特集 大型機械構造物の安全化の過去・現在・将来
天井クレーン操作器の操舵と駆動を分離し安全搬送を実現
現在の天井クレーンのペンダント式操作器
現在、世界中の天井クレーンの移動を操作するペンダント式操作器の多くは、図1に示すような、上・下・東・西・南・北の6方向に対応するボタンを押す方式を採用している。この方式の場合、クレーンの運転者はまず、吊り荷を動かしたい方向を確認し、天井や壁面にあらかじめ設置してある、図2に示す東西南北の方角を示す方角表示板を確認し、手元の操作器にある東・西・南・北の4方向のボタンの中から、対応するボタンを選択し、必要な時間だけ押し続ける行為を繰り返すことにより、吊り荷を所望の場所まで搬送する。
一方、クレーン作業では労災事故が後を絶たない(1)。日本クレーン協会のテキスト「クレーン運転の安全」では、運転者は、吊り荷の後方、または横の位置から荷に付いて歩くとされている。しかし、押しボタン方式の操作器を操作し、運転者が吊り荷に付いて行く現方式では、操作器の誤操作の発生頻度はなかなか減らない。なぜなら、運転者が方向を勘違いする場合や、仮にその勘違いでない場合でも、押しボタン方式の操作器では相反する東・西又は南・北のボタンが隣接しているため、指一本押し間違えると、自分が吊り荷を動かしたい方向とは真逆の方向に吊り荷を移動させてしまうからである。
愛知県の大手機械メーカーS社で、押しボタン方式の操作器を用いて行う天井クレーンの作業について聞き取り調査を行った結果を表1に示した。アンケート結果によれば、ボタンの押し間違いが87.0%、方向勘違いが85.7%と、ほとんどのクレーン運転者がボタンの押し間違い、方向の勘違いなどによるヒヤリハットの経験者である。
者への調査結果
これでは、労災事故はなかなか減らない。なぜ天井クレーンの操作器が東西南北の配列になったのか、確固たる理由は不明である。しかし筆者は、押しボタンの配列に、クレーン作業の安全性という観点から改善の必要がある、または、その改善の必要性が高いとは認識されてこなかったことが、理由の一つであると推測している。労災事故が後を立たないにもかかわらず、筆者が調査した限り、少なくとも70年以上の昔から、操作器は東西南北というボタン配列のまま、という事実を根拠としている
操舵と駆動の分離が安全搬送の鍵
キーワード:大型機械構造物の安全化の過去・現在・将来
機構模型
工部大学校の「機械学」教育機器(機械遺産第100号)
歯車を用いた往復運動
年代未詳/真鍮、鉄、木製台座/H250, W400, D300(mm)/東京大学総合研究博物館所蔵
工科大学もしくは工学部の備品番号「工キ學ニ二一〇」の木札付。本模型の年代は未詳であるが、東京大学総合研究博物館には工部大学校を示すプレート付きのものを含め、近代的な機械学教育のために明治期以降に導入された機構模型が現存する。
上野則宏撮影/東京大学総合研究博物館写真提供/インターメディアテク展示・収蔵
[東京大学総合研究博物館]