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2020/9 Vol.123

表紙の説明:これは、フライス盤のテーブルに取り付けて使用する割出し台の割出し板部分である。ハンドルを回して穴へピンをさし込んで直接割り出す方法と、送り機構から駆動させる方法がある。これを用いて、円筒工作物の外周上に等分割の溝をフライス加工したり、インボリュートカッタを取付けて歯切り加工したりできる。
[日本工業大学工業技術博物館]

表紙写真 北原 一宏

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製品開発のみちのり

計測精度との戦い! 大口径バルブの開発 アズビル(株)

製品開発のみちのり

ー日本機械学会優秀製品賞受賞製品の開発物語ー

2019年度優秀製品賞
「流量計測制御機能付電動二方弁ACTIVAL+」アズビル(株)

空調システムの省エネに挑む

アズビル(株)は2017年に、「流量計測制御機能付電動二方弁ACTIVAL+」(図1を開発した。どのようなアイデアで難題を克服していったのだろうか。

空調機の冷風や温風は、コイル(熱交換器)に冷水または温水を流し、そこに風を吹き付けて作っている。しかしコイルの特性上、一定量以上の冷温水を配管に流しても熱出力は増えず、過流量分はエネルギーロスになってしまう。ビルの消費エネルギーのうちの約43%が空調関連に使われている昨今、空調の省エネは大きな課題となっていた。

ビルやプラント向けの制御・計測機器メーカーであるアズビル(株)は、空調機の流体を制御するバルブ開発に長年、携わってきた。しかし既存のバルブは、開度制御しかできないので、流量の正確な値はわからない。空調機ごとに流量計を設置しようとすると、費用負担や、配管が長くなり設置スペースがなくなるといった問題が出てくる。

そこで、冷温水の流量を制御するコントロールバルブに流量計測と熱量計測を搭載した「流量計測制御機能付電動二方弁ACTIVAL+」(図2の口径15A80AAは配管の外径サイズを表す)を開発し、2009年より国内で販売を開始した。流量を計測し制御できるので、過流量の抑制が可能となり、冷温水ポンプの電力を暖房時に8%、冷房時に12%削減することに成功した。「画期的な製品」と市場では好評で、国内の累計販売台数は5万台にも登った。そこに海外から、大口径のバルブがほしいとの要望があった。

図1 海外向け大口径モデルACTIVAL+

図2 ACTIVAL+(バルブの口径は15A~80A)

大口径モデルの開発へ

中国や韓国、東南アジアなどのオフィスビルやショッピングモールなどでは区画が広く、大容量の空調機を使用する場合が多い。そこで2015年から、大容量の空調機に対応可能なACTIVAL+の大口径モデル(口径100A150A)の製品開発をスタートした。

ACTIVAL+は、プラグ(図3で発生する圧力差を利用した差圧式流量計測方式を採用していて、流量は「プラグの開度に応じた容量係数」と「プラグ前後の差圧」から算出している。このため、流量計測を高精度に行うには、流量を調節するプラグ(絞り部)の開度をポテンショメータで精度良く計測しなければならない。

バルブ商品開発部・設計担当の新谷と松村は、当初、2009年開発の従来モデルの延長線上の設計で応用可能だと考えていたが、技術面でのアプローチを続けるうちに、それでは出来ないことがわかった。流量計測精度を、従来モデルと同じ±5RDにしてほしいと要求されたからだ。これは非常に難しく、達成するためには、二つの技術開発が必要だった。

図3 バルブ断面

プラグとステムの締結技術

ACTIVAL+のコンセプトは小型・軽量であり、これを実現するためには、プラグとステム(弁棒)の締結部構造を考えなければならない。バルブ本体に、プラグをどこから挿入するべきか。松村を中心に、みんなでアイデアを出し合った。考えられるのは、プラグを上蓋から入れるトップエントリー構造と、配管接続フランジ側から入れるサイドエントリー構造だ。大口径だとプラグの直径は大きくなるので、もし前者の構造を採用するなら、開口部を広げなければ中に入らない。しかも内圧によって上蓋にかかる力が大きくなるので、上蓋を厚くする必要がある。口径150Aで二つの構造を比較すると、トップエントリー構造では約20kgも重くなってしまうことがわかった。

そこでサイドエントリー構造を採用することに決めたが、問題が持ち上がる。バルブ内に挿入したプラグの穴にステムを挿入すると、接続部に隙間が生じ、プラグとステムの間に回転方向のガタができてしまうのだ。そのため、ポテンショメータで計測した開度はプラグの開度と異なってしまい、なんと流量計測精度が4.6%も悪化する。

解決策として、ボルトで固定する方法を考えたが、強度が足りないことがわかり、最終的にプラグとステムをピンで締結する構造に決めた(図3

だが、さらなる難題が立ちはだかる。プラグとステムの回転軸の中心位置がずれてしまうのだ。軸のずれは、操作に必要なトルクの増加や、シートリングからの漏れを引き起こす要因となる。松村たちは、やっとのことで原因を見つけ出した。プラグにピンを圧入した時、プラグ上部の接触面が変形し膨らんでいたのだ。2030μmという目には見えないほどの膨らみだったが、これによりステムが傾いてしまっていた。そこで傾きを防止する対策として、プラグ上部のピン圧入部に逃げ形状を設けた。社内からは「ピン圧入を含めた軸のずれを設計値内に収めるのは無理だ」との声も上がっていたが、松村は試作部門や生産部門の担当者らと検討を重ね、量産方法を確立した。

ねじれ開度補正

一方、新谷はもう一つの難題に頭を痛めていた。プラグが回転する時、ステムとシャフトがねじれてしまうことだ(図4。従来モデルでは、ねじれは小さく無視できるレベルだったが、大口径モデルではプラグの径が大きいために、シートリングや軸受との摩擦抵抗が増加し、ねじれ量が増大する。これにより、ポテンショメータで計測した開度は実際のプラグ開度と異なってしまい、流量計測精度が最大3%も悪化するのだ。

そこで新谷たちは、ステムの径を太くして、ねじれにくくする方法を検討した。しかし、シャフト回りの部品のサイズが大きくなり、重量も増え、コスト高になる。鋳物の部品も多いので、金型も新たに作らなければならない。そこで、ねじれ量から、開度を補正するという方法を考え出した。

シャフトのねじれ角度θは、長さLと横弾性係数G、直径d、プラグを回すために必要なトルクTから求められる。ここで、LGdは使用するシャフトで決まる既知の値だ。わからない値はTだけである。実験やコンピュータシミュレーションで分析すると、Tは「プラグと他の部品との間の摺動抵抗によるトルク」と「バルブ内部の流体の状態で変化するトルク」で構成されていることが明らかになった。つまり後者は、ねじれ量の補正値をあらかじめ決めておくことができない。新谷たちはこの問題をどう解決すべきか悩んだが、やがて、とびっきりのアイディアが浮かんだ。「後者のトルクは流体の圧力条件によって変化するから、ACTIVAL+に搭載したセンサで計測した差圧や内圧から導き出すことができる。そこから、ねじれ量を推定すればいい」と。新谷たちは実証試験を行い、ねじれ開度補正によって流量計測精度が向上していることを確認した。

図4 シャフトのねじれ

粘り強くあれ

±5%の流量計測精度を達成したACTIVAL+は、現在、海外で2000台以上が出荷されている。自社工場でプロトタイプを作ることができるため、加工情報を設計にフィードバックして、活発に協議しながら、一つ一つ難題をクリアしていったことが、開発成功へ導いた。さまざまな経験を積み、広い視野を持つことが、決して諦めないで難題に立ち向かう力となる。常に良い製品を作るために、技術者たちのチャレンジに終わりはない。

(取材・文 山田 ふしぎ)

受賞者の方々(左から松村さん、新谷さん)

※ACTIVAL+はアズビル(株)の商標です。

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