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2020/2 Vol.123

表紙写真 北原一宏
撮影地協力 日本工業大学 工業技術博物館

表紙の説明: これは、1955年頃まで町工場で使われていたベルト掛け段車式の普通旋盤用の換え歯車である。今は電動機が付いた全歯車式であり、レバーやダイアルを操作するだけで簡単に送り速度やねじのピッチを換えることができるが、当時は表を見て、その都度、歯車を付け替える必要があった。

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ほっとカンパニー

(株)堀場製作所 分析・計測機器のトップ企業をつくる“ホリバリアン”たちの人間力

日本にはこんなすごい会社がある!

京都に本社を構える堀場製作所(以下、HORIBA)は、分析・計測機器で世界をリードするグローバル企業だ。1990年代からはM&Aを積極的に進め、現在は28カ国50社に展開。従業員の6割以上を外国人が占める。

創業は1945年。創業者の堀場雅夫は学生時代に原子核物理を研究していたが、戦後、GHQによって原子核の研究を禁止され、コンデンサー事業を起こした。その中で自社開発したpHメーターが高い評価を得て、53年に堀場製作所を設立。以後、分析・計測機器の専門メーカーとして第一線を走り続けている。

現在の事業部門は「自動車計測システム機器」「環境・プロセスシステム機器」「医用システム機器」「半導体システム機器」「科学システム機器」の五つに分かれるが、なかでも自動車排気ガス用測定機器は世界で8割のシェアを持つ主力製品となっている。

今回訪れたのは、滋賀県大津市にある開発・生産拠点「HORIBA BIWAKO E-HARBOR」。2016年、HORIBAは“技術の遷宮”と称してこの地に移転。設計と生産を有機的に融合させ、かつ新生産方式を導入することで、大幅な業務の効率化を図った。

琵琶湖畔の高台に位置し、湖を一望する見事な建物の中は、そのコンセプトのままにクルーズ船をイメージしたようなデザインが随所に見られる。ワンフロアに開発・設計・生産部門が集結。各部門のマネージャークラスがデスクを並べる一角を設けて即断即決を可能にした。また、建物の中央にある広い階段スペースは、社員同士が活発に交流できるコミュニケーションスペースになっていた。内装には若手・中堅社員らが出したアイデアを積極的に反映させたという。

その開放的な空間は、創業者・堀場雅夫が制定した社是「おもしろおかしく」や、従業員を「ホリバリアン」と呼ぶユニークな社風を象徴するかのようだ。

ガス成分計測のコア技術「NDIR」

HORIBAの誇る技術の一つは、ガス成分計測のNDIR(非分散赤外線吸収法)に見て取れる。装置構成は、赤外光源、光チョッパ、ガス計測用セル、光学フィルタ、検出器からなる。分子の赤外線吸収を利用した計測方法で、検出器に届く測定対象のガス成分の波長の強度が小さくなり、成分が検出できる仕組みだ。

HORIBAの場合、検出できる成分の種類が多岐にわたる。ガスの種類によって吸収する波長帯も異なり、測りたいガスの波長のみを限定するのが光学フィルタだ。「光学フィルタや検出器などのキーパーツも自社で作っていることが、NDIRの性能を担保できるHORIBAの強みです」(環境プロセス開発部ジョブリーダー・水本一徳氏)。「もちろんお客様に求められるサイズや機能によってカスタマイズもしています。装置の安定性と性能は変えずにお客様に提供できるのも、コアとなる部品を自社で作っているからこそできることです。さらに長年の実績や経験からノウハウを培っているのも、我々の強みです。」(同部副部長・水野裕介氏)。

他社と差をつけシェアを占める理由はここにある。

加えて、「クロスフロー」と呼ばれる技術もHORIBAの大きな強みだ。大気などを測る環境系の測定器の場合、24時間365日計測し続けるものも多く、安定性の担保は必須。クロスフローでは、光を変調させるNDIRと異なり、流体を変調させることがベースになっている。測定したいガス成分を含まない比較ガスと、サンプルガスを交互にセルに入れていくことで、安定した状態で数値を計測できるものだ。

汎用性の高いマルチガス分析計「VA-5000」

顧客のニーズである複数種のガスの計測やカスタマイズ性、小型化などに対応したのが、現在、同社が力を入れているマルチ分析計「VA-5000」シリーズだ。1台で最大4成分の計測を可能にした汎用性の高さが最大の特徴で、大学ラボでの使用から工場の生産過程、研究用途などさまざまなケースで使われている。こちらは前出のNDIRのように赤外線を使った方式で、測定セルと比較セルを通る二つの赤外線を回転するチョッパで断続させることで切り替えていく。

前モデルから進化した大きな点は、50ppmからの高感度測定が可能になったことと、主にヨーロッパの顧客ニーズに合わせた小型化だ。水本は開発段階で直面した難しさについてもこの2点を挙げる。「光源や検出器やセルを含めた光学系も小型化し、電気系統では極力デジタル化しました。基板サイズはトータルで以前の半分のサイズにしました。また検出器を改良し、ノイズレベルを低減することで感度を向上させています。」

「おもしろおかしく」を追求する社員たちの個性

開発の現場では、精密な設計と地道に追求する力が求められる。「我々は分析計を売っているように見えるかもしれませんが、実際にお客様がほしいのは、計測した数値。数値に対しては非常にシビアに考えています。人の健康に直結する『環境』ですが、大気の汚れはなかなか肉眼ではわからない。そんな時に弊社の製品がそれを数値化し、その結果、人々の意識が変わって改善が施され、人々の健康が守られていく。地味な存在ではありますが、社会に貢献していると感じます」(水本)。また、水野は同社の魅力に、「一から十まで携われるライブ感のあるものづくり」を挙げた。「私の場合、化学専攻で入社しましたが、新入社員では回路を作るためにハンダを使ったり、ソフト設計したりしながら、製品ができる工程を幅広く知ることができました。お互いの仕事内容がわかり、結果として知識を皆で共有できるので現場の風通しがいいのだと思います。また、それらを通じて自分の得手不得手がわかるので、自ずと自分の軸ができてくる。そのせいか個性の強い人が多いのですが(笑)、誰に何を言われようと自分の信念がブレない開発者が多いです」。

最後に2人に社是の「おもしろおかしく」をどう捉えているのかを尋ねた。水本は「手を挙げたらチャンスをくれる」、水野は「自らの意思でやりたいことには若手でもチャレンジさせてもらえますが、そこには責任が伴ってくる。そういう意味でも社員の個性が強くなるのかもしれませんね」(水野)。

ホリバリアンたちの明るく前向きなキャラクターに、トップランナーとして走るHORIBAの強さを感じた。

(取材・文 横田 直子)

図1  CO・CO2等を測定するNDIR分析計の主要構成部品

図2  VA-5000WMシリーズの外観
奥行きを小さくし、壁への据え付けを可能にした

図3 煙道ガスを分析するポータブルガス分析計 PG-300シリーズ
デザインにもこだわりグッドデザイン賞も受賞した(2011年)

図4 HORIBA BIWAKO E-HARBOR

今回取材に協力いただいた水野さん(左)、水本さん(右)


(株)堀場製作所
本社所在地 京都府京都市 https://www.horiba.com/

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