特集 第100号を迎えた「機械遺産」
機械遺産委員を務めて思うこと ― 包餡機の認定をはじめとして ―
機械遺産委員を務めた9年間
機械遺産委員の在任期間を振り返る
岩手大学で開催された日本機械学会2009年度年次大会において技術と社会部門の担当委員を務めたことを切っ掛けに、2009年2月より機械遺産委員をお引き受けすることになった。その後、日本機械学会創立120周年記念事業として「機械遺産2007-2017-機械遺産でたどる機械技術史-」発行のお手伝いをさせて頂いた2018年1月までの9年間、「機械遺産」の調査に関わらせて頂いた。この期間、科学・技術史ご専門の多くの先生よりご指導を頂き、沢山の有意義な知見を得ることができた。
科学・技術史学の構築は、現代と未来の展望のために不可欠である。そのためには、“科学・技術の文化遺産を保存する運動”が必要となる。この点において、日本機械学会が認定する「機械遺産」に大きな意義があるものと考える。
「機械遺産」候補の調査雑感
「自動包餡機105型」の調査を回顧する
自らが「機械遺産」調査を行った事案のうち、4件が機械遺産に認定されている。中には、東日本大震災の前日に調査した機械遺産もあり、それぞれ感慨深いものがある。ここでは、認定されたものの一つ、機械遺産第71号「自動包餡機105型」の調査内容について振り返ってみたい。
「自動包餡機105型」は宇都宮市にあるレオン自動機(株)のレオロジー記念館に展示されており、保存状態も良好で、事前の連絡により見学も可能である。2015年2月2日に大久保先生(玉川大学)と星が調査している。
それまで職人の手作業で行われていた和菓子の包餡(餡を皮で包む)を、レオロジー工学を応用した独自の成形理論に基づいてレオン自動機(株)の創業者である林虎彦が世界で最初に機械化して、包餡機として実用化した。機械による包餡作業を可能にした包着盤(螺旋状刃先)の外観を図1に示す。世界初となる包餡機「101型」の発売(1963年11月)に始まり、さまざまな改良の後、図2に示す機械遺産の「105型」は1966年2月に発売された。生地を計量して分割したところに、計量して分割された餡を自動で包み込むことができるようになり、従来の手作業成形における多数の工程が全自動で一つの工程に短縮された。「105型」は8年間に1838台が販売され、その後の菓子業界の近代化に大きく貢献するとともに、海外市場にも急速に普及した。
図1 包着盤(螺旋状刃先)
図2 自動包餡機「105型」
「技術史教育」への展開
得られた知見を工学教育の中で活かす
技術と社会部門のテーマでもある「科学や技術の過去の歴史を辿ること、さらに現在の直面する課題を克服するため過去から未来を訪ねること」は、とても重要なことと考えている。技術史教育を工学教育の重要な新分野として位置づけ、理論的研究や教育実践を通して教材の開発など広い視点から考究していきたい。
機械遺産委員の経験を通じて、先人たちが為し得てきた偉業に思いを馳せ、多くの知見を自らの糧にすることができたように思う。ご指導頂いた諸先生に、書面を持って感謝申し上げます。
参考文献
(1) 星朗, 緒方正則, 小野寺英輝, 大久保英敏, 日本機械学会「機械遺産」が伝えること, 東北学院 大学工学部研究報告, Vol.50, No.1(2016), pp.1-8.
(2)星朗, 「技術史教育」とはなにか?, 東北学院大学工学部研究報告, Vol.53, No.1(2019), pp.11-15.
<フェロー>
星 朗
◎東北学院大学 工学部機械知能工学科 教授
◎専門:熱工学、エネルギー工学、環境工学
キーワード:第100号を迎えた「機械遺産」
表紙の説明:これは、推力5tonターボファンエンジンFJR710形で、右からファン、圧縮機、燃焼器のケーシング部分である。1975年に通商産業省工業技術院の大型工業技術研究開発制度によって開発された。ブラッシュアップしたエンジンは、短距離離着陸ジェット機(STOL)飛鳥に4基搭載され500mで離着陸できた。
[日本工業大学工業技術博物館]