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2022/11 Vol.125

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特集 超音速で飛ぶ世界

前進翼をもつ静粛超音速旅客機の検討

岸 祐希・金崎 雅博(東京都立大学)・牧野 好和(宇宙航空研究開発機構)

図1 Overture(Boom Technology社)(1)

はじめに

超音速機に用いられる翼平面形について

古くはコンコルドから、現在Boom Supersonic社(米)で開発が進められている65~80人乗りの超音速旅客機Overture図1に至るまで、超音速機は音速近傍から超音速域で生じる衝撃波による造波抵抗を低減するために後退角をもつ主翼(アロー翼やデルタ翼など)を採用するのが一般的である。これらの主翼形状では、主翼後端で強い衝撃波を発生することと、縦トリムを取るため、ソニックブーム強度を低減させる理想的なDarden分布(2)(揚力分布から求められる等価断面積分布と機体断面積分布の和)を満たすような揚力分布を得ることには限界がある。特に主翼後端から尾翼や機体尾部までの距離が短いため、それぞれから生じる圧力波が地上に伝播するまでの過程で合成されてしまい、これがソニックブーム強度を高めてしまうことがある。したがって、空力抵抗とソニックブームの抜本的な同時低減を考えると従来にはない新しいコンセプトの検討が必要である。

この新しいコンセプトのひとつに前進翼の採用が挙げられる。堀之内はパネル法に基づくポテンシャル計算と風洞試験によって、前進翼がデルタ翼やクランクドアロー翼などの後退翼に比べて後端ブームを小さくできる可能性を示した(3)。これは主翼を前進させて主翼揚力分布を前方にシフトすることで、主翼で生じるソニックブームと機体後方で生じるソニックブームとが干渉しにくくなるためと思われる。空力性能向上とソニックブーム強度の同時低減という観点から、もし前進翼が後退翼よりも優れており、現在の技術目標に近い解であると言える十分な検証がなされれば、前進翼コンセプトは将来の超音速旅客機の翼平面形として期待できる。

もともと前進翼は翼端失速が起こりにくく、ロール・ヨー方向の安定性が後退翼に比べて悪いため、機動性を重視する戦闘機の主翼平面形として検討されてきた。例えば1980年代にはアメリカでは2に示すX-29という実験機が開発され、飛行実証試験(4)が行われた。その後は抵抗低減に主眼を置いた研究(5)も行われているが、ソニックブーム性能に着目した研究例は少ない。堀之内の検討では前進翼のソニックブーム性能が議論されているものの、単一の翼形状の評価に留まっていること、評価に用いられた数値計算手法では機体近傍場での3次元的な圧力伝播が直接計算できていないことなどから、超音速前進翼機のソニックブーム性能について十分に議論されたとは言い難い。

そこで筆者らは数値流体力学や進化的アルゴリズムによる最適設計法を用いて超音速前進翼機3の抵抗・ソニックブームの同時最小化設計に取り組み、新たな設計知見の獲得を目指している。本稿ではそれらの成果の一部を紹介する。

図2 Grumman X-29(6)

図3 筆者らの超音速前進翼機研究モデル

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