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2023/1 Vol.126

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特集 学会横断テーマ「機械・インフラの保守・保全、信頼性強化」

材料力学部門 ニーズとシーズの例

堤 一也〔三菱重工業(株)〕

はじめに

材料力学部門について

本部門の英語表記は“Materials and Mechanics Division”で、「材料」と「力学」に関する技術が融合する分野である。M&M2022カンファレンス(1)を参照すると、扱う材料は金属、複合材料、結晶性材料、機能材料など多岐にわたり、力学も材料力学に加えて疲労強度、ナノ力学、実験力学・計測技術、固体力学、界面・接合・接着など広範囲をカバーする。材料と力学が縦糸と横糸となり研究や技術開発を進めている。

先達の言葉を拝借すれば、責務は「機器やプラントの安全・安心を保証するための健全性評価、および維持管理に関する学術的研究活動や先端的技術開発の母体となる」(2)「安全性と信頼性の確保という社会の要請に応える」(3)である。

機械・インフラ設備の保守・保全

シーズとニーズの紹介

本部門の全研究分野、技術分野を網羅したニーズ・シーズを示すことは困難であるため、機械・インフラ設備の保守・保全に関するいくつかの事例を紹介する。メンテナンスサイクルとして“点検・診断” → “必要な処置計画の策定” → “修繕・更新”(4)を考えると、本部門の主な役割は健全性評価に基づく点検周期の決定、点検結果を踏まえた処置計画の策定と考えられる。表1に機械の保全に関するニーズとシーズをまとめた。他部門との連携を探るために、ニーズに焦点を当てながら三つのケースに分けて概説する。

表1 機械・インフラ設備の保守・保全に関する材料力学部門のニーズとシーズの例

破壊を防止するケース

一つ目は、供用中に構造物の材料の強度が低下する場合に、破壊を防止するケースである。部材の強度は固有のばらつきを有し、作用する外力(作用応力)にも統計的な分布がある。これらを考慮して破壊を防止する考え方がある(stress-strength model)(5)図1の横軸は時間、縦軸は材料の強度、または外力である。

使用開始時は作用応力に比べて材料の強度が十分に高いが、経年化に伴い両者が交差する可能性が生じる。これを防止するために、評価精度を向上させる以下のニーズがある。

①材料の劣化度合いを検知、またはモニタする技術

②材料の年単位での劣化を実験室試験で予測する技術

破壊を制御(維持管理)するケース

二つ目は、亀裂が生じた場合でもその成長を制御することで構造物の破壊を防止するケースである(6)図2の横軸は外力の繰り返し回数、又は供用時間、縦軸は亀裂の寸法を表す。破壊力学を用いれば亀裂の進展を予測でき、限界亀裂寸法までの余寿命を維持管理することができる。精度の良い亀裂進展評価を行うために次のニーズが挙げられる。

③作用する変動応力、構造物の使用環境(温度、腐食環境など)の計測技術

④初期欠陥を高精度で検出、サイジングする技術

⑤特殊環境下(水中、高所、狭隘部等など)での欠陥検出技術

図1 破壊を防止するケース(ニーズ番号は表1と対応)

図2 破壊を制御するケース(ニーズ番号は表1と対応)

異常検知・予兆監視するケース

三つ目は機器のトラブル未然防止や高経年化対策として、運転状態をモニタし異常を初期段階で検知するケースである。既に多くの事例が報告(7)されているが、更なる適用拡大の観点から次のニーズが考えられる。

⑥IoT、AIなどを活用した機械の異変・異常の検知、および損傷モードの推定

⑦計測機器・センサ自体の信頼性向上、およびメンテナンスフリー化

本企画の継続的な推進に向けた提言

M&M2021材料力学カンファレンスなどでの意見

M&M2021では「機械・インフラシステムの保守・保全の実際と展開」と題してフォーラムを開催(8)した。パネルディスカッションによる議論の結果を紹介し、本学会横断企画の継続的な推進への提言とさせていただく。

1. 業界コンソーシアム・個別企業および機械学会各部門の専門家から成る研究会などの体制の構築

2. 企業が関与しやすい課題(出口)設定の重要性

3. 課題に対する研究アプローチと各部門の持つケイパビリティのマッチングの重要性

おわりに

2022年度年次大会で8つの部門および土木学会の代表者が一堂に会したフォーラムは、部門連携のさらなる可能性を探る上で有益な機会であった。このような場が継続されるとともに、機械学会内に戦略的かつ持続的に本活動を主導するスキームが構築されることを期待する。

謝辞

M&M2021フォーラムで活発なご議論をいただいたパネラーの皆様、本稿作成にあたってご助言をいただいた第99期部門長 宮崎克雅氏(日立製作所)には深く感謝を申し上げます。


参考文献

(1) 日本機械学会 M&M2022 材料力学カンファレンス 講演プログラム (参照日2022年10月11日)

https://www.jsme.or.jp/conference/mmdconf22/doc/files/program20220926.pdf

(2) 吉川暢宏, 日本機械学会 材料力学部門 ポリシーステートメント (参照日2022年10月11日)

https://www.jsme.or.jp/mmd/policy.html

(3) 小林英男, 日本機械学会材料力学部門ニュースレターNo.28, pp.4-5. (参照日2022年10月3日)

https://www.jsme.or.jp/mmd/news/news28.pdf

(4) 未来につなぐインフラ政策 第Ⅲ部 ニーズをくみとり資源を新たに再編する戦略的インフラメンテナンス,国土交通省, p.51, 平成31年3月(参照日2022年10月3日)

https://www.mlit.go.jp/common/001281532.pdf

(5) 材料強度の確率モデル,日本材料学会(2012), pp.85-87.

(6) 小林英男,破壊力学,共立出版(2008), pp.156-166.

(7) 令和2年度産業保安高度化推進事業 スマート保安事例集, 経済産業省 (参照日2022年10月3日)

https://www.meti.go.jp/policy/safety_security/industrial_safety/smart_industrial_safety/jireisyu_r2.pdf

(8) 日本機械学会 M&M2021 材料力学カンファレンス 講演プログラム (参照日2022年10月11日)https://www.jsme.or.jp/conference/mmdconf21/doc/program.html


<フェロー>

堤 一也

◎三菱重工業(株) 総合研究所

主席プロジェクト統括、博士(工学)、技術士(機械部門)

◎専門:材料強度学

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