技術のみちのり
軽労化スーツで世界中に健康を!
ー日本機械学会賞受賞技術の開発物語ー
2021年度学会賞(技術)
「産学連携によるファブリックメカニズムを活用した持ち上げ動作補助スーツの開発」早稲田大学・(株)Asahicho
軽労化スーツで世界中に健康を!
腰だけでなく腕も補助するスーツ
日本の職業疾病の6割は腰痛である。物流、建設、工場、農作業、介護などの現場での腰の負担を軽減するため、さまざまな補助装置が製品化されてきた。モータなどを使ったアクティブ式は重く、長時間の装着が困難であり、しかも高価だ。これに対し、ゴムやバネを用いたパッシブ式は、軽くて安価だ。どちらの方式を選ぶかは用途で決まるが、これらの多くは腰のみを補助するものだった。
(株)Asahichoが2019年1月から販売開始した「e.z.UPⓇ(イージーアップ)」(図1)は、物を持ち上げる時に腕と腰の負担を軽減するパッシブ式の補助スーツだ。ファブリックメカニズム(布の特性を活用した機構)を用いて、早稲田大学理工学術院大学院情報生産システム研究科機械システム設計研究室との共同研究により開発した製品だ。開発は2人の男の熱意から始まった。
きっかけ
早稲田大学理工学術院の田中英一郎教授は、脳卒中などで歩行困難になった人のリハビリに使う歩行補助装置「RE-GaitⓇ」の開発者だ。RE-Gait®は2017年度学会賞(技術)を受賞している。田中はこの開発中に何度も病院に足を運び、患者を介護するスタッフや家族の苦労を見てきた。そして、「スタッフの苦労を少しでも和らげるスーツを作りたい。人を抱きかかえるのだから、金属を使わず、お風呂でのケアでぬれても大丈夫なものがいいな」と考えるようになった。
2008年のことだ。当時、芝浦工業大学の教員だった田中は、創成実習の授業を担当した。教員が提案したテーマに基づき、学生たちが新しい物作りにチャレンジした。学生たちが提案したのは、2本のベルトで腰と腕を補助する装置だった。なぜ腕も補助するのか?介護現場では腰痛防止対策として、相撲力士のように膝を曲げて腰を落として持ち上げるのだが、この態勢だと腕が疲れる。介護スタッフには女性が多いため、腕の補助が求められていた。また、ベッドや柵があって膝を曲げられない場合に、腰の補助は必要だ。
従来の装置の多くは、ベルト①のように腰だけを補助する。そこでベルト②を加え、膝を曲げた時にゴムベルトが引っ張られて、腕が上がるという構造にした(図2)。ベルトには安価で入手しやすいパンクした自転車のタイヤのチューブを使った。学生たちと試作し使用してみると、補助効果があることがわかったため、田中はその後も研究開発を続けた。
図1 ゴムベルトと布の変形収縮で腕と腰を補助するe.z.UP®
図2 補助スーツの基本構造
出会い
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