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2020/12 Vol.123

表紙の説明:これは、推力5tonターボファンエンジンFJR710形で、右からファン、圧縮機、燃焼器のケーシング部分である。1975年に通商産業省工業技術院の大型工業技術研究開発制度によって開発された。ブラッシュアップしたエンジンは、短距離離着陸ジェット機(STOL)飛鳥に4基搭載され500mで離着陸できた。
[日本工業大学工業技術博物館]

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特集 第100号を迎えた「機械遺産」

二つの啓示と企業・大学研究の経験に導かれ75年

機械遺産監修委員会 委員長 藤江 正克(早稲田大学)

第一の啓示

機械学会創立110年を記念して創設された機械遺産認定事業は当初10年で100件程度を採択目安とした。一昨年より前委員長の長島先生のご推挙で、理事会より社会的位置づけの検討役としての機械遺産監修委員長を拝命している私なりに、当初の目標越えを機に思うことを記す。

私は1945年4月23日の生まれである。75年間機械と深い付き合いをしてきたが今思うとそこには2つの啓示が働いたと思う。一つ目は、祖父原田縫之助が1945年4月13日に死去し、その葬儀中に私が生まれたことである。葬儀の行われた京都・亀岡楽々荘は一生を掛けて嵯峨・亀岡・園部の旧山陰線(現トロッコ列車)を作り完成直後、保津峡に列車共々脱線転落事故で亡くなった曽祖父“貴族議員田中源太郎”の本宅でもある。私は田中源太郎の後を継いだ原田縫之助の生まれ変わりと呼ばれ、葬儀の後生後一週間で因縁のトロッコ列車に乗って神奈川県逗子の実家に戻った。生まれて早々にこの鉄道に乗る機会に恵まれたことが、プラスとマイナスを併せ持つ機械と深く付き合うことになるという啓示、神の御意思を受けたものと今になって思う。

子供時代、逗子駅葉山御用邸間を京急の木炭バスと三浦観光の電気バスが走っていた。逗子は横須賀の進駐軍のベースが近いため、水陸両用戦車や駅前に留まっているリアエンジンルノーの小型タクシーとフォードカスタムの大型タクシーなど日常的に見ており、御殿場線国府津駅で転車台が動いているのも日々見ながら育った。その生活の中で次の啓示を小学3年(1954年)時に聞いた。

第二の啓示

それは祖母が東京に遊びに連れて行ってくれた時、一日に3回開閉する(戦争で止まっていたのが1947年から復活)勝鬨橋を見物して、数寄屋橋の不二家で大人気のソフトクリームを食べて(進駐軍払い下げの掃除機のモータを使用してアイスマシンとフリーザで作る)、1950年生まれの超人気者のペコチャンの風船を貰い、最後に日本橋三越のエレベータに乗せて貰った。子供心に強く残る一日となった。その後は機械との特別の関連は特になかったが、二つの啓示が脳に焼き付き、早稲田に進んだことで、機械との深い長い本格的付き合いになったと思う。

学生時代の経験

早稲田大学理工学部の入試案内の最初は機械工学科であった。そこで、加藤一郎教授(ご出身は電気工学)に出会い、入学後に始まったロシア語クラス4年間から学部・修士を通して6年間、切磋琢磨した親友4人と出会った。卒論は「高圧高速交番流の特性」、修論は「交油流についての実験的研究」である。私の研究内容は「電気系は工業的用途では直流系に比して交流系が使われていることが多いが、これからのロボットは交流の油圧制御が不可欠」と勝手に考えて計画した。しかし、加藤研ではテーマとしてマイナーであっただけでなく、実験する場所や道具が不足していた。ここで早稲田の機械の先輩で東京国立市の鉄道技術研究所の中山泰喜主任研究員(早稲田大学講師)が土屋喜一教授、田島清瀬教授の研究室と共同研究していたことから、加藤研も同様な体制として頂けることになった。高価な熱線流速計も実験室も使わせて頂けただけでなく、鉄研のマルチプルタイタンパの高島町保線区での実験のお手伝いや関ケ原での純流体素子の新幹線雪付着防止実験のお手伝い、鉄研内実験場での最新ローゼンハウゼン油圧式疲労試験機の見学などをしながら学内では経験できない大変な勉強ができた。鉄研・早稲田半々の生活で、大久保キャンパスでは授業のTAや学部生の指導もでき、すべて吸収期間であった。

日立機械研究所の経験

修士を終えてロボットの開発がやりたくて入社した日立の機械研究所での最初のテーマは、日立特別研究として取り組みが決まっていた550kV kA 2サイクルガス遮断器に従事した。高電圧高電流の変圧器の電気を遮断するにはSF6ガスを100Gの加速度で開閉する必要がある。従来のサーボ弁では不可能であったのを実験と計算から新しい超軽量スプールのサーボ弁で実現することができた。この結果、私の修士研究時の研究とお手伝いが大いに役に立っていることが我ながら認められた。

これまで認定されていない機械遺産が特に未発掘分野にあると予想される。私自身が関係した新幹線の組み立て解体装置、ディスカバリやISSで作業している宇宙ロボットアーム、800ccの空冷乗用車、水冷の大型コンピュータなど、これからは私に与えられた啓示以外へ広げる必要が有りそうである。


<名誉員>
藤江 正克
◎早稲田大学 名誉教授 次世代ロボット研究機構 顧問
◎専門:機械工学

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