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2023/1 Vol.126

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技術ロードマップから見る2030年の社会

第1回 「技術ロードマップから見る2030年の社会」のレビューの連載にあたって

はじめに

「技術ロードマップから見る2030年の社会」のレビューの連載にあたって

JSME技術ロードマップ委員会は、各部門代表委員からなる部門連携グループを形成し、「JSMEメンバーが考える2050年の社会像実現に向けた技術ロードマップ」の策定・公開をめざして活動している。本活動では、社会が急変する中、将来を予測するのではなく、我々が実現したい2050年の社会像を創発し、それの実現のための新技術や横断分野などの方策を検討している。このようなバックキャスティングの考えを用いて創発した社会像を実現させるためには、社会の潮流や課題を十分に考慮して進めることが重要である。つまり、実現させたい将来に想定される課題に対して、バックキャスティングでその課題解決に必要な技術を導き、社会変化における技術動向を把握することで、創発した社会像実現の技術ロードマップができると考える。さらに、近年、産業・技術動向を俯瞰する情報発信のニーズや将来に向けての技術ロードマップに対する関心が本会会員の中で高まっている。

そこで、2016年に本誌で公開した「技術ロードマップから見る2030年の社会」のレビューを実施・公開を進めることとした。公開にあたっては、2023年1月号から「技術ロードマップから見る2030年の社会」のレビュー版を2分野ずつ連載していき、関連分野が議論して行けるようにする。また、本レビューの連載により、多数の会員からの意見の招集や産学連携・分野融合のコミュニケーションを重ねていき、2024年の特集号での公開を目標に「JSMEメンバーが考える2050年の社会像実現に向けた技術ロードマップ」の策定を目指す。

本報告では、JSME技術ロードマップ委員会の活動を振り返り、これまでの本委員会の活動目的および目標を再確認する。また、時代の急激な変化における技術動向について述べ、さらに、「技術ロードマップから見る2030年の社会」のレビュー版のコンテンツを紹介する。最後に、今後の本委員会の活動と抱負について述べる。

JSME技術ロードマップ委員会の活動

活動を振り返って(1)

日本機械学会における技術ロードマップの策定・公開の組織的な活動は、2007年の本会創立110周年記念事業の一環として開始され、2022年で16年目になる(図1)。当時は、学術的に検証できないことは発表しないことが学会のルールであり、新しい分野を切り開き、未知の領域を議論したり、公表したりという活動は一般的ではなかった。しかし、当時の背景をみると、経済的には、世界の金融市場の不安な状況が続き、リスクに対する警戒感が高まる中で、日本でも景気の低迷が見え始めていた。環境的には、温暖化の主因が人為的な温室効果ガスの増加だとほぼ断定され、環境への影響を予測する報告書が国連でまとめられるなど、不安な将来に備えるための国際的な活動が本格的に開始された。

図1 JSME 技術ロードマップ委員会活動履歴

このような時代の背景もあって、機械技術を始めとする工学に対する社会の期待と要請に応えることも、学会活動の重要な役割であるとの認識が高まった。そこで、JSME技術ロードマップ委員会を立ち上げて、産業界で進めてきた技術ロードマップを共通言語とし、産学連携・分野融合のコミュニケーションを開始した。このようなコミュニケーションの中で、期待する将来の社会像を描いて、その実現のための技術を予測するとともに、工学的な独自の視点に立って情報の策定・公開を継続してきている。2016年には、「技術ロードマップから見る2030年の社会」に対する各部門の技術ロードマップと、部門横断的テーマとして自動運転分野を取りあげて、関連技術ロードマップを特集号に纏めて公開した。しかし、自動運転分野以外にも部門横断テーマによる分野融合の必要性が課題とされていた。その後は、部門連携のワークショップなどで分野融合のコミュニケーションを続けて、2017年は2050年のものづくりに向けた二つの将来ビジョン(Gr. A:みんなで作る健康いきいき幸せ社会、Gr. B: Connected Plants)を提示している(図2)(2)。また、このようなワークショップの活動による実践とともに、バックキャスティングの考え方を用いたロードマップの作成方法の開発も委員会の中で進めてきた(3)(4)。さらに毎年、年次大会では特別ワークショップを企画して、本委員会の活動を紹介するとともに、今後の進め方に対する意見を招集し、活動に反映してきた。

図2 2050年のものづくりに向けた二つの将来ビジョン(2)
(Gr. A:健康いきいき幸せ社会、Gr. B: Connected Planets)

2022年からは、各部門代表委員からなる部門連携グループを形成し、JSMEメンバーが考える2050年の社会像の創発とそれの実現のための新技術や横断分野などの方策をワークショップなどにより進めてきた。また、2050年に向けた4つの社会像(Gr. A:物理的距離から心の距離による都市へ、Gr. B:リアルとバーチャルの調和、Gr. C:働き甲斐と生き甲斐のはざまで、Gr. D:人間と自然、都市と地方、個人と社会が共存する社会)の実現に向けての課題の抽出と技術を融合・複合させイノベーション創出を進めてきている。このような活動を通して「JSMEメンバーが考える2050年の社会像実現に向けた技術ロードマップ」の策定を目指している。

時代の変化と技術動向

時代の急激な変化における技術動向

21世紀初頭の社会像では、新しい知識・情報・技術が政治・経済・文化をはじめ、社会のあらゆる領域での活動の基盤として飛躍的に重要性を増す、いわゆる「知識基盤社会」の時代になっていくといわれていた(5)。現在、21世紀の社会像をさす言葉は「知識基盤社会」以外にも無数の言葉で表されている。創造力時代、感性時代、IT主導社会(デジタル時代)、バイオテクノロジー時代、宇宙科学時代、映像産業時代、生態中心社会、水素社会など、日々変化する社会情勢に影響を受けた言葉が21世紀を表している。一方で、21世紀はとても不安な時代とも言われ、21世紀半ば頃、資源、特に化学原料資源はほとんど枯渇すると予想されている。また、頻繁な異常気象の発生などの環境被害も起きている。深刻な環境被害に伴い、エネルギー使用量や温室効果ガス発生量の低減に対する必要性も日々増している。基本的な資源やエネルギー枯渇事態が起こることに備えて、無公害な資源や持続可能なエネルギー源を開発するために、膨大な投資と多くの国が参加する国際的な取組みの中で、環境規制が急速に策定されている。

もう一つ21世紀の世界の人々に急激な変化を与えたのはCovid-19である。Covid-19の発生直後、世界の 6億人に達する子供たちは登校できず(6)、グローバル企業の55%が遠隔勤務を開始し(7)、国際旅行は88%減少した(8)。Covid-19によって物理的な移動の距離が大幅に減少する中、時代の必要性に応じたビジネスデジタルトランスフォーメーション分野は急成長を果たした。McKinsey(8)によると、Covid-19によって、わずか8週間でビジネスデジタルトランスフォーメーションが5年早められたと分析している。このような時代の急激な変化は人々の仕事、生活、趣味を変えていき、その変化の余波はポストコロナ時代にも、絶えず我々を新しい未来に導くための技術の革新が起きている。医療から製造、小売、ホームに至るさまざまな分野で変化させる活気と創造力、才能を持つ人材と技術が持続的に現れてくると期待できる。公共部門と民間部門の協力で、不可能に見えた過去の問題も解決しようと挑戦をしている。世界的にも高度な技術が積極的に活用され、人々のコミュニケーションの形態も大きく変化している。このような時代の急激な変化における技術動向を把握し、反映することが必要である。

「技術ロードマップから見る2030年の社会」のレビュー

レビュー版のコンテンツ紹介

時代の急激な変化における技術動向を多様な観点から読み取って、公開した情報のレビューを通じて修正・更新していくことも本委員会の重要なミッションである。そこで2016年に策定・公開した、「技術ロードマップから見る2030年の社会」の各部門の技術ロードマップに対して、今の時代の変化を反映させたレビュー版として連載を進める(表1)

2023年1月号の本報告から連載を開始し、2月には、今まで本委員会がワークショップなどの活動を通じて構築している、バックキャスティングの考え方を用いたロードマップの作成方法について掲載する(3)(4)。ここでは、デジタル技術の変化を反映した産学連携・分野融合のコミュニケーションによるロードマップの作成方法を紹介する。3月号からは各分野のレビュー版を2分野ずつ、16のレビュー版を10月号までに掲載する。11月号には自動運転技術で見た部門横断の技術ロードマップのレビュー版を掲載し、2024年1月号に掲載予定の「JSMEメンバーが考える2050年の社会像と新技術や横断分野のロードマップ」に繋げていく。

表1 連載コンテンツ

会誌号 連載コンテンツ
2023年1 月 「技術ロードマップから見る2030 年の社会」のレビューの連載にあたって
2023年2月 ・将来像から作るバックキャスティングによる技術ロードマップ設計
2023年3月 計算力学分野の「技術ロードマップから見る2030年の社会」のレビュー
バイオエンジニアリング分野の「技術ロードマップから見る2030年の社会」のレビュー
2023年4月 材料力学分野の「技術ロードマップから見る2030年の社会」のレビュー
機械材料・材料加工分野の「技術ロードマップから見る2030年の社会」のレビュー
2023年5月 流体工学分野の「技術ロードマップから見る2030年の社会」のレビュー
熱工学分野の「技術ロードマップから見る2030年の社会」のレビュー
2023年6月 エンジンシステム分野の「技術ロードマップから見る2030年の社会」のレビュー
動力エネルギーシステム分野の「技術ロードマップから見る2030年の社会」のレビュー
2023年7月 機械力学・計測制御分野の「技術ロードマップから見る2030年の社会」のレビュー
機素潤滑設計分野の「技術ロードマップから見る2030年の社会」のレビュー
2023年8月 生産システム分野の「技術ロードマップから見る2030年の社会」のレビュー
設計工学・システム分野の「技術ロードマップから見る2030年の社会」のレビュー
2023年9月 ロボティクス・メカトロニクス分野の「技術ロードマップから見る2030年の社会」のレビュー
情報・知能・精密機器分野の「技術ロードマップから見る2030年の社会」のレビュー
2023年10月 産業・化学機械と安全分野の「技術ロードマップから見る2030年の社会」のレビュー
交通・物流分野の「技術ロードマップから見る2030年の社会」のレビュー
2023年11 月 ・自動運転技術で見た部門横断の技術ロードマップのレビュー
2024年1 月 ・特集号「JSMEメンバーが考える2050年の社会像と新技術や横断分野のロードマップ」

今後の展開

機械工学を始めとする工学分野のいっそうの進展に貢献(1)

これまでJSME技術ロードマップ委員会では、機械技術を始めとする工学に対する社会の期待と要請に応え、技術の将来を予測することにより、 社会に情報を発信するとともに社会を先導することをビジョンに活動を進めてきた。

今後は、時代の急激な変化における技術動向を多様な観点から読み取って、我々が実現したい2050年の社会像を創発し、それの実現のための新技術や横断分野などの方策を導いていき、社会全体で共有できる活動を進めて行く。また、社会の課題とニーズを把握し、世界における技術開発の動向、技術の原理・メカニズムとその限界の把握、経済性、産業規模、消費者の動向、社会受容性の変化などを総合的に検討・判断する活動も続けていく。さらに、部門連携を通じて、学会ロードマップの作成・維持・更新や、今後、機械学会として取り組むべき技術開発テーマの抽出・提案、新規ロードマップの策定などを行うとともに、成果の政策などへの反映を図り、機械工学を始めとする工学分野のいっそうの進展に貢献していく。


参考文献

(1) 日本機械学会技術ロードマップ委員会,技術ロードマップから見る 2030年の社会,日本機械学会誌,Vol. 119 No.1170 (2016. 5). 

(2) Yusuke Kishita, Robert Phaal, Yuki Okada, Yutaka Nomaguchi, Tomoaki Yano, Koichi Otomi, “Integrating Backcasting into the Roadmap Design Process for Future Manufacturing: A Japanese Case Study,” Scenario Planning and Foresight 2018, Stream C, Session 3, December 10-11, (2018), Coventry, UK.

(3) Phaal, R., Farrukh, C.J.P., Probert, D.R., “Technology Roadmapping: A Planning Framework for Evolution and Revolution”, Technological Forecasting and Social Change, Vol. 71, No. 1-2 (2004), pp. 5-26.

(4) Yuki Okada, Yusuke Kishita, Yutaka Nomaguchi, Tomoaki Yano, Koichi Ohtomi, “Backcasting-based Method for Designing Roadmaps to Achieve a Sustainable Future,” IEEE Transactions on Engineering Management, Vol. 69, No. 1 (2022), pp. 168-178.

(5) 21世紀初頭の社会像,文部科https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/attach/1409857.htm (2022. 10).

(6) https://www.globalpartnership.org/ (2022. 10).

(7) https://review42.com/resources/remote-work-statistics/ (2022. 10).

(8) https://www.mckinsey.com/capabilities/mckinsey-digital/how-we-help-clients (2022. 10).


<フェロー>

山崎 美稀

◎技術ロードマップ委員会 委員長

 (株)日立ハイテク ものづくり・技術統括本部

◎専門:環境配慮材料設計・生産加工システム技術、

 製品企画論、技術開発戦略策定

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