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2023/2 Vol.126

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Myメカライフ

タービンに魅了された者

髙田 亮〔三菱重工業(株)〕

この度、『二相流計測技術の確立と信頼性・性能を両立する蒸気タービン翼形状の開発』というテーマで日本機械学会奨励賞(技術)を受賞したことに際し、執筆の機会をいただきました。これまでを振り返りつつ研究テーマへの想いや今後の展望について、紹介させていただきます。

私は、エネルギー資源の枯渇問題を解決するために、地熱発電などの再生可能エネルギーの研究開発がしたいと思い三菱重工業に入社しました。地熱蒸気タービンでは、地下のマグマで熱せられた蒸気が音速を超える高速の二相流となり、僅か0.01秒のオーダでタービンの入り口から出口まで駆け抜けていきます。そして、その二相流体が時速2000km/hのオーダで回転するタービン動翼に衝突すると、『雨垂れ石を穿つ』ドレンアタックエロージョンが発生しタービンを壊す要因になります。また液滴衝撃に伴う回転動力低下や液滴せん断流れのためにタービン効率も低下します。そのため、信頼性が高く高効率なタービンを開発するためには、タービン内部の高速二相流現象を定量的に把握し、その複雑な相互作用を制御するタービン翼を創出する必要があります。

受賞したテーマでは、そのタービン内部流動を明らかにするために、タービンの高速気流中の液滴径と量をレーザにより非接触で計測する光学プローブを開発し、また翼面に付着した液量を断熱環境下で気液二相分離して高精度に計測する手法を確立しました。この二つの計測技術を用いて、エロージョン抑制と性能向上を両立する新型翼を開発し、実機蒸気タービンにて定量的にその効果を実証しました。蒸気タービン内の二相流メカニズムをここまで定量的に計測し、翼形状の改良による液除去性能の向上効果を実機計測にて明らかにしたのは世界的にも初めてのことでしたので、本番の実機試験で計測が成功するか、開発翼の性能が得られるか、ハラハラドキドキの連続でした。無事試験に成功し、開発翼を適用した製品がお客様に採用され、エネルギー問題の解決という社会貢献へと着実に繋がっていったことが嬉しかったです。入社以来、陸、海、空、宇宙のターボ機械製品の研究開発に携わり、高温のガスタービンから低温の冷凍機までさまざまなタービンを開発してきましたが、この一連の蒸気タービンの研究開発は、その技術の根幹になっていると思います。

さて、タイトルから薄々気付いたかもしれませんが、筆者は『タービンがシンプルに好き』です。魅力を感じてやまないのは、その『機能美』です。100万kWもの電力を生み、ロケットや飛行機を飛ばす原動力が、グッと濃縮されて日本刀のように研ぎ澄まされた機能美。衝撃波、二相流、空力、遠心力、スラスト力、翼振動、軸振動、リーク、熱、腐食etc…さまざまな異なる物理をミックスしたメカ設計を経て辿りつくタービン形状の、なんて芸術的な佇まいでしょう。

昨今、エネルギーに関して、環境汚染、貧困、資源枯渇、脱炭素、安全保障、経済性、etc…と多様な観点から以前にも増して議論が闊達になってきたのは喜ばしいことですが、どれか一つの観点に囚われ排他的な議論に陥らないよう注意が必要と思います。いろいろな考え方を持つ人々が、異なる考え方を排他せず検討していくことが、エネルギー問題を解決するためには重要だと思います。ターボ機械をはじめ、機械製品というのは、異なる分野の技術・課題をバランスよく組合せて成立しています。何か一つだけに傾倒するのではなく、他を尊重し、異なる物理をバランスよく組み立てる。これこそが機械工学のノウハウであり、世界のエネルギー問題を解決に導く原動力になると思っています。今後もタービンの機能美に惚れた10年前の初心を忘れずに、頑張っていきたいと思います。

左:実証試験タービン 右:開発した光学プローブ


<正員>

髙田 亮

◎三菱重工業(株) 総合研究所 ターボ機械研究部 主任研究員

◎専門:機械工学、圧縮性流体、二相流体

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