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2020/11 Vol.123

表紙の説明:これは、1962年にドイツのギルデマイスター社で製造されたチャック作業用6軸自動旋盤のチャック部分(左)と刃物台部分(右)である。円周上に配置され、連続割り出しする6個のチャックに工作物を取付け、刃物台がまるで6台の機械のように軸方向に動いて加工を行い、1周すると1個の部品が出来上がる。
[日本工業大学工業技術博物館]

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ほっとカンパニー

(株)ホリゾン “ほぼ内製”を武器に世界トップの製本FA機器メーカーへ

日本にはこんなすごい会社がある!

製本工程を自動化する「製本FA」分野で世界のトップシェアを誇るホリゾン。終戦間もない1946年に電気器具の試作・修理を手掛ける会社として創業し、以後、地震計や電子計測器など理化学機器のメーカーへと成長していった。様々な機器を手掛けて製造技術を習得していくうちに「製本機を作ってほしい」とのリクエストが舞い込む。しかし、作りかけていた時にオイルショックに襲われ、受注は全てキャンセルに──。崖っぷちに追い込まれた1973年が、今のホリゾンの起点となった。

ホリゾンは製本機を諦めず、自社開発の製本機の製造から販売までを手掛け、創業者・堀八郎氏は「生産設備を揃えて内製化し、少量生産でも利益を出せる付加価値の高いものづくり」を掲げた。現在、内製化率は約70%。マーケティングからR&D、製造、販売、アフターサービスまでをグループ会社で手掛けるのが大きな強みの1つだ。年間生産台数は1万4000台で品種は600種。そのうち3500台500種類が年間25台以下の製品。社員数650人の企業で600種類と考えると、いかに小ロットにきめ細かく対応してきたかがわかるだろう。製品は現在、世界100カ国以上で稼働している。「90年代前半に印刷のデジタル化が普及し始めると同時に、オンデマンド印刷への需要も高まってきた。製本機メーカーとして後発であることを逆手にとり、その時代や理屈に合わない方法や慣習を覆し、お客様に思い切った提案を投じたこと、またその中で高い開発力と技術力で理屈に合った改革案が出せたことが、今の“ホリゾン”ブランドの浸透につながったと感じている」(開発部部長・大内山耕)。

熟練職人の技を数値化した、人を選ばない設計

製本作業に携わる機械は、大きく製本機・紙折機・丁合機・断裁機からなるが、ホリゾンではこの全てを手掛けている。「全プロセスに対応した機械を製造しているので、自社製品のみで生産ラインが作れることが特徴」(開発部メカ設計I課課長・山本宏生)とし、製本用の紙を積むところから本が出来上がるところまで、更にはその先のハンドリングまでを全自動で完結することが可能だ。

現在、製本の現場では、より多品種・小ロットが進み、1冊ごとに異なるタイトルで、人手を介さずに連続生産できるシステムへのニーズが高まっている。これまで小ロットに対応し、さらには全工程の機械を自社開発する同社にとっては追い風が吹いていると言える。「各工程にはそれぞれ専業メーカーがあるが、全ての工程をシステム化してワークフローでつなぐことによって、ホリゾンにしかできないことがたくさんあると考えている」(大内山)。

ホリゾンは、経済産業省の2020年版「グローバルニッチ企業100選」に選定されている。その対象製品となったのが、自動無線綴機BQ-480である。特徴は大きく2つあり、1つは従来の自動化を進化させ、用紙の種類や製本の仕上がりの好みに応じたセット替えが簡単にできること。もう1つは、デジタル印刷機(プリンター)とインライン接続した自動化システムを構築できることだ。ウェブで発注したものが自動的に印刷から製本までできる一連のシステムを同社では「Smart Binding System」と称している。

例えば、文庫本とフォトブックでは、本のサイズも紙の厚みも異なり、ページの開き方など製本の仕上がりとしてのゴールも違ってくる。会社によって、担当者によって、目指す“好み”が変わり、感覚的な部分も大きい。BQ-480はそんな細かな好みの違いにも対応し、最初に一度数値をセットすれば、紙を機械に投入するだけで、最適な本が自動的に仕上がる仕組みを実現している。これまで熟練の職人に頼っていた部分をいかに数値化するかには苦労したと開発部メカ設計III課の課長・福田繁伸は語る。

「例えば本の厚みが厚ければ、糊を多く付けて強度をつける必要がある。しかし糊を増やすと、今度は本の背の部分のプレス圧は和らげないと角の張った開きにくい本になってしまう。そういった細かい調整によってご希望の仕上がりに近づけるのが製本の要。これを誰もが使いやすい形で数値化するのは簡単ではなかった。本の厚さによって影響を受けるパラメータだけでも19個あり、関わり方も複雑。最終的にはパラメータを1次関数で表せられるところまで簡略化できた」(福田)。パターンは200個まで登録でき、本のバーコードを読み込めば、自動的に最適な製本ができる。

クラウドを使った実績管理も行い、機械の稼働状況を他社と比較し、性能や改善点の有無も確認可能。ソリューション提案も他社との差別化につながっている。

4クランプ無線綴じ製本機「BQ-480」

小ロットや連続生産に長けた「SmartBindingSystem」

現場の課題を“ものづくり”で解決して文化を守る

製本FA機器のトップランナーとして、自社主導で積極的に業界を盛り上げていこうという気概にも満ちている。2019年にはこれからのFA時代に先駆けた展示会「THINK SMART FACTORY 2019 IN KYOTO」の音頭を取った。会場全体にスマート工場をイメージし、14社の協賛各社とのコラボレーションで、受注から印刷・製本、デリバリーまでをワークフローでつないだシステムを見せた。「様々なプリンターメーカーと協業するホリゾンは、各社が一堂に会する機会をフラットな立場で設けられる立場。我々が責務を担っていると考えた」。

「紙と本の文化」を守るためにも、現場環境の問題解決に積極的に関わりたいという思いもある。製本業界は自動化・省力化が遅れてきた業種。多くの先進国では人件費の高騰や労働人口の減少が問題になり、さらには多品種少量化のニーズにも対応できない悩みがある。一方、人件費の安い国では設備投資が十分でない。「いずれも経営が厳しいのが現状。誰もが使えて利益の出る商品を適正価格で供給したい。それが現場、ひいては紙と本の文化を未来につないでいくことになると考えている」(大内山)。

ホリゾンのコーポレートメッセージ「Change the Focus」には、業界に対しての提言でもあり、大きく変化する時代に柔軟に対応していく姿勢が現れている。「これからもみんながわくわくする“ものづくり”に挑戦し続けたい」と笑顔で語るホリゾンの開発者たち。社内の仲間たちと誇りを持って価値ある“ものづくり”にあたっている清々しい空気を感じた。

THINK SMART FACTORY 2019 IN KYOTOでは、
受発注からデリバリーまでの3プロセスの仕組みをワークフローでつないだSMART FACTORYを展示

(取材・文 横田 直子)


(株)ホリゾン
本社所在地 滋賀県高島市 www.horizon.co.jp

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