2020年度「学会横断テーマ」
②持続可能社会の実現に向けた技術開発と社会実装
テーマの具体化
本テーマは実に幅広いものですが、エネルギーを専門とする私にとっては炭酸ガス削減のためのエネルギー技術に関して種々の企画を行うものと解釈いたしました。炭酸ガス削減は緊急かつ非常に重要なテーマであり、その対応のためには機械学会の分野を横断するのみならず、経済を含めた広い分野の連携が必要で、まさに学会横断テーマにふさわしいと考えたわけです。そこで、本企画チームでは炭酸ガス排出の少ない持続可能社会実現のための情報交換を目的とし、他学会とも協力しながらシンポジウム等の企画を行うものとしました。
委員構成
私が活動している熱工学分野を中心とし、エネルギー問題に関して幅広く活躍されている方々に委員をお願いしました。2020年10月までに2回の会議を行い、本委員会の目的の理解と方針の具体化、ならびに最初の講演会の企画に関して意見交換しました。会議はWebを通して行いましたが、移動時間が不要であり、この規模の会議には結構便利なものと感じました。さらに11月に3回目の会議を行い、年次大会企画を具体化する予定です。
炭酸ガス削減の技術テーマと活動目標
この度、菅内閣は2050年までに炭酸ガス排出量を実質ゼロにする目標を発表しました。これは実に素晴らしいことです。しかし、その技術選択議論には様々な誤りが既に見受けられます(1)。例えば、CO2を20%以上の効率で燃料に変える技術の開発が取り上げられていますが、このためには得られる以上のエネルギーを別途投入しなければならず、明らかに成立しません。投入するエネルギーを直接利用する方が良いからです。また、宇宙発電や原子力発電所の再稼働なども列挙されています。しかし、宇宙よりも明らかに発電に有利な砂漠や海洋が地球上には広大にありますし、再稼働する原子力発電設備は2050年には寿命を迎え、目標達成には寄与しません。さらに、これから新設する原子力発電システムは現状でも既にヨーロッパでは再生可能エネルギーよりも割高になっています。宣言の中で当然ながら再生可能エネルギーを重視していますが、その根底には再生可能エネルギーはコストが高く、経済活動に対して足かせになるという考えがいまだに根強くあるように感じます。しかし、究極の社会で唯一利用できるCO2フリーエネルギー源は再生可能エネルギーしかありませんし、むしろ国内で循環するお金が増加する分、これまで以上に新しいビジネスの創出と経済活性化のポテンシャルがあるように思います(2)(宣伝のために拙著を参考資料に記載させていただきました)。
このように、炭酸ガス削減のための技術選択のコンセンサスを確立するにはまだまだ議論が必要であり、本企画チームでは技術だけでなく経済影響までも含めた講演やディスカッションの場を企画したいと考えております。
年次大会企画
本テーマは範囲が広いために、一般講演会形式で発表を募集するのは当面の間、適当でないと考えました。そこで、次年度の年次大会では4~5件程度の依頼講演によるフォーラムを検討しています。また、可能であればWebでの聴講も可能なようにしたいと考えております。このような本委員会の活動に今後ご関心をいただければありがたく思います。どうぞよろしくお願いいたします。
参考文献
(1) 日経電子版10月27日, 「脱炭素へ大競走時代 中国は水素奨励、欧州は新税検討」, 表「主な技術候補と実用化の見通し」.
(2) 近久武美, 新しいエネルギー社会への挑戦:原発との別れ, 北海道大学出版会, (2019), pp.1-174.
テーマリーダー
<名誉員>
近久 武美
◎北海道職業能力開発大学校・校長、北海道大学名誉教授
◎専門:熱工学、燃料電池、内燃機関
企画チームメンバーと所属部門(第1位/第2位): 近久 武美(北海道職業能力開発大学校 校長):熱工学/エンジンシステム、黒坂 俊雄(神鋼リサーチ 元社長):流体工学/熱工学、鹿園 直毅(東京大学生産技術研究所 教授):熱工学/動力エネルギーシステム、鈴木 健介(東芝エネルギーシステム社 部長):動力エネルギーシステム/エンジンシステム、染矢 聡(産業技術総合研究所 総括研究主幹):熱工学/流体工学、津島 将 司(大阪大学 教授):熱工学/動力エネルギーシステム、中垣 隆雄(早稲田大学教授):動力エネルギーシステム/熱工学、中田 俊彦(東北大学 教授):技術と社会/動力エネルギーシステム |
キーワード:2020年度「学会横断テーマ」
表紙の説明:これは、推力5tonターボファンエンジンFJR710形で、右からファン、圧縮機、燃焼器のケーシング部分である。1975年に通商産業省工業技術院の大型工業技術研究開発制度によって開発された。ブラッシュアップしたエンジンは、短距離離着陸ジェット機(STOL)飛鳥に4基搭載され500mで離着陸できた。
[日本工業大学工業技術博物館]