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2023/1 Vol.126

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特集 学会横断テーマ「機械・インフラの保守・保全、信頼性強化」

ロボティクス・メカトロニクス部門の取組みと期待

大野 和則(東北大学)・藤田 淳〔三菱重工業(株)〕

ロボティクス・メカトロニクス部門の取組み

ロボティクス・メカトロニクス部門は、2022年で設立34年を迎え、現在の1位部門登録者数は、約2000名、1位~3位は約4500名の大きな部門となり、活発な学会活動を進めている。

ロボティクス・メカトロニクスに関する当部門の研究および技術領域は大変広範囲におよび、我々の生活において世の中で目にするほぼすべてのモノ(例えば、日本の代表産業である自動車や家電、農業機器や医療機器、インフラ保守・保全から娯楽に至るまで)に何らかの形で関わりがある。そして、その研究分野では、機構や構造といったメカニズムと、情報処理や制御理論、これに付随してセンシング・通信・パワエレ・確率論・システム設計・人や生物との関わり・VRなどの書ききれないほどの研究要素があり、これらは今後増大し続けると考えられる。このような広い技術領域をカバーしていることが、我々の部門の特徴で、自身の専門領域で得られた日々の研究成果は、同じ専門領域は勿論のこと、他の専門領域の研究に密接に、時には偶然に影響を与え、部門全体が大変活発に研究・開発を行っている。

研究・開発成果の発表や情報共有の場とし、部門最大行事である学術講演会「ロボティクス・メカトロニクス講演会(ROBOMECH)」を毎年開催している。2022年は札幌で開催され1751名の方が有料参加登録された。2023年は名古屋での開催を予定しており、例年同様に活発な成果発表がされると期待している。また国際化活動の一環として、2014年よりロボティクス・メカトロニクス部門の欧文誌“ROBOMECH Journal”がSpringer社よりオープンアクセスの電子ジャーナルとして創刊され、多くの研究成果を世界へ発信している。

研究・開発活動の活性化を継続させる取組みとして、部門特有の表彰制度を設け、優れた学術的業績・技術開発・功績、若手の優秀講演に対する表彰を行い、人材育成を含めて産学両方面が発展するよう、部門として活動に力を入れている。

その他では、部門技術委員会および地区技術委員会によって、多数の特別講演会・見学会が企画・実施され、地域活性化活動の一環として、地区で開催されるロボメカ・デザインコンペなどの活動の支援も行っている。

近年では、部門運営に携わるメンバーを産業界と学術界の両方から可能な限り起用するようにしている。産学の連携を強化するとともに、産業界の学会員数を増やすよう取り組むことで、部門のさらなる活性化を目指している。研究機関の学生をはじめとする研究の最前線にいる若手研究者と、安全で豊かな社会を創造するために研究成果を製品として実現させる産業界との関係を強固にすることで、将来の就職先や共同研究先のマッチングの一助になるなど、両者良好なWin-Win関係を実現させたいと考えている。

機械・インフラの保守・保全や信頼性強化へのロボティクス・メカトロニクス技術の適用検討

インフラの保守点検は、既存設備の老朽化更新というニーズからここ10年ほどで大きな問題となっている。現有のインフラとしての機能性能をできるだけ止めることなく、点検・修理・交換といった作業が要求され、作業内容や環境条件によって、大変な難題となる。この解決に、ロボティクス・メカトロニクスの技術を用いることで、安全に迅速に作業を完遂できる可能性があると考える。

例えば、物理的な要因や安全性確保の観点から、人のアクセスが困難な環境条件としては、埋設配管やトンネル内壁、山間部の送電線や支柱の保守・保全が考えられる。また、さまざまな理由から現有インフラの保守・保全をせず、代替設備を新設することでインフラの維持を選択する場合も考えられる。老朽化したトンネルや橋を廃止し、新たな幹線道路となるバイパスを新設する場合が考えられる。

前者では人がアクセスして行っていた作業に代わり、アクセス性能に長けたロボットに作業を代行させる技術の研究が適用できる可能性がある。後者では広大な工事範囲に多くの作業者を要した工事に、機材運転の自動化に関する研究が適用できる可能性がある。

次章より、これらを解決できる可能性を示す例として、当部門の幅広い技術領域の中から、関連技術や研究を紹介したい。

機械・インフラの保守・保全への部門の貢献

機械・インフラの保守・保全に貢献するロボティクス・メカトロニクス技術の研究開発が行われている。背景に、社会全体の労働人口の減少と高齢化による労働人口の減少に対して、ロボティクス・メカトロニクス技術を利用して保守・保全の軽労化や自動化を行いたいという社会的ニーズが存在しているからである。技術が適応される環境や保守・保全の点検項目に合わせて、センシング、メカニズム、制御や自動化のための知能の研究開発が行われている。ここではいくつかの例を紹介しながら、ロボティクス・メカトロニクス部門の保守・保全への貢献を紹介する。

図1 プラント設備を自動点検するクローラロボット(1)(2)

プラント設備の点検を自動化する防爆クローラロボットが研究開発されている(図1)(1)(2)。従来は人が目視で行っていた設備やメータなどの点検を、カメラやセンサやマニピュレータを搭載したクローラロボットが自動巡回し代替する方法の実証実験が行われている。また、橋梁やトンネルなどのインフラの目視点検や打音点検を支援するドローンが研究開発されている(図2)(3)。点検のための車両や交通規制や足場の設置を必要とせずに、近接映像の撮影と映像を利用した点検が可能になる。インフラの保守・保全の初期の情報収集や軽労化に有効な方法である。

図2 橋梁の目視点検を支援する受動回転球殻ドローン(3)

インフラ構築の自動化の試みも存在している。既存の大型ダンプトラックの運転席に後付運転ロボットや制御ボックスを搭載して土砂の運搬を自動化するレトロフィット技術が研究開発されている(図3)(4)。運転ロボットなどの機構や、建機の位置や姿勢を計測するセンシング、遅れのある系を安定に制御する制御理論や自律化のための知能の研究開発に取り組んでいる。最後に、石油化学コンビナート火災に対応する消防ロボットシステムの開発も行われている(図4)(5)。消防隊員が近づくことが困難な高い熱線の環境で、人に変わって自動で放水位置に放水砲を移動し、その後、ホースを自動で敷設して、消火や延焼防止のための放水を行うロボットシステムが開発され、千葉県市原市消防にスクラムフォースとして配備されている。このように、人にとって困難で危険な作業を支援・代替するロボティクス・メカトロニクス技術の研究開発が行われている。

図3 大型ダンプトラックを自動化するレトロフィット技術(4)

図4 プラント火災対応の消防ロボットシステム(5)

部門連携、学会連携への期待

ロボティクス・メカトロニクス部門の期待する、部門連携や学会連携について最後に説明する。ロボティクス・メカトロニクス部門は、設備・インフラの構築から、その保守・保全にいたるまですでに多くの面で社会と関わりを持っている。一方で、ロボティクス・メカトロニクス部門の取組みだけでは、既存の人が行っている保守・保全の方法の支援や、置き換えだけに留まり、ロボット化するメリットがそれほど大きくない部分もあることが分かってきた。機械学会が中心となって、社会のニーズに応えるためには、よりロボットに適した保守・保全の方法の検討、その方法に合わせた新たなセンシング技術や機器の研究開発、社会実装に向けた法整備や利用者の教育など多岐にわたる課題の解決が必要になる。

機械学会は、この課題の解決に貢献できると考えている。多くの異なる技術をもった部門の連携や、他学会を巻き込んだ連携ができる十分な土壌があることが、年次大会の企画「機械・インフラの保守・保全、信頼性強化」でも示された。今後は、機械学会が主導して、ロボティクス・メカトロニクス部門やその他の部門が活躍する場の提供や、そのために必要な予算の政府への提案など、積極的に活動することが期待されている。


参考文献

(1) プラント巡回点検ロボット EX ROVR, 三菱重工業 https://solutions.mhi.com/jp/industrial-solutions/the-ex-rovr-plant-inspection-robot/(参照日2022年11月19日)

(2) プラント自動巡回点検防爆ロボット EX ROVR : テクノロジー, 三菱重工業 https://www.mhi.com/jp/products/energy/ex_rovr_technologies.html(参照日2022年11月19日)

(3) 大野和則, 岡田佳都, 原島正豪, 横江政和, 橋梁の近接目視点検を支援する飛行ロボットシステムの開発, 精密工学会誌, Vol. 83, No. 12 (2017), pp. 1066-1070.

(4) 大野和則, 鈴木高宏, 小島匠太郎, 宮本直人, 鈴木太郎, 小松智広, 浅野公隆, 垣崎寛人, レトロフィット技術を利用した大型6輪ダンプトラックの自動土砂運搬, 計測と制御, Vol. 61, No. 9 (2022), p.

(5) 令和2年版 消防白書, 総務省消防庁https://www.fdma.go.jp/publication/hakusho/r2/topics4/56540.html(参照日2022年11月19日)


<正員>

大野 和則

◎東北大学 未来科学技術共同研究センター 特任教授

◎専門:フィールドロボティクス、自律知能

<正員>

藤田 淳

◎三菱重工業(株) 原子力セグメント・機器設計部・装置設計課

技術士(機械部門)

◎専門:機械工学、機械設計

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