特集 大型機械構造物の安全化の過去・現在・将来
クレーン設計における限界状態設計法の現状
はじめに
旧来の鋼構造物の強度設計方法は初等力学および構造物の破損経験を基にした設計方法であった。構造物の安定性や信頼性に関する種々の理論的な研究がなされるようになり、1973年に国際規格であるISO 2394, General principles on reliability for structuresが制定されて以来、世界各国で限界状態設計法に基づいた設計指針などが制定されるようになった。クレーンなどにおいても、ISO 2394の制定を機に合理性の高い限界状態設計法に基づいた設計指針などが制定され、その活用が世界的趨勢となってきている。
日本におけるクレーンなどの強制法規である構造規格が労働安全衛生法による労働省告示として制定されたのは1962年である。これ以後、クレーンなどの構造規格は許容応力設計法を一貫して採用してきており、部分的な改正はなされたものの、50年以上の長期に亘って本質的な改正はなされて来なかった。しかし、2018年に移動式クレーン構造規格が従来の許容応力設計法に加え限界状態設計法も選択できる内容に改正され、移動式クレーンにおいては限界状態設計法の運用が一部で始まっている。
そこで本稿では、このような背景のもと、限界状態設計法およびその可能性、発展性について少しでも理解していただくことを目的とし、許容応力設計法との差異を説明するとともに、海外および日本におけるクレーンなどの限界状態設計法に関係する法規および規格の現状を説明する。
許容応力設計法の概要
一般に、機械や構造物の構造部材が受ける荷重や材料の強度には不確定性(ばらつき)が存在する。従来は、機械や構造物の強度設計に際して強度的に十分な余裕を持たせた経験的な安全率を用いる許容応力設計法を用いるのが一般的であった。一つの部材にm個の荷重が作用するときの許容応力設計法による設計基準式は、Rnを材料の公称強度、Sni をi番目の荷重、νを安全率とすると、次の式で表される。
(1)
しかし、安全率の大きさは過去の経験によって決められているのが現状であり、このような手法は必ずしも合理的とはいえない(1)。
限界状態設計法の概要
キーワード:大型機械構造物の安全化の過去・現在・将来
機構模型
工部大学校の「機械学」教育機器(機械遺産第100号)
歯車を用いた往復運動
年代未詳/真鍮、鉄、木製台座/H250, W400, D300(mm)/東京大学総合研究博物館所蔵
工科大学もしくは工学部の備品番号「工キ學ニ二一〇」の木札付。本模型の年代は未詳であるが、東京大学総合研究博物館には工部大学校を示すプレート付きのものを含め、近代的な機械学教育のために明治期以降に導入された機構模型が現存する。
上野則宏撮影/東京大学総合研究博物館写真提供/インターメディアテク展示・収蔵
[東京大学総合研究博物館]