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2022/2 Vol.125

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特集 鉄鋼業におけるモノづくり

自動車の強みとしての先進高強度鋼板

樋渡 俊二〔日本製鉄(株)〕

はじめに

日本の自動車産業の発展を支え続ける鉄鋼の進化

日本のものづくりの強みは品質力・技術力を活かせる部素材にあるといわれている(1)。鉄鋼は高度成長期から現在まで高い品質と技術で日本の製造業を支え続けてきた。中でも、上位の国際競争力を誇る自動車産業との連携については高橋がレビューしている(2)。それによると、自動車の国産化の是非が問われた1952年の第13回国会参議院運輸委員会で鉄鋼業の協力が不可欠とすでに論じられている。車体用鋼板の進化を実際に振り返ると、高度成長期には連続焼鈍で製造できる高成形性鋼板を開発し、自動車の大量生産に応えた。その後、自動車産業が輸出で成長しているとき、北米の融雪塩に対する防錆性能に優れた表面処理鋼板を開発することで、それを後押しした。さらに最近では安全や環境に対するグローバルな要求に応えるべく、高強度鋼板(ハイテン)を目覚ましく進化させ、自動車産業の国際競争力の発揮に貢献している。

自動車産業は今、CASE(Connected 電動化、Autonomous 自動運転、Shared シェアリング、Electoric 電動化)やMaaS(Mobility as a Service さまざまな移動手段の単一サービスへの統合)に象徴されるモビリティ革命に挑戦している。これは新たな価値を創造する取り組みであるが、その深層には、安全、省資源、気候変動抑制、SDGs(Sustainable Development Goals 持続可能な開発目標)などの基盤的な価値の希求があるとも考えられる。これらは自動車が使われている間だけでなく、自動車の製造に必要な天然資源の採取から廃車後のスクラップのリサイクルまで、ライフサイクルを通じて検討されるべき社会全体の課題である。素材はマテリアルフローを通じてこれらの基盤的価値に大きく影響する。特に、気候変動対策が最重要課題となった現在、車体用素材に求められる特性や特徴を俯瞰してみると、高強度鋼板はこれらの基盤的な価値の追求に最も適した素材であると改めて気付かされる(3)。以下に車体用素材としての鋼板の特徴と、今後も日本の強みの源泉であり続けるために必要なその技術の進化について、機械工学との接点とともに紹介する。

自動車車体材料としての鋼板の基本特性

衝突安全と軽量化、そして環境への貢献

運動性能向上、燃費向上、走行時の温室効果ガス排出削減のために軽量化が強く求められた時、密度(比重)の高い鉄鋼材料が軽量他素材に置換されるという予測が高まった。しかし、金属の弾性率は概して密度と比例関係にあり(図1)、質量当たりの剛性は鉄とアルミニウムではほぼ等価となる(4)。その上で、車体の衝突安全と軽量化の両立のための基本特性である強度を見ると、鋼板ではすでに1.8GPa級が実用されており、強度を密度で除した比強度でも軽金属を凌駕している(図2)。さらにさまざまな強化機構を駆使して、成形時や衝突時の破断に対する延性が同じ比強度の他素材より優れた高強度鋼板が開発され、今でも多様な製品で適材適所のニーズに応え続けている(4)

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