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2021/6 Vol.124

工部大学校の「機械学」教育機器(機械遺産第100号)

四リンク

年代未詳/フォイト社製/ベルリン(独)/真鍮、鉄、木製台座/H270, W300, D90(mm)/東京大学総合研究博物館所蔵

ハンドルに「GUSTAV VOIGT BERLIN. S. W.」の刻字あり。工科大学もしくは工学部の備品番号「工キ學ニ四八九」の木札付。本模型の年代は未詳であるが、東京大学総合研究博物館には工部大学校を示すプレート付きのものを含め、近代的な機械学教育のために明治期以降に導入された機構模型が現存する。

上野則宏撮影/東京大学総合研究博物館写真提供/インターメディアテク展示・収蔵

[東京大学総合研究博物館]

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特集 デジタルツインでかわるものづくりのこれから

加工におけるCAEとAIの使いこなし

松村 隆(東京電機大学)

はじめに

ものづくりにおけるデジタルツインでは、実空間(物理空間)と計算機内の仮想空間との同時運用により、作業や工程の改善や効率化が期待されている。これまでの製造現場では、試し加工を通じてプロセスの最適化、または、加工仕様を満足し得る作業や工程が検討されてきた。このようなものづくりの意思決定は、主に加工現場の技術者の知識や経験に委ねられてきた。近年になり、計算機の性能や情報技術が急速に発達し、大規模な解析やコンピュータビジュアライゼーションが短時間またはリアルタイムで実行でき、さらに、ワイヤレスの情報伝達によって多くのデータが蓄積できるようになってきた。そのため、計算機内に実空間と同じ環境を作り出し、製造トラブルの事前予知、プロセスの改善、工程の見積もりなどの応用への期待が高まっている。

このように製造技術のデジタル化が進みつつある中で、それを効果的に運用するためには、加工に携わる現場の熟練者や生産技術開発に従事する技術者の経験と解析に基づいた判断が必要となる。近年では人工知能AI(Artificial Intelligence)に対する関心が高まっているが、製造現場にもAIを導入することで、経験のデジタル化とその応用が期待されている。さらに、加工に携わる人材が年々減っている現状では、技能継承に対する応用も考えられている。しかし、加工現象の認識をAIが代行することは、AIがチェスや将棋のようなゲームにおける戦略を考えるよりも難しい。それは、加工現象の因果関係をゲームのような明確なルールでは定義できず、また、現象を支配する因子が多いためである。しかも、材料特性は必ずしも一様でなく統計的にばらついていることや、異方性が発現するものもあり、材料の取り扱いだけでも多くの配慮が必要となる。

一方、加工に関するCAE(Computer Aided Engineering)技術として、これまでにシミュレーションはその目的に応じて開発され、ソフトウェアが市販されてきた。これは対象とする現象を物理的な視点からモデル化しているため、これに基づいてシミュレーションを実行することで現象を理解し、そのモデルの制御パラメータが結果に及ぼす影響を把握できる。すなわち、精度の高いシミュレーションが可能となれば、実際の加工に着手する前に、仮想空間の中で多くの事例を通じて、加工の改善や最適化が図れる。シミュレーションの利用には、解析に必要な基礎データの管理が課題となる。すなわち、実際に加工する材料やそのための工具の特性値が完備されていれば、精度の高いシミュレーションが可能である。現在市販されているソフトウェアの多くはこのようなデータベースも提供しているが、それらは、ユーザが対象とする材料とは必ずしも一致しない。

また、計算機の性能が高くなった現状でも、有限要素法を使用した大規模な解析では、いまだ計算時間がかかるという問題がある。さらに、いまだ、加工におけるすべての現象をシミュレーションで解析することはできない。

以上のようにAIにおいても、CAEにおいても、現時点で抱えている課題が多く、加工に対して仮想空間を実現するには、両者の利点と課題を理解して併用することが望まれる。ここでは、CAEとAI技術の一つであるニューラルネットワークの優位性を比較し、それぞれの特徴を生かしたシステムの開発事例を紹介する。また、システムの運用において、加工事例の蓄積とともに予測の精度を向上させる適応予測について説明する。

CAEとニューラルネットワーク

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