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2021/8 Vol.124

機構模型

工部大学校の「機械学」教育機器(機械遺産第100号)

材料試験機

年代未詳/エリオット・ブラザーズ社製/ロンドン(英)/真鍮、鉄、木製台座/

H537, W354, D282(mm)/東京大学総合研究博物館所蔵

本体に「PORTER'S PATENT / ELLIOTT Bros. LONDON」の刻字あり。本資料の年代は未詳であるが、東京大学総合研究博物館には工部大学校を示すプレート付きの機構模型を含め、近代的な機械学教育のために明治期以降に導入された機器が現存する。

上野則宏撮影/東京大学総合研究博物館写真提供/インターメディアテク展示・収蔵

[東京大学総合研究博物館]

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学会横断テーマ 2021年度年次大会企画

学会横断テーマ 年次大会企画:1少子高齢化社会を支える革新技術の提案

佐久間 一郎(東京大学)

学会横断テーマ1 2021年度年次大会企画 

 

テーマリーダー 佐久間 一郎(東京大学)

企画チームメンバー:
佐久間 一郎(東京大学)、安藤 健(パナソニック)、岩崎 清隆(早稲田大学)、太田 順(東京大学)、
小林 英津子(東京大学)、松日楽 信人(芝浦工業大学)、山本 健次郎(日立製作所)、和田 成生(大阪大学)


学会横断テーマとしてのスコープ

少子高齢化に伴う人手不足、QOL(Quality of Life:生活の質)の維持は先進国共通の課題である。特に生物学的な寿命と健康寿命との間にはほぼ10年間の差が存在するといわれ、人生の終末期におけるQOLの低下を招いているとともに、莫大な社会保障費が必要となっており、若年層への大きな負担となる。また若年期、壮年期における健康状態の悪化は経済的困窮につながるとともに、人生後半でのQOLを著しく悪化させる。また少子化という問題は医療従事者の減少、福祉を支える人材の不足という形でサービスの低下をもたらす。このように少子高齢化がもたらす社会的な課題は極めて多く、またそれらは相互に関連している。本テーマでは、その中の医療、福祉に関する課題にフォーカスを当てることとする。

課題解決に向けて

この課題を解決していくためには、社会システムの変革とともに革新的な技術が必要となる。ICT、AI、ロボット、自動運転、医療、モビリティ、健康等、広範な技術分野、産業分野にわたるテーマである。広範な技術分野を内包する日本機械学会にはこの分野のイノベーションをリードしていくことが求められる。すでにさまざまな分野において数多くの研究が行われているにもかかわらず、社会課題の解決に向けて、それらが十分に有機的に結びついているとはいえない状況にある。また、巨大な市場になるといわれている分野であるが、産業界での活動は未だ模索の段階のものが多い。社会から機械工学はこれらの課題に対してSolutionを与えることが期待されている。

実行可能かつ適切なSolutionの提案のためには様々なステークホルダー(医療者、サービスを受容者、サービスプロバイダなど)による分野融合的な議論が重要となる。またヒトの生命にかかわる分野であることから安全性に関する議論も科学的に推進する必要がある。技術評価を適切に行って適切なリスクコミュニケーションを社会と進めることも重要となる。このような議論を深めるためには、例えば医工学の分野の人間のみで議論することではなく、人間の住む環境を与えるまちづくり、インフラストラクチャー、交通、物流などの専門家と融合的な議論を進める必要があり、一見この課題とは関係ないと思われがちな分野の研究者との交流を活性化する必要がある。またユーザーとの交流は重要であり、機械工学分野の専門家集団である日本機械学会の中に閉じた活動では適切なSolutionを提案することはできないことも確かである。

また医療、福祉の課題にもとづき開発された技術を社会実装していくためには、産業界を巻き込んでいく必要がある。産業界にビジネスとしての重要性を認識してもらい、早い段階から産学連携に取り組んでもらえるような仕掛けについても検討していきたい。さらに、本分野にかかわる人材の育成も重要なテーマである。工学と医療との架け橋となる人材の育成についても考えたい。一方で、日本機械学会は機械工学を学問として扱う集団であり、機械工学としてどのように新たな学問的な「問い」を出していくのかについても議論する必要があると考えている。

今後の活動について

本テーマは、2022年度末まで継続して活動する。工学以外も含めた幅広い分野の専門家との意見交換を通し、社会のニーズと日本機械学会が有するシーズとのマッチングを行い、さらには新たな融合分野の創出につなげていくことを目指して活動を行っていく。そのための少子高齢化にかかわる研究者、技術者の交流の場を提供する。その場において、情報などの相互補完が行われ、新たな人的ネットワークが構築されていくことを期待する。

2021年度年次大会では、通常の学会参加者とは異なる分野の専門家を招いた議論の場を設けることを企画した。2022年度の年次大会でもさらに発展させたものを企画する。また、関連部門のご協力をいただき部門講演会などの場での連携セッションについても考えていく。


2021年度年次大会特別企画

「介護福祉」「医学と音声言語学」「先端医療」を例に、それぞれの分野の専門家と工学の専門家が集まり、異なる視点からの問題提起とディスカッションを行い、新分野創生のための新たな課題と視点を探る。

2021年9月6日(月)13:00~16:00

公開ワークショップ

学会横断テーマ「少子高齢化社会を支える革新技術の提案」~少子高齢化社会の課題を解決する新しい機械工学の創成~ (医工学テクノロジー推進会議 協力)

https://confit.atlas.jp/guide/event/jsme2021/static/public_forum#Gconne1

総合司会 佐久間 一郎(東京大学)

[プログラム]

<介護福祉> 司会 松日楽 信人(芝浦工業大学)

(1)看護理工学におけるケアイノベーション 真田弘美(東京大学大学院医学系研究科)

COVID-19が我々看護師を奮い立たせたのは、自分への感染を恐れながらも患者の命を守るという使命感にほかならない。特に重篤な状況にある患者には療養生活すべての支援が必要となり、看護師は患者との接触は避けることはできない。この状況から我々は多くを学んだ。今後求められるリモートナーシングである。24時間傍にいる看護から、いかに人流を減らす看護技術を開発するか。今後の看護と工学、特に機械工学との連携について、事例をもとに述べる。

(2)あたり前のことを知る-福祉工学シンポジウム2007、 ニーズ&アイデアフォーラム等から- 小野 栄一(国立障害者リハビリテーションセンター)

「あたり前のことを知る」は、日本機械学会福祉工学シンポジウム2007のメインテーマです。このとき、実行委員36人中、本学会会員は6名ほどで、赤字覚悟のシンポジウムは黒字でした。ニーズ&アイデアフォーラムは、医療・福祉系、デザイン系、工学系の学生が協働作業で障害者のニーズを探り、解決案を形にして発表しました。昨年度はコロナ禍で福祉施設見学もできず、オンラインで進め、発表会まで一同集まらなかったのに作品ができました。何故できたか? 創成の源は?

<医学と音声言語学> 司会 和田成生(大阪大学)

(3)構音障害リハビリテーションAI構築のためのロードマップ ~構音メカニズムの解明~ 野崎 一徳(大阪大学歯学部附属病院)

構音メカニズムの知識をAIに与え患者個人に最適化された構音障害リハビリテーションの方法論構築を目指している。構音障害は音素単位で発生し個人によってその特徴も異なる。この課題に対して、構音障害を生じさせる物理的因子を空力音響学的に解析するアプローチをとった。特に構音の問題が生じやすい[s]音の発生に必要な物理的条件について明らかになりつつある。機械学習的アプローチと協調することにより、構音障害リハビリテーション技術へのロードマップを提示する。

(4)様々な顎口腔系ロボットの開発 高西 淳夫(早稲田大学理工学部)

発話、咀嚼、消化、送気・吸気、破砕・固定、楽器吹鳴、愛情表現など、口の役割は多岐に及んでいる。演者らは、ヒトの咀嚼における顎運動の再現を目的とした咀嚼ロボットを開発し、噛み方による咀嚼効率の違い、噛み締め時の顎骨歪分布の計測などを実現した。その知見は、顎関節症の無痛開閉口訓練ロボット、発話ロボット、吹鳴楽器演奏ロボット、オーラルマッサージロボット、気道管理訓練ロボットなどの開発にも結び付いている。

<先端医療> 司会 安藤 健(パナソニック)

(5)医工融合産学連携によるスマートロボットAIRECの開発 村垣 善浩(東京女子医科大学)

少子高齢化社会の課題に、介護含めた医療人材の不足がある。我々は、一人に一台一生寄り添うスマートロボットの開発を内閣府ムーンショット事業で開始した。家事から介護そして看護医療まで可能な汎用型ロボットである。深層予測学習によって効率的かつ低リスク行為を行い、2050年には自動手術や自動治療を目指す。本事業を紹介するとともに、スマート治療室開発での医工・産学連携の経験や今後の在り方について述べる。

(6)医療用ロボットの現状と今後の展望 橋本 康彦(川崎重工業)

産業用ロボットが発展してきた歴史、産業用ロボットと医療用ロボットの市場、様々な分野でロボットが利用されている事例を説明し、産業用ロボットで培われた技術を活用して医療用ロボットhinotoriを開発した事とhinotoriの概要を紹介する。更には医療用ロボットにAIやIoT(5G)の技術を組み合わせた将来の医療の形を提言し、医療用ロボットが医療問題を解決する一助になる未来の姿を示す。

(7)パネルディスカッション モデレーター 佐久間 一郎(東京大学)

上記講師6名により、研究を産業化するうえでの課題と、その解決のために機械工学分野が取り組むべきこと、その結果として創成される新たな機械工学について考える。


<テーマリーダー>

佐久間 一郎(東京大学)

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