ほっとカンパニー
オリエンタルモーター(株)“ モーターのデパート” から“ モーションシステム” の企業へ
日本にはこんなすごい会社がある!
1885年、東京・日本橋で創業し、1909年からモーター製造・技術の世界に足を踏み入れたオリエンタルモーター。会社の設立は1950年。2020年で70周年を迎える、日本を代表するモーターメーカーの1社だ。
現在は、モーターとそれに組み合わせて使う、ドライバー、アクチュエーターやギアヘッドまで、トータルで製造・販売。北米やヨーロッパ、アジアにも拠点を増やし、世界でもその存在感を示している。
その取扱い製品は5万種以上。その品ぞろえから「モーターのデパート」と称されてきた。膨大な製品数ではあるが、顧客からの注文には1台からでも、短納期で商品を届けることをモットーに、業績を伸ばしてきた。
業界初の「標準化」で得た信頼と地位
会社を支えた大きなキーワードが「標準化」だった。1951年頃にはモーターのカタログ販売を開始。当時は、顧客のニーズに合わせ、その都度サイズや形状を製造して納めるのが主流だったという。しかし、それでは納品までに時間がかかってしまう。
「取り付け規格を標準化すれば、短い納期でお届けできる。それに合わせてお客様に設備を作ってもらうスタイルを取ったのは、モーターメーカーとして初めてのことだったそうです」(ステッピングユニット事業部 事業部長・大串武史)。従来の方針とは大幅に転換したため、当初は社内での反対も強かったという。しかし、顧客側にも販売側にもメリットがあり、モーター1個からでも買いやすい仕組みは、中小規模の顧客のニーズも掘り起こし、強い支持を集めていった。
独自の規格は、アジアでは一般的な規格として広まった。最初に「標準化」に乗り出したからこそ、デファクトスタンダードをとることが出来た好例だ。
“モーションシステムメーカー”への転換を目指して
「標準化」といえど、今もカタログが極めて分厚い。当初はモーターだけ、多種のサイズ展開や取付角の違いを揃えたものだった。しかし、その後は速度制御、位置制御、温度管理などの機能を加えながら前述の5万種以上に展開している。「お客様の要望に応じて、どんどん種類を増やしてきました。ただ、そのおかげで『オリエンタルモーターに聞けば必ず何かある』と信頼していただけているのではないでしょうか」とステッピングモーター開発部部長・針ヶ谷厚は笑顔で胸を張る。
近年では「自動化」にまつわるニーズが増加し、そこが同社にとっても注力すべき課題となっている。モーターだけでなく、モーターをコントロールするための制御技術やシステム技術への要望が広がっている。「例えば、直線運動だけでなく、斜めに動かしたりスムーズに回転させたりなど、複数のモーターを組み合わせて複雑な動きをさせることが必要になっています」(制御機器システム事業部事業部長・菅原力)。
目指すは、“モーターメーカー”から“モーションシステムメーカー”への転換だ。モーター側のアクチュエータ化を進め、機構部分から提案すること、また、“動き”を中心とした全体のシステムを提供できるようなメーカーとしての進化を目指している。「世界の消費電力の約半分はモーターだと言われており、今もそれだけのモーターが“動き”を担っている。その中で、我々ができることはまだたくさんあると考えています」(大串)。
ロボット化が進む製造現場で移動型の装置が増えるなかで、小型化・軽量化・省エネ化へのニーズはもちろんだが、さらに「予防保全」の観点で要求される事柄も増えてきた。例えばモーター駆動時の温度はどの程度で推移しているのか、電源を入れて何時間が経ち、何回転しているのか……。自動化された工場を管理するにあたって客先にフィードバックすべき情報は多い。「ただ、モーターに関してのデータだけお渡ししたところで、お客様が求めるものにはならない。お客様が求めているのは“数値”そのものではなく、“止まらないシステム”。そのためのメンテナンスの要不要や効率性からの視点にどこまでコミットできるかが課題です」(菅原)。
電磁鋼板と銅線、磁石が主な材料であるモーターの世界は、これまで長らく大きな進化がなかったが、そこに変化をもたらしそうなのが自動車の電動化だ。「今、実際に変わったのは電磁鋼板です。より高効率な電磁鋼板が流通し始めて、期待しているところです。今後は樹脂材料も進化して、軸受けなど使える箇所が増えてくるのではないかと思います」(針ヶ谷)。
インターン学生が居つくフランクで自由な社風
針ヶ谷は、「モーターは、動力源としては今後もなくなることはありません。人の生活を楽にし豊かにし、幸せにつながる部品だと思っています。だからこそ、私はこの会社を選んだんです」と話す。会社の魅力を尋ねると、3人とも口を揃えて、「個人としての幅を広げられる」「成長できる会社」と答えた。「自分で考えて行動し、失敗したら反省して再び挑戦し、自分の力を伸ばしていける。それは会社が“人”を大切にしているからでもあるんです。社員もお客様も大切にしているから、会社も成長していけるのではないでしょうか」(菅原)。
オリエンタルモーターが掲げる仕事の進め方三原則は「疑問を持つ」、「事実を調べる」、「見えるように示す」。ユニークなのは3番目の「見えるように示す」で、オリエンタルモーターでは、事あるごと大きな模造紙に書き出すのが基本だ。自分の頭にある考えを模造紙にアウトプットし、考えを整理して「見える化」する。さらに、それを掲げることで、他者からの意見やアドバイスも受けやすくなる。今の時代はパワーポイントもあるが、スペースの制限なく大きく手書きで書いて、本人がきちんと理解しているのか、相手に対して伝わるものなのかどうかを確認し、精査していく。その作業がオリエンタルモーターの日常だ。
「そういった風通しの良さに加え、上司や社長も肩書きで呼ばず“さん付け”するなど、自由でフランクな社風がオリエンタルモーターの特徴でしょうね」(菅原)、「言いたいことを言いやすい社風に加えて、上司も若手社員がやりたいようにやらせてくれる。若い時に自分で考えて学んだことが自分を成長させてくれたと感じます」(針ヶ谷)。
この社風に居心地の良さを感じ、インターンシップに来た学生が入社するケースは多い。「入社2年目くらいになると『もっとここを改善したらどうだろう』『この設計を変えてみよう』とやりたいことが自然に出てきます。それをやらせてみると、意外に面白いものを作ったりするんです。それが本当に楽しいし、自由な発想でアイデアを出したい人にはもっと入社してほしい。きっと、伸び伸びできる環境だと思います」(菅原)。
モーターを軸に、オリエンタルモーターは、“人”の力で今後も無限の可能性を切り開いていく。
(取材・文 横田 直子)
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表紙の説明:
1972年スイスのベヒラー社製の主軸台移動形棒材作業用単軸自動旋盤の刃物台部分である。カム機構により放射状に配置された5種の刃物が、半径方向に順次動く。刃物を軸方向に送る代わりに、工作物を中央のガイドブッシュから送り出しながら加工するため、工作物のオーバーハングが無く、高精度な加工ができる。
表紙写真 北原 一宏
撮影地協力 日本工業大学 工業技術博物館