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2022/10 Vol.125

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特集 超精密加工の最前線

機械加工を用いたナノ-マイクロ3次元複合構造体の創成

水谷 正義(東北大学)

はじめに

近年、工業製品の高機能化や高付加価値化に対する需要が高まっており、その需要に応えるべく多くの研究が行われている。その中でも、材料表面にマイクロ~ナノメートルオーダの微細構造を創成することで従来材料の持つ特性を向上させたり、新たな機能を付与したりできる機能性表面創成技術が注目されている(1) 〜 (4)。機能性表面の例として光学特性の制御(5)(6)や濡れ性の制御(7) 〜 (11)、摩擦・摩耗の低減(12)(13)、生体親和性の向上(14) 〜 (18)、流動抵抗の低減(19) 〜 (21)などが挙げられる。これらの研究では、切削や研削などの機械加工プロセスや、レーザ加工、放電加工などの特殊加工プロセスにより、材料表面に適切な形状や寸法の微細構造を創成し、所望の機能を得る。また今後は複数の加工プロセスを複合し、オーダの異なる微細構造を組み合わせた「複合微細構造」ともいうべき構造を創成することで、それぞれの構造が持つ機能を複合することや機能性を著しく向上させること、あるいはこれまでに持ち得ない新たな機能を発現することも期待できる。ただし、それらの加工法を組み合わせて創成する複合構造に関しては研究自体がほとんどなく、挙動が明らかになっていないのが現状である。

そこで本稿では、複合微細構造に関する取り組みとして、切削加工とレーザ加工、および超音波振動を組み合わせた2つのプロセスについて概説する。具体的に前者は超精密切削で創成したマイクロメートルオーダの微細溝斜面部に対して超短パルスレーザを照射してナノメートルオーダの微細周期構造(Laser Induced Periodic Surface Structure, LIPSS)を創成することでマイクロメートルオーダの溝の内部にナノメートルオーダの溝が存在するマイクロ-ナノ複合微細構造を創成した事例である。後者は超精密切削に超音波振動を加えたプロセスにより複合構造体を創成した事例である。

超精密切削と超短パルスレーザ加工による複合構造体の創成(22)

超短パルスレーザによる微細周期構造(LIPSS)の創成原理

本節ではまず、超短パルスレーザ照射によって発現する微細周期構造(LIPSS)について概説する。LIPSSとは、パルス幅τpがピコ~フェムト秒程度の非常に短いレーザを材料表面に照射することで形成される微細周期構造のことで、クーロン爆発と呼ばれる光励起によって生じる原子間結合の直接的な切断によって材料が除去されることで創成される(23)。具体的な現象としてはまず、超短パルスレーザのような強い光が固体表面に入射すると、原子間の結合に関与する電子が直接剥ぎ取られ、残されたイオンがクーロン力によって反発し、固体表面から飛散する。とくに加工閾値近傍の低フルーエンスでレーザを照射すると、加工表面にレーザの偏光方向と垂直方向にレーザ波長以下の周期性を持つLIPSSが自己組織的に創成されることが報告されている(24) 〜 (30)

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