Myメカライフ
開発の難しさと息抜きの大切さ
会社に入社し、先輩の作ったメカを見て、「ここをこう動かせば、すごい製品が作れる!」と直感し、不慣れなソフトウェアを書き始めて気が付けば10年近く経ちました。残念ながら、「すごい製品」というのはおそらくまだできていませんが、たくさんの人と一緒に仕事をし、一歩ずつ着実に進んでいるように思います。この度、奨励賞を頂くことになりましたので、これまで気づいた開発の難しさなどについて、書こうと思います。
入社当初は勢いに任せてなんでもやろうとして、漠然と大きな目標を成し遂げたいと、いつも焦っていました。コード開発に没頭し、人に褒めてもらえるまでロボットの動作を作りこみました。しかし、同業者は優しいのですが、検証現場へ持って行った先ではお客様に「役に立たない」と難色を示されてしまったり、また、複数人で開発しているときに、所望の動作が実現できないと開発者同士で犯人捜しのようになってしまったりして辛かった記憶があります。もはや自明の話ですが、ロボットのような複雑なシステムを開発して誰かに使ってもらうという業態を考えたとき、一般的に2つの課題があります。一つは顧客の要求を技術者が正確に把握できるとは限らないということ、もう一つは、要素が多いので開発に関わる人数が多く、コミュニケーションが大変になる、ということです。前者は資金や人を動かす立場の人が時間をかけて考え収束させていかねばならないし、後者は開発関係者間で、他人の仕事やミスのカバーも快くやってあげようというようなおおらかな態度が必要ですが、どちらも簡単に準備できるものではありません。その一方で、ロボットはバズワードと化しているため、世間的にはとても期待されています。気を付けないと、一人でこの困難な課題と大きな期待に晒されることになり、たいへんなストレスを受けます。若い頃は組織の一部としての自分が分からず無理がたたり、体調を崩してしまったことがあります。当たり前のことですが自分の体力を超えすぎた無理をするのはよくありません。しかし若い時分というのは、何ができるのか、自分自身でも分からず、力の入れどころのコントロールが難しいものなのではないでしょうか。
今では過去の経験からいくつかのことに気づき、以前よりは効率よく技術開発に取り組めるようになってきました。若い頃はことあるごとに、無闇に悩んでいたのですが、一人で悩んでも仕方ない難しすぎる問題に対しては、少し距離を置けるようになりました。解決にはかなり時間が必要だということが正確に見積もれればよいのだと思います。また、モチベーションについても、よくよく振り返ると、若い頃は単に褒められたくて(あるいは怒られたくなくて)仕事をしていたことにも気づきました。もちろん褒められるのは良いことですが、褒めたり怒ったりというのは案外、物事の真偽ではなくその人の性格でしかないこともあるので、振り回されないように気を付けるのも大事です。それでも何かがうまくいかないときはやはりリフレッシュが必要でしょう。
最近私は絵やバイクの趣味の時間を意識的に確保するようにしています。免許は学生時代から持ち腐れていて、最近やっとバイクを購入しました。MT操作は愛車の特性を体感で把握できるまで経験を積まないと思った通りの運転ができません。運転アルゴリズムに見合う筋力がなくなっていることに絶望しながらも(笑)、趣味を通じて凝った頭をマッサージして、昔できたこと/やりたかったことのリハビリに挑むのはとても楽しいです。このように息抜きを意識しながら、「すごい製品」を提供できる未来へ向かって、研究開発を進めていきたいと思います。
図1 複雑なシステム開発に関わる人々
<正員>
衛藤 春菜
◎(株)東芝 生産技術センター ロボット製品化技術
推進プロジェクトチーム 兼 研究開発センター
知能化システム研究所 機械・システムラボラトリー 研究主務
◎専門:機械工学、ロボット、把持計画
キーワード:Myメカライフ
表紙
機構模型
工部大学校の「機械学」教育機器(機械遺産第100号)
回転斜板
年代未詳/フォイト社製/ベルリン(独)/真鍮、鉄、ガラス、木製台座/
H220, W320, D145(mm)/東京大学総合研究博物館所蔵
ハンドルに「GUSTAV VOIGT BERLIN. S. W.」の刻字あり。工科大学もしくは工学部の備品番号「工キ學ニ四九八」の木札付。本模型の年代は未詳であるが、東京大学総合研究博物館には工部大学校を示すプレート付きのものを含め、近代的な機械学教育のために明治期以降に導入された機構模型が現存する。
上野則宏撮影/東京大学総合研究博物館写真提供/インターメディアテク展示・収蔵
[東京大学総合研究博物館]