特集 機械と繊維の新しい関係
エレクトロスピニング法によるナノファイバーの世界
はじめに
ナノテクノロジーとは、原子や分子の配列をナノスケール(10-9 m)で自在に制御することにより、望みの性質を持つ材料、望みの機能を発現するデバイスを実現し、産業に活かす技術のことである。ナノテクノロジーは素材やIT、バイオなど広範な産業の基盤に関わるものであり、21世紀の最重要の技術と捉えられている。この技術を実現することで想定されることの例としては、米国の国家ナノテクノロジーイニシアティブ(NNI)でクリントン元大統領が演説で述べていた次のようなものがある。
・鉄鋼よりも10倍強く、しかもずっと軽い素材(素材)
・国会図書館の情報を角砂糖の大きさのメモリに収容(IT)
・ガンを細胞数個程度の段階で検出(バイオ)
このような例が示すとおり、ナノテクノロジーが素材、IT、バイオにまたがる普遍的な技術であることを示唆している(1)。
ナノファイバーもナノテクノロジーの一種である。ナノファイバーは1本の太さが500 nm以下で、髪の毛の400分の1程度の細さという極細繊維である。その長さは直径の100倍以上(アスペクト比:軸比100以上)のファイバー状の物質と定義されており、天然繊維や合成繊維ばかりではなく、低分子化合物の形成する超分子ナノファイバー、無機ナノファイバー、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、微生物の産生するセルロースナノファイバーなども含まれる(2)。ナノファイバーは従来のマイクロファイバーに比べて高比表面積、高空隙率、軽量、微細なポア(孔径)、薄さ、滑らかさなどの特徴があり、疎水性(撥水)や親水性(高吸水性)、透過性に優れていることから現在では衣類のみならずメディカルや電気・電子分野まで幅広く研究開発が進んでいる(3)。図1に示すように、ナノサイズ効果による光学特性の向上や、高比表面積効果による分子認識性や吸着性の向上、超分子配列効果による力学・熱的・電気的特性の向上などといった特徴により、ナノファイバーは透湿防水服、各種フィルターなどの環境分野、電池セパレータ、各種ガスセンサなどの情報や通信、エネルギー分野、バイオセンサ、医療用培地、人工血管などの医療・ヘルスケア分野に応用が期待されている材料である(4)。
図1 ナノファイバーの用途
エレクトロスピニング法によるナノファイバー
まず、ナノファイバーの理解を助けるために図2を示す。
キーワード:機械と繊維の新しい関係
機構模型
工部大学校の「機械学」教育機器(機械遺産第100号)
機関車模型
年代未詳/ボールドウィン社製/フィラデルフィア(米)/真鍮、鉄、木製台座/
H250, W610, D180(mm)/東京大学総合研究博物館所蔵
「Baldwin Locomotive Works Philadelphia, USA Compound Locomotive Cylinder and Valve Gear S.M.Vauclains Patents 4o6o11, 4o6o12, 471836」の金属プレート付。このような模型が近代化の進められた機械学教育に用いられた。本模型の年代は未詳であるが、東京大学総合研究博物館には工部大学校を示すプレート付きの機構模型を含め、近代的な機械学教育のために明治期以降に導入された機器が現存する。
上野則宏撮影/東京大学総合研究博物館写真提供/インターメディアテク展示・収蔵
[東京大学総合研究博物館]