(株)での業務における考え方と、学会運営に共通することはありますか?
創業以来、社是、グループ経営理念・グループ年頭方針など全ての理念の根底に流れるものとして、脈々と培われてきた暗黙知あるいは企業文化が、「人を基軸においた経営」です。
もちろん一般社団法人である日本機械学会とは、社会における存在理由そのものに違いがありますが、一人ひとりの持つ多様な個性・強みを組織の力に活かすダイバーシティマネジメントには共通点が多々あるものと考えています。また経営理念に掲げている他の項目として「世界をリードする技術で、社会に貢献する」、「地球規模で考え、行動する」、「環境社会をリードする」、「社会との関係を見つめ、行動し、信頼される」などについては、個社として逆に本会の活動を通じて学ぶことも少なくありません。
会員へのメッセージ
私自身、個人会員として、部門長として、また支部長として、その時々の理事会による方針・施策に距離を感じたこともあります。一方で、本会は数値目標設定をし、単純に現状とのギャップを埋めるような合目的な行動規範を求める組織でもありません。そのため、会員一人ひとりの能動的な行動が実現しやすい環境を醸成するには、幅広くご意見を伺う機会が必須であると考えています。
昨年度は、加藤会長の会長・支部役員懇談会に随行し、また複数の支部総会講演会、部門講演会に参加して会議の様子を傍聴し、出展企業の方とも意見交換しました。各組織を取り巻く環境による個々の事情を反映した巧みな運営や、想像を超えた本会の活用方法や更なる期待を拝聴いたしました。
本年度も支部や部門のイベントで表彰や挨拶などお役に立てそうなことがあれば、日程の許す限りこちらから出向いて、会員の皆様と直接お話をさせて頂きたく思っております。
2023年度(第101 期)運営方針と重点施策
2023年度(第101期)運営方針
1.本会のブランド価値と機械工学関係者の社会的地位の更なる向上
2.新部門制の本実施スタートによる部門間連携の強化
3.財政の健全化と本会の価値向上に向けた事業投資の具体化
2023年度(第101期)重点施策
1.本会のブランド価値と機械工学関係者の社会的地位の更なる向上
✓学術誌の質向上(投稿数、掲載数アップの施策)
✓機械遺産の見直し(機械遺産の総合的な見直しWGからの提案の実行策具体化)
✓若手の会、LAJ、JSME-IUの支援強化
✓技術者継続教育の拡充(技術者継続教育検討WGからの答申の実行策具体化)
✓機械の日、機械週間の見直し(エンジニア塾の支部展開など)
2.新部門制の本実施スタートによる部門間連携の強化
✓新部門制本実施のスタート
✓分野連携の加速(分野連携委員会における連携企画の実行)
✓学会横断テーマ(論点整理と議論のためのプラットフォーム提供)
✓分科会・研究会の再編
3.財政の健全化と本会の価値向上に向けた事業投資の具体化
✓年次大会の活性化(年次大会活性化検討WGからの答申の実行策具体化)
✓情報の事業化加速(情報の事業化検討WGからの答申の実行策具体化)
✓個人ポータル機能の導入(個々の会員が必要とする情報を迅速かつ的確に提供)
✓機械工学振興事業資金の見直し(機械工学振興事業資金およびその助成事業の 体制見直し WGからの答申の実行策具体化)
✓会費を投入すべき事業と規模の施策展開
✓会費体系の見直し(継続検討)