特集 人間を拡張する機械
軽労化:アシストとトレーニングの両立による長期的な身体機能拡張
軽労化とは
長期的な身体能力の拡張による健康労働寿命の延伸
アシストとトレーニング。一見何の関わりもない、むしろ、正反対に感じられる方が多いであろう。短期的な視点では、アシストは身体負担を減らし、トレーニングは負担をかけることであり、確かに真逆である。しかし、長期的な視点に立てば、負担を減らすことで、身体能力を低下する疾病リスクを減らしつつ、適度な負担をかけることで、身体能力を維持・向上させるという一致した目的がある。このアシストとトレーニングの両立を実現することが「軽労化(1)」である。
近年、少子化問題に伴う労働力不足と生産性の低下が社会的な問題として取り上げられている。ロボット・AI技術による作業の自動化、機械化は生産性維持のための有効な手段として考えておきたい。その上で残った人の手による作業には労働力の確保が不可欠であり、女性や身体弱者、そして高齢者の活躍が期待されている。
高齢者は実務経験による高い作業熟練度を持っているものの、加齢に伴う身体・認知機能の低下から、これまで「できなかったこと」はもちろん、「できていたこと」にも労災リスクが高まる恐れがある。その主な原因は、作業負荷と身体・認知機能とのギャップである。このギャップを埋め、作業適合性を高め、さらに働き続けられる身体を維持し、健康労働寿命を延伸することが軽労化技術の役割である。
アシストし過ぎはケガのもと?
過度なアシストは身体能力を低下させる恐れあり
身体負担を軽減するアシスト技術の実用化が進み、中でも装着型アシスト技術であるパワーアシストスーツの市場規模は年々増加している(2)。作業支援のためのパワーアシストスーツ導入の動機は、その作業を楽に行いたいという思いであろう。例えば、腰痛予防の観点から椎間板圧迫力を3,400N以下に抑えることが、腰部負担軽減の一つの目安とされているが、作業負担をできる限り軽減したいという思いから、強いアシスト力が期待されがちである。
我々の研究では、上腕二頭筋に負荷がかかる作業を24週間行い、前半12週間はアシスト装置なし、後半12週間はアシスト装置によって負担を50%軽減させる実験を、12名の健常者に対して行ったところ、すべての被験者において、前半では上腕の筋力に増強が、後半では衰退が確認され(図1)、その筋力の時間変化が1次遅れ系で表されることを示した(3)。
図1 過度なアシストによる筋力低下
キーワード:人間を拡張する機械
表紙の説明:これは、出力10万kWレヒートガスタービンの高圧圧縮機部分である。1978年から10年間、通商産業省工業技術院のムーンライト計画(省エネルギー技術研究開発)の中で開発されたもので、全長21mある。東京電力袖ケ浦発電所に設置して運転研究の結果、総合熱効率52%を得た。
[日本工業大学工業技術博物館]
表紙写真 北原 一宏