学会横断テーマ「持続可能社会の実現に向けた技術開発と社会実装」
地球は今まさに岐路!横断テーマの概要と今後のエネルギー社会論
まえがき
機械学会は社会的課題に対する学会の取組みを会員および一般市民に示すことを目的として、2020年に4つの学会横断テーマを設定した。この中の一つに「持続可能社会の実現に向けた技術開発と社会実装」があり、筆者はそのリーダーを仰せつかった。常日頃から筆者は地球温暖化を心配しており、即座に本テーマを2050年に向けたゼロ炭素社会形成のための議論の場とすることにした。
今回の特集号は本学会横断テーマの概要説明と2021年および2022年に開催したフォーラム講演者による寄稿、ならびに3人による座談会をまとめたものである。
その冒頭の本稿では、このテーマ設定の目的ならびに経緯の概要を紹介するとともに、この場を借りて筆者自身の数十年にわたるエネルギー研究の経験から見出したエネルギー選択に関する持論(1)(2)を紹介させてもらうこととした。エネルギー選択に関する議論や講演は実に多くあるが、筆者の持論とそれらのさまざまな意見とを対比することによって、皆様のお考えの整理に役立つならば誠に幸いである。
学会横断テーマの目的とこれまでの経緯
学会横断テーマ設定の背景とフォーラム企画
機械学会は2017年に創立120年を迎え、「新生『日本機械学会』の10年ビジョン」を策定した。このビジョンでは、複雑化する社会の要請に応え、横断的総合技術としての機械工学の強みを活かすため、分野間の連携と産学連携の重要性を謳った。この対応の一つとして2020年度から4つの「学会横断テーマ」がスタートした。それらテーマとリーダーは下記に示すとおりである。
①少子高齢化社会を支える革新技術の提案: 佐久間一郎(東京大学)
②持続可能社会の実現に向けた技術開発と社会実装: 近久武美(北海道職業能力開発大学校)
③機械・インフラの保守・保全と信頼性強化: 井原郁夫(長岡技術科学大学)
④未来を担う技術人材の育成: 山本誠(東京理科大学)
筆者が担当した「持続可能社会の実現に向けた技術開発と社会実装」なるテーマは実に幅広いが、エネルギーを専門とする筆者にとっては炭酸ガス削減のためのエネルギー技術に関して種々の企画を行うものと解釈した。ちょうど2020年10月に当時の菅内閣は2050年カーボンニュートラル宣言を行い、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロとすることを国際公約した。温暖化対応に消極的だった我が国としては実に画期的な宣言と言える。しかし、それから数年が経っているにもかかわらず、具体的な道筋が明示されないまま、目標達成につながるとは思えないような意見を含むさまざまな議論が交わされているのが現状である。そのため、毎年開催されているCOP国際会議では連続して「化石賞」を受ける有り様となっている。
炭酸ガス削減に関する講演会は山ほどあるが、いずれもさまざまな難しさを提示するのみで、将来に向けた私たちの選択に示唆を与えるようなものはほとんど見当たらない。これは現在の立場から今後変えるべき方向を見出そうとするために、目先の細かな難しさに囚われがちとなることによるものである。その点、2050年の理想的な社会から逆算するならば、達成に至らない選択肢は除外され、自ずと選択すべき道筋は見えてくると思われた。さらに、視点を変えるならばエネルギー自給のほか、資金の自国内循環による経済活性化にもつながる可能性も見えてくる。
そこで、2050年を見据えた幅広い視点で今後選択すべき技術の方向性について論ずるフォーラムを、2021・22年度の年次大会において開催した。2021年は手始めにエネルギー全体論ならびに電力および運輸部門に関して専門家から講演をいただいた。また、2022年のフォーラムではさらに2050年社会像を強く意識した視点で、特に電力系統に主眼を置いた講演をいただいた。それらの講演概要は本特集号における講演者からの寄稿に示されるとおりである。
今後はさらに運輸部門および主要炭素排出産業部門に的を絞り、同様なフォーラムを企画していく計画である。これらの企画を通して多くの方に問題意識と発想のきっかけを与えることができれば幸いである。特に若い機械工学分野の学生・研究者に対して、何らかの刺激になることを願っている。
なお、テーマの具体的な企画にご協力いただいた方々は末尾の表に示すとおりである。
地球温暖化の危機と対応の現状
今の対応のままでは次世代が大変なことになる
ほとんどすべての人が知っているように現在地球温暖化が問題視され、パリ協定の達成を目標としてさまざまな議論がなされている。しかし、各国や各組織の事情が先行し、このままではとてもパリ協定が目指す2050年のカーボンニュートラル社会は実現できそうもない。それらの取組みの中でヨーロッパの努力は先行しており、市民は高額な電力価格を受け入れて炭素税や再生可能エネルギーの優先買取りの仕組みを導入し、すでに顕著な成果を挙げている。その結果、現在では化石燃料や原子力に比べて再生可能エネルギーの方が割安なレベルにまでなりつつある。
これに対して我が国は市民や産業界の反発もあって、ヨーロッパで行われているような化石燃料の利用を不利にするような思い切った仕組みは全く導入されていない。そして単に技術開発やわずかな補助金によってこれを打開する模索を続けているのが現状である。そのため、政府として2030年および2050年の炭素排出削減の目標値を設定したものの、ほとんど社会変革は進んでいない。その結果、気候変動に関するCOP国際会議において経済・技術力の割に努力が最も足りない国に授与される「化石賞」を不名誉ながらここ数年連続してもらっている有り様である。
さて、地球温暖化はなぜ生じ、それが進行するとどのようなことになるのだろうか。これについて理解している人は必ずしも多くなく、またこれに関して懐疑的な知識人も多い。
1900年代の産業革命以降、人類は驚くべき速度で石炭・石油・天然ガスなどの化石燃料を消費し始め、その結果、図1に示すように大気中の炭酸ガス濃度が目立って上昇している。そして、それに対応するように地球の平均気温が図2に示されるように急上昇している。何億年もかけてようやく蓄積した化石燃料をこの短期間に急激に燃やしているのだから、何らかの気候変動が起きても不思議ではない。
炭酸ガスは温室効果ガスの一つであり、その濃度が増加すると地球全体が温室の中に入ったような状態となる。図3に示すように高温の太陽から発せられる光は可視光を含む比較的波長の短い光が多い。これに対して闇夜の物体は見えないのと同様に、地球から宇宙に放出される光は人の目には見えない長波長の赤外線が中心となっている。温室のガラスやビニールは可視光を透過するものの赤外線は透過しない特徴を持っており、そのために温室は暖かいのである。炭酸ガスはこのガラスと同様な性質を持っており、図3に示すように赤外線領域に吸収帯がある。水蒸気も温室効果ガスの一つであり、炭酸ガスよりもはるかに濃度が高く、また温室効果の赤外線波長範囲も広い。したがって水蒸気に比べて極わずかな炭酸ガス濃度の上昇が地球温暖化に影響するとは限らないと疑問視する意見が出てくる。しかし、炭酸ガス濃度の上昇によってわずかに平均気温が上昇すると、それに伴って水蒸気濃度も上昇し、その相乗効果によって顕著な温室効果となるのである。人類が消費している程度のエネルギーによって気温上昇することはないが、温室効果ガスの増大によって宇宙に逃げるエネルギーがわずかに減少すると目立った気温上昇を生じることになる。
では、地球温暖化が進むとどのようなことが生じるのだろうか。気温上昇すると大気中の飽和水蒸気圧は指数関数的に増加する。したがって地表からどんどんと水が蒸発する一方、冷たい空気が侵入してくるとそれらが大雨となって降水することは容易に理解できる。そのため、干ばつが進み砂漠が広がるほか、とんでもないような大雨が時々降る地域が広がることになる。また、南極の氷河が融解し、多くの地球上海岸線の平地が海中に没する。さらに、シベリアやカナダの針葉樹林帯が草原に変わり、ますます炭酸ガスが増えることになる。我が国においても近年は晴れた日が多くなった一方、集中豪雨や大型台風がしばしば発生するようになったこととよく付合している。
以上より、我々が今パリ協定を守らなければ、孫子の代はとんでもないような気候となり、それに伴って食糧確保も大変となる時代になるのである。まさに地獄的な地球環境となる。数千年にわたる人類の文明期間の中で、私たちの世代だけでこのように地球を破壊しつつある事実を強く認識しなければならない。
図1 過去1,000年間の大気中二酸化炭素濃度の変化
(IPCC, 2001/ Houghton et al. を基に作成)(1) (2)
図2 過去1,000年間の世界平均気温変化
(IPCC, 2001/ Houghton et al. を基に作成)(1) (2)
図3 黒体からの発光スペクトルと二酸化炭素および水蒸気の吸収スペクトル(1) (2)
バックキャスティングから見た選択肢
2050年の理想像から選択肢を逆算してみよう
2050年までにパリ協定目標が達成され、カーボンニュートラル社会が実現するとどうだろうか。人々は今と同じような量のエネルギーを使いながら食糧も確保され、これまでと変わらない四季や美しい自然を今と同様に享受できる。上述した地獄的環境とは全く逆の理想郷となるのである。
この社会における1次エネルギーは再生可能エネルギーが主体となるのは明白である。なぜなら、原子力に必要なウラン235は資源量がわずかであり、高速増殖炉技術や核融合技術はこの時代までには見通しがつかず、加えて大きな副次的懸念事項を必然的に伴うからである。したがって、私たちは2050年までに主として再生可能エネルギーに基づく社会を作らなければならない。このことがバックキャスティングの起点となる。
再生可能エネルギーの主体は風力、太陽光・熱、バイオマスとなる。水力や地熱などもあるが資源量は限られている。そうすると電力系統は風力や太陽電池からの電力を極力電気のまま利用する形態となる。これらの1次エネルギーは変動が大きいため、蓄電や水素に変換して変動対応することになる。また、電力需要側を発電側に同調して調整するディマンドコントロールも重要となる。すなわち、発電量の多い時に電力を多量に使い、少ない時には需要を抑制するのである。ヒートポンプや地域熱供給と連携し、電力供給が多い時間に積極的に熱製造を行うようなセクターカップリングも有効となる。
一方、余剰電力で製造された水素は運輸部門や産業部門で大いに利用されることになる。特に水素は電気に比べて移動体燃料として適しており、一部の電気自動車を除いて、自動車、長距離バス・トラック、農業・建設機械、船舶などにおいて利用される。この動力源には燃料電池が用いられるほか、用途に応じて水素内燃機関も有効となるだろう。この場合、水素タンク容量が問題となるが、計画的な使用が可能なものには液体水素、そうでないものには高圧水素タンクが用いられる。その他、重量や熱交換が問題視されない場合には、水素吸蔵合金や有機ハイドライドの利用もある。航空機燃料では特に重量・体積エネルギー密度が問題となる。その場合には、液体水素もしくはバイオ燃料が利用されることになろう。その点、廃棄バイオマスや糞尿からのメタンガスなどから作られるバイオマス燃料は貴重な燃料となる。
同様に産業部門においても、基本は電気もしくは水素に基づくエネルギー利用となろう。それらを極力利用する工程を開発するほか、炭素を必要とする過程ではバイオマスから合成するような技術も導入されることになるだろう。
日本にはエネルギーは輸入するものという先入観があるが、このようなエネルギー社会では大いに自給が可能となる。日本における再生可能エネルギー導入可能量を調べると、十分なポテンシャルがあることがわかる。特に世界が再生可能エネルギーに依存することになる2050年代では、海外からこれらを輸入することが難しくなるものと思う。さらに次節で論ずるような経済効果を考えるならば、エネルギー自給国家を目指すのは当然と言える。
以上、ゼロカーボン社会からバックキャスティングすると、再生可能エネルギーを1次エネルギーとし、そこから作られた電気・熱や水素を主軸とするエネルギー社会になるものと思われる。この場合、コストが問題となるが、これについては次に論ずる。
エネルギー危機は経済変革のチャンス
再エネ主体社会の形成はむしろ経済活性化につながる
上述したような再生可能エネルギーを主体とする社会を提示した場合、必ずコストに対する懸念が生じる。現在の風車や太陽電池の世界標準コストから推定すると、2050年頃には現在の化石燃料よりもむしろ安いエネルギーになっているものと思う。しかし、そうした社会を形成するまでには相当のコスト増を覚悟しなければならない。まず、現在比較的高額な再生可能エネルギーシステムを大量に設置しなければならない。さらに、エネルギー貯蔵や利用のための機器設備を設置・更新しなければならない。したがって膨大なコストが新しいエネルギー社会の形成に必要となる。
しかし、これを経済と雇用の視点から見ると、また違った関係が見えてくる。図4は1980年から2016年の間の実質GDPを示したものである。リーマンショックなどによる多少の凸凹はあるものの、概して増大し続けていることがわかる。私たちは経済の発展をGDPで捉え、それを増大することが国民の幸福につながると考えている。しかし、図5はこの間の平均給与、失業率および自殺率を示したものである。GDPが一昔前よりも高くなっているはずの最近はむしろ失業率や自殺率が高くなっている。このことはGDPの向上と失業率とは対応しておらず、幸せな社会を作るにはGDPよりもむしろ雇用の拡大・失業率の低下が重要であることを示唆している。
そこで、次にコストと雇用の関係について考えることにしよう。図6は社会における各種事業主体が提供するサービス(Si)と受け取る対価(Gi)の関係を示したものである。このままでは複雑なので、二人の関係に単純化したのが右図である。二人はさまざまなサービスを提供し、その対価で相手のサービスを購入することを繰り返している関係となる。この間、お金はキャッチボールされているだけであり、全体量は変わっていない。このキャッチボール回数が多くなると互いに豊かになり、受け取るサービスが増えることになる。ここで、コストを削減し、雇用者を少なくするとキャッチボールの輪が次第に縮小していき、貧しい社会となる。したがって大切なことはできるだけ多くの人をこのキャッチボールの輪の中に組み入れ、サービスと対価のやりとりの輪を大きく保つことである。ここでコストの高い・安いは問題とはならない。価格が高ければそれによって得る収入も大きくなり、それが次の購買力になっている。この場合、コストの変化によってやり取りするサービスの内容は変わるが、互いに必要な所得を得るだけのサービス関係となっているのは変わらないのである。
このように考えると、エネルギーのコストが高くなったとしてもそれが国民の誰かの収入になっているのであれば国民の間でお金が循環し、必要なサービスがやりとりされているわけで、特段問題はない。この点、将来の選択肢議論の基準となる現在のエネルギー価格は、その大部分が海外に流出している構造となっており、国民の雇用に結びついていない。
我が国の産業別正味輸出入額を調べると、自動車や機械製品を輸出しながら大量の化石燃料を購入していることがわかる。したがって、前述したような再生可能エネルギーを主体とした社会づくりは仮にコスト増になるとしても、そのコストの多くが国民の雇用として内部循環することになるので、現在よりも活性化した経済社会を実現することができるのである。
ここで、風車や太陽電池などは海外製であり、国内の雇用につながらないのではと懸念されるかもしれない。しかし、それらの設置やメンテナンスに関わる費用を簡単に計算すると石炭火力なみであり、石油や天然ガスに比べてはるかに国内雇用効果が高い(1)(2)。
以上より、2050年に向けた再生可能エネルギー主体の社会形成は目先のエネルギーコストは上がるものの、それに関連するお金が国民の雇用として内部循環し、現在よりもはるかに経済発展するチャンスになり得ると言える。
図4 わが国の実質GDPの変化(1) (2)
図5 わが国の失業率、自殺率および平均給与の変化(1970~2017)(1) (2)
図6 社会におけるサービスと対価の関係(S: サービス、G: 対価)(1) (2)
エントロピー的格差論と市民参加概念
格差を理解する一方、市民参加の仕組みを考えよう
さて、前述したようにGDPの変化と失業率は必ずしも対応していない。これには格差の増大が一部関係している。そこで、できるだけ多くの雇用を確保し豊かな社会を作る上で、格差が生じるメカニズムを理解することは有用である。面白いことに、機械工学の基礎科目である熱力学の中にエントロピーという概念があり、それを用いると格差が生じる背景を理解することができる。
今、7個のパンを7人に分配する場合の組合せの数を考えてみよう。例えば一人が7個を独り占めする場合の組合せの数は7つとなる。それは7人の中から一人を選ぶやり方は7通りあり、その人に7個のパンをあげれば良いからである。一方、皆に一個ずつパンを配分する場合の組合せの数は1通りしかない。このように考えながら最大の組合せのケースを計算すると、パンを3個取得する者が1人、2個が1人、1個が2人、そして何も当たらないのが3人となる場合となる。すなわち豊かなものが少数いて、貧しい者が多数となるケースが最も確率が高いのである。
この確率に関するのがエントロピーであり、人とパンの数を多くするとその分布は図7に示すようなマックスウェル・ボルツマン分布となる。エントロピーは状態の成りやすさ、安定性を示す指標であり、自然現象はエントロピーが最大になるように変化しようとする。したがってエントロピーを用いると貧富の格差形成を実によく理解することができ、それはごく自然の姿であることがわかる。ここで経済を活性化し、パンの数を増やしてもそのほとんどは豊かな者に行ってしまい、貧しい人にはわずかしか渡らない。
この自然原理を理解し、金持ちから貧しい人にお金を回す何らかの仕組みにより雇用を増やすことを考えなければならない。その点、再生可能エネルギー社会は雇用機会が増えるので、工夫次第でより良い社会づくりにつながる可能性が大きい。
次に再生可能エネルギー社会を形成する際に考えるべき重要な2点について論じよう。まず一つは、地方自治体における都市計画立案の必要性である。近年、多くの市町村がゼロカーボン都市宣言をしているが、風車や太陽電池の設置は申請の許認可を行うのみで、受動的である。これならばとても計画的な都市づくりはできない。土地所有者によるさまざまな反発を気にしないで、民有地を含めた都市計画をまず立案すべきである。さもなければ、勝手気ままに風車や太陽電池が乱立し、景観が破壊されると同時に災害に対しても脆弱な土地利用となってしまう。
第2は再生可能エネルギー立地近隣住民の参加の仕組みである。再生可能エネルギー社会づくりが近隣住民にとっても喜んでもらえるようなものでなければならない。例えば近隣住民に対して有利な条件で出資者になってもらうのはどうだろうか。資金のない人には低利で融資し、最終的には儲かるような仕組みを導入すればよい。そうすればこれらの設備の一部分は近隣住民のものと同等であり、稼働率が上がるほど喜んでくれることになる。近隣の景観の変化や風切り騒音などに対する不快感はかなり違ったものとなろう。
いずれにしても単に再生可能エネルギーを増やせば良いというものではなく、このような配慮も併せて必要と思われる。
図7 エントロピーから求まる貧富のマックスウェル・ボルツマン分布と所得還元概念(1) (2)
まとめと会員に対する期待
以上、本稿において学会横断テーマの経緯や目的を簡単に説明した。また、広いスペースを頂戴してエネルギー選択に関する筆者の持論を紹介させていただいた。パリ協定を実現するには的確なエネルギー選択とその速やかな実行が必要である。ヨーロッパ諸国に比べて具体的な対応の遅い我が国はこれに対して真剣に取り組むとともに、政府の強いリーダーシップが求められている。筆者の持論紹介がそのための議論と意思決定の参考になれば幸いである。
一方、学会は技術的視点に立脚した社会システム構成像をできるだけ早期に示さなければならない。特に横断的総合技術を扱う機械工学はその先頭に立たなければならない。近年、学術分野では研究評価が盛んとなり、本テーマのように範囲が広くて曖昧なものを多く含むテーマは研究対象から敬遠される傾向がある。そこで、機械学会の研究者たちには学術的な研究をこれまでと同様に推進する一方、我が国の将来エネルギー構成に関するグランドデザインを明らかにするような双峰的な取組みを行なってもらいたい。特に若い人たちにはそのポテンシャルがあり、多くの技術的な指針の発信を期待している。
参考文献
(1) 近久 武美, 新しいエネルギー社会への挑戦:原発との別れ, 北海道大学出版会 (2019), pp.1-174.
(2) 近久 武美, 幸せになるためのエネルギー論 − 脱原発から新エネルギーシステム論へ:持続可能な社会への挑戦, 22世紀アート (2022), 電子書籍 〔これは(1)の電子書籍版であり、補遺が新たに加わっています〕
<名誉員>
近久 武美
◎北海道職業能力開発大学校・校長、北海道大学名誉教授
◎専門:機械工学、熱工学、燃料電池