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2021/5 Vol.124

工部大学校の「機械学」教育機器(機械遺産第100号)

ダブル・ユニバーサル・ジョイント

明治8(1875)年/真鍮、鉄、木製台座/H150, W400, D300(mm)/東京大学総合研究博物館所蔵
工部大学校を示す「IMPERIAL COLLEGE OF ENGINEERING. TOKEI. 1875」の金属プレート付。工科大学もしくは工学部の備品番号の木札があるが判読不能。

上野則宏撮影/東京大学総合研究博物館写真提供/インターメディアテク展示・収蔵
[東京大学総合研究博物館]

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新会長インタビュー

新会長インタビュー「新たな時代に 期待される学会に」

企業所属としては3年ぶりの会長就任となった。コロナ禍、会員減少、産業構造の変化など、課題が山積みの中、どのような方向性を見出し、形にしていくか。企業に所属する立場として、学会への思い、機械産業の未来、会長としての抱負を聞いた。

2021 年度(第 99 期)会長 佐田 豊〔(株)東芝〕

企業技術者として

– 現在の社内での役割とキャリアについて教えて下さい。

現在、執行役員として本社の研究開発センター所長を務めています。研究開発センターでは、グループの事業に関係するほとんどの技術を扱っており、最近では量子情報や精密医療といった新分野の研究開発にも取り組んでいます。技術者としての私個人の話をしますと、機械系として入社はしましたが、実際に機械系の研究に携わったのは 5年半ほどで、それ以降は新規事業開発、海外研究所運営、本社の技術企画などで仕事をしてきました。

機械システムが社会の中で果たす役割が少しずつ転換していて、例えば自動改札機のような精密な搬送メカが担っていたものが交通系ICカードに取って代わられたように、価値を生む技術としてのメカの存在感が薄れてきています。機械がまだまだ重要な役割を果たしているうちに、先人たちが築いてきた機械システムを、社会の中で次の新しい価値へ転換したいという想いを持ってやってきました。

– 先人が培った技術を社会に役立てるという想いの背景には、機械系分野で活躍されたお父様の影響もありますか ?

子供の頃から、非常に多くの工場見学に連れて行ってもらっていました。父は生産工学が専門の大学教員でしたが、今から思えば産業界とのコミュニケーションは非常に密だったと思います。子供たちの工場見学はそのついでだったのだと。その場で企業の人達と課題や問題点をとことん話し合っていて、その姿勢は技術者として尊敬しています。こういった学と産のコミュニケーションを深めることを私自身もやっていきたいと思っています。
私の父親の世代は、いうなれば日本の機械系産業が隆盛を極めていた時代だったと思います。その子供として、同じ分野でなにか役に立てればという気持ちもあって、今回会長職を引き受けました。

リーディング・ソサエティとしての機械学会

– これからの機械工学・機械技術者には何が求められるでしょうか ?

機械遺産を眺めると、産業革命以降の歴史において、機械技術が社会の中核の技術だったと実感できます。そして、今でも機械工学が必要不可欠な技術であることは間違いありません。むしろ企業の中では最も人材需要がある分野です。しかし、今世の中で、今後の価値創出が期待されているのは、AI、デジタル、量子といった技術です。それが、これまでとは大きく違います。

けれども、これまでの経験の中で、新しい技術そのものよりも、それを社会に適用させることで生み出される価値の方に重みがあることに気づきました。そして、多くの新技術の社会実装には機械系技術が重要な役割を担います。機械工学と新しいテクノロジーを掛け合わせることで新しい価値を生み出していく。それがこれからの機械系技術者に求められています。

– 機械学会ができることは何でしょうか ?

リーディング・ソサエティとして、①機械工学を極めること、②周辺技術を巻き込んでイノベーションを起こせる人材を育てること、この二つの重要性を特に感じています。機械工学を学ぶということは、システムや仕組みづくりを体系的に学ぶということでもあると思います。いわゆる機械系ではない製品やサービスでも、システムとして構築して、安全性・経済性・確実性を現実的に設計していく作業は機械系技術者の役割として求められます。特に先端技術を事業として求められるレベルへ高めることは容易ではありません。例えば10%程度の歩留まりを高めていく過程も、機械系領域が担っています。

– 本誌2021 年1 月号の座談会では「ものづくりからの卒業」というキーワードが出ました。日本の製造業についてどう思われますか ?

「ものづくり」という言葉は、モノからコトへ価値がシフトしていく中で、幅広く捉えられるようになりました。しかし、定義を曖昧にすることには危うさを感じています。曖昧な言葉に学会や産業が左右されないよう、きちんと足元を固める技術・知識を確立しなければいけないですね。インターネットやソフトウェアの世界は、ごく一握りの天才が勝ち抜いて世界を席巻するけれど、それを実現するためのハードウェアは必ず必要で、それを実現する力が日本の機械系技術者たちにはあるはずです。

我が国の産業構造における第二次産業の割合は20%くらいで、縮小傾向ですが、やはり外貨を獲得できる産業は大切にしなければならない。その基盤はやはり機械系領域で、強みを維持し続けることが必要だと思っています。

海外勤務を経て感じた日本の強みと課題

– 海外の研究所に在籍されていたとのことですが、それぞれの国での印象はありますか ?

2005年から4年ほど、量子情報、音声認識、コンピュータビジョン等に取り組んでいるイギリスの東芝欧州研ケンブリッジ研究所に赴任しました。現地の大学との連携も非常に活発でしたが、特に工学部で行われる研究に関しては「社会にインパクトを与える」という明確なビジョンを感じました。また、2012年からは、中国の研究開発センター長を4年ほど務めました。こちらでは、とにかく研究のスピードに驚きました。また、先端技術の吸収意欲が非常に高いことにも、驚かされました。一方で、日本やイギリスの体制に比べると、基礎的な部分の蓄積が脆弱で、危険性を孕んでいるとも感じました。

– 日本との違いを意識されたことはありますか ?

イギリスも中国も、研究費は自分で稼ぐという意識があり、そのために大学と産業界との連携が非常に盛んでした。また、基礎的な部分は大学と共同研究をしたり、博士課程も含めた人材育成も中長期的なスパンで行われていたり、日本よりもうまく機能していると感じました。

一方で、イギリス・王立協会と日本の総合科学技術会議の会議に出席したことがありますが、イギリスでは最初の技術実証ができた程度をイノベーションと認識しているようで、

誰がどうやって社会に適用するかということは重要視されていない印象を受けました。日本ではイノベーションに対して、形にする・社会実装するところまでを「ものづくり」として強く意識していて、社会への責任を担っていると思います。これは品質が担保されるという意味で良い面だと思います。

– ご自身も博士課程を経て現在は企業で活躍されていますが、博士人材についてはどう感じていますか ?

5年間一つの研究に取り組めた経験は非常に貴重なものでした。一方で、私も含めて博士課程のテーマがライフワークになることは多くなく、むしろ珍しいでしょう。博士課程では、単に専門知識を蓄えるだけでなく、論理的な思考で課題を見出し、解決のため設計し、計画してやりきる、という力を培うことが重要だと思います。新しいアイデアを形にしていくために必要なマネージメントができることが、博士人材の強みです。特に現代のように技術の進化、変遷のスピードが非常に加速している中では、それがより求められるようになるでしょう。企業でも、従来とは異なる事業へのチャレンジが進む中で、その存在価値が見直されていると思います。

新会長としての抱負

昨年を振り返ると、COVID-19のパンデミックに見舞われ、世界中で人々の社会活動が制限されて経済活動は深刻な打撃を受けました。ワクチン接種が始まった2021年は社会・経済活動の回復の年となりますが、大きな社会変化の中で、本会会員である企業、大学、個人、そして日本機械学会自身も変化への対応が求められています。

“ 新常態 ” への対応が求められる今ほど、日本機械学会の社会、会員への貢献が期待される時はないであろうと思います。幸いにも学会横断テーマなどで持続可能社会の実現、インフラのレジリエンス、少子高齢化などの社会課題への本会の取り組みが始まっています。本会の活動を適切に発信し、社会や会員との対話を重ね、学会自身も社会変化に適応していくことで、社会や会員の期待に応えていきたいと思います。

また、機械学会の構成では、アカデミアの比率は大きいですが、一方で、産業界の個人会員、特別員の存在も非常に重要であると考えています。機械工学が「エンジニアリング」である限り、技術が社会に実装されて価値を生み出していくところまでが、機械学会がカバーすべき範囲です。企業所属の会長として、産業界にとって機械学会のプレゼンスを向上させるような仕事を一つでも進めていきます。
今期、社会が大きく変化しようとしている中で、日本機械学会も社会の変化を鋭敏に察知し、機敏に適応していき、社会に期待される学会となれるよう学会運営の改善に取り組みたいと考えています。


2021 年度重点施策

(1)コロナ後を見据えた学会のあるべき姿の追求

1. 機械工学知識を深め、新技術領域について学べる場の提供と情報の事業化促進

  • 会員向けリカレント教育体系の検討
  • IT を活用した「情報」の事業化の検討(情報の事業化 WG を中心として)
  • 講習会のオンライン配信

2. 特別員企業、会員が所属する産業界と学会が対話できる仕組みづくり

  • 「産業界と学会の関係強化検討会(仮)」の設置
  • 講習会の体系化と特別員向けサテライト配信の促進

3. 学会運営ニューノーマルの確立

  • オンラインのメリットを最大限活用した学会行事の活性化
  • 学会 DX 推進(サービスのデジタル化による付加価値の創出、業務の IT 化促進)

(2)新部門制における分野連携の強化と学会としての価値向上

1. 新部門制の試行

  • 分野連携企画 WG による提案の実践と検証
  • 新部門制の本実施に向けた準備(評価方法を含む仕組みの修正)

2. 学会としての価値向上

  • 学術誌のさらなる価値向上と投稿数の増加
  • 学術界と産業界の連携によるイノベーション促進の支援強化
  • 年次大会の魅力度アップに向けた検討(2023 年度からの具体化を目指す)
  • 学会横断テーマの行事企画による集客力の向上
  • 他学会と連携した行事企画による魅力度向上

(3)10 年ビジョン実現に向けた財政の健全化

1. 財政の健全化(短期的な施策)

  • 事務所移転と事務局機能の早期立ち上げ
  • 会費体系の見直し検討(会誌の送付、名誉員及び永年会員からの寄付等を含む)
  • その他の収支改善策の策定と実行

2. 財政中長期ビジョンの検討

  • 会費を投入すべき事業と独立採算を求める事業の明確化と中長期目標の設定
  • 学会の事業規模拡大に向けた施策検討

(2021 年 3 月 15 日 オンラインで実施)

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