特集 大型機械構造物の安全化の過去・現在・将来
ワイヤロープの疲労試験と有限要素解析
はじめに
ワイヤロープは、直径約1 mm前後の金属の素線が撚り合わされて作られている。撚り方などで多くの種類が存在しており、基本的な構造は図1のように素線を撚り合わせてストランドと呼ばれる細いロープを作り、さらにストランド同士を撚り合わせることでワイヤロープとなる。
ワイヤロープは供用中に、1)シーブとの間に生じる素線の摩耗と2)曲げによる疲労、により図2に示すような素線の断線が生じる。やがて断線本数が増加するにつれ、断線した素線はワイヤロープ全体の強度に寄与しないことから、ワイヤロープ全体の破断に至る。従来使用されてきた麻または樹脂繊維心のワイヤロープは、この2種類の損傷から生じる断線が主なワイヤロープ破断の原因であった。これに対して、近年はストランド同士がずれてしまう所謂“型崩れ”などを防止するなどの目的から、鋼心を利用したワイヤロープ(IWRC: Independent Wire Rope Core)が主に用いられるようになってきた。しかし、IWRCは繊維心ワイヤロープの前述の損傷に加えて、ワイヤロープ内部においてもストランドと鋼心が擦れ合い摩耗が生じている。内部の摩耗は断線の原因となるが、目視により発見することができない。また、これまでの研究(1)において、一部のIWRCにおいては外層素線の断線より内部断線の方が優先的に生じる、つまり不可視領域での損傷が可視領域での損傷より優先的に生じることが報告されている。したがって、廃棄基準の策定などのためには、不可視領域の損傷の評価が重要になってきている。
こうした損傷の特性を持つIWRCの疲労強度について、(独)労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所では、1990年代からワイヤロープの研究を行ってきた(1)(2)。2021年度よりワイヤロープS字曲げ疲労試験機を新たに2台導入し、IWRCの疲労強度について調査を始めた。また、並行して内部損傷が優先的に生じるメカニズム解明のためにワイヤロープの有限要素解析を東京大学と共同で実施している。本稿ではこれら二つの取り組みについて紹介する。
ワイヤロープのS字曲げ疲労試験
ワイヤロープ張力と破断する繰返し数の関係
キーワード:大型機械構造物の安全化の過去・現在・将来
機構模型
工部大学校の「機械学」教育機器(機械遺産第100号)
歯車を用いた往復運動
年代未詳/真鍮、鉄、木製台座/H250, W400, D300(mm)/東京大学総合研究博物館所蔵
工科大学もしくは工学部の備品番号「工キ學ニ二一〇」の木札付。本模型の年代は未詳であるが、東京大学総合研究博物館には工部大学校を示すプレート付きのものを含め、近代的な機械学教育のために明治期以降に導入された機構模型が現存する。
上野則宏撮影/東京大学総合研究博物館写真提供/インターメディアテク展示・収蔵
[東京大学総合研究博物館]