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2023/3 Vol.126

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やさしい制御工学

第3回 ブロック線図

村松 久圭(広島大学大学院)

 

1 ブロック線図の基本

システムの入出力関係を視覚的に示すため、ブロック線図が有効である。本稿は線形時不変システムのブロック線図作図方法と変形則を紹介する。ブロック線図は図3.1のように、矢印で入出力を、白丸で足し引きを、黒丸で分岐を、四角で伝達関数を書き表す。システム内に制御器(計算機)とプラント(制御対象)が存在する際、右側にプラントの伝達関数を、左側に制御器の伝達関数を記載するのが通例である。特に、現実世界において現象として存在する伝達関数と、エンジニアが計算機へアルゴリズムとして実装する制御器の伝達関数を分離して作図することは重要である。これにより、エンジニアが計算機上で実装するアルゴリズム、制御器からプラントへの入力、そして制御器がフィードバックに必要とするセンサが明確になる。さらに、一番左の矢印を指令、一番右の矢印を応答とし、システム全体の入出力関係もまた明確になるように作図する。

図3.1 フィードバック制御システムのブロック線図

2 ブロック線図の変形

ブロック線図の変形は伝達関数の導出および制御器の実装に有用である。まず、図3.2へブロック線図の移動則を示す。ブロック線図上での加減算は図3.2(a)および図3.2(b)のように伝達関数の前後へ対応する伝達関数を掛け合わせることで移動できる。図3.2(a)の場合、伝達関数$G(s)$を事前に$\mathcal{L}[y]$へ掛け合わせ$\mathcal{L}[r]=G(s)(\mathcal{L}[x]+\mathcal{L}[y])$の関係が崩れないように変形されている。また図3.2(b)の場合、伝達関数$1/G(s)$を事前に$\mathcal{L}[y]$へ掛け合わせ$\mathcal{L}[r]=G(s)\mathcal{L}[x]+\mathcal{L}[y]$の関係が崩れないように変形されている。なお、ブロック線図上での割り算は$1/G(s)$のように掛け算で表記する。同様に、ブロック線図上の分岐もまた図3.2(c)および図3.2(d)のように変形できる。さらに、$G(s)H(s)=H(s)G(s)$を利用すれば図3.2(e)のように計算の順序を入れ替えることもできる。

図3.2 ブロック線図の移動則

次に、図3.3へブロック線図の統合則を示す。図3.3(a)のように$\mathcal{L}[y]=(G(s)+H(s))\mathcal{L}[x]$を保つようにブロック線図上の加算は統合できる。乗算もまた図3.3(b)のようにまとめられる。さらに、図3.3(c)左のようにフィードバックを有するブロック線図は図3.3(c)右のような伝達関数へ統合できる。例えば図3.1においては、図3.3(c)と比較すると$G(s)=C(s)P(s)$および$H(s)=F(s)$が得られ、指令$\mathcal{L}[x]$から応答$\mathcal{L}[y]$までの伝達関数は図3.3(c)右へ代入することで

\[ \frac{G(s)}{1+G(s)H(s)}=\frac{C(s)P(s)}{1+C(s)P(s)F(s)} \] (1)

と簡単に求められる。図3.2および図3.3に示す8つの変形則は覚えておくと便利である。

図3.3 ブロック線図の統合則

3 多入力を有するシステムのブロック線図

図3.4のように、多くのシステムは制御指令に加えて外乱やセンサ雑音といった複数の入力を有する。そういった複数の入力を有する多入力系のブロック線図においても、それぞれの入力に対して独立にブロック線図の変形を考えることで、伝達関数を簡単に導出することができる。外乱と雑音を無視し、図3.4の指令$\mathcal{L}[x]$から応答$\mathcal{L}[y]$への経路を図3.3(c)と比較すると、$G(s)$、$H(s)$、および伝達関数は

\[G(s)=C(s)P(s),\ H(s)=F(s)\] (2a)
\[\frac{\mathcal{L}[y]}{\mathcal{L}[x]}=\frac{C(s)P(s)}{1+C(s)P(s)F(s)}\] (2b)

のように得られる。指令と雑音を無視し、外乱$\mathcal{L}[d]$から応答$\mathcal{L}[y]$への経路を比較すると

\[G(s)=1,\ H(s)=C(s)P(s)F(s)\] (3a)
\[\frac{\mathcal{L}[y]}{\mathcal{L}[d]}=\frac{1}{1+C(s)P(s)F(s)}\] (3b)

が得られる。指令と外乱を無視し、雑音$\mathcal{L}[n]$から応答$\mathcal{L}[y]$への経路を比較すると

\[G(s)=-C(s)P(s)F(s),\ H(s)=-1\] (4a)
\[\frac{\mathcal{L}[y]}{\mathcal{L}[n]}=-\frac{C(s)P(s)F(s)}{1+C(s)P(s)F(s)}\] (4b)

のようになる。ここで、式(4)を求める際に、応答から雑音へ負のフィードバックは行われていないが、等価的に$H=-1$を有する負のフィードバックとみなすことで図3.3(c)を利用している。これらを足し合わせることにより、応答$\mathcal{L}[y]$の応答が得られる。

\[
\begin{split}
\mathcal{L}[y] = {}& \frac{C(s)P(s)}{1+C(s)P(s)F(s)}\mathcal{L}[x] + \frac{1}{1+C(s)P(s)F(s)}\mathcal{L}[d] \\
& -\frac{C(s)P(s)F(s)}{1+C(s)P(s)F(s)}\mathcal{L}[n] \end{split}
\]
(5)

図3.4 指令$x$、外乱$d$、および雑音$n$を有するブロック線図

例題:入力を力$f$出力を位置$x$とするばね質量ダンパ系

\[m\ddot{x}+c\dot{x}+kx=f\] (6)

のブロック線図を積分器$1/s$を用いて描け。なお、初期速度$\dot{x}(0)$と初期位置$x(0)$は零とする。

解答例:式(6)をラプラス変換すると力$f$から位置$x$への伝達関数は

\[\mathcal{L}[x] = \frac{1}{ms^2+cs+k} \mathcal{L}[f]\] (7)

となる。これを

\[\mathcal{L}[x] = \frac{\dfrac{1}{ms^2}}{1+\dfrac{cs+k}{ms^2}} \mathcal{L}[f]\] (8)

のように変形および図3.3(c)と比較し、$G(s)=\frac{1}{ms^2}$および$H(s)=cs+k$が得られる。さらに、

\[H(s) \mathcal{L}[x]=cs \mathcal{L}[x]+k \mathcal{L}[x]=c\mathcal{L}[\dot{x}]+k \mathcal{L}[x]\] (9)

を利用することで、積分器$1/s$を用いたブロック線図が図3.5のように描ける。

図3.5 ばね質量ダンパ系のブロック線図


<正員>

村松 久圭

◎広島大学大学院 先進理工系科学研究科 助教

◎専門:ロボット工学、機械力学、制御工学


 

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