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2020/12 Vol.123

表紙の説明:これは、推力5tonターボファンエンジンFJR710形で、右からファン、圧縮機、燃焼器のケーシング部分である。1975年に通商産業省工業技術院の大型工業技術研究開発制度によって開発された。ブラッシュアップしたエンジンは、短距離離着陸ジェット機(STOL)飛鳥に4基搭載され500mで離着陸できた。
[日本工業大学工業技術博物館]

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特集 第100号を迎えた「機械遺産」

機械式一眼レフカメラの出発点

権上 かおる

日本カメラ博物館とは

皇居半蔵門側に面するイギリス大使館の西側に、日本カメラ博物館はある。前身は輸出検査法などに基づく日本製カメラ・光学機器の検査・研究機関を担う日本写真機検査協会という検査機関だった。1954(昭和29)年に発足、その後、輸出検査法による輸出検査の対象からカメラが外され、1989(平成元)年、博物館に姿を変えた。検査期間中は日本で生産されたカメラはすべて提出の義務があり、現在の収蔵品につながる。

機械遺産認定の過程

現在の所有数は2万点以上、展示数はおよそ1千点とのこと。機械遺産では、2019年時点でカメラとして認定したものは、オリンパス GT-Ⅰ 胃カメラのみであった。一方、戦後の昭和時代に日本人を描くにはめがねとカメラといわれるほど、カメラが生活の中に入っている国で、なんとか機械遺産に認定したい思いは強かった。
実際に博物館に足を運び多くの展示物を目の前にすると「どれをどういう理由で機械遺産にしたいか」を考え込んだ。しかも博物館では、「歴史的カメラ」を毎年選定している。また、国立科学博物館の運営する重要科学技術史資料(未来技術遺産)は、一眼レフカメラだけでも多数の認定がある。そこで、「機械遺産」認定指針(1)に立ち返った。

機械技術の歴史を示す具体的な事物・資料であって、以下のいずれかに合致するものをいう。
(1)機械技術の「発展史上」重要な成果を示すもの(工学的視点から)。
(2)機械技術で「国民生活、文化、経済、社会、技術教育」に対して貢献したもの。

「歴史的カメラ」選定(2)は、機能・市場の歴史的意味、「未来技術遺産」(3)は、機械遺産指針と類似だが、国民生活への貢献が含まれない。
これが、違いを生むことになるだろうと考えた。日本のカメラを世界市場に躍進させたのは、なんといっても機械式一眼レフカメラであろう。いくつかのカメラ雑誌の評価を見ても1950年代に認められることになったのは、ニコンF(1959年発売)であった(4)。そして日本カメラ博物館より、計5機種の申請を行っていただいた。

それまでの一眼レフカメラは、ファインダーと撮影画像視野は異なり、露光を決定するには別に露出計が必要であった。これらを解消する機構を次々生み出していく。

アサヒフレックスⅠは、35mm一眼レフカメラの先駆けであり、続くⅡBはレフレックスミラーが自動で戻るクイックリターン方式を編み出し撮影後のブラックアウトを最小限とした。ミランダTでは、ペンタプリズムにより、左右逆像を解消し、ズノーは、ボディーとレンズが連動する完全自動絞りを実現した。ニコンFは、豊富な交換レンズの整備やこれまでにないほどの堅牢さにより、プロユースという言葉を生み出した。一眼レフカメラが誰でも使える道具となり、我が国をカメラ王国にのし上げる原動力となった。この5点がNo.101の機械遺産に認定された。

図1 スチルカメラ生産・輸出台数1950-70年(1960年前後より急増)(5)

認定を終えて

日本をカメラ王国に飛躍させたのは35mm一眼レフカメラであり、認定は上記5機種である。しかし、開発にかかわったすべての企業・技術者へエールを送りたい。そしてもう一点、本学会の認定指針のすばらしさを感じた次第である。

 


参考文献
(1)日本機械学会の「機械遺産」認定基準, https://www.jsme.or.jp/kikaiisan/about_criteria_jp.html(参照日2020年9月22日)
(2)日本の歴史的カメラ, 日本カメラ博物館, https://www.jcii-cameramuseum.jp/museum/historicalc/(参照日2020年9月22日)
(3)重要科学技術史資料, 産業技術史資料情報センター, http://sts.kahaku.go.jp/research/index.html#3(参照日2020年9月22日)
(4)マイケル・プリチャード(英), 50の名機とアイテムで知る図説カメラの歴史(2015), 原書房.
(5)戦後日本カメラ発展史, 日本写真機工業会編, 東興社, (1971),【図1】, 数字およびカメラ映像機器工業会統計にて筆者作成.


<正員>
権上 かおる
◎元(株)アグネ技術センター
◎専門:材料分析

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