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2022/3 Vol.125

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ほっとカンパニー

(株)ヒラカワ 産業用ボイラの高性能化とソリューションメーカーへの転換を目指して

日本にはこんなすごい会社がある

大型商業施設や高層ビルの冷暖房設備、工場、病院といったさまざまな施設で活用されているボイラ技術。この領域で1世紀以上の歴史を持っているのが、大阪に本社を構える(株)ヒラカワである。1912年4月に「平川鉄工所」として創業した同社は、1922年よりボイラの製造・販売をスタート。以来、産業用ボイラのリーディングカンパニーとして日本の商業・産業を支えてきた。日本市場の成熟化が進行するなか、近年では、製品の高性能化や省エネ・省CO2対策への注力、ソリューションビジネスへの転換などにより、競合との差別化および価格競争からの脱却を図っている。

このように進めていくにあたっては、ハードルも多くある。技術統括の久郷康行は、「技術サイドとしては、高性能・高効率を追求していこうと動いていたが、製品の価格が高くなってしまうことで販売が進まない側面もあった」と話す。しかし、社長の力強いリーダーシップのもと、新しい製品に理解のある営業担当者などとともに顧客に製品のメリットを地道に伝え続けることで、社内の仲間や顧客を増やし、一歩ずつ普及を進めてきた。マーケティング部 部長の西村信生は「製品の値段だけをアピールすると負けてしまうが、ダウンサイジングや省スペース、省エネといったお客様のメリットを、営業側と技術側の社員が手を取り合って伝えていった」と振り返る。顧客からの厚い信頼を勝ち得ているのは、部門間の垣根を越えて現場のニーズを製品やサービスに反映させていくという、ヒラカワの社風によるところが大きいだろう。

「高効率ボイラ」という新たなカテゴリを確立した技術

ボイラ高効率化の肝となるのが、ヒラカワが業界内で先駆けて追求する「潜熱回収」という技術である。ボイラは大きく蒸気ボイラと温水ボイラの二つに分けられるが、特に温水ボイラの省エネは困難とされている。ここに潜熱回収技術で風穴を開けた形だ。ヒラカワは、潜熱回収温水器「UltraGas(ウルトラガス)」、および潜熱回収貫流ボイラ「ConboGas(コンボガス)」の開発・販売により「高効率ボイラ」というカテゴリを確立してきた。潜熱回収の技術について西村は、「熱が吸収されやすいようガスと水が接する伝熱面の形状や配置を工夫したり、発生する水を効率よく回収できるような仕組みにしたりすることで効率を高めている」と説明する。ある程度のイニシャルコストは掛かるものの、昨今の脱炭素化の流れのなかで各施設への導入が進みつつあるという。

成功の裏にある失敗と試行錯誤

ConboGasの開発担当である開発室 第2開発グループ グループ長 鈴木卓哉は、同製品の特徴について「ボイラは通常、停止して換気するたびに熱ロスが発生するが、ConboGasでは燃焼量を100%~10%まで細かくコントロールすることで、ボイラの発停による熱ロスをできるだけ抑えることができる。空気やガスの量を調整し、燃焼を適切にコントロールすることは難しく、10%という微妙な調整を小型ボイラで実現しているのは当社のみ」と説明したうえで、「開発当時は入社2年目だったが、機器の特性を詳細かつ網羅的に試験していくことで、なんとか商品化に至った」と、経験が少ない中での大きなチャレンジであったことを明かした。

一方、UltraGas初号機の開発を担当した開発室 第1開発グループ グループ長 野村浩之は、「シリーズ3機種を展開しようとしたが、下位2機種では発生しなかった事象がリリース当時、最大機種のみで見つかった。これは、保有水量、伝熱量、形状サイズ、配置といった制約条件があるなか、水量や伝熱面積などの微妙な違いにより発生した事象。開発スケジュールの後半で発覚したが、日夜試行錯誤して検討・試験を行い、沸騰後の水の流れなど、下位2機種とは異なる工夫を取り入れることで解決し、リリースに至った」と、当時のエピソードを語る。

 

 

潜熱回収貫流ボイラConboGasシリーズ

潜熱回収温水器UltraGasシリーズ

「チャレンジ精神」と「主体性」を持って開発に挑む

ヒラカワの開発部門は、ここ数年で若手技術者の数が増えてきており、鈴木のように経験が浅くとも、チャレンジ精神さえあれば、アイデアを出し、検討・試験の試行錯誤をしながら開発業務に携わっていくことができる。「ヒラカワの良いところは、アイデアと行動力があれば、若いうちから活躍できる場があること。2年目の頃には、アイデアの実現に向けて全国各地へ出張に飛び回った。他社ではなかなかできない経験だったと思う」と、鈴木は語る。

裏を返せば、若手のうちから主体的に業務に取り組む姿勢が求められる環境であるともいえる。同社の社員行動指針には、「チャレンジ精神」「主体性」という言葉が並んでいる。野村は、「主体性がなければ、与えられたテーマを進めていくことはできない。ベテラン社員に相談しながら自分で考えたアイデアを形にしていくことが求められる。開発を進めて製品をリリースするには、行動指針を意識することが重要」と力を込める。

充実した設備が特徴のボイラ技術開発センター「B-TEC」

ソリューションメーカーへの転換を目指して新製品開発を進めていくこと、また、外部の研究機関とともに開発研究や実験を行うことを目的として、ヒラカワは2004年、滋賀事業所内に日本初のボイラデモセンターとなるボイラ技術開発センター「B-TEC」を開設。施設内には、燃焼テスト用の実験炉や各種蒸気の特徴を活かした用途開発の実証実験装置、分析室などが備わっており、野村や鈴木も普段は同施設内で開発を進めている。充実した設備のもと、開発からソリューションの提案までを一気通貫で進めていくことができ、より多様なニーズへの対応を可能としている。2019年には、本社内に「B-TEC Osaka」も立ち上げた。

B-TECでは、関西大学などとともに産学連携にも積極的に取り組んでいる。「大学の知見を利用させていただき基礎技術を検証しながら、大学でできないような大規模な試験を我々の施設で行うという棲み分けをしている。こうした取り組みから生まれた技術や知見を大学でも生かしてもらえるような場にしていければ」(久郷)

次世代エネルギーへの対応を見据えて

世界的に脱炭素化の機運が高まるなか、水素やアンモニア、バイオマスなど次世代のエネルギーを使用したボイラの開発に注目が集まる。ヒラカワでも、ボイラのゼロ・エミッション化を見据え、燃料の動向調査や燃焼技術の基礎開発を進めているところだという。今後も、大学やエネルギー関連業界との意見交換や情報収集を通して、社会的なニーズの変化に対応していける体制を整えていく。

(取材・文 周藤 瞳美)


(株)ヒラカワ

本社所在地:大阪市北区 https://www.hirakawag.co.jp

 

(写真左から西村、久郷、野村、鈴木)

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