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2022/3 Vol.125

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特集 カーボンニュートラルへの道 “省エネの視点から”<電気学会 合同企画>

ビル市場の省エネルギー技術の事例

福本 淳二〔アズビル(株)〕

ビルの省エネ制御、BEMSを活用した省エネ技術

注目される省エネ制御・技術と今後について

本稿ではビル市場において注目される4点の制御と技術(1. 外気冷房のコロナ禍での高度利用、2. クラウドによる熱源の最適な運転支援、3. 在室管理のセンシングと高度化、4. 建物における需要抑制とインセンティブ)について述べる。

外気冷房のコロナ禍での高度利用—省エネルギーと感染予防について—

感染症対策と省エネ制御技術の連携について

(1)感染症対策に関する外気を使った換気の有効性

新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の見解(令和2年3月9日および3月19日公表)(1)では、集団感染が確認された場所で共通する3条件が示されている。新型コロナウイルス感染症厚生労働省対策本部では、この見解を踏まえ、リスク要因の一つである「換気の悪い密閉空間」を改善するため、多数の人が利用する商業施設などにおいてどのような換気を行えば良いのかについて、有識者の意見を聴取しつつ、文献、国際機関の基準、国内法令基準などを考察し、推奨される換気の方法をまとめた。

ビル管理法(建築物における衛生的環境の確保に関する法律)における空気環境の調整に関する基準に適合していれば、必要換気量(一人あたり毎時30m3)を満たすことになり、「換気が悪い空間」には当てはまらないと考えられ、機械換気(空気調和設備、機械換気設備)による方法などを商業施設などの管理権原者に推奨している。

(2)外気冷房 —計装分野における省エネ手法の一つ—

BEMS(Building Energy Management System)には標準で外気冷房制御を行っている。外気冷房とは中間期および冬期において外気を使った冷房が有効な場合に、外気を空調機を通して室内へ導入し、省エネルギーを図る空調方式である。

図1は外気冷房制御を含む計装図と制御項目一覧を抜粋したものである。外気冷房が有効な時は、給気温度により外気ダンパを制御し、外気ダンパを全開にしても室内を冷やしきれない場合は冷水弁が開き始める。外気冷房有効判断を温度、エンタルピ、露点温度などの条件から行い、外気冷房制御を行う。

図1 外気冷房計装図および制御項目

(3)外気冷房のこれまでの課題

計装から見た外気冷房は、自然エネルギーを使った、積極的に利用すべき技術の一つだが、これまで大きくは二つの課題があった。

1. 建築の計画は、設備の計画に優先されるため、外気冷房を実施できる外気ダクト(つまり換気用外気の取入れ場所)のサイズが熱負荷計算程は取れないケースがしばしばある。

2. もともと、ダクティングを空調設備工事として用意しないと自動制御設備工事としては、外気冷房の計装を提案・実装できない場合がある。

(4)感染症対策を意識した外気冷房利用の高度化

これまでの前述(2)外気冷房制御はあくまでも省エネをトリガーとした技術であったが、前述(1)のように換気、特に強制的な換気動作は、増エネとなっても居住者の価値となる時代が到来しつつあり、(3)課題を解決する契機となっている(2)

国や自治体からの換気の方法の推奨や、ビルの所有者の価値判断によって、外気冷房がより多く使用され、外気導入比率や外気導入量および室内のCO2濃度が分かり易いBEMSにより変更しやすい仕組みが今後の新しい価値として登場したことは重要である。このようにビル空調の省エネ技術は感染症対策ともつながりつつ高度化が進展している。

クラウドによる熱源の最適な運転支援—クラウドサービスと省エネ—

熱源システム運転を効率化するクラウドサービス

(1)熱源システムの背景

東日本大震災以降、災害発生時の電力供給確保(BCP)ニーズの高まりなどのため、自家発電設備、特に熱電併給設備(CGS:Cogeneration System)が熱源システムに多く導入されている。CGSは内燃機関で発電し、その際に発生する熱を多様な設備で有効活用するものであるが、需要負荷の変動やエネルギー単価の変動に応じて、コスト削減・省エネルギー・高効率運転となるように各設備の運用計画をたてることが課題となっている。

これらの課題を解決する技術として、「需要予測」と数理計画法に基づく「最適化」が注目されている。

また近年の情報通信技術の発達や通信インフラの整備により、従来は利用者が手元のPCで利用していたアプリケーションやデータをインターネット経由のサービスとして、利用者に提供するクラウドサービスが日常生活のあらゆるところで急速に普及してきている。

(2)クラウドサービス概要

クラウドサービスは、ビルオーナーや設備オペレータ、居住者などビルに関わるさまざまなユーザに対してインターネットを経由してサービスを提供している。本稿で紹介する熱源最適運用支援(OP: OPtimal OPeration)だけでなく、エネルギー管理(EM: Energy Management)、設備保全管理(BM: Building Management)、テナントサービス(TS: Tenant Service)などのサービスメニューを用意しており、顧客は必要なメニューを組み合わせて利用することができる。

表1 サービスメニュー一覧

(3)熱源最適運用支援(OP)

熱源最適運用支援(OP)では、図2のように予測された需要量に対して、ある最小化目的に沿った熱源の「最適運転計画」を立案する。なお、最小化目的としては、コスト最小化やCO2排出量最小化などを選択可能である。

最適運用支援は、以下機能を提供している。

・需要予測機能:冷温水や電気、ガスなどの使用量を最大7日先まで予測可能である。予測には当社保有技術である位相事例ベースモデリング(Topological Case-Based Modeling:TCBMTM)を使用している。

・熱源最適運用支援機能:熱源の「最適運転計画」は、熱源システム運用を混合整数線形計画問題(Mixed Integer Linear Program:MILP)としてモデル化し、数理最適化ソルバーにより最適解を求めることで得られる。

・ダッシュボード:ユーザはダッシュボード画面にて、直近の負荷予測結果や熱源計画の概況を直感的に把握することができる。

・熱源運転計画:立案した最適運転計画に基づき、今後の各熱源の運転/停止スケジュール、製造エネルギー量を表示する。

・システムCOP管理:熱源システムの運転効率(Coefficient Of Performance:COP)の実績値、および予測値を表示する。

・エネルギー契約達成状況:立案した最適運転計画がガス契約を満足しているか確認できる。

・スケジュール機能:熱源は故障やメンテナンスで運転できない場合がある。ユーザが、Webアプリケーション画面で熱源を停止したい時間帯を設定することができる。

・台数制御連携機能:クラウド側で画面表示している最適運転計画を現地の台数制御に反映可能である。クラウド側と自動制御の役割分担の考え方は、クラウド側では最適運転計画に基づいた制御パラメータを決定し、自動制御側は決定された制御パラメータに基づいて、需要側の変動に対応する。

図2 熱源最適計画 処理概要

(4)最適化の導入

年々高まる環境規制、多種多様な熱源設備の登場、自然エネルギー利用の拡大、BCPを考慮した設備構成、ディマンドリスポンスへの対応など、建物・工場の熱源システム運用は、今後さらに複雑化していくと考える。また、労働人口の減少により、熟練設備オペレータの確保が困難になることが予想されている。したがって、熱源システム運用品質の維持・向上を図るためには、数理最適化技術の有効活用が必要である。

在室管理のセンシングと高度化—赤外線アレイ—

快適さと省エネに貢献する新たなセンサシステム

(1)赤外線アレイセンサシステムの特長

従来の空調制御では、室内の温度を点で計測し、室内に与える熱(給気の温度と風量)をフィードバック制御により制御していた。赤外線アレイセンサシステムを活用することで省エネとさらなる快適性を実現するために、床、壁、天井などの表面温度を計測し、フィードフォワード制御により即座に給気温度と給気風量を決定することができる。また独自の人検知技術により、表面温度分布から人の在不在や、人数を推定でき、それに応じた空調制御やその他システムへの応用ができる。

(2)赤外線アレイセンサによるセンシングの高度化

物体は表面温度に応じた赤外線を放出している。赤外線アレイセンサは、物体から放射される赤外線を計測することで、離れた場所の温度分布を瞬時に計測できる。従来空調制御で使用されていた温度センサは温度により素子の抵抗値が変わる原理を利用しており、温度変化に対しても一定の時定数(空調用センサでは数分程度)の遅れが発生する。また、測定したい場所に素子を設置する必要があり、無空間などセンサを設置する場所がない場合、人のいる場所とセンサの場所が離れていることによる遅延や温度差が発生することがある。

赤外線を利用して温度を測定する仕組みはほかにもあるが、赤外線の変化を測定する焦電センサに比べると、赤外線アレイセンサでは放射される赤外線自体を計測するため、オフィス内で執務している居住者など動きの少ない熱源も検知し続けることができるという特長を持っている。この赤外線アレイセンサはさまざまな分野で活用され始めているが、本製品は空調システムでの使用に最適化することを目標とし、温度分布の把握だけでなく、建物内の人の在不在や人数推定を十分な精度で行うための解像度を持ち、10年の設計推奨使用期間を実現している。

 


図3 赤外線アレイセンサイメージ

 

(3)赤外線アレイセンサシステムのオープン化

基本的な機能はセンサでありながら、図4のように「赤外線アレイセンサ『システム』」である。計測はセンサ単位で行いながら、システムとして処理を行う。それぞれのセンサが計測した情報を情報集約装置という機器で取りまとめ、重なり合う部分を削除して自動的につなぎ合わせて処理を行う。情報集約装置にそれぞれのセンサの空間的な位置を持たせることにより、つなぎ合わせる処理は自動的に行うことができ、個別のセンサ位置による調整を手動で行う必要はないことも、広い空間に設置する上で大きな利点となる。

また、この情報集約装置は外部へのゲ−トウェイの役割も果たす。ビルシステムで最もよく使われている汎用プロトコルであるBACnet/IPで外部と通信することで、他社および他設備システムとの連携も容易に実現できる。

 

図4 システム構成図 ※BACnetはASHRAEの商標

 

(4)赤外線アレイセンサの今後

温度センサでありながら温度を面計測できること、瞬時に温度を計測できること、面温度分布から空間への熱の出入りを求めること、人を個別に検知し人数の推定ができることなどを実現している。さらにその人や熱の情報から空調制御への活用のみならず、照明制御をはじめさまざまな用途への活用が期待できる。

また、赤外線アレイセンサで測定できるのは物体表面の温度であるが、より計算量の少ないモデルを用いて、空間の温度分布の予測を行う。これはセンサが存在しない場所の空間の温度を求めることになり、人の居住域に対してより快適な温熱環境を提供するのに役立つと考える。

従来の温度センサとフィードバック制御の考え方と違う革新的なセンサであり、機能やコストのさらなる改善、応用範囲の拡充を進め、さまざまな建築空間に対する快適環境の構築と省エネルギーに寄与するソリューションとなることが期待される。

建物における需要抑制とインセンティブ—ビルにおけるVPP: Virtual Power Plant—

ERAB:エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス

(1)蓄熱を活用したVPP実証事例

IoTを活用した高度なエネルギーマネジメント技術により分散型のエネルギーリソースを束ね(アグリゲーション)、遠隔・統合制御することで、電力の需給バランス調整に活用することができる。この仕組みは、あたかも一つの発電所のように機能することから、「仮想発電所:バーチャルパワープラント(VPP)」と呼ばれている。VPPは、負荷平準化や再生可能エネルギーの供給過剰の吸収、電力不足時の供給などの機能として電力システムで活躍することが期待されている。ディマンドリスポンス(DR: Demand Response)とは、需要家側エネルギーリソースを制御することで、電力需要パターンを変化させることであり、需要制御のパターンによって、需要を減らす(抑制する)「下げDR」、需要を増やす(創出する)「上げDR」の二つに区分される。需要制御の方法にインセンティブ型の下げDR(電力会社のDR要請に応じてアグリゲーターの指示により需要家が電力需要の抑制をする)がある。インセンティブ型DRは「ネガワット取引」として厳気象対応調整力電源Ⅰ’、容量市場、需給調整市場などに参画できる(3)

本事例は主として民生業務部門(日本のエネルギー消費の約2割を占める、業務ビル、地域冷暖房施設など)に存在するエネルギーリソースを束ねたビルにおけるVPP実証(経済産業省:需要家側エネルギーリソースを活用したバーチャルパワープラント構築実証事業)である。

(2)VPP実証内容

AutoDR™システムに、新たに必要となるネガワットの精度向上や指令値変さらに対応する機能追加、改良を加え、需給調整市場および調整力を創出する実証を行った。特に、九州地区では、蓄熱槽、CGS、空調設備などといった上げDRに利用可能なリソースを確保し、実質的な活用可能量推定に用いた。VPPリソース化のための技術および制度的課題の洗い出しを行ったコンソーシアム体制を図5に示す。


図5 アズビルコンソーシアム実施体制 ※AutoDRはアズビル(株)の商標

(3)蓄熱式空調システムの特長

<汎用性>

一般的な蓄熱システムは、「夜間蓄熱+昼間追掛け運転」で構成されることから、

・ピーク時(需要抑制ニーズ):昼間追掛け運転中の熱源機を停止することで対応可能

・中間期(需要創出ニーズ):昼間停止中の熱源機を稼働させることで対応可能と、既存設備の基本的な使われ方の延長でDRリソースとしての活用が可能であり(一部、制御や運用面での対応が必要となる可能性は考えられるが)、汎用性の高いシステムといえる。

<応答速度>

需要家からのヒアリングで確認できたことは、起動指令から成否判定容量到達までの時間は5分程度であった。また、熱源機および補機(ポンプ、冷却塔など)の「稼働/停止」による調整であることから、一需要家単独では電源Ⅰ-a(周波数調整機能有り)への対応は難しいことが推察されるものの、ある需要家においては容量制御が可能であり、それを含めた複数需要家による統合制御システムの構築により、幅広い対応が期待される。

特に、運転員が中央監視室に常駐しているような需要家の場合、DR発動時に即座の対応ができているなど魅力的なDRリソースであるといえる。また、既存の蓄熱槽(システム)は大きなポテンシャルが存在し(※300万kWhと想定)、熱源機を稼働/停止させることで、大きな調整力の確保も見込まれることから、魅力的なDRリソースであるといえる。

(4)VPPの今後

実証を通して、大きな課題の一つとして挙げられるのは、パルスレートの問題である。一般的な業務用ビルでは、スマートメーターの受電電力量を計量している。滞在率を評価するデータは、その 1分値データ(kW)であり、スマートメーターよりパルスで収集(計量)している。パルスでの計量が、1kWh/pulse、10kWh/pulse、100kWh/pulseなどと需要家により異なり、パルスレートが大きいほど、1分でのデータの反映確率が低くなり、現場の実態を反映しにくくなっている。そのためリソース拡大のためにも制度設計の改善が期待される。

電力取引の厳気象対応調整力電源Ⅰ’、容量市場、需給調整市場などへの参画は、省エネ、節電に加え、インセンティブも得られ、SDGsおよびカーボンニュートラルの達成に貢献できるため、需要家から注目されており、ビルにおけるVPPの活用が期待される(4)

環境省ではPPA(Power Purchase Agreement)活用など再エネ価格低減などを通じた地域の再エネ主力化・レジリエンス強化促進事業:オフサイトから運転制御を行う事業に係る補助金公募が行われ、エネマネ事業者としてDR・VPP技術を活用し、カーボンニュートラルに向けた設備導入の促進が期待される(5)。電気学会SGTECは、蓄熱システム、蓄電池システム、コージェネレーションシステム、非常用発電機システム、ビル用マルチエアコンシステムなどの業務・産業分野の電力需要家の保有する既設の電力需要設備を電力安定供給のための柔軟性(調整力、供給力)を創出する電力資源として利活用することを検討し、発表している。皆様のご参加をお待ちしている。

 


参考文献

(1)「換気の悪い密閉空間」を 改善するための換気の方法, 経済産業書(参照日2021年2月7日)https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000618969.pdf

(2) 換気量実測調査等まとめ, ビルディング・オートメーション協会, (参照日2021年2月7日)

http://ba-system.org/wp-content/uploads/換気量実測調査まとめ.pdf

(3) VPP・DRとは,経済産業省 資源エネルギー庁

http://www.eta.or.jp/offering/21_06_ofctrl/files/zigyo-gaiyo-seigyo.pdf

(4) ERAB,アズビルhttps://www.azbil.com/jp/erab/

(5) 二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金, 環境技術普及促進協会, (参照日2021年2月7日)http://www.eta.or.jp/offering/21_06_ofctrl/files/zigyo-gaiyo-seigyo.pdf

 


<電気学会 会員>

福本 淳二

◎アズビル(株) ビルシステムカンパニー マーケティング本部

環境マーケティング部 担当部長

◎専門:DR・VPP、ERABサイバーセキュリティ

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