特集 水素・燃料電池の基礎、研究開発、展望~機械工学からのアプローチ~
水素・燃料電池分野における機械工学の貢献
はじめに
守備範囲は?
水素・燃料電池分野を包含する水素エネルギーシステム(以下、水素システム)の守備範囲は広い。代表的な水素システムは再生可能エネルギー起源電力(太陽光他)の余剰分による水電解水素製造、製造した水素の貯蔵・輸送、水素を燃料とした燃料電池発電を示すことが多い。過渡期の水素システムとして、化石燃料を起源とする燃料電池発電がある。都市ガスを燃料とする家庭用燃料電池はその良い例である。この場合CO2を排出するが、高効率化や熱電併給なども含めて総合的にみれば家庭用燃料電もCO2排出削減につながる。既存のエネルギーシステム(化石燃料、燃焼、発電)から、最終的な水素システムへの移行期には、家庭用燃料電池などのソフトランディング的な取り組みも必要であろう。
最近の水素システムは経産省エネルギー白書2021(1)などから分かる。この白書は水素システムに関する国の戦略や、動向、事業をまとめている。その内容には以下のようなものが挙げられる。
・ブルネイの未利用ガスを貯蔵・輸送しやすいメチルシクロヘキサンに変換して輸入し、日本で火力発電する水素国際サプライチェーン
・Power-to-Gasの事業として、福島県浪江町の太陽光起源電力による1万kWアルカリ型水電解水素製造と地域利用
・産業分野での象徴的な動向として、水素製鉄。水素をカーボンリサイクル原料して利用する試み
・アンモニアを水素キャリアーとして利用する試み
無論、海外でも同様の水素システムに関する戦略が立ち上がり、また実証が進んでいる。IEAのWorld Energy Outlookを参照してほしい。同資料には将来のエネルギーシナリオも記されている。
このように水素システムが網羅する範囲は広いが、日常の中で、水素システムに触れ、実感する機会は少ない。環境エネルギー問題に端を発する水素システムへの期待は最近のことではない。国内では73年水素エネルギー研究会(後のHESS)、74年サンシャイン計画、78年ムーンライト計画、93年ニューサンシャイン、93年WENET、海外、あるいは国際的には、76年世界水素エネルギー会議、86年EQHHPP(水力/水素、ドイツ/カナダ)、92年米国DOE水素プログラムなどが水素戦略・事業のさきがけとして列記される。既に半世紀経過した。ここでは、なぜ水素システムの本格的な実装に時間を要しているのか考えてみる。時間を要しているからこそ機械工学に期待する、そういった含みもある。
表紙
機構模型
工部大学校の「機械学」教育機器(機械遺産第100号)
回転斜板
年代未詳/フォイト社製/ベルリン(独)/真鍮、鉄、ガラス、木製台座/
H220, W320, D145(mm)/東京大学総合研究博物館所蔵
ハンドルに「GUSTAV VOIGT BERLIN. S. W.」の刻字あり。工科大学もしくは工学部の備品番号「工キ學ニ四九八」の木札付。本模型の年代は未詳であるが、東京大学総合研究博物館には工部大学校を示すプレート付きのものを含め、近代的な機械学教育のために明治期以降に導入された機構模型が現存する。
上野則宏撮影/東京大学総合研究博物館写真提供/インターメディアテク展示・収蔵
[東京大学総合研究博物館]