特集 カーボンニュートラルへの道 “省エネの視点から”<電気学会 合同企画>
断熱・蓄熱技術の最前線
はじめに
NEDOが実施する断熱・蓄熱技術の開発支援
我が国の一次エネルギー消費のうち6〜7割は有効利用されることなく、そのうちの多くは熱として最終的に排出されている(図1)。断熱技術と蓄熱技術はそのような熱のロスを少なくする、または有効利用するためのものであり、省エネルギーを実現する上で大変重要な技術である。
断熱技術は、材料の物理・化学的性質により熱伝達や熱移動を減少させる技術であり、高温部材からの放熱によるロスや外気から室内への熱侵入を低減することにより、投入エネルギーの削減をはかり、省エネルギーを実現する。一方、蓄熱技術は、余った熱を一時的に貯蔵して、必要なタイミング、場所で利用することにより熱供給と熱需要の時間的なミスマッチを解消することで、省エネルギーを図れる技術である。このような技術で省エネルギーが実現できれば設備容量の削減による経済的効果も期待できる。
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以後、NEDO)では、技術シーズの育成や実証など技術開発ステージに応じた様々な事業を通じて断熱・蓄熱技術の開発支援を行っている。本稿では、最近の取り組みの中から、断熱(含む遮熱)技術の開発事例を2件、蓄熱技術の開発事例を4件紹介する。
図1 国内の一次エネルギー活用状況(文献(1)を基にNEDO作成)
ファイバーレス断熱材
最高使用温度1500℃の工業炉用断熱材
窯業・土石分野において工業炉の放熱ロスは重要な問題である。なかでも1500℃以上の高温となるセラミックスの焼成工程では、製品の焼成に使用される熱量はわずか数%であり、残りの熱量は炉壁から放熱されたり、炉材の蓄熱や排ガスとして放熱されたりしている。また、従来の高温断熱材のうち、ファイバー断熱材では荷重負荷がかかる用途での利用ができない、断熱材組織の劣化により焼成物を汚損する可能性、高アルミナ質などの耐熱断熱レンガでは断熱性能が低いなどの課題があり、強度と耐熱性はトレードオフの関係にあった。このため、工業炉の徹底的な省エネルギー化のため、高温に耐えられる高強度・低熱伝導率材料の開発が望まれている。
美濃窯業(株)と(国研)産業技術総合研究所(以下、NEDO)は、ゲル化凍結法(図2)を用いて、一方向に配向した微細気孔を形成することにより、トレードオフの関係にある高強度と低熱伝導率を両立し、最高使用温度1500℃、圧縮強度15MPa以上、熱伝導率0.2W・m-1・K-1を有するファイバーレス断熱材を開発した(2)。
図2 ゲル化凍結法による断熱材作製工程(2)