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2023/1 Vol.126

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特集 学会横断テーマ「機械・インフラの保守・保全、信頼性強化」

機械力学・計測制御部門の取組み、ニーズ、シーズ

井上 剛志(名古屋大学)

機械力学・計測制御(DMC)部門の紹介

機械力学・計測制御(DMC)部門は2022年現在、36年目の部門である。部門ホームページ(https://www.jsme.or.jp/dmc/)もぜひ参照されたい。同部門は「四力学」の「機械力学」(機械のダイナミクス)と「計測と制御」の分野を主たる活動基盤としており、学術的な基礎研究から実践的な応用研究まで幅広く活動している。第3位までの部門登録 4953名(2022年3月)は機械学会で2番目の規模である。例年8-9月に開催される部門講演会「Dynamics and Design Conference」(D&D講演会)では国内の機械力学・計測制御に関する研究発表が活発に行われる。2021年までの2年間は新型コロナ感染症の影響でオンライン開催であったが、この2022年9月5-8日には3年ぶりに秋田県立大学にてハイブリッド形式で開催され、発表250件、参加者500名と成功を収めた。また、部門連携として交通物流部門との連携企画が持たれた。同部門所属の25研究会があり、企業会員も多いことが特徴である。

DMC部門のシーズ

部門の研究会活動と絡めて本テーマ関連のシーズを紹介

今回のテーマ「機械・インフラの保守・保全、信頼性強化~ 部門連携・学会連携への期待 ~」に関連があるDMC部門の研究会を取り上げ、活動を紹介する。

振動工学データベース研究会(1)

振動工学データベース研究会は1991年1月に発足し、機械システムの振動トラブル事例(トラブル未然対策事例を含む)の収集とそのデータベース化推進という国際的にもユニークな取組みを行っている。同研究会が発行しているv_BASEデータベースは、産業界の設計力・検査力の向上に寄与することを目的に種々の産業製品実機における振動・騒音の改善事例を収集したものであり、現在は第4版(1043件収録)が発行されている。毎年のD&D講演会でv_BASEフォーラムが開催されて20-30件が新たに収集・発表され、データベースに加えられている。また、英語版も作成が開始されており、現在は約100件が同研究会のWebページ(1)に掲載されている。“GIVE&TAKE”を基本的な考え方とした同研究会の活動とその成果(2)は本部門関連分野の国際会議の場でも度々紹介されたが、その度に非常な驚きと高い関心を持たれている。

図1 v_BASEデータベース画面の一例

診断・メンテナンス技術に関する研究会(3)

1999年に発足した同研究会(発足当初は「機械の品質評価、異常診断技術研究会」でその後2004年から現在の「診断・メンテナンス技術に関する研究会」)は、2002年以来毎年、日本トライボロジー学会、日本設備管理学会とで「評価・診断に関するシンポジウム」を合同開催している。同シンポジウムは、現在までに19回の開催を数え、かつ継続的に発展してきており、機械学会内でも良く分野横断・学会横断での企画の成功例として挙げられている。その成功の秘訣は、共通のニーズを有する者たちで共同開催をしてきたことであり、分野横断・学会横断の企画の際にも参考にすべき点である。直近の同シンポジウムのセッションタイトルは、モデリング、回転機械の診断技術(機械学習)、音響・振動、診断技術、潤滑・摩耗、検査技術・設備管理などである。また、同研究会のシーズ技術には、監視・モニタリング、評価・診断、予測、保全・対策があり、今回のテーマに深く関わる内容が広く網羅されている。今後は機械学会のISO TC108/SC5国内委員会(機械システムの状態監視と診断)との学会内連携活動を進めていく計画である。

ロータ・ダイナミクス・セミナー研究会、FIV研究会

ロータ・ダイナミクス・セミナー研究会(4)は1980年以来42年間、FIV研究会は1999年以来23年にわたり、それぞれロータダイナミクスと流動励起振動問題に関する世界の最新文献や学術分野の情報・動向の分析と紹介を行う研究会を実施してきている。特徴的なのはどちらも泊まり込みで実施される形態で30-40本の論文を紹介し合う形式であり、同分野の技術者の深い相互交流の機会となると同時に、これまでの活動で多数の同分野の情報の蓄積がなされている。本部門では同様の形態で実施されている研究会がほかにも複数あり、本部門の特徴の一つである。FIV研究会はこれらの成果をデータベースにまとめる予定としている。

その他、本テーマに関係する活動を実施している研究会として、回転体力学研究会、1Dモデリング研究会、振動研究会が挙げられる。これらの研究会の活動はDMC部門のWebページから見ることができる。

図2 ロータ・ダイナミクス・セミナー研究会の様子

DMC部門のニーズと部門連携への期待

本テーマに関係するDMC部門のニーズと、その点で部門連携を期待する分野・キーワードを部門研究会の主査・幹事を中心にアンケート形式で調査したので、その結果をある程度そのまま羅列形式で示す。

まず、状態監視・診断・評価関係を挙げる。

◆ 監視・モニタリング技術

・非接触応力測定技術(赤外線応力測定など)

◆ 評価・診断技術

・健全性、維持管理

・機械学習・AI活用や画像解析による診断技術

・トラブルシューティング、トラブルの予防

◆ 解析・予測技術

・予寿命評価技術

・損傷解析技術

・亀裂進展予測や軸受の損傷・疲労による寿命予測

◆ 保全・対策技術

・自己治癒材料

上記技術では、幅広い部門との連携が可能と思われる。特に例を挙げるなら材料力学部門、機械材料・材料加工部門、環境工学部門、動力エネルギーシステム部門、宇宙工学部門、熱工学部門、計算力学部門、設計工学部門との連携が期待できると考えている。

つぎにセンシング・システム化関係を挙げる。

◆ センサ技術

・ MEMSセンサ、無給電・無線センサ、高音、高圧などの過酷環境センサ

・歪や応力の簡易計測センサ、局所荷重、接触圧力を計測可能な超小型センサ

◆ システム化技術

・スマート材料

・MEMSセンサ

・長寿命バッテリー

上記技術では、例を挙げるならロボティクス・メカトロニクス部門、情報・知能・精密機器部門、生産システム部門との連携が期待できると考えている。

さらには、流体工学部門と下記技術に関する連携が期待できると考えている。

◆ 流体関連力、流体関連振動の解析・評価・設計援用

・流体励振力、流力弾性力の評価技術

・流体関連振動を考慮した最適設計

部門間連携・機械学会への要望

今回のテーマ「機械・インフラの保守・保全、信頼性強化」は、我が国の生命線となる重要な分野と認識している。富山大学で開催された2022年次大会のワークショップでは土木学会の組織や活動の紹介があり、参考になる点が多かった。

また、同ワークショップでは、企業は振動・流体・熱などの分野横断の多くの課題を有していることが改めて共有された。その点に対し、日本機械学会として、国や産業界のサポートをうけつつ企業関係者と各部門の大学・研究機関の研究者が連携した研究プロジェクトの立上げとその継続の仕組みを期待したい。

部門連携企画が単なるそれぞれのプログラムの併催に終わることを避けるために、部門間連携では相手部門への強い関心を持つ必要があると指摘がなされたことを挙げておきたい。前述のように評価診断シンポジウムが他学会との共催を長年継続でき成功しているのは、診断・メンテナンス関係の共通の強い興味があったためである。ぜひ、部門・学会を超えて共通の強い興味を有する研究者と交流する機会が持たれ、連携を促進する雰囲気が醸成されることを期待する。


参考文献

(1) v_BASE(振動工学データベース研究会)
https://www.jsme.or.jp/dmc/Links/vbase/index.html(参照日2022年10月25日).
(2) 小林正生,兼森祐治,古池治孝,松下修己,振動工学データベース(v_BASE)研究会20年と今
後の活動,日本機械学会論文集(C編),研究展望,78-788(2012)pp1044-11054.
(3) 診断・メンテナンス技術に関する研究会
http://diagnosis.dynamics.mech.eng.osaka-cu.ac.jp/(参照日2022年10月25日) .
(4) ロータ・ダイナミクス・セミナー研究会
https://sites.google.com/view/rdseminar( 参照日 2022年 10月 25日) .


<フェロー>

井上 剛志

◎名古屋大学 大学院工学研究科 機械システム工学専攻 教授

◎専門:機械力学、振動工学、ロータダイナミクス

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