特集 超精密加工の最前線
エネルギー伝達効率向上のための機械式腕時計用シリコンがんぎ車
はじめに
腕時計にはクオーツ式と機械式がある。クオーツ式腕時計は電池をエネルギー源として水晶振動子、IC、輪列を駆動する。一方、機械式腕時計は電池を使わず、バネをエネルギー源としてメカニカルな機構だけで動作するように構成されている。機械式腕時計は正確さではクオーツ式腕時計に劣るものの、運針パワーが大きいために針のデザイン自由度が高い、りゅうずを巻く動作が心地良い、微細で高精度に作られた部品で時を刻む様子に魅了されるといった、機械式腕時計ならではの魅力があり、多くの愛好家に親しまれている。
機械式腕時計はブランドやデザインに注目される事が多いが、実用性も重要である。当社の機械式腕時計のブランドであるオリエントスターは持続時間(ぜんまいを巻きあげてから止まるまでの時間)が40~50時間程度であり、動いたまま週末を越すことができず止まってしまい、そのたびに時刻合わせをする煩わしさがあった。2021年3月、持続時間70時間のモデルが発表された。本稿では持続時間を延長するためのキーパーツとなったシリコンがんぎ車について技術的な解説をする。
機械式腕時計の構造と仕組み
まずは機械式腕時計の構造と仕組みを紹介する。図1には基本的な機械式腕時計の模式図を示した。各ユニットについて簡単に説明をする。
図1 機械式腕時計の仕組み
香箱
香箱の中には“主ぜんまい”というぜんまいバネが入っている。主ぜんまいを巻きあげた後、ほどけようとするトルクによって香箱が回転する。このトルクが機械式腕時計の駆動源となる。すなわち、機械式腕時計が動くには香箱が回り続ける必要がある。
輪列
2番車、3番車、4番車などを輪列と言う。香箱のトルクが輪列を伝わり、後述する脱進機に伝えられる。また、輪列は脱進機の動作に合わせて所定の割合で回転するよう設計されている。2番車は1時間で1回転するように設計されており、4番車は1分で1回転するように設計されている。
脱進機
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