日本機械学会サイト

目次に戻る

2022/5 Vol.125

バックナンバー

特集 技術革新をもたらす複合材料技術

サステナブル社会の構築に貢献する植物由来複合材料

高木 均(徳島大学)

はじめに

環境保護意識の高まりを受けて、サステナブルな社会の実現に向けた取り組みがさまざまな分野で進んでいる(1)。特に、地球温暖化の原因となる物質の一つである二酸化炭素を含む温室効果ガスの排出量削減を目指した脱炭素化の取り組みが活発に行われている(2)。例えば多くのプラスチック素材は石油、石炭などの枯渇資源を原料にしているため、カーボンニュートラルな植物由来材料への転換が進んでいる。このように材料開発と環境問題は切っても切れない関係になっており、より環境負荷を低減させた材料の開発が社会から要請されている。

20世紀後半から、すでに軽量構造材料として大量に使用されてきたガラス繊維強化プラスチック(GFRP)と炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の環境負荷を低減することは、複合材料業界における解決すべき重要な課題として認識されてきた(3)。なぜなら、使用後の廃棄処理方法に問題があるからである。すなわち、廃棄後の焼却処理時に有毒ガスが発生する、焼却時に焼却炉の炉壁材とガラス繊維との反応によって燃焼炉が損傷するなどの問題点が指摘されている。このためFRP廃材の多くは廃棄物処理場で埋め立て処理されている。

このような背景から、特に廃棄時の環境負荷を低減させた樹脂系複合材料の研究が1990年代中頃から始まった。初期段階では、母材に生分解性樹脂を採用し、これを天然植物繊維で補強した完全生分解性複合材料に関する研究が活発に行われた。この完全生分解性複合材料は環境に優しいという意味を込めて“グリーンコンポジット(3)”あるいは“エココンポジット(4)”と呼ばれ、環境負荷を低減させた複合材料として注目された。本稿では、これらの植物構成材料を用いた複合材料を植物由来複合材料と呼ぶことにする。

植物由来複合材料に関する研究開発の初期段階では、競合材であるGFRPに対する代替可能性を追求するために主として強度特性の向上に関する研究開発が進められ、多くの研究者がこの課題に取り組んだ(5)。その後、生分解性樹脂を母材に使用することによってもたらされる、難しい成形性、低い耐久性などの欠点を克服するために汎用樹脂を母材に使用してこれを天然繊維で補強したいわゆる天然繊維強化プラスチックに関する研究開発も活発に行われ、GFRPに匹敵する強度特性を有する植物由来複合材料が開発されている(6)(7)

しかし2010年代になると、天然植物繊維の内部に存在するルーメンと呼ばれる中空構造によってもたらされる機能により植物由来複合材料がこれまでのFRPでは発現できなかった、断熱性、制振性などの機能性を有することが徐々に明らかとなった(8)。本稿では、この植物由来複合材料の基本的な強度特性に加えて、各種機能性について解説する。

 

強度特性

会員ログイン

続きを読むには会員ログインが必要です。機械学会会員の方はこちらからログインしてください。

入会のご案内

パスワードをお忘れの方はこちら

キーワード: