日本機械学会サイト

目次に戻る

2023/1 Vol.126

バックナンバー

特集 学会横断テーマ「機械・インフラの保守・保全、信頼性強化」

本テーマにおける分野横断の重要性について

梶原 逸朗(北海道大学)

本企画チームに参加して

保守・保全、信頼性強化というキーワードは、必ずしも筆者の主要な研究テーマに合致するわけではないが、振動特性に基づく構造ヘルスモニタリング(1)(2)を研究テーマの一つとして実施していることから、本企画で議論される内容は、筆者の研究と関連性が深く、また大変興味深いものだった。本稿では、本企画における活動を通じて、筆者が感じていることを簡潔に述べる。

なぜ機械・インフラか?

この問いに対し、筆者個人として以下の点から機械・インフラを考える重要性を認識している。

A. 共通課題ゆえの分野横断型の課題解決

B. 機械・インフラを一つの系として見ることの必要性

A.に関し、我が国における道路・橋梁は、近年、建設後にかなりの時間が経過しているものが多く、メンテナンスの重要性が叫ばれている。2033年には全国の橋梁のうち約63%が建設後50年を経過するという報告もある(3)。もちろん、この重要性というのは、機械・インフラのみならず、あらゆる分野(システム)に共通する。2022年度年次大会ワークショップに参加して感じたことは、それぞれの分野(対象)ごとに状態監視・保守・保全のやり方(考え方)に差はあるが、その根本となる概念(方法論)には共通するところも多い、ということである。さらに、本会8部門の代表者が、他部門との連携への期待を明確に話されていたことは興味深い点であった。このことから、本テーマを考える際、分野横断・学会横断の重要性は高く、今後、推進していくべきと考えている。

B.に関し、さまざまな機械システム(機器)は建屋内・土台上に設置された機械・インフラの連成系である。また、自動車、鉄道はそれぞれ道路、線路上を走行する機械・インフラの連成系である。すなわち、機械・インフラからなる構造を一つのシステム(統合系)として見たとき、統合系の動特性は、機器、建屋およびインフラ構造それぞれの動特性が互いに干渉することを意味する。このような系の状態監視・保守・保全を考える場合、連成系における動特性として観測値を分析・評価する必要がある。最近、ドローンを使ったインフラの点検に関する研究が盛んに行われている。さまざまな建屋、橋梁、港湾施設などにドローンを飛ばし、カメラや各種センサによる計測(画像処理)を経て、損傷が疑われる部位を見つけ出し、場合によってはそれを補修するという検討が多く見られる。このような点検・補修を効率的に実施するためには、ドローンという機械および橋梁や港湾といったインフラの双方の特徴(特性)を考慮した機械・インフラそれぞれの設計が必要になるだろう。これは、まさしく機械・インフラを一つの系として見るべき代表的な例と言える。「機械」および「インフラ」に関わる研究には、連成系として扱う検討も見られるものの、現状ではまだ個々の分野内に限定された特性評価が主流のように見受けられ(もちろんこの特性評価は重要であるが)、分野間の密な連携に至っていない感がある。将来、このようなシステムのさらなる高度化を実現するためには、分野横断型の課題解決を推進すべく、分野(部門)間および学会間の垣根を超えた議論の展開が必要である。

今後の分野横断・学会横断について

2022年度年次大会ワークショップにおいて、土木学会からの講演者が、土木学会と建築学会が分野横断的に連携している理由を、「もともと対象としている分野(領域)が近い(共通点がある)ため、成るべくして成った」、というように述べていた。筆者は、これが分野横断(学会横断)の理想的な形だと思う。また、前述のとおり、本会各部門の代表者が他部門との連携に期待をかけていたことから、まずは日本機械学会の中で部門間の横断的な連携を推進すべきと感じる。さらには、学会横断へと拡張していくことが重要と思われるが、上述のとおり日本機械学会がカバーする学問・技術領域との発展的な知の融合を踏まえ、どの分野(領域)との連携が重要かを充分に検討する必要がある。同時に、連携するすべての組織が、その意義を共有しないと意味がない。機械・インフラと聞くと、土木学会や建築学会との連携が思いつくが、保守・保全、信頼性強化の方法論まで考えると、この限りではないだろう。これが実現されるまでには、いくつかのハードルがあるが、共通意識をもつ研究者・技術者どうしが議論しやすい環境を作り、連携に向けた動きが少しずつでも前進することを願う。


参考文献

(1) Huda, F., Kajiwara, I., Hosoya, N. and Kawamura, S., Mechanical Systems and Signal Processing, Vol. 40, (2013), pp.589-604.

(2) Kajiwara, I., Akita, R. and Hosoya, N., Mechanical Systems and Signal Processing, Vol. 111, (2018), pp. 570-579.

(3) 国土交通省ホームページ

https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/maintenance/02research/02_01.html

(参照日2022年10月27日)


<フェロー>

梶原 逸朗

◎北海道大学 大学院工学研究院 教授

◎専門:機械力学・制御

キーワード: