特集 細胞培養時代の機械設備
培養iPS細胞に対する動的力学刺激の影響と利用技術
はじめに
事故、疾病などによって損傷、損失した細胞、組織あるいは臓器の根治的治療は再生移植治療によらねばならず、その具体的手法の開発と早期実用化は急務である。我が国で開発されたiPS細胞(1)(2)は、あらゆる組織や臓器の細胞に変化し得る多能性ゆえに、再生移植医療実現の究極的手段と目されてきた。今後の医療、人類の生き方をも左右するこの重要技術の早期実用化のためには、広範な専門分野の総力結集が不可欠である。一部で再生移植の臨床試験などが開始されたものの、iPS細胞を必要な細胞へと分化誘導し再生医療に導入するためには、iPS細胞そのものの増殖促進と必要数の確保、分化誘導因子や誘導条件の特定、誘導効率の大幅な改善、ガン化防止などの安全性確保、さらには3次元構造を有する組織、臓器への構築培養法の開発などまだ多くの課題が山積している。
これらの課題に対するブレイクスルーの一つに物理的環境のアクティブ利用が最近注目され始めてきた(3)-(6)。細胞は細胞力覚と呼ばれる能力を有しており、力学刺激を感知し敏感に反応することが知られている。本研究はこの細胞力覚機構を能動的に利用し、iPS細胞の増殖および分化・成長過程において生化学的因子に加え適切な力学的刺激環境を付加することで、増殖や分化・成長さらには3次元組織構築をも大幅に促進することをめざすものである。
培養細胞への物理的操作・環境付加技術
キーワード:細胞培養時代の機械設備
表紙の説明:これは、1931年に米国のブラットフォード社で製造されたベルト掛け段車式普通旋盤の親ねじ(上)と送り軸(下)部分である。親ねじの根元には、ねじを切るときの指針となる手作りの薄鋼板製星形ダイヤルが付けられており、親ねじもしくは連動する歯車と噛み合わせて使う。
[日本工業大学工業技術博物館]
表紙写真 北原 一宏