経済で読み解く機械産業
第12回(最終回) 地域経済から機械産業の動きを読む
地域経済動向は地域の景況を見るものだが、判断は鉱工業生産の動向に大きく左右される。「地域を見ることは産業を見ることだ」と言われるように産業、特に自動車や半導体の生産の動きに大きく左右される。
地域経済動向の役割
通常の景気回復の初期段階では、マクロの経済指標を見ただけでは、景気の回復がなかなか読めないものであるが、産業の動向や地域経済の動向をみることによりマクロ経済の動きをつかむことができることが多い。
地域経済動向の目的は個々の地域の経済の動きを把握することであるが、マクロ経済動向の把握における補完的な役割も持っている。経済規模の小さな地域経済では景気の微妙な動きがその地域の経済構造、産業構造や工業構造を反映し、増幅された大きな動きとして出てくるので、景気の動きをしっかりと把握することができる。
ここで取り上げる地域経済動向の「地域」とは、東北、北陸、東海や九州といったブロック別の地域を意味する。地域経済動向には、①景況を調査したもの、②ビジネスサ-ベイという形で企業経営者に景況を尋ねるもの、③設備投資や工場立地の動きを見るものなどがある。
業種別の鉱工業生産の動向をみる
表1 機械産業の生産動向(前期比伸び率、%)
表1は機械産業の生産動向を見たもので、この生産の動きが地域経済に大きな動きをもたらす。輸送機械(自動車が主体)が動き出すと、輸送機械のウェイトの高い東海の景気が目に見えて良くなる。電子部品・デバイスが動きだすと東北、北陸の景気が良くなる。機械産業の鉱工業生産に占めるウェイトは5割近くもあり(表2)、かつ機械産業の生産の振幅度合いは大きいため、機械工業の動きに注意する必要がある。
地域別工業構造をみる
表2 機械産業地域別構造(2015基準、付加価値ウェイト)
表2は地域別に工業構造を機械産業に絞ってみたもので、それぞれの地域での各地域産業の鉱工業生産における各産業の構成比を見たものである。
はん用・生産用・業務用機械では甲信越と近畿のウェイトが2割を超え、電気機械では東北、甲信越、北陸、近畿で2割を超えている。電気機械の内数の電子部品・デバイスは東北、北陸、九州が高く、表示されてはいないが東海のウェイトも近年上昇している。自動車が主体の輸送用機械は東海が圧倒的に高いが中国も2割を超えている。
各地域を横に足し合わせると機械産業のウェイトになるが、東海では6割を超え、甲信越は6割近くに達する。近畿、中国も5割程度はある。機械産業が動くとこれらのウェイトの高い地域では生産が活発になるし、景気も良くなる。
地域別鉱工業生産の動向
各地域の鉱工業生産の動きを見たのが表3である。輸送機械、電子部品・デバイスはウェイトが高く、生産の変化も激しいのでこれら産業のウェイトが高い地域の生産の変動が激しい。
2021年の第Ⅲ期(7~9月期)は電子部品などの供給不足により輸送機械(自動車)の生産が大きく低下したが、この動きに合わせた形で同時期の東海、中国の生産は大きく低下した。2022年1~3月期は電子部品・デバイスが伸び、これに合わせて北陸、中国の生産が伸びた。
表3 地域別鉱工業生産の動向(前年(期)比伸び率、%)
地域別の景況をみる
地域経済動向の代表とも言える内閣府の「地域経済動向」について説明しよう。地域経済動向は地域を12のブロックに分けて各地域の景況を見るものである。以前は10ブロックであったが、数年前から関東が北関東、南関東、甲信越に分かれ12ブロックとなった。各地域について、それぞれ鉱工業生産、個人消費、公共工事、新設住宅着工統計、物価などのデ-タをもとに、地域の景況を総合的に判断している。公表は、3月、6月、9月、12月の年4回である。2022年9月調査によると各地域とも景気は緩やかに持ち直しているが、東海、北陸、近畿、中国で一部弱さが見られる。
日本銀行「地域経済報告」
表4 各地域の「生産の状況」
(出所)日本銀行「地域経済報告」2022.7より作成
日本銀行は「地域経済報告」を公表している。1月、4月、7月、10月の四半期毎に公表。各地の景況を個人消費、設備投資、住宅投資、公共投資、輸出といった最終需要項目や生産、企業収益などについてのヒアリングをベースとした定性的な記述を行っている。最新の生産状況は表4の通り。
工場立地の動きをみる
経済産業省は、年2回、上期と年全体(暦年ベ-ス)の工場立地動向調査の結果を公表している(上期分は10月、年全体は4月に公表)。工場立地動向調査は、工場立地法に基づき1967年から実施されており、その対象は全国の製造業、電気業、ガス業、熱供給業のための工場又は事業場を建設する目的をもって取得(借地を含む)された1,000平方メ-トル以上の用地(埋立予定地を含む)である。地域区分は14地域。
最近の5年間の工場立地の動きをみると(表5)、立地件数はほぼ景気の動きに連動していることが読み取れる。2018年にはピーク、2020年にはボトムをつけている。2021年における都道府県別工場立地面積の上位10件は表6の通り。
表5 工場立地件数・面積の推移(年、件数、ha)
表6 都道府県別工場立地面積〈2021年、上位10位、ha〉
おわりに
これまで経済の眼を通して機械産業についていろいろな角度から見てきた。機械産業の特徴、国際競争力、日本経済における位置付け、日本経済への貢献度合いなどを取り上げてきた。また機会があれば機械産業について景気という面からも紹介したいと思う。
近藤 正彦
◎中央大学経済学部兼任講師(元三菱重工業〔株〕)
◎専門:経済統計学、経済分析、日本経済論
キーワード:経済で読み解く機械産業