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2023/1 Vol.126

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特集 学会横断テーマ「機械・インフラの保守・保全、信頼性強化」

学会横断テーマの企画チームに参加して

三原 毅(島根大学)

年次大会の活性化について

機械学会での筆者の立ち位置

製造時から使用時にかけて、材料が持つ正常な組織に起こる異常や欠陥、それらが機械強度を害する場合、筆者の専門は非破壊検査・計測法なので、工学的に規定される許容強度の範疇で利用できるよう、各種電気計測を使って、欠陥を非破壊評価できる手法を研究してきた。したがって、材料工学・機械工学・電気工学の学際領域が活動領域となり、思い返せば、材料工学科で教育を受け、配属研究室では機械工学ご出身の先生方に学び、超音波機器の研究で、共同研究を行った同じ大学の電気工学科研究室のゼミに参加し、それぞれの分野の基礎を学んだ。しかし学際領域の研究には、学際領域を勉強し続ける必要があり、学会活動も必然的に学際的になるので、所属学会や参加する学会も機械学会・非破壊検査協会・金属学会・鉄鋼協会・応用物理学会などどうしても範囲が広がる結果、本当の専門が不明の根無し草的な立ち位置となる。

著者らが初めに配属された研究室は、材料系の中で機械工学の教育を担当していた。そのため、初めて参加した国際会議もASME主催のものであった。それ以来、日本機械学会には定常的にかかわってきた。

年次大会への参加形態とジレンマ

上記の通り、年次大会は機械学会の学術利用の一定のウェイトを占めるので、当初普通に参加していたが、いつからか、非破壊検査や計測を共有する先生方からの要請で、OSやテーマを絞った講演に参加する比率が増えていった。気が付けば他の大きな学会同様、多くのセッションで沢山の発表が行われているものの、専門が細分化したこともあって、会場で目にする発表は、我々を含め、以前から知る近しい研究者の近況報告会の様相を呈している。近しい分野のみを効率的に聞ける利点はあるが、自分にとって新しい興味を掻き立てなくなったと感じてきた。こうなると巨大な年次大会も、実質ローカルな研究会、あるいはともすれば、座長とまばらな参加者のみの発表会であるケースも散見されてきた。それでも、部門ごとに企画されるタイムリーなテーマのOSに参加し、特別講演を聞き、馴染みのない部会の講演会も意識して覗いたりしたものの、特定の分野の専門家のみを想定した講演会は、他分野の素人聴衆にはどうしてもハードルが高く、知的宝の山であろう年次大会をどう利用するか、個人的に決めかねる状態が続いていた。むろんこれは機械学会だけの問題ではなく、金属学会・応用物理学会などの巨大な学会が抱える、共通の課題でもある。

学会横断テーマの企画チームでの議論

2020年に機械学会に学会横断テーマの企画チームが設置され、筆者は他学会との交流を視野に、これまで交流実績のある非破壊検査協会からの委員として参加した。非破壊検査協会と機械学会は古くから交流実績があり、両学会に参加する大学の先生方がバインダーとなって続いている。これまで機械学会でも多くのOSで損傷部材の健全性評価やモニタリングについて、非破壊検査の研究者や技術者が参加してきた。

この企画チームでは、先に筆者が述べたような会員が持つ年次大会への不満解消も視野に、部門を中心とした、ともすればたこつぼ的になりがちな運営に風穴を開けるべく、連携できる分野が共通のテーマの検討など、横串を通すような講演会や、あるいは他学会と連携できるテーマでの講演会を模索し、活性化を図るための議論を行った。

2021年度年次大会(DX・AIの産業応用)

タイムリーなテーマ設定と個人的興味

上記企画チームの検討の結果、2021年度の年次大会企画として、土木学会や非破壊検査協会も共通の、今も大きな話題であるDXをキーワードに、インフラの保守についての課題と機械学会への期待を抽出できる講演会を企画することとなった。言うまでもなく、AIやDX、ビッグデータ活用の潮流は、産業界で大きな話題であり、大学工学部に身を置く筆者でさえ、文科省の大型プロジェクト申請時に、これらのキーワードが採択のため必須と聞き込み、付け焼刃の知識で申請書を書くような事態で、個人的にもDXの産業利用の実態は強い興味があった。この状況は、産学官とも同様であり、極めてタイムリーなテーマ選択だったと考えられる。

話題提供とパネルディスカッション

特別企画は「DX社会は機械学会に何を望む?」をサブテーマとして千葉大で開催された。複数の産業分野でのDXへの取組みの具体事例の紹介の後、講演者によるパネルディスカッションが行われた。

個人的に、多くの企業が研究経費を絞る中、業界のイニシアチブを取り、「国際競争に遅れない」の号令の中、DX関係には大きな投資が行われていると漠然と聞いていたが、それぞれの業界でさまざまの取組みについての事例紹介は、興味深かった。それ以上に面白かったのは、パネルディスカッションで、講演では触れられなかった、DX技術の利用拡大についての苦労話が講演者全員から語られ、DXが有効に利用できる分野を見つける過程に、共通して大変な苦労がある実態を垣間見ることができた。これは、特に我が国のDX技術の現状と将来を実感する上で極めて興味深かった。当初特別企画の狙いは、本テーマへ機械学会が貢献できる未来であり、現状の利用実態やさまざまな分野での取り組みが、狙い通りに明らかにできた。一方、同時にDX技術の有効利用の難しさや限界もまた明かになった。

個人的にはDX応用について、工業応用の困難さを含めた知りたい情報が得られた点、極めて興味深く、同様の問題意識をもって参加した他の多くの聴衆からも、高く評価されたと考えられる。

2022年年次大会(部門交流に向けて)

2022年度の年次大会に向けた企画チームでの検討では、他の学会との連携への期待と共に、そもそも機械学会の持つ巨大な知的資源としての部門が独立に運営されることで、連携や交流が余りないことが問題視された。したがって、この部門間の交流・連携こそ、他学会との交流以前に注力すべき方向であるとの共通認識により、2022年度の年次大会では、部門間の交流・連携を中核にした講演会とパネルディスカッションを先端技術フォーラムの骨子にすることとした。

この部門間の交流・連携の方向は、巨大な機械学会の知的資源の共有を志向するものと考えられ、前述した機械学会年次大会の利用の課題に応えるものと考えられる。2022年度年次大会での講演会は、これらの試みのスタートのきっかけとなる可能性があり、今後の成果を期待したい。

将来に向けて

多くの会員を抱える日本屈指の老舗学会である機械学会の年次大会改革について、問題意識をもってWGで継続的な検討会がもたれていることは、機械学会の健全性を示すものであり、これからもこういう活動を継続する必要があると強く感じている。将来の目指すべき方向は、本WGで検討した通り、学会横断で皆が興味を持つ新技術や社会動向についての講演会と共に、多くの会員が潜在的に求めているであろう他部門の持つ知識や技術の共有や連携になると思われる。その意味で、2021年、2022年の年次大会でトライされている試みについて、今後も各位機械学会の将来像も考えながら、興味を持って注目いただきたいと考える次第である。

一方前述の通り、機械学会に限らず、巨大な学会の全国大会は、無数の近しい研究者のサロンの集まりになりがちで、何よりも参加する魅力を向上することが常に求められる。これらの運営のヒントになるかもしれない学会活動として、筆者が毎年参加しているUSE(超音波エレクトロニクスの基礎と応用に関するシンポジウム)(1)の運営を紹介したい。この学会は応用物理系の先生方を主体として、40年以上前に科研費で実施されたプロジェクトである。幅広い超音波技術を通して集まった多くの研究者が、プロジェクト終了後も通常であれば交流することのない、学会横断的な広範な分野の研究者が交流する意義を共有し、自然発生的に1980年の第1回開催以降現在に至るまで、43年間に渡って継続されている学会組織だ。また、JJAPの英文特集号の維持、3日開催の1日を英語セッションとし、概要集を英文化するなどにより、国際学会に準じる学会に育ってきた。この学会の講演会のユニークな点は、口頭発表は全員が一堂に会するホールでのみ実施し、他の多くの講演はポスターセッションとする点にある。その結果、口頭発表もポスターセッションも、専門外の発表を含め、参加者全員で聞くことができる形式を、参加者が増え続ける中で頑なに守られている。参加者は3日間で約1000人弱と極端に大きい学会ではないものの、ポスターセッションでの参加のし易さと、広範な参加者から批判や助言が貰える点が高く評価され、学生や企業の若手エンジニアが多数参加する、刺激的でアクティビティの高い学会に育っている。機械学会の規模で、これをそのまま実施することは難しいが、一定のサイズのホールとポスターセッション会場が確保できれば、限定的な交流会などの試みについては、検討の余地もあるのではないかと考えている。

いずれにしても、機械学会の持つ膨大な知的資源やそれを有する多彩な人材を、効率的に利用し合えるシステムの模索は、機械学会の活性化と他学会との差別化に向けて、不可欠と考えられる。


参考文献

(1) USE2022, 超音波エレクトロニクスの基礎と応用に関するシンポジウム.

https://www.use-jp.org/USE2022/index.html(参照日2022年11月17日)


三原 毅

◎島根大学 材料エネルギー学科設置室 室長(特任教授)、

東北大学 名誉教授

◎専門:材料評価学、超音波計測、非破壊検査、破壊力学

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